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三姉妹の樹
K−クリスタル /
2008-11-25 01:51:00
No.1257
「みさき姉さま。なにをしているのだ?」
ある日、ノエルラントの第四公女ゆうきは館の中庭にしゃがみ込んでいる同腹の姉、みさき第二公女を発見した。
「ああ、ゆうきちゃん。これ・・・」
差し出した、土で汚れたためにかえってもとの白さが一層際だつほっそりした手の中には、十ほどの黒い粒があった。
「・・・種?」
「ええ。パルミエの調査団の方が下さったの。千年もむかしの遺跡から見つかったのですって」
「それで、姉さまはそれを播いてみることにしたわけか」
「そう。長い間、遺跡の中でひっそり眠っていた種が千年の時を経て芽吹くなんて、ロマンチックでしょう?」
「・・・そんなむかしの種では、とっくに死んでいるのではないか――常識的に考えて」
「・・・夢がないんだから、ゆうきちゃんは。この種、どういう樹の種かよくわからなくて、今研究中なのだそうよ。まだ、名前もないの。もし芽が出たら、研究のお手伝いになるし、それに、今までだれも見たこともない珍しい樹が育ったら、すてきだと思わない?」
「いままで誰も見たこともないよーな、うすらみっともない樹に育つかもしれないが・・・」
「もう! また、なんで、そんな意地悪いうのー?」
「まあ、せいぜいがんばってくれ」
腰に手を当てて立腹した様子の姉をその場に残し、ゆうきはクールなふうで立ち去った。
が、内心ではつぶやいていた。
(土いじりなぞ、みさき姉さまの手には似合わない。優雅に紅茶でも淹れている方が合ってるというのに)
――3日後
このところ、どういうわけか日に一度はここを通ることが日課となっていたゆうきは、中庭のある場所でその足を止めた。
(なんと・・・出ているではないか・・・)
掘り返され、色の変わった軟らかくなった土から、緑の芽が一つだけ出て双葉を開いていた。
そして、意識されたのは、みさきが公務で他国へ赴き、現在屋敷にはいないということだった。
「どうかしましたか? ゆうき」
後ろから声をかけられ振り向くと、長姉のまゆり第一公女が立っていた。
「いや」
あいまいに首を振ると、ゆうきは逆に質問する。
「まゆり姉さま。みさき姉さまは、まだ当分帰らないのであったな?」
「え? ええ――親善にK'SARS公国まで行っていますから、まだ1週間ほどはもどらないでしょう。あそこでは、ほら、ラナ姫がなかなか離してはくれないでしょうし」
「1週間――ちっ・・・さすがに、そんなにはもつまいな」
「は?」
「いや、なんでも・・・」
言葉をにごすゆうきであったが、ひそかに思っていた。
(よりにもよって、姉さまがいないときに出てくるとは・・・なんとも、間のわるいやつだ)
そして、翌日から、いささか奇妙な光景が見られた。
朝方、なみなみといっぱいに満たした水差しを持って、ゆうき第四公女が中庭に現れたのだが、
「起き抜けにのどが渇いたとおもったが、考えてみれば、こんなにはいらないな、うむ」
わざとらしくひとりごとを言うと、中身の水をその場に投げ捨てたのだった。
水の流れていった先の地面には、小さな樹の芽があったが、ゆうきは見向きもせず立ち去った。
「・・・?」
だが、たまたま離れたところからその光景を目にしたまゆり第一公女は首をひねっていた。
――また、さらに2日後
「ゆうき姉さま。それ、何?」
キリカ妃の館を訪れていた異母妹のなたね第七皇女は中庭で水を入れた洗面器を持っていたゆうき第四公女の姿を見とがめて、いぶかしげに尋ねた。
「・・・見てわからないか。洗濯だ」
ひそかに舌打ちすると、ゆうきはうるさそうに答えた。
「えっ、ゆうき姉さまが珍しいね。――あれ? でも、それ洗剤入ってないんじゃ・・・ボク、持ってきてあげようか?」
「バカ、そんなもの入れたら・・・いや、傷みやすい生地のものを洗うのでな、これでいいのだ」
「そうなんだ。じゃあ、がんばってね」
「ああ」
ゆうきはうなずいたが、なたねがいなくなると、洗面器に入れてきた水をただその場にあけた。
「ふん」
水のこぼれたところに少し成長した樹の芽があったことは言うまでもない。
「ああ、そううことでしたか――」
そのありさまを館の二階のテラスの椅子にかけて眺めながら、まゆり第一皇女はかたわらに立つはるこ侍従長に向かってうなずいた。
「はい。みさきさまからはもし芽が出たら、世話をするよう頼まれていたのですが――ああして、一応ゆうきさまがなさっておいでのようですし・・・いかがいたしましょう?」
「まあ、ゆうきがやっているのですから、だいじょうぶでしょう。手は出さないで、任せておいてあげてください」
「承知いたしました」
(それにしても)
まゆりは、水をあけるとすたすたそこを去っていくゆうきの方を眺めやった。
(ああいうのも、一種のツンデレというのでしょうか?)
――その翌日
ノエルラントは、前日までとうって変わって、突如として暴風雨に見舞われた。
たたきつけるような雨と風の中、しかし、合羽をかぶってこんな折にわざわざ中庭に出ている人影が二つあった。
「おい! ゆうき!!」
「なんだー! つぐみ姉!!」 <― 強風で声が聞こえにくいので、いちいち怒鳴っている
ゆうきともう1人は、ノエル公の息女の中の次姉つぐみ親衛隊長であった。
「なんだってー、こんなことしなきゃ! いけないんだー?!」
しごくもっともな疑問にゆうきは、直接は答えなかった。しかし、代わりに言った。
「あたしは・・・お人好しじゃーないんだ!!」
「なにー?!」
「どっかの姉さまなら、ひと晩中でもかさを持って、そばに立って守っていそうだが・・・あたしは、そんなバカなまねはしない!!」
呟きのような前半のゆうきの言葉はつぐみの耳に達しなかった。いや、仮に届いていたとしても、意味はわからなかっただろう。
「もっと合理的にやる!! だから、風よけを組み立てたら、さっさと館に戻るぞ、つぐみ姉!」
結局、わけもわからないままにつき合わされるつぐみ。二人は作業に取りかかったが、雨風に妨げられ、悪戦苦闘する。
しばらくして、つぐみがまた叫んだ。
「でもなー、ゆうきー!! 思ったんだけどよー!」
「なんだー?!」
「この苗、守るならー! 植木鉢かなんかにサクッと植えかえて! 館の中にでも持ってけば、いーだけじゃねーのかー?!」
「・・・そんなことしたら、はじめて見たときの感動がうすれるだろーが!!」
「はあ?! なんのことだよー!?」
「いーのだ! とにかく、これで!!」
「ちっ、わかったよ! ・・・なんか、よくわかんねーけど」
ぶつぶつ文句を言いつつも、手は律儀に動かし続けるつぐみ。
二人は、困難な作業を続けた。
三姉妹の樹
K−クリスタル /
2008-11-25 01:52:00
No.1258
「あれは、さすがに・・・わたしどもでも、お手伝いして差し上げた方が・・・」
一方、部屋の中、ガラス越しにその光景を見つめる二人の人影。そのうちの一人、はるこ侍従長がそう言ったが、相手のまゆり第一公女はかぶりを振った。
「いえ――もうああなっては、何人で出ていっても同じでしょうし・・・最後まで、ゆうきのやりたいようにさせましょう」
そして、ため息と共につけ加えた。
「巻き込まれたつぐみには、気の毒ですけど。本当に」
「そうですか――そう仰るのでしたら」
「でも、そうですね・・・こんな天気で、外であんなことをしていたら、どんなに雨具を着込んでいたとしても、ずぶ濡れでしょうから――シャワーと着替えの用意をしておいてあげてください」
「わかりました。お任せを」
「わたくしは、何か温まる飲み物でも準備してあげることにしますから」
――そして、その翌々日
ようやく公務を終えて帰国したみさき第四公女は館に戻ると、とるものもとりあえず、急ぎ足で中庭に向かった。
そして、見たのである。嵐が過ぎ去った後の陽光を浴びて、まだ小さいながらすっくと力強く立つ一本の苗を。
「まあ・・・」
みさきは驚き、感動した。
しかし、ほどなく、
(でも、変ね・・・)
ひどく不思議に思った。
今日は嘘のように穏やかに晴れわたった天気であったが、昨夜の荒天のありさまは、雨に叩かれ土が流されて様子の変わった地面と、風のためにそこ一面に落ちている木の葉や倒れた草などが示している。だが、その中でなぜかその苗だけすこしも傷ついてはいない。
――みさきはむろん知らないことであったが、その時には風や雨よけの覆いはすっかり取り払われ、そうしたものがあった痕跡さえ消されて、すっかりもとの状態に戻されていたのであった。
みさきは思案に暮れて、じっとその元気な苗を見つめていた。
しばらくして、みさき第二公女はゆうき第四公女の部屋へと妹を訪ねた。
「ゆうきちゃん」
「ああ、帰ったのか、姉さま」
本を読んでいたふうのゆうきはすこし顔を上げるだけで姉を迎えた。
「ええ。ただいま」
そう言ってから、みさきはゆうきへと近づいた。
「ゆうきちゃん――ありがとう」
「・・・はあ? 何を言っているのか、わからないな」
「そう?」
「ああ」
「そう・・・」
ゆうきの表情にも声にも動揺はなかった。しかし、みさきは見逃さなかった。再び本を見るように伏せたゆうきの耳の横がわずかに赤く染まっていることを・・・。
それに、普段なら、こうしてみさきが何日か家を空けて帰ってきたおりには、なんのかのと理由をつけて必ず顔を見に来るゆうきが今日に限って出てこないというのも変だったのである。
(素直じゃないんだから)
だが、それ以上追及することをみさきはしなかった。その代わりに、
「それじゃ、ゆうきちゃん。お茶にしない? お礼に、おいしい紅茶を淹れてあげるから」
「お礼とは、なんのことかわからないが・・・おいしいお茶はいいな」
「ふふ――じゃあ、ちょっと待っててね」
「あ、姉さま」
立ち去りかけるみさきをゆうきは呼び止めた。
「なあに?」
「その、なんだ――それなら、まゆり姉さまも一緒に・・・」
「・・・そうなの? わかった、お茶が入ったら、お姉さまにも声をおかけするわ」
こんどはもう少しわかりやすく顔を赤らめているゆうきを見て、みさきは久しぶりにこの妹をかわいいと思ったのだった。
――ノエルラント、キリカ妃の館の中庭には、今も他では見られない珍しくも美しい若木が葉を広げ育っている。
人々はいつしかその樹を?三姉妹の樹?と呼んだ。
Many happy returns!!
K−クリスタル /
2008-11-25 01:55:00
No.1259
とゆーワケで、お待たせしましたー!!
おたんじょープレゼントの、久々ノエルラントSSをお贈りしまっす!!!
いや〜〜遅れてすいませんです、
10日
も
その代わり、ゴーカに!
みさき姉上ー!!
おたんじょー日、オメデトー!!!
(
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)
∠
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キ
ラ
キ
ラ
※ ※ ※
「え゛っ?! 三姉妹って、あと、まゆり姉のことなのか・・・? オレは!? オレは、入ってないのかよ、おい!!」
いや、つぐみ姉。だって・・・
「オレだって、くろーしたぞ? ていうか、ワケわかんないままつき合わされて、いちばん損な役まわりじゃないか・・・まゆり姉入れるのはいーけど、だったら、オレもたして四姉妹にすりゃいーだろ!!」
キリカ義母上の館のハナシすから、ふつーはキリカ家の?三姉妹?でしょーよ
「じゃあ、せめて、三姉妹プラス1とか・・・」
・・・そんなん、謂れありそーな樹の名前にゃーなりませんて
「なんなんだよー! みさきの誕生日のときのオレの扱いって・・・!!」
Re: 三姉妹の樹
エマ /
2008-12-06 14:27:00
No.1271
どもー。
久しぶりのノエルラントSS、いいですね。癒されます。
今回はゆうきちゃんが頑張るお話ということで、私も楽しみでした。
遺跡にあった種が千年も時を経て芽を出す。みさき公女ならずとも素敵な話ですが、
ゆうきちゃんにとっては、そんなことどうでもよいのですね・・・。自分の興味のあること以外はそっけない感じが、らしいというか。
夢見るみさき公女にいちいち水を差すのが、実は大好きなみさきお姉様に土いじりなどさせたくない、とゆー気持ちの裏返しなのがかわいいですね。
樹の芽を助けるのを隠すために、わざわざ口実を作ろうとするのも面白いです。「バカ、そんなものいれたら・・・」というところは思わず笑ってしまいました。
まゆり公女は、任せるところは任せて、うまく見守ってあげていて、つぐみちゃん達に暖かい飲み物を用意してあげたり、年長者らしいキャラになっていますね。
夢カル本編のまゆりちゃんとは、また違う感じでとても良いです。本編とはまた少し違うキャラが楽しめるのが、エマステ大公国シリーズの醍醐味の一つでしょう♪
しかし、最後にみさき公女にほめられて、密かに頬を赤くしたりして・・・これはやはりツンデレの症状と見て間違いない(笑)
この"三姉妹の樹"、ノエルラントSSの今後もちょくちょく出してあげるといいかもしれませんね。
千年前の遺跡とかがらみで、ストーリー上結構重要なキーを与えられそーな気もするし。
それにしても、今回のつぐみちゃんはほんと、使われるだけで気の毒でしたね(笑)
そうそう、ノエルラントの設定とかストーリーとかも、
エマステに専用のコーナーでも設けましょうか。段々数が出てきたから、保存した方が良い気がしてきた。
ありがとうございます♪
みさき第二公女 /
2008-12-06 23:40:00
No.1272
お礼を申し上げるのがこんなに遅れてしまいました。申し訳ありません ・ ・ ・ ・ (汗)。
誕生日のお祝いに、こんなすてきなお話をどうもありがとうございました。とても、うれしく、また楽しく拝見させていただきました。
それでは、感想です。
まず、妹のゆうき公女にみさき公女はともするといじめられてしまうというのが今までも設定として聞いてはいたのですけど、あんまり具体的にはイメージとして思い浮かばなかったのですが、なるほど、こういう感じで意地悪なことをいわれてしまったりするのでしょうか?
でもまあ、このくらいでしたら、いじめられるとはいってもそうたいしたものではないですし、ゆうきちゃんの意地悪な言い方も半ば反射的に出るもののようですね。エマさまの仰るとおり、その底にはみさきへの思いが含まれているようですし……。
少し、安心したと申しますか――いえ、もちろん、本当にいじめられてしまっていると思っていたわけではないのですけれど……。みさきと話してからは、あんな憎まれ口を叩いていても、種のことを何となく気にしてくれていたみたいですし、やっぱり気持ちがやさしいのですよね。
それにしても、こういうのも“ツンデレ”というのか、まゆりお姉さまと同じく正確には分からないのですけれど、とにかくこのゆうきちゃんはかわいいです♪
わざとらしく自分がお水を飲んだり、洗濯を名目に発芽した木の芽に水をあげるところもそうですけれど、いちばんはやはり何と言っても嵐の中のシーンです。みさき公女が本当に一晩中傘を持って守ろうとするかはともかく、そう思って、そんなお姉さまを“お人好し”と言いながら、結局自分もびしょ濡れになりながら、苗を守るために風よけを立ててくれて――それも、つぐみお姉さまの言うように植え替えようとしないのは、みさき公女が初めてその芽を見るだろう時の感動を壊したくないからだなんて……ゆうきちゃんの方がよほどお人好しすぎますよね。
でも、その気持ちには、とても感動しましたし、みさきとしましては感謝の心でいっぱいです。
でも、お人好しと言えば、つぐみお姉さまはそれ以上ですね。普通だったら、こんなことを手伝ったりしないでしょうし、仮に引き受けたとしても、怒って途中で投げ出しても不思議はなさそうなものなのに、理由も知らされないまま、文句は言いながらもそれでも最後まで誠実にゆうきちゃんにつき合ってあげるのですから。
ゆうきちゃんも、こういう時には姉妹の仲でもいちばん頼りになる方と思っていて、それでつぐみお姉さまにお願いしたのかもしれないですね。ゆうきちゃんも、せめて理由を申し上げればよかったのに――まあ、恥ずかしくて、言えなかったのかもしれませんが……。つぐみお姉さまには、本当に申し訳ないことでした。
あとは、まゆりお姉さまがすべて分かって、それで、出しゃばらずに蔭ながらろいろとフォローしてくださるお姿が大人という感じで、とてもよかったです。さすが長姉で、第一公女という感じがします。
でも、ゆうきちゃんもその辺りのことはよく分かって、それで、感謝もしていたのですね。だから、最後、みさきにお茶を入れてもらえることになった時、まゆりお姉さまにもと言ったのでしょう。 そう言う時、みさきにお礼を言われた時より、さらに照れてしまったゆうきちゃんはすごくすてきでした。
ああ、でも、最後に一つだけ訂正を――。
“久しぶりに”なんていうことはありません。素直じゃなくても、いいえ、かえってそれだけ、ゆうきちゃんのかわいさはよく分かっているつもりですから♪
ノエルラントのコーナー、わたしからもお願いいたします。まとまると、もう結構な量になるでしょうし、初めの頃と比較して、それぞれのお話が加わるたびに、だんだんといろいろな世界が広がっていったのを見直してみると、また楽しいでしょう。それに、ノエルラントのことをあまりご存じでない方達にもまとめて読んでいただいて、よく知っていただけたなら、うれしいですし……。
私にもプレゼント
ノエルザブレイヴ /
2008-12-07 00:44:00
No.1273
ノエルラントを描いていただけたことは大変嬉しいです。
発端の話がまずいいですね。結構有名な寺にあるハスの花が同じような経緯で開花したと聞きましたが、そういうのは好きです。
しかし、やはりメインとなるのはこの娘、ゆうきですね(笑)。ゆうきのみさき公女への愛情は確実に少しは屈折していると思うのですが(そのためかなたねよりむしろ不器用にも映ります)、しかしやはり確実に愛情があると思われるので今回も行動がいちいち可愛いです(笑)。それにしても「みさき姉さまをいじめていいのはわたしだけだ」という発言がここまで拡大するとは。
そしていちいち行動が可愛いゆうきと対照的なまゆりの静けさが話にアクセントを与えていると思います。そばに控えしはるこも「品のある臣下」感が良い味を出しています。
最後にはやはりつぐみでしょう(笑)。クリスさんのお話では扱いが冷たいですが、チャットでも言いましたように「仕様です」なのでしょうね(笑)。
それにしても、ノエルラントはもはや私の手を離れてしまいました。しかしそれはむしろ喜びです。私のキャラがそれほどまでに愛されていることは誇りです。
ADVENBBSの過去ログを表示しています。削除は管理者のみが可能です。
ある日、ノエルラントの第四公女ゆうきは館の中庭にしゃがみ込んでいる同腹の姉、みさき第二公女を発見した。
「ああ、ゆうきちゃん。これ・・・」
差し出した、土で汚れたためにかえってもとの白さが一層際だつほっそりした手の中には、十ほどの黒い粒があった。
「・・・種?」
「ええ。パルミエの調査団の方が下さったの。千年もむかしの遺跡から見つかったのですって」
「それで、姉さまはそれを播いてみることにしたわけか」
「そう。長い間、遺跡の中でひっそり眠っていた種が千年の時を経て芽吹くなんて、ロマンチックでしょう?」
「・・・そんなむかしの種では、とっくに死んでいるのではないか――常識的に考えて」
「・・・夢がないんだから、ゆうきちゃんは。この種、どういう樹の種かよくわからなくて、今研究中なのだそうよ。まだ、名前もないの。もし芽が出たら、研究のお手伝いになるし、それに、今までだれも見たこともない珍しい樹が育ったら、すてきだと思わない?」
「いままで誰も見たこともないよーな、うすらみっともない樹に育つかもしれないが・・・」
「もう! また、なんで、そんな意地悪いうのー?」
「まあ、せいぜいがんばってくれ」
腰に手を当てて立腹した様子の姉をその場に残し、ゆうきはクールなふうで立ち去った。
が、内心ではつぶやいていた。
(土いじりなぞ、みさき姉さまの手には似合わない。優雅に紅茶でも淹れている方が合ってるというのに)
――3日後
このところ、どういうわけか日に一度はここを通ることが日課となっていたゆうきは、中庭のある場所でその足を止めた。
(なんと・・・出ているではないか・・・)
掘り返され、色の変わった軟らかくなった土から、緑の芽が一つだけ出て双葉を開いていた。
そして、意識されたのは、みさきが公務で他国へ赴き、現在屋敷にはいないということだった。
「どうかしましたか? ゆうき」
後ろから声をかけられ振り向くと、長姉のまゆり第一公女が立っていた。
「いや」
あいまいに首を振ると、ゆうきは逆に質問する。
「まゆり姉さま。みさき姉さまは、まだ当分帰らないのであったな?」
「え? ええ――親善にK'SARS公国まで行っていますから、まだ1週間ほどはもどらないでしょう。あそこでは、ほら、ラナ姫がなかなか離してはくれないでしょうし」
「1週間――ちっ・・・さすがに、そんなにはもつまいな」
「は?」
「いや、なんでも・・・」
言葉をにごすゆうきであったが、ひそかに思っていた。
(よりにもよって、姉さまがいないときに出てくるとは・・・なんとも、間のわるいやつだ)
そして、翌日から、いささか奇妙な光景が見られた。
朝方、なみなみといっぱいに満たした水差しを持って、ゆうき第四公女が中庭に現れたのだが、
「起き抜けにのどが渇いたとおもったが、考えてみれば、こんなにはいらないな、うむ」
わざとらしくひとりごとを言うと、中身の水をその場に投げ捨てたのだった。
水の流れていった先の地面には、小さな樹の芽があったが、ゆうきは見向きもせず立ち去った。
「・・・?」
だが、たまたま離れたところからその光景を目にしたまゆり第一公女は首をひねっていた。
――また、さらに2日後
「ゆうき姉さま。それ、何?」
キリカ妃の館を訪れていた異母妹のなたね第七皇女は中庭で水を入れた洗面器を持っていたゆうき第四公女の姿を見とがめて、いぶかしげに尋ねた。
「・・・見てわからないか。洗濯だ」
ひそかに舌打ちすると、ゆうきはうるさそうに答えた。
「えっ、ゆうき姉さまが珍しいね。――あれ? でも、それ洗剤入ってないんじゃ・・・ボク、持ってきてあげようか?」
「バカ、そんなもの入れたら・・・いや、傷みやすい生地のものを洗うのでな、これでいいのだ」
「そうなんだ。じゃあ、がんばってね」
「ああ」
ゆうきはうなずいたが、なたねがいなくなると、洗面器に入れてきた水をただその場にあけた。
「ふん」
水のこぼれたところに少し成長した樹の芽があったことは言うまでもない。
「ああ、そううことでしたか――」
そのありさまを館の二階のテラスの椅子にかけて眺めながら、まゆり第一皇女はかたわらに立つはるこ侍従長に向かってうなずいた。
「はい。みさきさまからはもし芽が出たら、世話をするよう頼まれていたのですが――ああして、一応ゆうきさまがなさっておいでのようですし・・・いかがいたしましょう?」
「まあ、ゆうきがやっているのですから、だいじょうぶでしょう。手は出さないで、任せておいてあげてください」
「承知いたしました」
(それにしても)
まゆりは、水をあけるとすたすたそこを去っていくゆうきの方を眺めやった。
(ああいうのも、一種のツンデレというのでしょうか?)
――その翌日
ノエルラントは、前日までとうって変わって、突如として暴風雨に見舞われた。
たたきつけるような雨と風の中、しかし、合羽をかぶってこんな折にわざわざ中庭に出ている人影が二つあった。
「おい! ゆうき!!」
「なんだー! つぐみ姉!!」 <― 強風で声が聞こえにくいので、いちいち怒鳴っている
ゆうきともう1人は、ノエル公の息女の中の次姉つぐみ親衛隊長であった。
「なんだってー、こんなことしなきゃ! いけないんだー?!」
しごくもっともな疑問にゆうきは、直接は答えなかった。しかし、代わりに言った。
「あたしは・・・お人好しじゃーないんだ!!」
「なにー?!」
「どっかの姉さまなら、ひと晩中でもかさを持って、そばに立って守っていそうだが・・・あたしは、そんなバカなまねはしない!!」
呟きのような前半のゆうきの言葉はつぐみの耳に達しなかった。いや、仮に届いていたとしても、意味はわからなかっただろう。
「もっと合理的にやる!! だから、風よけを組み立てたら、さっさと館に戻るぞ、つぐみ姉!」
結局、わけもわからないままにつき合わされるつぐみ。二人は作業に取りかかったが、雨風に妨げられ、悪戦苦闘する。
しばらくして、つぐみがまた叫んだ。
「でもなー、ゆうきー!! 思ったんだけどよー!」
「なんだー?!」
「この苗、守るならー! 植木鉢かなんかにサクッと植えかえて! 館の中にでも持ってけば、いーだけじゃねーのかー?!」
「・・・そんなことしたら、はじめて見たときの感動がうすれるだろーが!!」
「はあ?! なんのことだよー!?」
「いーのだ! とにかく、これで!!」
「ちっ、わかったよ! ・・・なんか、よくわかんねーけど」
ぶつぶつ文句を言いつつも、手は律儀に動かし続けるつぐみ。
二人は、困難な作業を続けた。