亡き父と「一緒に戦う」
松谷龍司投手　桶川西３年

「お父さん、力を貸してくれ」。昨年優勝の花咲徳栄を相手に初回から打ち込まれ、くじけそうになるたびにマウンドから祈った。力が湧いてくる気がした。

野球を教えてくれた父・正運さんは、急性大動脈解離の病に倒れ、３年前の９月、４３歳で亡くなった。浦和学院の投手として活躍、一時はプロを目指すほど野球に打ち込んだ人だった。

小学校３年の時、父に地元の野球チームに連れて行かれ、強引に入れられた。キャッチボールもまともにできなかったが、正運さんに一から習い、上達するにつれて野球が好きになった。

中学の練習試合を見に来ては投球フォームを指導してくれた。「失点は全部投手の責任だ」。投手の姿勢を繰り返し教えられた。

この日の朝は「最後にならないように頑張ってくるね」と仏壇に手を合わせて家を出た。「１番見に来てほしかった」と父の写真をベンチに持ち込み、一緒に戦った。

味方のエラーもあって失点を重ね、２回で降板して遊撃に回った。コールド負けに終わったが、「精いっぱい練習してきたから、悔いはないよ」。父にそう報告するつもりだ。

今後は人命を救う消防士や警察官の仕事に就きたいと考えている。新たな夢が既に始まっている。

2016年7月13日　読売新聞埼玉版掲載

松谷正運氏（９期生）のご冥福をお祈りすると共に、松谷選手の今後のご活躍を心から願っています　管理人