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ホーリーナイト・ヒーローズ
ライオンのみさき /
2007-12-25 02:12:00
No.1142
〈注:このお話は、何と……! 一年前のクリスマスに投稿させていただいたお話、「サイレントナイト、ホーリーナイト」の一応の続きとなっております(笑)。初めて読まれる方、お忘れの方は、去年のお話(下の3ページめのNo.1036)から、どうぞご覧になって下さいませ〉
大通りから少し離れた、周りをいくつかの小さなビルに囲まれた空き地――普段はビルのテナントの会社などの駐車場に使われているが、今はそういったの会社も休みなせいか、止めてある車もあまり見当たらない。ビルじたいも明かりのついた所は少なく、そこにほとんど光は射さなかった。
街中を少し外れただけで、そこの喧騒――にぎやかな音楽も人々のさざめきも色とりどりのイルミネーションもここには届かない。辺りの人通りもまばらだった。
だが、その暗くさびしい場所に集まっている人影が、気がつくと、十四、五人もいた。
それもみな同じような姿をしている。
白いボアで縁取られた、赤い服と帽子。顔は白い髪と髭で覆われ、手袋をはめ、長靴を履き、大きな白い袋をそばに置いたその姿は、一見すれば、もう間違いようもないサンタクロースのものだった。
今夜、そうした姿の人達が集まっていること自体には、もちろん何の不思議もなかった。どこかの店や何かの企業の宣伝なのだろうということがすぐ想像できるから。
実際、何人かいた通りすがりの人はその光景を眼にしても、ちらと見ただけで一人納得して、通り過ぎてしまっていた。
だが、もし、もっと勘の鋭い人がそのサンタ達を見ていたら、そこに何か怪しいものを感じ取ったかもしれない。
深くかぶった帽子と白い髪と髭の蔭になって、人相はよく分からないのだが、その奥の眼はみな一様に昏く、仮装とは言え、子ども達の夢をかなえるやさしいおじいさんという温かいイメージからは程遠い。それどころか、どこか不穏で危険な雰囲気を身にまとっている。
そして、注意を払って観察を続けていたとしたら、サンタの白い袋に隠されたものが種々のプレゼントなどではなく、何か武器らしいことに気がついたことだろう。
残念なことに、いや、むしろそうした人にとってはおそらく幸いだったことには、彼らを見て怪しむほどに敏感な人は近くを通りがからなかった。
まさしく幸運なことだった。見ただけでは分からないが、そこに集まっているのは人間ですらなかったのだから。
人間達に悪意と敵意を持つ呪詛悪魔という存在。その中でも、人間を守ろうとする守護天使達にグループを壊滅され、からくも逃げのびたが、自暴自棄に陥って無差別テロを実行しようとしているという、最も危険な者達なのだった。
「さて、行くか……」
「ああ」
髭の奥で陰惨な笑みを浮かべて頷き合ったサンタクロース達がそれぞれ白い袋を肩に担ぎ上げて歩き出そうとした、その時……!
「メリー・クリスマス!!」
不意に上から声が降ってきた。
びくっとするサンタたち。声の聞こえた場所は正確には分からなかったため、方向はてんでんばらばらだが、ほぼ同時に上を向く。
すると、この空き地を囲む奥のビルの屋上に立っている看板を照らす、それまで消えていたライトが不意についた。引き寄せられるように呪詛悪魔達の視線は一斉にそちらに集中する。
本来、看板を照らし出すためのライトがまるで舞台照明のフットライトのように、その前の人影を浮かび上がらせていた。
そこに立っていたのは、また別のサンタクロースだった。しかし、髪は黒く髭もないその顔は若者のもので、その眼は明るい輝きを放っている。
「ho ho ho……しかし、そこにいる君たちは、どうやらお仲間ではないようだね――聖夜を汚し、純真な子どもの夢を踏みにじる偽サンタくんたち! この僕が知ったからには、決して許さないよ!!」
びしいっっ!!
そのせりふと共に、まっすぐ腕を伸ばして、呪詛悪魔達を指さす。
――呪詛悪魔達は知る由もないが、もちろん守護天使、燕のマークだった。
「――な、何やってんだ、あいつ……」
マークに頼まれた通り、ビルの配電室で時間に合わせて電源を入れた後、ビルから出て物陰で様子をうかがっていたもう一人の守護天使――チップこと雀のチープサイドは呆気に取られてしまう。
てっきり、今夜はつかないはずの照明を急につけ、呪詛悪魔たちの注意をそちらに引きつけ、その隙に不意打ちを仕掛ける作戦とばかり思っていたのだが……。
初めから、明かりの中に現れては――いや、そもそも、大声であんな口上を述べていては、全く不意打つことにはならない。
上と下で睨み合うマークサンタと呪詛悪魔サンタたち……。
そして、そのまま、ゆうに3秒間――たった3秒とは言え、この間の3秒はチープサイドにはひどく長い時間に感じられた。その間、マークは相手を指さしたまま、微動だにしない。
(まさか、あいつ……)
いやな予感を覚えた。
(呪詛悪魔どもが「おまえは、誰だ?」とか何とかって、訊いてくるのを待ってんじゃないだろうな……?)
チップが心の中でそう呟きをもらした、ちょうどその時――
偽サンタの一人がマークに向かって叫んだ。
「て、てめえ、何者だ!?」
チップは危うくこけそうになり、その場につんのめった。
(どうも、付き合いのいいやつらだな、おい ・ ・ ・ ・ )
しかし、当のマークは待ってましたとばかり、
「ho ho ho……もちろん、本物のサンタクロースさ! しかし、そのもう一つの名は――」
言葉と共に、やおら被っていた帽子を脇へと放り投げ、続いて、厚手の赤い上着も脱ぎ、空中高く投げ上げる。
すると、いきなりアイマスクを被り、黒い皮のライダースーツの上下を着たような姿に変わった。その首からはビルの上を渡る風に吹き流されて、赤いマフラーが横に長くたなびく。
脱いだ服をあえて投げ捨てなければならない理由は、もちろんない。その前に、守護天使の服装を自由に変えられる能力からすれば、それまで着ていた服をわざわざ脱ぐ必要すらまったくないはずが――。
いや、その下から現れたライタースーツのような服装は、身体にぴったりしているとは言っても、それまでの服の下に着込んでいたというには無理があった。また、上着を脱いだだけで、マスクをつけたり下を穿き替える暇はなかったはずなのに、上を脱いだ時にはそれらもいつの間にか変わっていたのだから、結局、守護天使の力を使っているようだったが……。いずれにしても、それまでの服を脱いでみせたのは、まさしくそのありさまを見せることだけが目的だったとしか思えない。
(乗り過ぎだろ、あいつ……)
もう見守るしかないチップは溜息をついたが、マークの名乗りはもちろんまだ途中だった。
「やあっっ!!」
その場で、突然高くジャンプすると、
「サンダアアアァァァァァ!!」
両腕をまっすぐ左右に伸ばしたまま後方転回するように――ちょうど水泳の高飛び込みを逆回しにしたかのように感じられる動作で、見事に空中で一回転――。
眼を見張るほどの身体能力だが、その後、元いた同じ場所に降り立ったので、その派手な動きには実質何の意味もなかった。
「クロオオオオォォォォォォス!!!」
しかし、お構いなくそのまま手を十字に構えて、右脚を横に長く伸ばし腰をぐっと沈めるというポーズを決めた。
「子どもの味方! 正義のヒーロー!! その名もサンダークロス!!!」
そして、すっくと立ちあがり、つけ加える。
「ちなみに、僕は、その2号!!」
(何で、いきなり2号からなんだよ……? はっ? 言っとくが、俺は間違ってもそんなもんの1号なんかになる気はねえからな)
ばかばかしさに耐えつつも、チップは内心いろいろ突っ込みを入れてしまう。
だが一方、呪詛悪魔達の反応は真剣そのものだった。
「サンダークロス2号だとぉ?」
そう聞き返す言葉には嘲笑・失笑の響きなどなく、それどころか、緊張・警戒が高まっていることがうかがえる。
(マジか……いや、ほんとノリがいいよ、こいつら ・ ・ ・ ・)
もう好きにしてくれとばかり、投げやりな気分に陥るチップだったが、呪詛悪魔達の緊張感はついに限界を超えたようだった。
口々に何事かわめきながら、マークのいるビルの入り口目指して走り出す。
マークは、その様子を少しの間見ていたが、出し抜けに身を宙に躍らせた。
身投げではない。隣のビルの壁をめがけて跳び、そこを蹴ると、その反動でこちらのビルに向きを変えて跳び、そしてまた壁を蹴ることで、再び向こうのビルの方へと跳ぶ……それを繰り返すことで、空中をジグザグに、それも斜めに向こう側へ降りていったのだった。
そして、その勢いのまま、地上にいた呪詛悪魔達に跳び蹴りを炸裂させた。
「サンダァァアアア・キィィィッッック!!」
近くにいた三人の呪詛悪魔が吹っ飛び、その場に昏倒する。
「決まった! 見たか、サンダーキックは無敵だ!!」
得意げに宣言するマーク、いや、サンダークロス2号。
(いや……今の、呆気に取られた間抜けどもがぼーっとしてたから、当たったんで、一度か二度の方向転換ならフェイントになっても、あんなに繰り返したら、ほんとはよけやすくなるだけだろ、普通)
またも、内心の突っ込み。しかし、そうしながら、チップも今や呪詛悪魔達の背後にひそかに近づきつつあった。
ホーリーナイト・ヒーローズ
ライオンのみさき /
2007-12-25 02:16:00
No.1143
仲間を倒された呪詛悪魔達は動揺したが、態勢を立て直し、数を頼んでマークを取り囲もうと動いてきた。だが、取り囲むことはできなかった。
走り出したマークの方が遙かにスピードがあったので。逃げるマークを集団になって追いかける呪詛悪魔達という形になる。
それでも、マークは全力で逃げているわけでもなかった。相手の様子をよく見ながら適当に緩急をつけて走り、ペースが乱れて集団から外れて前へ飛び出た者がいると、とっさに取って返し、一瞬で打ち倒して、また逃げ始める。そうしたことを繰り返し、マークはさらに三人の相手を倒した。
(しかし、あいつ、何で逃げてんだ……?)
相手の集団を攪乱することだけが目的なら、今マークがやっているように一方向に逃げる必要はなかった。
(まさか、あいつ……!)
そうこうしているうちに、マークはビルの一つの外壁近くまで、至り、外側にある非常階段の一番下の踊り場へと柵を越えて一跳びで跳び上がると、そのまま駆け上っていく。
呪詛悪魔達がビルの下まで来た時には、マークはすでに四階より上の階段にいた。
そして――
「サンダァァアアア・キィィィッッック!!」
再び、必殺技が放たれたのだった。
しかし、今度は当然と言おうか、さすがに呪詛悪魔達は蜘蛛の子を散らすように相手の落下地点あたりから離れ、攻撃を避ける。
(ほら、見ろ。言わんことじゃない)
誰もいないところに着地し、がっくりと膝をつくサンダークロス二号。
「何てことだ――まさか、サンダーキックが破られるなんて……」
(いや……だからな、ちっとはまじめにやろうぜ)
その間に、今度こそ呪詛悪魔達は遠巻きにして、マークを取り囲んだ。そして、じりじりと近づいていく。
「しまった……これは、ピンチだ」
マークは呟いた。
(しょうがねえなあ……今夜は血を流さずに、なんて自分で勝手な条件つけたくせして、遊び過ぎなんだ、あの莫迦)
チップはぼやいたが、その程度で済んでいたのは、まだ余裕があるからでもあった。この状態からでも、マークを脱出させ、ついでに敵の三、四人も倒すことが可能だった。その方法とは、腰の後ろのベルトに挿したグロック19、携帯性に優れた彼の愛銃――ではなく、握りしめた彼の手の中にあった。
だが、チップが今回それを使うことはなかった。
その時、
「べり〜くるしみますー」
やや調子外れの声がどこからか聞こえたのだった。
(……!! まさか……まさか、まさか……)
今までに数倍するいやな予感にチップは襲われた。
その場の全員が辺りをきょろきょろしていたが、ほどなく呪詛悪魔の一人が上を指さした。
マークが最初に姿を現したのとは別のビルの屋上に立っている看板の上にその人影はあった。そのビルの照明は入っていなかったにも関わらず、どういうわけかこの暗い中、遠目でもその人物の様子はその顔立ちさえよく分かった。理知的で聡明そうな……それは、今聞こえた声とはアンバランスなことこの上ないものだったが、それでも、あれがこの人物の声だということに疑いを抱く者は、なぜか一人としていなかった。
そして、いきなり飛び降りた。
マークと呪詛悪魔達の群れの中めがけて――
マークのように、ビルの壁を蹴ることで落下速度を軽減しながらではない。空中をそのまま、身体の姿勢も頭から、完全に自由落下に任せて……。
だから、正確には「飛び降りた」と言うより、「飛び落ちた」と言った方がふさわしいものだったのかもしれない。
思わずはっと息を呑む呪詛悪魔達の気配がした。
(うわぁ ・ ・ ・ ・ )
が、チップはいやな予感の的中したことにただ頭痛を覚え始めていた。
そして、にこにこしている者がただ一人。燕のマーク――いや、サンダークロス二号。
宙を落下しながら、その人物は叫び声を上げた。
「へん・しん……さんだあああくろおおおおおす!!!!!」
(出たよ、出ちゃったよ……しかも、何か、乗ってるし ・ ・ ・ ・ ああ、そうか……マークのやつが二号ってのは……)
空中で一瞬、その人物の身体は閃光を放った。
次の瞬間には、何事もなかったように呪詛悪魔達の群れの中心、マークのそばに立っていた。そして、いつの間にか、マークと同じようなアイマスクをつけている。
「正義の使者、サンダークロス一号! あ、さんんんんじょおおおおおおおおおおおおうッ!!!!!!!」
胸の前で手を十字に組み合わせてから、右手を握って頭の横に、左手は開いて、まっすぐ前へと伸ばしてポーズをつける。それから、かたわらのマークを振り返った。
「火星に――いや、加勢に来たのだ、二号!!」
「ありがとう、一号!!」
――聖夜のヒーローがそろった瞬間だった。
(つづく)
何とか、今夜のうちに……
ライオンのみさき /
2007-12-25 02:25:00
No.1144
こんばんは、ライオンのみさきです。この間、下にあるお話を投稿したばかりなのですけど、今回は、その続きではなくて、別のお話をお送りします。でも、最初にお断りいたしましたように、このお話、去年のものの続編だったりします。いつか書こうというように漠然と思っていましたら、どんどん時間が経って、気がついたら、一年経ってしまっていました……(笑)。まあ、ですから、時季としては、ちょうどぴったり合っているわけなのですけど。(←開き直っております)
でも、それで、今夜にはどうにかして間に合わせたくて、わたしとしてはずい分急いで、そのためにろくに推敲もできておりませんので、いろいろあらがあるかとは思いますけど、どうかご容赦下さいませ。また、それなのに結局、途中になってしまいましたし ・ ・ ・ ・ (汗)。でも、楽しんで読んでいただければ、幸いです。
ともあれ、皆さま。
Merry,Christmas!!
皆さまにとって、どうかいいクリスマスでありますように。
――下のお話ともども、続編は気長にお待ち下さい(爆)。
べり〜くるしみます
仮面ライダーG5‐R /
2007-12-28 23:34:00
No.1145
(゚∀゚) アヒャヒャヒャヒャ
遂にやったかやっちまったかサンダークロスw
無駄にノリノリのマーク、呆れて突っ込むチップ、妙に付き合いのいい呪詛悪魔達、そしてサンダークロス1号w
全ての要素が絶妙に絡み合っているのはさすがでありまする。
もっとも、1号が『火星』『加勢』という漢字を知っているとは思えんがなw
てか、あれから1年経つのかw まあ時事ネタとしてはありか。いっその事1年に1話ずつ進めようw
それから、クリスマスカード受け取ったぜよ。さんくす。
あのサンタ、妙に素早いから見つけてもクリックする前に逃げられちまう┐(・_・)┌
しかも視界狭いし。
さて、お礼と言っちゃ何だが、
これを見よ↓
ttp://www11.axfc.net/uploader/20/so/He_58735.zip.html
ルーちゃんに続く我が家のバカ犬2号だ!!!!!w
パスワードはricky
この犬の名前ね。詳しい事はまた今度チャットで。
Re: ホーリーナイト・ヒーローズ
エマ /
2008-01-27 17:25:00
No.1152
こんばんは。
前回はもう1年前ですか。早いものですね。感覚的には、ほんのついこないだのことのような気がするから不思議です。
・・・掲示板の動きがゆっくりだからかな? 一年前のものもまだログから落ちていないことにむしろびっくりです。
さて、呪詛悪魔たち、武器をプレゼント袋にいっぱいにつめて、やる気たっぷりですが、
リアクションもサービス旺盛ですね(笑) 本人たちはあくまで真面目なのが、面白いのですが。
まーくん、わざわざ屋上からご登場・・・しかも、誰が黒子になっているのだか、タイミングよくライトまでついて・・・って、あ、チップさんなんですね。ご苦労様です・・・。
しかしまぁ・・・よほど、周到に準備とか、練習とかしてきたんでしょう。「許さないよ!!」のところで、「よし!キマったー♪」というまーくんの心の歓声が聞こえてきそうです(笑)
「聖夜に血は似合わないよ・・・」とか言っといて、実は単にこれがやりたかっただけじゃあ・・・(汗)
戦い方に関しては、一見遊んでいるように見えて、マークさんの特徴がよくあらわれていますね。あっちこっちに移動して、一瞬で近づいて攻撃しては、またすぐに他方に逃げる、ヒット&アウェイの戦い方ですね。このスタイルがさらに極限まで突き詰められたのが、かの「ウルトラスーパーボール」なんでしょうか。
それにしても、わざわざまた高い所に移動して、サンダーキックをしようとするなんて、よほど好きなんですね。さすがに2度目はよけられましたが、この落ち込みよう・・・この落ち込みもきっと本気なんでしょうね(笑)
1号の登場、最初私はラグルさんかと思ったんですが、マークさんの相棒ということを考えると、やはりゼ○○アさんですね。マークさんの「まさかまさかまさか!」って悪寒が数倍になったのが面白かったです。あと、「火星に・・・、いや、加勢に来たのだ」と漢字を間違えるのは、G3ファミリーでは定番ですが、みさきさんがやるとまた意外性があって、ちょっと吹き出してしまいました。
1号、2号そろって、呪詛悪魔たちにもう勝ち目は完全になくなったと思われますが(笑)
戦いの行方はどうなるのか・・・そして、チップさんの頭痛は減るのか、増えるのか・・・(増えるんだろうな)
続編も楽しみにしています。
また、一年後かな?(笑)
私も、こういうギャグSS、また復活させたいな。
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〈注:このお話は、何と……! 一年前のクリスマスに投稿させていただいたお話、「サイレントナイト、ホーリーナイト」の一応の続きとなっております(笑)。初めて読まれる方、お忘れの方は、去年のお話(下の3ページめのNo.1036)から、どうぞご覧になって下さいませ〉
大通りから少し離れた、周りをいくつかの小さなビルに囲まれた空き地――普段はビルのテナントの会社などの駐車場に使われているが、今はそういったの会社も休みなせいか、止めてある車もあまり見当たらない。ビルじたいも明かりのついた所は少なく、そこにほとんど光は射さなかった。
街中を少し外れただけで、そこの喧騒――にぎやかな音楽も人々のさざめきも色とりどりのイルミネーションもここには届かない。辺りの人通りもまばらだった。
だが、その暗くさびしい場所に集まっている人影が、気がつくと、十四、五人もいた。
それもみな同じような姿をしている。
白いボアで縁取られた、赤い服と帽子。顔は白い髪と髭で覆われ、手袋をはめ、長靴を履き、大きな白い袋をそばに置いたその姿は、一見すれば、もう間違いようもないサンタクロースのものだった。
今夜、そうした姿の人達が集まっていること自体には、もちろん何の不思議もなかった。どこかの店や何かの企業の宣伝なのだろうということがすぐ想像できるから。
実際、何人かいた通りすがりの人はその光景を眼にしても、ちらと見ただけで一人納得して、通り過ぎてしまっていた。
だが、もし、もっと勘の鋭い人がそのサンタ達を見ていたら、そこに何か怪しいものを感じ取ったかもしれない。
深くかぶった帽子と白い髪と髭の蔭になって、人相はよく分からないのだが、その奥の眼はみな一様に昏く、仮装とは言え、子ども達の夢をかなえるやさしいおじいさんという温かいイメージからは程遠い。それどころか、どこか不穏で危険な雰囲気を身にまとっている。
そして、注意を払って観察を続けていたとしたら、サンタの白い袋に隠されたものが種々のプレゼントなどではなく、何か武器らしいことに気がついたことだろう。
残念なことに、いや、むしろそうした人にとってはおそらく幸いだったことには、彼らを見て怪しむほどに敏感な人は近くを通りがからなかった。
まさしく幸運なことだった。見ただけでは分からないが、そこに集まっているのは人間ですらなかったのだから。
人間達に悪意と敵意を持つ呪詛悪魔という存在。その中でも、人間を守ろうとする守護天使達にグループを壊滅され、からくも逃げのびたが、自暴自棄に陥って無差別テロを実行しようとしているという、最も危険な者達なのだった。
「さて、行くか……」
「ああ」
髭の奥で陰惨な笑みを浮かべて頷き合ったサンタクロース達がそれぞれ白い袋を肩に担ぎ上げて歩き出そうとした、その時……!
「メリー・クリスマス!!」
不意に上から声が降ってきた。
びくっとするサンタたち。声の聞こえた場所は正確には分からなかったため、方向はてんでんばらばらだが、ほぼ同時に上を向く。
すると、この空き地を囲む奥のビルの屋上に立っている看板を照らす、それまで消えていたライトが不意についた。引き寄せられるように呪詛悪魔達の視線は一斉にそちらに集中する。
本来、看板を照らし出すためのライトがまるで舞台照明のフットライトのように、その前の人影を浮かび上がらせていた。
そこに立っていたのは、また別のサンタクロースだった。しかし、髪は黒く髭もないその顔は若者のもので、その眼は明るい輝きを放っている。
「ho ho ho……しかし、そこにいる君たちは、どうやらお仲間ではないようだね――聖夜を汚し、純真な子どもの夢を踏みにじる偽サンタくんたち! この僕が知ったからには、決して許さないよ!!」
びしいっっ!!
そのせりふと共に、まっすぐ腕を伸ばして、呪詛悪魔達を指さす。
――呪詛悪魔達は知る由もないが、もちろん守護天使、燕のマークだった。
「――な、何やってんだ、あいつ……」
マークに頼まれた通り、ビルの配電室で時間に合わせて電源を入れた後、ビルから出て物陰で様子をうかがっていたもう一人の守護天使――チップこと雀のチープサイドは呆気に取られてしまう。
てっきり、今夜はつかないはずの照明を急につけ、呪詛悪魔たちの注意をそちらに引きつけ、その隙に不意打ちを仕掛ける作戦とばかり思っていたのだが……。
初めから、明かりの中に現れては――いや、そもそも、大声であんな口上を述べていては、全く不意打つことにはならない。
上と下で睨み合うマークサンタと呪詛悪魔サンタたち……。
そして、そのまま、ゆうに3秒間――たった3秒とは言え、この間の3秒はチープサイドにはひどく長い時間に感じられた。その間、マークは相手を指さしたまま、微動だにしない。
(まさか、あいつ……)
いやな予感を覚えた。
(呪詛悪魔どもが「おまえは、誰だ?」とか何とかって、訊いてくるのを待ってんじゃないだろうな……?)
チップが心の中でそう呟きをもらした、ちょうどその時――
偽サンタの一人がマークに向かって叫んだ。
「て、てめえ、何者だ!?」
チップは危うくこけそうになり、その場につんのめった。
(どうも、付き合いのいいやつらだな、おい ・ ・ ・ ・ )
しかし、当のマークは待ってましたとばかり、
「ho ho ho……もちろん、本物のサンタクロースさ! しかし、そのもう一つの名は――」
言葉と共に、やおら被っていた帽子を脇へと放り投げ、続いて、厚手の赤い上着も脱ぎ、空中高く投げ上げる。
すると、いきなりアイマスクを被り、黒い皮のライダースーツの上下を着たような姿に変わった。その首からはビルの上を渡る風に吹き流されて、赤いマフラーが横に長くたなびく。
脱いだ服をあえて投げ捨てなければならない理由は、もちろんない。その前に、守護天使の服装を自由に変えられる能力からすれば、それまで着ていた服をわざわざ脱ぐ必要すらまったくないはずが――。
いや、その下から現れたライタースーツのような服装は、身体にぴったりしているとは言っても、それまでの服の下に着込んでいたというには無理があった。また、上着を脱いだだけで、マスクをつけたり下を穿き替える暇はなかったはずなのに、上を脱いだ時にはそれらもいつの間にか変わっていたのだから、結局、守護天使の力を使っているようだったが……。いずれにしても、それまでの服を脱いでみせたのは、まさしくそのありさまを見せることだけが目的だったとしか思えない。
(乗り過ぎだろ、あいつ……)
もう見守るしかないチップは溜息をついたが、マークの名乗りはもちろんまだ途中だった。
「やあっっ!!」
その場で、突然高くジャンプすると、
「サンダアアアァァァァァ!!」
両腕をまっすぐ左右に伸ばしたまま後方転回するように――ちょうど水泳の高飛び込みを逆回しにしたかのように感じられる動作で、見事に空中で一回転――。
眼を見張るほどの身体能力だが、その後、元いた同じ場所に降り立ったので、その派手な動きには実質何の意味もなかった。
「クロオオオオォォォォォォス!!!」
しかし、お構いなくそのまま手を十字に構えて、右脚を横に長く伸ばし腰をぐっと沈めるというポーズを決めた。
「子どもの味方! 正義のヒーロー!! その名もサンダークロス!!!」
そして、すっくと立ちあがり、つけ加える。
「ちなみに、僕は、その2号!!」
(何で、いきなり2号からなんだよ……? はっ? 言っとくが、俺は間違ってもそんなもんの1号なんかになる気はねえからな)
ばかばかしさに耐えつつも、チップは内心いろいろ突っ込みを入れてしまう。
だが一方、呪詛悪魔達の反応は真剣そのものだった。
「サンダークロス2号だとぉ?」
そう聞き返す言葉には嘲笑・失笑の響きなどなく、それどころか、緊張・警戒が高まっていることがうかがえる。
(マジか……いや、ほんとノリがいいよ、こいつら ・ ・ ・ ・)
もう好きにしてくれとばかり、投げやりな気分に陥るチップだったが、呪詛悪魔達の緊張感はついに限界を超えたようだった。
口々に何事かわめきながら、マークのいるビルの入り口目指して走り出す。
マークは、その様子を少しの間見ていたが、出し抜けに身を宙に躍らせた。
身投げではない。隣のビルの壁をめがけて跳び、そこを蹴ると、その反動でこちらのビルに向きを変えて跳び、そしてまた壁を蹴ることで、再び向こうのビルの方へと跳ぶ……それを繰り返すことで、空中をジグザグに、それも斜めに向こう側へ降りていったのだった。
そして、その勢いのまま、地上にいた呪詛悪魔達に跳び蹴りを炸裂させた。
「サンダァァアアア・キィィィッッック!!」
近くにいた三人の呪詛悪魔が吹っ飛び、その場に昏倒する。
「決まった! 見たか、サンダーキックは無敵だ!!」
得意げに宣言するマーク、いや、サンダークロス2号。
(いや……今の、呆気に取られた間抜けどもがぼーっとしてたから、当たったんで、一度か二度の方向転換ならフェイントになっても、あんなに繰り返したら、ほんとはよけやすくなるだけだろ、普通)
またも、内心の突っ込み。しかし、そうしながら、チップも今や呪詛悪魔達の背後にひそかに近づきつつあった。