中学校からの帰り道でスポーツバックを目にしなかったら、不世出の記録は生まれていなかった。

埼玉の高校野球史を振り返るとき、必ず名前の上がるピッチャーがいる。上尾高校のエースだった左腕・日野伸一投手。１９８１年、秋季大会から関東大会を挟んで春の選抜大会の初戦、簑島（和歌山）戦の初回に失点するまで実に７０イニング連続でスコアボードに０を並べた。３０年近くたった今でも記録は破られていない。

中学生時代、日野投手は学校からの帰宅途中に１人の高校球児とすれ違った。肩には「上尾高校」と刺繍の入ったスポーツバックを担いでいた。当時、上尾高校は熊谷商業とともに２強と言われていた。１５歳の少年には「刺繍が、とてもまぶしく見えた」。迷うことなく進路を上尾に決めた。

球種はストレートと落差の異なる２つのカーブだけ。弓のようにしなるフォームから抜群の制球力で勝負した。「ヒットを打たれるより、四球を出す方が悔しい」っというコメントが投球身上を物語る。無安打無得点も２試合達成した。

日野投手の控えだったのが現在、浦和学院を率いる森士監督。同級生同士、互いに刺激し合ういいライバルだった。

全国高校野球選手権埼玉大会はきょうから３回戦に突入する。好勝負が多い今大会、日野投手を超えるようなヒーローは現れるだろうか。

2010年7月17日　埼玉新聞掲載