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K−クリスタル /
2008-12-06 01:09:00
No.1266
血の十字架
(ブラッディー・クロス)
Episode03 ―?裏?開封― −1
――人の住む町中から離れた郊外に忘れ去られたようにぽつんと建つ廃工場。
辺りの土地も何の整備もされていない。かろうじて舗装された道路が伸びてはいるものの、ところどころひび割れ、伸び放題の草にその縁は浸食されてきている。
むろんかつてはそうではなかったが、かなり以前に工場としての働きを終え、働いていた人々は立ち去り、中にあった機械類もいずこかへ移動された。だが、建物じたいはなぜか取り壊されることなくうち捨てられ、巨大ながらんどうとしてあとに残ったままになっていたのである。
その工場跡を、探っていた。
見ていたのではない。
眼は瞑り、やや俯いてじっとしている。そのさまは、聞こえない音に聞き入っているかのようでもある。
(・・・13・・・19・・・26・・・)
無人と化したはずの廃工場。だが、何者もそこにいないというわけではなかった。確かに、人――人間は誰もいなかったが、代わりに、いつのまにか巣喰っている者たちが存在した。
呪詛悪魔――人間に恨みを抱いて死に至った動物たちの魂がその恨みを晴らさんものと人の姿を象り、転生した者たち。生前人間から受けた恩義を返すため、死後その人物のもとへと転生してくる守護天使とは、まさに対局にある存在。
そういう者たちが今、その建物の中にはいたのだった。
その様子を目で見ることもなく、別の感覚で捉えている。
(32人。ここにはもっといたはずだが――3分の1ほどがいない。どこかに出ているのか)
いや、総数は結局は関係がない。問題なのは、役に立ちそうなほどの力の持ち主は何人いるかということだった。
(4人、というところか・・・)
おそらくこれでは足りない。他を当たるべきか・・・?
(――いや、これは・・・)
一つしかない目を開き、顔を上げる。これならば・・・試してみる意味はある。
次の瞬間には、工場の扉の前に立っていた。
ろくな手入れをされず銹つき、そうでなくても重い鉄の扉がなぜか、軋む音すら立てずすんなり開く。
中にいる者達は呪詛悪魔。本来、魔界の住人である。しかし、誰一人気づかなかったが、その者たちにとっての真の地獄への入口は、実にこの時開いたのであった。
外からの明かりを背にして立つその姿はすらりと背が高いが、取り立てて変わったところがあるようには見えない。
が、扉の近くにいた者達は、一斉にそちらへと目をやった。一瞬で空気が変わったのだ。何か異質な、悪魔と呼ばれる彼らにして、ぞくりとするようなこのうえなく危険なものを感じて。
その人影は内部へゆっくりと、しかし、何のためらいもなく足を踏み入れてきた。
そして、声が聞こえた。特に大きな声でなく、叫んでもいない。だが、中の全員の耳に――建物のずっと奥にいた者たちにすら――それは届いた。淡々とした調子とは、あまりにもかけ離れた内容の言葉。
それは、一方的な宣告。いかなる疑問も反論もいっさい認めぬ、理不尽この上ない宣言――
「ここにいる、呪詛悪魔ども。今から貴様たち全員を始末する」
そしてまた、続く言葉がさらに普通ではあり得なかった。
「――抵抗しろ」
K−クリスタル /
2008-12-06 01:14:00
No.1267
はじかれたように、呪詛悪魔たちは反応した。
甘く見てかかるような態度はなかった。それだけ訓練され、戦い慣れていることもある。が何より、異様な雰囲気を全員が感じ取っていたのだ。
あっという間に、近くにいた者たちがそれぞれ武器を手に取り、扉のそばの侵入者に対し、半円の包囲陣形を組んでいく。相手――たった1人の男は、その間身じろぎ一つしない。
同時に建物の奥まった一画の小屋のように区切られたところには、何人かの者たちがすぐさま集まった。声が飛びかう。
「周りの様子は? 他に敵は?」
「見当たらない」
「こっちもだ」
「こちらも確認できる限り、周囲にそれらしきものはいないそうだ」
数台のモニターを操作していた者達、そしてまた、部屋のすみで座禅を組むような格好で座っていた女から確認を取った男が言った。
「すると――本当にたった1人で、正面から乗り込んできたというわけか・・・囮でも、陽動とかでもなく」
報告を受け、中央のデスクにかけた初老の男が考え深そうに呟く。抜け上がったように広い額の下の三白眼が油断ない光を放っている。ジャケットにワイシャツというごく普通の姿である。しかし、周りの者たちがあまりにも種々雑多な格好をしていたために、ここではこの平凡な服装はある意味かえって浮いていた。
「は! とんだイカレ野郎だな・・・!」
冷静な態度のデスクの人物とは反対に、その近くに立つまだ若く見える男は、いまいましげに吐き捨てた。美男だが、端整というより派手な顔立ちという方が似つかわしい。格好も黒と青の薄い生地でひらひらした飾りの多くついた、まるでアイドル歌手かダンサーのステージ衣装のようなものを身にまとっている。そのうえ、長く伸ばし逆立つような形で固めた髪の方は黄色から橙、赤までのグラデーションに染め上げ、目立たずにはおかない外見であった。
「・・・そうナラ、いいガ」
隣にいた男が応える。巨漢である。若者もかなりの長身だったが、それよりゆうに首ひとつ高く、また肩幅は倍ほどもあり、一人で部屋を狭くしている印象があった。その巨体だけでもそうだったろうが、さらに胴体部分に鎧のようなものを着込んでいるのが異様で、初めて見た者は例外なく目を剥くことだろう。隣の若者が派手で人目を引くとすれば、こちらはむしろ目にした相手をぎょっとさせる。
「なに? どういうことだ?」
「イヤ・・・奴はタダ、本当に1人でオレたち全員を始末するつもりだけナノかもシレン」
野太い、大きな声だというのに、発音が妙に不明瞭で聞き取りにくい。なぜか、ところどころに擦過音のようなノイズが混じるのだった。しかし、相手は慣れているのか、そのまま反論した。
「ばかな・・・どんな奴だろうと、1人でのこのこ乗り込んできた時点で、その運命は決まっている」
「そうカ?」
「そうだとも、決まってるだろうが! あんたらしくもないな、ガルシア!!」
いらいらした様子をつのらせた若者は相手に食ってかかる。
「たった1人で、何ができる! 今ここにいる人数で、俺たちは中隊規模の大天使の部隊とだってやり合える。あんな奴、敵じゃない!!」
「相手のことが何もわからない以上、その判断は早計だぞ、アレク」
最初に報告を受けていた年配の男が落ち着いた声で口をはさんだ。
「! あんたまで何だ、ニール!!」
「聞け。奴がただの無謀なだけの道化なら、何の問題もない。だが、そうでないなら、こうして仕掛けてきた以上、何らかの目算があると見るべきだ。ダグ達がいない今、用心に越したことはない」
「ふん」
「それに――おまえもわかるだろう、我々が今感じているもの・・・この、心がざわつくような・・・これは、気のせいか?」
「む、それは・・・」
「まあ、少し様子を見る。何もなければ、すぐ終わる。何かあったとしても、指揮はバステラだ。すぐ滅多なことはあるまい」
「・・・わかった」
ありありと不満は残しながらも、若者は引き下がった。
その時、銃声が響いた。1発や2発ではない、数10発がほとんど間をおかず。皆、一斉に外の様子をうかがった。ニールの言う通り、あるいはそれで片がついたかもしれない。
だが―― 敵は倒れていなかった。反対に仲間の4、5人が倒れているのが見えた。相手の方は銃などの武器は何も持っているようには見えないのにである。
そして、バステラの叫ぶ声が聞こえた。
「いかん! 銃は使うな!!」
とっさに叫んでいた。きちんとした思考の末にではない。だが、その判断は正しく、また、思考によけいな時間を費やしはしなかった分、なし得る限り最速でもあった。もしそのまま銃撃を続けていたとしたら、さらなる犠牲を出していたことだろう。彼――バステラの指示で、被害は最小限に留められたのであった。
いや、その前の一斉射撃が間違っていたわけではない。単独の敵手を多数の味方で半包囲した陣形。不用意に近づかず離れたところから銃器によって集中攻撃を浴びせることこそ、最善にして必勝必殺の策であるはずなのだ。
OD色の上着とカーゴパンツに半長靴という軍用戦闘服そのままの姿のとおり、バステラは集団戦闘の専門家であった。全体が見える視野の広さと、いざというときの判断力――半ば勘によるものであったとしても、今のようにそれは結果的にはたいてい正しく、そしてすばやく、それで、いくども仲間たちの危機を救ってきた。だからこそ、個人での戦闘力には突出したものがなくとも、こうして常に一隊の指揮を任されてもいる。
先の一斉攻撃にしても、望みうる最上の態勢を整えた上での最高のタイミングでの指示だった。いや、仮にそこまでではなかったとしても、あの状況下であれ以外の選択肢は常識的にあり得ない。普通なら、それですべてけりがついていたところだ。
だが、今の事態は、到底通常の様相を呈してはいない。
ごく短時間ではあったが、スコールのように銃弾を撃ち込んだその結果は、何としたことか、当の敵ではなく、味方の数人がばたばたとその場に倒れたのである。
(弾をはね返された・・・?)
その考えが頭の中で形になったのは、叫んだよりあとのことだった。見ると、倒れた者達の体には確かに銃痕があった。
――だが、詳しく見てはいられなかった。
はじめ逆光で、次には銃撃の煙でよく見えなかった侵入者の姿が次第にはっきりしてきたからだった。
それはまったくの無傷で――いや、それどころではない、本当に何事もなかったように、ただ元のままの位置にじっと立っているだけのようであった。
バステラはこのときはじめて、まともにこの敵を見た。
見ための上からは、とりわけ特別な部分があるようには見えない。
長身ではあるが、びっくりするほどでもなく、体型はどちらかと言えばやせ形で、これと言って目を引くところはない。仲間のうちの方がガルシアはじめ、体格ではずっとすぐれたものが何人もいる。
姿格好にしても、浅黒い肌にやや長めの黒髪、着ている革製のジャンパーにスラックス――共に深い同じような色合いの――も別に珍しいものではない。目立つと言うなら、アレクなどの方がよほど派手で特徴があり、見た者に印象を刻みこむだろう。
顔立ちは彫りが深く、むしろ整っているとも言えた。だが、あまりにも冷たいその表情のために、なかなかそうとは認識させなかった。いや、それよりまず、片方の目が常に糸を引いたように閉じられている。それこそはこのうえない特徴であるはずだったが、それとても、ともすれば見過ごしてしまいそうだった。
つまりは、具体的な何かの形をもって、そう言うのではなかった。
だが、それでも――
間違いなく、ただ者ではない。
どこがどうではなかった。一目見れば、それは理屈を越えていやでも感得せざるをえないのだ。否、見なくともだ。この何か圧倒的な――禍々しく危険に充ちた、辺りの気温さえ下げてしまうかのような独特の雰囲気・・・実のところ、先に上げたような観察はそれに圧迫されそうになるのに懸命に抗して事実だけをやっとすくい上げたもので、とても普通に落ち着いてできる余裕などあったものではなかったのだ。
未だかつてない恐るべき敵――そう直感した。バステラひとりではない。おそらく、味方全員がそうだ。だからこそ、詳しい指示を出すまでもなく、みな自らそれぞれ動き、すぐさま完全な迎撃態勢を取ることができたのだ。
しかし、その結果はただ味方の被害を出すだけに終わり、皮肉にも皆の感じたものをいっそう裏づけることとなった・・・。
どうやってあれだけの銃弾をはね返したのか、方法はわからない。気づいた限り、何の動きもしてはいなかった。見ていたとおり、攻撃の前と後で、姿勢すらまったく何の変わりもない。だが、そのことにかえって底の知れないものを感じる。
だが、指揮を執るものとしては、ここでわずかなりと動揺を仲間に見せるわけにはいかなかった。そんなことをすれば、味方の士気が下がってしまう。
従って、逡巡があったにしろ、それはほんの少しの間のことであった。
「やれ!!」
その合図で、取り囲んだ仲間の中から5人の影が飛び出した。
次
K−クリスタル /
2008-12-06 02:20:00
No.1268
まー、それでも、ナンとか今年中に続きをね、あげられてよかったケド・・・
とゆーワケでして、血の十字架(ブラッディー・クロス)Episode03 ―?裏?開封― 、いよいよ本編突入であります
敵方の呪詛悪魔のヒトたち、いろんな人が出てます。ずいぶん力入れて考えたヒトから、ポッと思いつきのヒトまで・・・ソレに準じて、アツカイもいろいろです、ハイw
ジツは、この先もダイタイできてんで、次回はアンガイにすぐ、載せられるんではないかとおもいます
シカシま、新年早々やるよーなハナシでわないな、考えてみたら ウーム・・・
ソノ先はまた、さらにアレだし、トチューからでもけーじ板でなくて、じかにエマさんにサイトに載せてもらうよーにしたほーがいーかもしんないナー
まー、ツギまで載せてから考えまふ
・・・シカシ、下とチガいすぎるだろ、僕w
Re:
エマ /
2008-12-13 19:42:00
No.1278
こんばんはー。
ブラッディークロス、Episode03、これは「裏」の開封をいったんあきらめた後の話でしょうか?
廃工場に数十人の呪詛悪魔、このヒトたちをカンディードがケチョンケチョンにしてしまうお話ですね?w
確かに、廃工場なんてのは、呪詛悪魔達が巣窟にしそうな場所ですなぁ。
たった一人の守護天使に、銃器で完全武装した呪詛悪魔たちがあっという間にどんどんやられてしまうという構図は竜人さんの「ローン・ライオン」に通づる部分がありますが・・・。
この話で違うのは、呪詛悪魔達に名前がついていて、それぞれ個性が出ているところでしょうか。見るにつけ、それなりに話は長くなりそうな感じですが・・・。
呪詛悪魔たちから見たストーリーというのも、おもしろいんじゃないか、なんて思って、私も構想していたりするのですが、これは早くもこの話で見れそうな感じで、楽しみですね。
ニールとか、アレクとか、それなりに、人間的な名前が多いですが、可愛がってくれた人間もいないだろうし、誰から名付けられたんでしょうね。呪詛悪魔のグループで、自分を拾ってくれたリーダーとかでしょうか? あるいは自分で勝手につけたのかな?
前者だと、ある意味ゴッドファーザーというか、プライドある悪の組織って感じですが。
しかし、銃撃の集中砲火を相手に跳ね返して反撃するなんて、さすがカンディードというか、強すぎw デビルメイクライのバージル兄さんを超えてます・・・w
ガルシアの素早い判断で、被害は最小限に抑えられたようですが、呪詛悪魔たちの状況はかなり悪そうですね。どう切り抜けるのか・・・。
カンディード、最初にここをぶっつぶすべきか迷っていましたが、何かを見いだしてここなら手応えありそうだ、と思い直していましたよね。それがニールやバステラといった、老練な指揮官クラスの事を指しているのか、はたまた別の何かなのか、は気になるところですね。
どっかに出払っている?メンバーの3分の1はいったいナニをやっているのか・・・も気になるし。危険を察知して勝手に逃げたのか?w
うーむ、すでにいろいろ伏線が張られている気がしますねー。
しかし、本来はこれほどまでに強そうな呪詛悪魔たちの巣窟に、守護天使が一人で入っていくなんて無謀ですよね。元々の設定では呪詛悪魔は普通の守護天使よりずっと強いという感じでしたが・・・^^;
ちなみにカムドが同じ状況なら、たぶん集中砲火は避けるので・・・こっそり裏口から侵入して呪詛悪魔たちが休憩中に切り込んでいくか、真正面から堂々いくなら、トラックに爆発物を満載して突っ込んで敵を大混乱に陥れるみたいな、ターミネーター的な戦い方になりそうです。あ、でもこれも不意打ちだw
まぁ、真正面から口上ぶつのはカンディードとカイルくん位ということでw
次回も期待しています。内容については、そーですねー。まずいようなら、頂ければ私の方で載せる、というのももちろん結構ですよー。
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Episode03 ―?裏?開封― −1
――人の住む町中から離れた郊外に忘れ去られたようにぽつんと建つ廃工場。
辺りの土地も何の整備もされていない。かろうじて舗装された道路が伸びてはいるものの、ところどころひび割れ、伸び放題の草にその縁は浸食されてきている。
むろんかつてはそうではなかったが、かなり以前に工場としての働きを終え、働いていた人々は立ち去り、中にあった機械類もいずこかへ移動された。だが、建物じたいはなぜか取り壊されることなくうち捨てられ、巨大ながらんどうとしてあとに残ったままになっていたのである。
その工場跡を、探っていた。
見ていたのではない。
眼は瞑り、やや俯いてじっとしている。そのさまは、聞こえない音に聞き入っているかのようでもある。
(・・・13・・・19・・・26・・・)
無人と化したはずの廃工場。だが、何者もそこにいないというわけではなかった。確かに、人――人間は誰もいなかったが、代わりに、いつのまにか巣喰っている者たちが存在した。
呪詛悪魔――人間に恨みを抱いて死に至った動物たちの魂がその恨みを晴らさんものと人の姿を象り、転生した者たち。生前人間から受けた恩義を返すため、死後その人物のもとへと転生してくる守護天使とは、まさに対局にある存在。
そういう者たちが今、その建物の中にはいたのだった。
その様子を目で見ることもなく、別の感覚で捉えている。
(32人。ここにはもっといたはずだが――3分の1ほどがいない。どこかに出ているのか)
いや、総数は結局は関係がない。問題なのは、役に立ちそうなほどの力の持ち主は何人いるかということだった。
(4人、というところか・・・)
おそらくこれでは足りない。他を当たるべきか・・・?
(――いや、これは・・・)
一つしかない目を開き、顔を上げる。これならば・・・試してみる意味はある。
次の瞬間には、工場の扉の前に立っていた。
ろくな手入れをされず銹つき、そうでなくても重い鉄の扉がなぜか、軋む音すら立てずすんなり開く。
中にいる者達は呪詛悪魔。本来、魔界の住人である。しかし、誰一人気づかなかったが、その者たちにとっての真の地獄への入口は、実にこの時開いたのであった。
外からの明かりを背にして立つその姿はすらりと背が高いが、取り立てて変わったところがあるようには見えない。
が、扉の近くにいた者達は、一斉にそちらへと目をやった。一瞬で空気が変わったのだ。何か異質な、悪魔と呼ばれる彼らにして、ぞくりとするようなこのうえなく危険なものを感じて。
その人影は内部へゆっくりと、しかし、何のためらいもなく足を踏み入れてきた。
そして、声が聞こえた。特に大きな声でなく、叫んでもいない。だが、中の全員の耳に――建物のずっと奥にいた者たちにすら――それは届いた。淡々とした調子とは、あまりにもかけ離れた内容の言葉。
それは、一方的な宣告。いかなる疑問も反論もいっさい認めぬ、理不尽この上ない宣言――
「ここにいる、呪詛悪魔ども。今から貴様たち全員を始末する」
そしてまた、続く言葉がさらに普通ではあり得なかった。
「――抵抗しろ」