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ゼロの凶天使・第三話
ダイダロス / 2008-10-22 21:57:00 No.1238
※第三話


Side:Louise

 普通、平民だったら、目の前に居る人物が貴族で、それも広大な領地を持つ、王家に連なる大貴族の娘だったと知ればどうなるか。それこそ平伏せんばかりに畏まるし、文字通り土下座する者さえ珍しく無いだろう。にも関わらず、目の前に居る使い魔、自らの身分を『平民』だと言った彼女、白の無地で襟付きの服(カッターシャツという物らしい)に、白いズボン(スラックスという物らしい)という平民らしい飾り気の無い服装をした己の使い魔は、全く平民らしくなかった。
「お名前、お教え下さり、真にありがとうございます、主」
 完璧な、完璧すぎる臣下の礼を保ちながらも、全く自分を恐れる様子を窺い知れないのだ。
「ちょ、ちょっと、どうしてそんな反応なのよ!?」
「? ……何かお気に障られたでしょうか?」
「そうじゃないけど、ヴァリエール公爵家と言えば、この国では知らない者がいないくらいの大貴族よ。それなのに、どうしてそんな反応なのよ?」
「私は……この国、いえ、このハルケギニア大陸の出身ではありませんので」
 その言葉に、ルイズは驚くと同時に納得もしていた。確かに、このハルケギニア出身でないなら、召喚時にあの奇妙な服を着ていた理由も分かる。では、この使い魔は何処から来たのか?
 耳は尖っていないので、当然、あの恐ろしいエルフでは無い。では、このハルケギニア以外で人間の生活圏がある場所は……そう、エルフの住む砂漠の東の『聖地』、更にその『聖地』より遥か東にあるという、ロバ・アル・カリイエ。多分、そこの軍人なのだろう。そう考えれば、全て辻褄が合う。
 それに、今思い出したのだが、昨日、帰る道すがらにミスター・コルベールが言っていた。
『その使い魔の女性は恐らく幾多の修羅場を潜り抜けてきた歴戦の軍人だ。だから、不用意な言動で怒らせてはいけない』と。
 そこまで思考を進めた時点で、ある重大な事実に思い当たる。召喚した時に、彼女は傷だらけで消耗し尽していた。何故か? 答えは、敵と戦っていたから。何の為に? 軍の任務で。だとすると……

「主? いかがなさいました? お顔の色が優れないようですが」
「サ、サキ、私、あなたにとんでもない事を……」
「え? あの、話が見えないのですが?」
「何を暢気な事を言っているの!? 今のあなたには元の国に戻る手段が無いのよ! あなた、私に召喚された時、任務中だったのでしょう? 今のままだと脱走兵扱いになってしまうじゃないの! いくら私でも、脱走兵は死刑だって事くらいは分かっているわよ!」
 サキは、一瞬、呆気に取られた表情をしたが、すぐに元の微かな微笑を浮かべる。
「ご配慮、痛み入ります。ですが、その心配はご無用です」
「どうして!」
「……私が召喚された時……正規の任務に従事していた訳ではありませんので」
「それって一体??」
「……申し訳ありませんが……その事について、今はお話する事はできません」
「な! 話せないってどういう事……っ!」
 ルイズとしては、自らの質問への回答を拒否したサキを問詰めたい所であった。だが、この使い魔の表情を見て、それを追及する気は失せてしまった。真摯な眼をしたこの表情を。
 それに……と、ルイズは思う。この使い魔自身が心配無用と言っているのだ。だから、今はその言葉を信じよう。そして、『今』は話せなくても、いつかは話してくれるだろう。それまで待とう。それが主人としての度量という物ではないか。
「一応、『心配無い』って言葉を信じるけど、あなたはもう私の使い魔なんだからね! 勝手に居なくなったら許さないんだから!」
「はい、主。誓って勝手に居なくなるような真似は致しません。あ……と、もう一つお尋ねしてもよろしいでしょうか? 使い魔、というのは、一体何をすれば良いのでしょうか?」
「……しょうがないわね、私が直々に使い魔の仕事を教えてあげるわ」
 その言葉とは裏腹に、その口調からは溢れる喜びが隠しきれていなかった。常に劣等生と蔑まれて来たルイズにとって、誰かに頼りにされる経験は、その人生の中でも始めての事だったのだから。
「まずは、使い魔は主人の目となり耳となるの」
「目と耳……視覚や聴覚といった感覚の共有、という事でしょうか?」
「そう。使い魔が見聞きした物を主人である私も見る事ができる……はず、なんだけど……」
 最初は自信満々だったルイズの口調が次第に尻すぼみになり、難しい表情になっていく。
「……駄目だわ。見えない」

Re: ゼロの凶天使・第三話Bパート
ダイダロス / 2008-10-22 21:58:00 No.1239
Side:Saki

「……駄目だわ。見えない」
 目に見えて落ち込む主だったが、サキは内心でほっとしていた。流石に四六時中プライバシーがただ漏れ、という事態はご遠慮願いたかった。例えその相手が好感の持てる同性で、年下の少女であったとしてもだ。
「主、使い魔は、動物・幻獣なのですよね? ひょっとしたらですが、使い魔が人間である事が理由で、通常の術式では感覚の共有が不可能となっているのかもしれません」
 無論、そのような内心はおくびにも出さず、ルイズに己の推測を話す。そのサキの推論に納得が入ったのか、主は幾分か前向きになったようだった。
「そ、そうね。できない物を気に病んでも仕方ないわね。じゃあ二つ目だけど、主人が望む物を見つけてくるの。秘薬の原料になる薬草とかコケとか硫黄とか」
「それらの事を教えて下されば、採取は不可能ではありませんが……質問、よろしいでしょうか? それら秘薬を取り扱う商人は居ますでしょうか?」
「居るわよ。当然じゃない」
「申し訳ありません、私はハルケギニアの知識には疎いものでして……っと、話を戻しますね。私にこの国の薬草学や鉱物学を覚えさせる手間を考えたら、信用できる商人から購入したほうが遥かに早くて正確かと思われますが、いかがでしょうか?」
「う〜ん、まあいいわ。どっちみち、私は秘薬は使えないから。で、最後のこれが肝心な事なんだけど、主人を守るの。外敵から。メイジは呪文の詠唱中はどうしても無防備になってしまうから」
「はい、主。それでしたら私の得意分野ですね。『守る』事こそが、私の本職であり本分ですから」
「そうだったわね。人間で、しかも戦闘訓練を受けた軍人なんだから、犬や猫の使い魔よりも『守る』事に関しては群を抜いているはずよね。期待しているわ」
 とは言われた物の、この戦いとは無縁そうな、立ち居振る舞いが隙だらけの少女を、この身を賭して守らなければならない事態など易々と起こる筈は無い、そうサキは思っていた。
……もっとも、後日遭遇する事態に、サキは自らの見通しの甘さを呪うハメになるのだが。 

 そんな未来の事など知る由も無いサキを前に、ルイズは寝巻きであるネグリジェを脱ぎ出す。
「あ、主、な、何故いきなり脱ぎ出すのですか!?」
「何故って、制服に着替えるからに決まっているじゃないの」
「し、しかし、人前で肌を晒すなど……」
「何言ってるの? 主人と使い魔は一心同体。あなたに見られた所でどうという事は無いわ。それに、昨日は眠っていた私を着替えさせたのでしょう? だったら今更じゃないの。それに、どうしてあなたが恥ずかしがらなきゃいけないのよ?」
「う……そ、そうですね……愚問でした」
「ん〜、まあ、一応は文化の違い、という事なのかしら? それはそうと、制服と、そこのクローゼットの一番下から下着を取ってきなさい」
「は、はい、こちらでよろしいでしょうか?」


 早朝から一悶着ありつつも着替えを終えた主従がドアを開けると、丁度隣の部屋のドアから一人の女生徒が出てくる所だった。
 その女生徒は、赤い髪に褐色の肌、170cm近い長身で彫の深い顔付き、そして何よりそのスタイルの良さを強調するかのように制服のブラウスのボタンの一番上を外している。
 と、その女生徒は、ルイズとサキの主従を見つけると、『面白い物を見つけた』と言わんばかりの興味津々な表情で近づいてくる。
「おはよう、ヴァリエール」
「……おはよう、ツェルプストー」
 その赤毛の女生徒『ツェルプストー』と呼ばれた少女の挨拶に、険悪な表情で挨拶を返すルイズ。もっとも、その『ツェルプストー』は、ルイズの険悪な視線を意に介す事もなく、サキの姿を物珍しそうに上から下まで眺め、更にサキの背後に回りこんでまた眺める。
 その不躾な視線の持ち主にサキが何か言おうと口を開きかけた時、
「あははっ、本当に人間を召喚するなんて!」
 その女生徒は笑い出す。その笑い声に、サキの眉がわずかに跳ね上がり、只でさえ不機嫌な表情を隠そうともしていなかったルイズは怒りのあまりに顔を真っ赤にする。
「ふーん、でもよく見ると綺麗な顔してるじゃない。あなた、名前は?」
「……人に名前を尋ねる際は、まずご自分から名乗るのが筋という物ではないでしょうか……?」
 サキの平坦な声の調子から、主とそのクラスメイトの少女は気が付かなかったが、この時のサキは、少々不機嫌になっていた。それが怒りという形にまでならなかったのは、このクラスメイトから悪意や底意地の悪さを全く感じなかった事が理由だろう。
 事実、彼女は気にした風も無く、言葉を続ける。
「そうね、失礼したわ。私はキュルケ。キュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストーよ」
「私の名はサキ。鷺宮サキ。鷺宮が苗字でサキが名前になります」
「サキ! こんなのに丁寧に名乗る事ないわよ!」
「え……しかし主……」
「ふ〜ん、主人と違ってなかなかしっかりしてそうな使い魔じゃないの。でも、使い魔というのは、こういうのでなくちゃね。おいで、フレイム」
 キュルケの声に反応して彼女の背後から現れたのは、虎程の体躯の真っ赤なトカゲの様な生物だった。
「こ、この生物は……!」
 咄嗟にサキはルイズを背後に庇おう動きかけるが、その動きは途中で止まる。その大トカゲから敵意も殺気も微塵も感じなかったのだから。
「っ! 火竜山脈のサラマンダー……」
 悔しさと忌々しさと羨ましさ、それらが混然とした口調と表情のルイズに対し、キュルケは得意気な口調で胸を反らす。
「見てみなさい、この尻尾。素晴らしいと思わない? 流石は火竜山脈のブランド物よね」
「……あなたの二つ名『微熱』だものね」
「そうよ。ささやかに燃える情熱は微熱。でも、世の男性はそれでイチコロなのよ。あなたと違って……ね?」
 そのキュルケの視線の先は、ルイズの胸部を向いていた。ルイズも負けじと胸を反らしてキュルケを睨むが、胸の大きさは一目瞭然。あちらを山脈とすれば、こちらは大平原。勝負にもならなかった。
「その子の使い魔をするのは大変だと思うけど、頑張ってね、サキ? じゃあお先に失礼」
 そうサキに声をかけると、キュルケは余裕の笑みを浮かべ、フレイムと共に悠然と立ち去る。
 後に残されたのは、俯いてぶるぶる震えるルイズと、呆気に取られているサキだけだった。

Re: ゼロの凶天使・第三話Cパート
ダイダロス / 2008-10-22 22:00:00 No.1240
「……うう〜〜」
「あ、あの、主?」
「何よあいつ! 自分がサラマンダーを召喚できたからって自慢して! あーもう、ムカツク〜〜!!」
 怒りで顔を真っ赤にして、文字通り地団太を踏むルイズに、サキは恐る恐る声をかける。
「あ、主、何時までもこの場に留まっていても仕方が無いかと思われますが……」
 サキの声に、少しは頭が冷えたのか、「そ、そうね」と言い、歩き出す。

「主……ミス・キュルケ、でしたか、彼女の事を随分と嫌っていたようですが……」
 『私は不機嫌です』オーラ全開で、肩を怒らせて歩くルイズの半歩後ろを歩いていたサキが、話題を転換しようと行為だったが、どうやら薮蛇だったようだ。勢い良く振り返ると一気に捲し立てた。
「当然よ! あの女はトリステインの人間じゃないの! 隣国ゲルマニアの貴族よ! 私はゲルマニアが大嫌いなの! 私の実家があるヴァリエールの領地はね、ゲルマニアとの国境沿いにあって、戦争になるといっつも先頭切ってゲルマニアと戦ってきたわ! そして、国境の向こうの地名はツェルプストー! キュルケの生まれた土地よ! だから、戦争の度に殺し合ってるのよ! お互い殺し殺された一族の数は、もう数えきれないわ!!」
 その迫力に、一歩引きつつもサキは、あそこまで彼女を敵視するルイズの心境を察する事ができた。
恐らく一族の誰かを戦争で失ったのだろう。それは、かつての自分、復讐の炎に身を焦がした己の過去の姿であったのだから。
「それだけじゃないわ!!」
 ここからが肝心! とばかりにルイズは言葉に更に力を込める。
「私のひいひいひいお爺ちゃんは、キュルケのひいひいひいお爺さんのツェルプストーに恋人を奪われたし、ひいひいお爺さんは、キュルケのひいひいお爺さんに婚約者を奪われたわ! ひいお爺さんのサフラン・ド・ヴァリエールなんか、あの女のひいお爺さんのマクシミリ・フォン・ツェルプストーに奥さんを取られたのよ!!! いえ、弟のデゥーディッセ男爵だったかしら……って、もうそんな些細な事はどうでもいいわ!!」

「……は?」
 それまで、ルイズを痛ましげな瞳で見ていたサキは、あまりの馬鹿馬鹿しさに思わず呆けた声を上げてしまう。それでも、何とか声を絞り出す事ができたのは、今までの人生経験の賜物だろう。
「あ、あの、主……つかぬ事をお聞きしますが……隣国ゲルマニアとの戦争というのは、どのくらい前の話なのでしょうか?」
「え? そうね……確か50年くらい前の話だったと思ったけど……」
 つまり、少なくともルイズが生まれる遥か前の話という訳だ。完全に脱力したサキに気付かず、言葉を続ける。
「とにかく! あのキュルケの実家、ツェルプストー家は、ヴァリエール家にとって不倶戴天の敵だってこと!! だから、あの女に気を許しちゃダメよ! あの女だけは絶対にダメ!!」
「わ、分かりました……」
「分かればいいわ……はあ、何だか疲れたわ……早く朝食に行きましょう……」

 ルイズの得体の知れない迫力に押され、思わず了承の返事をしてしまったサキ。
 一人で盛り上がって更にヒートアップし、体力を無駄に消耗して気だるげに歩くルイズの背中を、大粒の冷や汗を流しながら眺めつつ、彼女は早くも昨晩の決意が揺らぎ始めるのを感じていた。
『もしかして……早まったかしら……』

<続く>


なかがき

 ども、ダイダロスです。『ゼロの凶天使』の第三話、大変にお待たせしてしまいました。
 今回は、ほとんど会話主体になってしまってストーリーが進みませんでした。その為、サキが自分の能力について考察するシーンも次回以降になってしまいました。
 次回は、今回ほど間を置かずに投下したいと思っていますので、どうか宜しくお願いします。
 
 注:今回の「トリステインとゲルマニアの最後の戦争が五十年前」というのは、作者の創作です。もっとも、トリステインではここ数十年間大きな戦争は起きていないので、全くの想像という訳ではないのですが。

※おまけIF・もし、ルイズが召喚したのが「鳩のレオン」だったら
※壊れギャグです

ルイズ「我が名は(中略)使い魔となせ!」(ひょいと避けるレオン)
ルイズ「大人しく使い魔になりなさい!」
レオン「俺はそういう事を強制されるのが嫌いでね。こんな時は『ノー』としか言わない男なのさ」
ルイズ「イエスと言いなさい!」
レオン「絶対にノゥ!!」
ルイズ「メイジでもないあなたがここから逃げられるとでも思っているの!?」
レオン「イエス!」
周囲一同(((イエスと言った!!)))


※単にスクライドネタをやりたかっただけとも言います(笑)

ルイズもまた、ルーちゃんであるw
仮面ライダーG5‐R / 2008-10-28 22:58:00 No.1246
(=゚ω゚)ノ ぱぱらぷー
続きキタ――――――――――!!!って感じだな。
チャットでもちらっと話したけど、
やはりサッキーだと割とすんなり使い魔らしくできるのう。
それにキュルケに対する反応もしっかりして落ち着いているし、
とりあえず人間関係で大きな問題は無さそうな感じだな。ギーシュ以外はw

そして最後のスクライドネタとやらに不覚にも( ´,_ゝ`)ワロタゼ
スクライドは見たことないがなw

Re: ゼロの凶天使・第三話
エマ / 2008-10-31 17:54:00 No.1249
こんばんはー。

ゼロの凶天使、第3話ですね。
ルイズちゃんは、そんなに有力な貴族の娘さんなのですか。サキさん、凄い所の使い魔になったんですね。地位が高い所に使えると、サキさん自身も一目置かれる・・・わけではないのですかね。使い魔だと・・・。動物のようなものが普通らしいから、物珍しく見られてしまうのかな。普通に家来の方が良いような気がしますが(笑)

どこかの国の軍人ではないか、ということで脱走の罪を心配したりするなど、優しい所もあり、はたまた我がままなところもあり、またサキの前で平気で服を脱いだり、色々と面白い子ですね。文化の違い・・・なのかな?(笑)

途中から、チェルプトーという女の子が出てきますが、ルイズとはかつて戦争をした国同士なんですね。かなり前に終戦して、同じ学校に通っているということでしょうか。
まだ家同士は不仲らしいですが、しかしルイズちゃんの執着しすぎということもありそうですね。

早くも忠誠心が揺らぎ始めた(笑)サキさんですが、この先どうなっていくんでしょうか。まだ平穏そうな流れですが、きっとこれからなにかあるんでしょうね。

次も期待しています。

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