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プレゼント・アット・ホーリーナイト
ライオンのみさき /
2008-12-25 00:00:00
No.1290
人々の吐く息も白い寒さの中でも、温かな幸福感に満たされる今宵、クリスマスイヴ。
周囲をビジネスビルに囲まれたこの空き地では、逆にその会社は休みなために、むしろ今夜だけはそのにぎやかさも届かないさびしい場所であったものが今、一種の異様な別の喧騒に満たされていた。
二人そろってアイマスクをつけた二人の人物を取り囲むサンタクロースの扮装をした十数人の人影。
サンタ達の間に漂う空気は、その格好にはまったく似つかわしくないものだった。警戒、緊張、そして、敵意……。
一方、二人組の方には元気・活力はあったものの、そういったものは見当たらなかった。逆に何だか、いや、明らかに楽しげに、
「サンダアアアァァァァァ!!」
「クロオオオオォォォォォォス!!!」
二人してそう叫ぶと、二人横に並んで近い方の手を組み、同時に離れた側の手脚をまっすぐ斜めに伸ばす。すると遠目には、重なり合った二人のシルエットが大きなXの形となった。
事前に入念な打ち合わせでもしてあったかのように、息もぴったりにそうポーズを決めると、
「行くぞ、2号!」
「おお!!」
かけ声と共に飛び出すサンダークロス1号と2号。
数の上から言えば、こちらはただの二人。対する相手の方はいまだ十人を越え、当たり前なら、不利な形勢――のはずだった。
だが、2号が一人で敵に囲まれた時、救援に背後からひそかに近づきつつあったチップこと雀のチープサイドは、今は彼らから再び少し離れ、すっかり傍観者を決め込む態勢になっていた。
気分もすっかりリラックス――と言うには、また別の問題があるにしろ、戦いのための緊張はすでにだいたい解いていた。
サンダークロス2号に加えて、あの男――1号までが現れた以上、事実として、彼にもうまったくやることはなくなっていたからだった。
と言うより、こういう展開では、正直なところ、むしろ敵側に同情の念を禁じ得ずにいられない。
サンダークロス2号、そして1号。その正体は、天界の特務機関フェンリル所属の守護天使燕のマーク、そして、より根源的な超絶の存在――一角獣のゼクシア。
サンタクロースに扮した敵――呪詛悪魔たちには知る由もないことだったが、その事実は彼らのこの先の運命を決定づけていたのだった。――それも、ただの敗北・破滅などというものでなく……。
「2号、サンダーキックは俺たちサンダークロス、命の必殺技。正義のヒーローの必殺技とは、無敵でなければならない。絶対、破られてはいけないのだ」
「そうだね……すまない、1号」
「いや、心配はいらない。サンダーキックはまだ死んではいない――見ておくのだ、2号」
そう言うと、
「とうっっっ!!」
いきなりジャンプするサンダークロス1号。しかし、ただの跳躍ではなかった。何の道具も仕掛けも使わず、一跳びで頭上遙か……その高さは、信じがたいことに空き地を取り囲むビルの屋上よりも高く、20数メートルにも達した。
サンタの格好をした呪詛悪魔たちは驚愕のあまり動くのも忘れ、口をあんぐりと開けて呆然と見上げるしかなかった。
それが彼らの不幸だった。
「サンダァァァァアアアアアッッ!!」
跳び上がって、もう小さくしか見えない人影から、すでに二度聞いた言葉が違う声で降ってきた。
そして、それに続いてその上空から声を発した本人がダイブしてきた。しかし、地面に向けてまっすぐ一気にではなかった。どうなっているのか、まず空中を垂直ではなく斜めに降下し、あるところまで達すると、何もないはずの空中を蹴るようにして、それで、方向を変え、また別の向きで斜めに降り、それを何度も繰り返すことで、まさしく稲妻のようにジグザクに落下してきたのだった。地上の偽サンタの群れめがけて――
あまりのことに、魂を奪われ、ただ見守っているばかりだった呪詛悪魔たちだったが、1号の姿が間近に迫ってきたその時、はっと我に返り、各自思い思いの方向へ逃げ出した。そのままだったら、二度目のマーク――2号のキックの時同様、不発に終わっていたかもしれない。
ところが、ゼクシア――1号は地上近く降りてきたところでもまた向きを変え、数人の呪詛悪魔たちが逃げ出した方へ空中で背後から追いすがり、
「キィィィッッックッッ!!!」
そのまま、3人の相手を吹っ飛ばした。
そして、すっくと立ち、2号をふり返る。
「これこそがサンダーキック! 続け、2号!!」
「うん、分かった! やあっっっ!!」
頷くと、サンダークロス2号もその場でジャンプ。
様子を見守っていたチープサイドが思わず眼を剥いた。
何と、2号――マークもまた先ほどの1号と同じように、軽々と20メートル以上も跳躍したのだった。
(おい……おいおいおい……!!)
「サンダァァアアア・キィィィッッック!!」
そして、1号と全くそっくりに、空中で何度も方向転換しながら降下すると、逃げまどう呪詛悪魔たちを空中から追いかけ、また2人、蹴り飛ばした。
(うわあ ・ ・ ・ ・ )
チップは頭を抱えた。
(そりゃあの男なら、あのぐらいのこと何でもないんだろうが――本人だけじゃなく、マークまで同じようにできてるってことは、だ……。あれはあのゼクシアが重力を遮断するとか、空間を曲げるとか、空気を固定化するとか……よく分からんが、何か、そういうとんでもないことを、いろいろとやらかしてんだろうな……)
そのまま、かぶりを振る。
(それなのに、最後は、あれはどうもただのキックでしかないようだが……。あれだけいろいろやって、なんつー能力の無駄づかいだ ・ ・ ・ ・ )
そして、あらためてマークの方に眼をやる。
(しかし、マークの奴は……こんなこと、もちろん初めてのはずなのに、とまどいも不安のかけらもなく、何かもう当たり前のようにやってやがる――あいつは、まったく……)
それから、その場で繰り広げられた光景は、戦闘シーンとして決して悲惨というわけではなかったものの、ある意味で、見ていられないほどひどいものだった。
相変わらず、わざわざ20メートル以上も大ジャンプしてから、サンダーキックを放つサンダークロス1号と2号。それに対して、まったく為すすべのない呪詛悪魔たち。攻撃を受けるたび、確実に幾人かは倒されていく。
それでも、しばらく経つと人数が少なくなった分、一度に倒される数は減り、さすがに攻撃を予想して何とかよけようとする者たちも現れ始めたのだが――。
所詮は無駄な抵抗だった。
一人は、いちかばちかの賭けに出て、跳び蹴りを浴びせてくるマークをぎりぎりまで引きつけ、すんでの所でさっとよけることで、マークのキックをかわせた――かに一度は見えたが……
「甘い! そうはいかないよ!!」
叫んだマークは同時に地面を蹴ると、そのまままるで上から落とされたボールがはね返るように刹那の遅滞もなく――つまり、一度地面に着地してから再び跳躍したのではなく、下向きの勢いがそっくりすべて上向きにはね上がって、それで相手を蹴り飛ばした。
一瞬気を抜いていた相手はまともに食らい、上へ蹴り上げられて、かなり離れたところまで派手に吹っ飛んだ。
さらに、まったく意味はなかったが、その勢いで空中を上へ数メートル跳び上がる時にもジグザグの軌道を描いてみせた。
「パワーアップバージョン! サンダーキック・稲妻蹴り!!」
高らかに宣言する。
(――聞いた瞬間はかっこよさげだが……それ、単に同じ名前、繰り返してるだけじゃねえか)
ひそかに突っ込みを入れるチップをよそに、
「おお!! やるな、2号!」
「いや〜、それほどでも……」
感嘆の声を上げる1号と照れたように頭をかく2号。
「ならば、俺も! とおっっ!!」
気合いと共に、またも大ジャンプした1号――ゼクシアだったが、一瞬後、体を横にして、なぜか地面に近い位置の空中にいた。跳び上がってから、いつそこまで降りてきたのか誰にも分からない。
しかし、次の瞬間、その体を横に倒した姿勢のまま、足から先に、空をすべるようにして恐ろしい勢いで進み――しかし、何度も斜めに進む方向を変えつつ、呪詛悪魔たちを蹴り飛ばしていった。
「サンダーーキック・水兵さん――いや、水平タイプッッ!!!」
(ははあん……もしかするとあれはたぶん、高いところから飛び降りてキックする垂直方向の運動エネルギーを、そっくりそのまま水平方向に90度向きを変えて――なんてことなのかもしれんが……)
いい加減、驚く神経が麻痺してきたことを自分でも自覚しつつ、チップは分析を試み、
(しかし、はたから見てると、ただ空中飛んでるようにしか見えねえし……やっぱり、わざわざあんなことやる意味はねえよな)
最後にはきちんと突っ込みを入れておく。
その時、気づいた。
身を低くしてビルの壁づたいにこっそりと、しかし、必死な様子でこちらへ近づいてくる者がいることを。サンタの格好はしていなかったが、呪詛悪魔の仲間の一人であることは間違いなかった。あの喧噪の中、いち早く扮装を解き、運良く見つかることなくここまで逃れてきたものだろう。
プレゼント・アット・ホーリーナイト
ライオンのみさき /
2008-12-25 00:01:00
No.1291
「待て、そこの」
チップは油断なくグロック19で狙いをつけつつ、声をかけた。
「動くなよ? 今夜の趣向は殺しはなしってことなんだが……俺の腕だと、動く相手の急所を外して撃つなんて器用な真似はできねえぞ」
ここにもまだ誰かいるとは思っていなかったのだろう、はっとして、こちらを見た。
その表情は恐怖に染められ……と言うより、今にも泣きそうな子どものような、情けない顔になっている。先刻までの凶暴な、そして、凶悪そのものの顔をしていた者のそういうありさまは、ひときわ哀れを誘った。
チップは頷きつつ、言った。
「まあな、分かるぞ……。ただ戦ってやられるのならまだしも、あんなわけの分からん連中に、ろくすっぽ状況もつかめず、何されてんだかさえよく分からないまま一方的にいいようにされるのは、そりゃいやだよなあ。おまえ達だって、やろうとしていたのは悪事とは言え、自分達なりには必死だったんだろうが――そうやって、せっかくシリアス決めてたのに、それをこんな冗談みたいなふうにむちゃくちゃにされるのはたまらんだろう」
肩をそびやかした。
「だがな、仕方ねえんだよ。あいつらといったん関わっちまった以上、もうどうしようもない。相手が悪かった。俺はお前達と違って、あいつらの敵じゃねえから、やられることはねえんだが、それだって、結構こたえることはある……。世の中にはとてつもなく不条理で理不尽なことってのがあるんだよ。気の毒だが、犬にでもかまれたと思って諦めろ」
向けた銃口を少し動かして、今着た方向空き地の方を示した。そして、ある意味で今最も非情なことを言う。
「戻れ。戻って、仲間と一緒にわけの分かんないような形で、わけの分かんないようにされろ」
相手はいやいやをするようにかぶりを振った。
しかし、銃声が響き、その足もとの地面に小さな穴をを穿った。
「次は当てる。さっさと行け」
声にならない悲鳴を上げ、可哀想な呪詛悪魔は自棄になったように元来た方へ駆け戻っていった。
それを見送りつつ、チップは呟く。
「せめてもの救いは、あいつらにやられても、命を落とすことはない――いや、それが慰めになるかはわからんが……」
だが、幸か不幸か、その男はもう自らの運命を呪ういとまもなかった。空き地に戻ったちょうどその時、上空から襲い来る凄まじい衝撃に残った仲間と共に巻き込まれたのだったから。
それは、互いに幾度も交叉する二重の黒い稲妻――
「サンダアアァァァッッ!! ダブルッッキイイィィィッックッッッ!!!」
その最後の必殺技が炸裂した後、空き地に立っている者はアイマスクをつけた二人組の他はいなくなっていた。
サンダークロス1号と2号は会心の笑みを交わし合うと、再び二人でXのポーズを決めた。
そして、そのポーズを解いた時には、2人ともすでにアイマスクをつけてはいなかった。
愛銃のグロック19を腰に戻し、チップが二人の方へ歩み寄っていったのはその時だった。
(息を吹き返す前に、DFの連中を呼んで、こいつら、引き取らせんとな……)
辺り一面に倒れている呪詛悪魔たちを見やりながら、チップは思った。
(もっとも、当分は起き上がれるような気力もねえだろうが……)
近づいていくと、サンダークロス1号――いや、ゼクシアがこちらを見て口を開いた。
「ひさしハマチのおっきーの。ポテチ君」
(……相変わらず、何だか、分かんねえ)
「ブリって魚、出世魚って言って、大きさでいろいろ名前が変わるんだよ。ハマチっていうのは、そのうちの名前の一つで、もう少し小さかったり、養殖物を呼ぶときの名前だね」
こちらの内心を見抜いたマークが要でもない詳細な解説を加える。
「そうなのだ」
(いや、それは俺も知ってるが……別にどうでもいい、そんなことは)
「お久しぶりですね、ゼクシ――いや、初めまして、なのか……サンダークロス一号」
その名で呼びかけるのには、やはり抵抗が出た。しかし、当の本人は唇に指を当て懸命に、
「しーっ、変身を解いた今の俺は流次、武神流次」
「あ〜、はいはい」
さすがに投げやりな気分になり、もうごく適当に相槌を打ちながらも思う。
(しかし――この男がよくもまあ、こんな漢字の名前考えられたよな)
そんな内心はおくびにも出さず、
「で……今日はまた、何でここに?」
「それなのだ」
武神流次は重々しく頷いた。
「今日はクリスマス。くりすますとは、サンタローがオトシダマをくれ、いたずらしない代わり、チョコをもらえる日だと思っていたのだが……」
(何か、いろんなのがちょっとずつごっちゃになってるな……)
「Rynexに教わったのだ。それは違う、仲良し同士がお互いにプレゼントを交換し合う日なのだと」
(ああ……この男にわかる範囲で、うまく説明したわけだな。えらいねえ)
「それで、俺もみんなにプレゼントしてやろうと思って、やっきて、クゥエルにはマツザカぎゅーとかいう上等の肉、ギャリドには穴の開いた手袋、そして、ラグルは『恋人がほしー。特にましろん』とゆってたので、これを手に入れたのだが……」
最後に取り出したのは、何か有名なお菓子の箱のようだったが、とりあえずそれは無視して、先を促す。
「それで?」
「しかし、Rynexには何をプレゼントすればいいか、思いつかないのだ……」
珍しくも、困惑した表情を浮かべる。
「なるほど、それは困りましたね」
真剣に同情した様子のマークに対して、チップはそれほどの気持ちはなかったものの、一応注意を促した。
「まあ、何にしろ、あげるんなら、今夜中の方がいいですよ。今日24日が確かRynexさんの誕生日でもあるんだし……」
「おお、そう言えば……だったら、ますますすごいものをあげなければ」
「なるほど――お世話になったし、助けてあげたいけど……チップ、何か、いい考えない?」
「そうだな……」
マークにも言われ、チップは少し考える顔になった。
「ゼフィランサスって花がある。俺の情報によれば、それを贈ると喜ぶと思う」
「あ、そう言えば……聞いたことがあるよ。さすが、チップ」
「おお、お花か――そのお花は、Rynexの好きな花なのか? 女の人は食べられないのに、なぜかお花が大好きだそうだが……」
(まあ、あの子は女の子ってわけでもないが……)
「しかし、う〜〜む……」
「お花じゃだめですか?」
「いや、そうではないのだが……お花の贈り物というのはよくあるのだろう? せっかくだから、他にはないものをあげたいのだ」
「なるほど」
「しかし、そう言われてもな……結構メジャーな花だし、よく見かけるだろうが、それでもそれが好きなんだったら……」
「そうだ!」
何か思いついた顔でマークは手を打った。
「チップ、その花って、どんな色?」
「ん? ああ、一般的には、白やピンクや黄色が多いみたいだが……」
「だったら、ゼクシア様。そのお花を買って、普通はない色に変えてあげれば、世界で一つだけのプレゼントになりますよ! そのぐらい簡単でしょう?」
「おお、なるほど! ぐっどあいでぃーあ!! ……しかし、どんな色がいいだろう?」
マークとチップは少しの間、顔を見合わせた。そして、マークが言葉にした。
「そうですね――青だったら、Rynexさんはいちばん喜ぶと思います」
「そーか! よし、わかった!! ありがとう、二人とも!!」
「いえいえ」
「お役に立てて、幸いです」
「お礼に、何かお返しがしたい! 何でも、言ってくれ」
「いや、そんな……もともと、こちらのお礼のためですから」
「そうそう、そうです、お気遣いなく」
(この男にお礼なんかされた日にゃ、たとえ悪気はなくても、どんなことになるか……)
「いや、しかし! それでは、俺の気が済まないのだ!!」
「うーん、そうですかあ? そこまで言うんでしたら……」
(おい、こら……! お前、何言ってんだ!! 何も頼むんじゃない!!)
チップは無言でマークに激しく首を振って見せたが、マークはそれを見ながらも、にっこり笑って言った。
「だったら、一つお願いがあります」
プレゼント・アット・ホーリーナイト
ライオンのみさき /
2008-12-25 00:03:00
No.1292
こんこん……
窓をノックする音で、男の子は目を覚ました。
子どもはもう寝ている時間だった。そうでなくても、今夜は特別いい子にしていないといけない。でないと……いや、ぜったい誰にも秘密だけど、実はもう先に会っていたので、まさか来てくれないとは思わなかったけれど。
でも、ベッドの上に起き上がると、窓の外からあのサンタのお兄ちゃんが顔をのぞかせていた。
「メリー・クリスマス」
びっくりして急いで窓の鍵を開けると、お兄ちゃんはにこにこして部屋に入ってきた。
「おにいちゃん、どうしたの?」
「言ったとおり、一人の子に二人のサンタからプレゼントをあげるわけにはいかないんだけど……」
そう言って、お兄ちゃんは後ろを振り返った。そっちを見たら、窓の外の屋根の上にもう一人、知らない別のおにいちゃんがいた。
「神様がね、物じゃないなら特別にいいって」
「え? ほんと?」
「ほんとなのだ」
知らない方のお兄ちゃんが言った。何だか、変なしゃべり方だった。
「誰?」
「神様なのだ」
「……うそ」
疑っちゃいけないと思ったんだけど、思わず言ってしまった。だって、これが神様だなんて……?
「ほんとだもんね」
「本当だよ。僕にはまだトナカイがいないから、代わりに来てくれたんだ」
「代わりって……?」
「こういうこと」
そっちのおにいちゃんはそう言うと、ぴかっと体が光って、そして、全然違う形に変わった。
「え……?! お馬さん?」
そう言ったけど、4本足のお馬さんの胴体の上に上半分の人の体がくっついていて、2本の手もあった。顔はやっぱり、お馬さんだったけど――それに、よく見ると、そのおでこのところに角が生えていた。だから、これはお馬さんじゃなくて……。
でも、自分のことなのに、
「まあ、そんなものなのだ」
何か、適当だった。でも、変身したり、それでも普通に人間の言葉でしゃべったり、ほんとに神様なのかもしれない。ちょっとこわいけど、かっこいいし……。
そう思って見ていたら、
「じゃあ、乗って乗って」
神様(?)が広い背中を向けてきた。
「ヽ(゚∀゚ )ノ ハイヨー、しるばあああああっ!!!!!」
何だかよく分からなかったけど、そしたら、お兄ちゃんがお馬さんの神様に言った。
「ゼクシア様。今日はそっちじゃないですよ」
「おっと、そうだった」
そう言うと神様は屋根の上をこつこつと歩いていった。屋根は斜めになっているのに、全然平気で――それで、その歩いていった先には……。
「わあ……!!」
「さ、じゃあ、行こうか」
そう言うと、おにいちゃんはだっこして窓から外へ出してくれる。
そして、そのまま神様がこっちを見て待っているところへ連れて行ってくれた。
神様の後ろには、綱でつながれた橇があった。
今年のクリスマスイヴは、男の子にとって、一生忘れられない思い出になりそうだった。
☆ ☆ ☆ ☆
こんばんは、3年もの長きに渡って続けてまいりました――年一連載も今回でとうとう完結でございます。
もちろん本当はこんな形式にするつもりは初め毛頭なかったのですけど、去年おととしのお話の続編をつい書いてしまって、それも、それでちゃんと終わらない続く形にしてしまいましたら、「この際、クリスマスごとに年一回の連載もいいんじやないか」と言って下さる方もいらっしゃいまして、でも、わたしもその時、完全にその気になったわけでもないのですが……しかし、気がついたら結局、ほんとうにそういうことになってしまいました ・ ・ ・ ・ (汗)。
内容は――何と申しますか、我ながら、ひどく混沌としたなお話になってしまったと思います……。
掲示板の5ページ、3ページめにありますおととし、去年のお話を初めから続けて読みますと、たぶんさらにカオスです ・ ・ ・ ・ (爆)。
まあ、クリスマスお祝いのお話ということで、皆さま、ご容赦くださいますよう。
それでは、皆さま。
Merry,Christmas!!
どうかすてきなイヴをお過ごしくださいませ。
それと、Rynexさま。
お誕生日、おめでとうございます!!
Re: プレゼント・アット・ホーリーナイト
エマ /
2009-01-03 01:10:00
No.1302
年が明けてしまいましたが・・・^^;
プレゼント・アット・ホーリーナイト、3年を経てついに完成! お疲れ様です。
一年に1話、というのも素敵な演出?ですね(笑)
サンタ姿の二人組が楽しげに20メートルほどのジャンプからジグザグキック・・・。場所が場所なら、何かのアクションショーですね。ジグザグ・・・というと、YAIBAのかみなり斬りをつい思い出しますが・・・アレと同じで、特にジグザグで迂回するからと行って、別に良いことは特にないわけで。(ある意味、威圧効果はあるかもしれないけど)
本来なら、それなりに屈強そうな呪詛悪魔たちが、もう完全にヘタレ役決定のようで、チップさんならずとも同情の念を禁じ得ません。最近、呪詛悪魔の皆さん、ロクな役回り、ないぜ?ww
なんか、サンダーキックってジグザグなだけじゃなくて、ご丁寧に追尾能力まであるっぽいし^^;
よし、いずれ作るゲーム版ではマークさんの必殺技にサンダーキックも追加しよう!(爆)
ゼクシアさん、プレゼントを探していたのですね。クゥエルさん、松阪牛ってんなカエルなのに贅沢なw
ラグルさんの「恋人がほしー、特にましろん」というのには、らしいなーと思いつつ思わず笑ってしまいました。
有名なお菓子の箱・・・なんでしょう、雪見だいふく?
ゼクシアさんの恩返し、たしかに下手に了承したら何が起こるか分からないところでしたが、マークさん、粋なお願いをしましたね。
私も、子供の頃のクリスマスはこんなプレゼントがよかったな(笑)
ところで、クリスマスとかのイベントだと、国や会社によっては、社内を飾りづけするところもあるそうですが・・・フェンリルでは・・・ないか、さすがに^^;
いや、隊員レベルでは一部やってそうだがw
クリスマスとか、こうした一年のイベントを記念するSS、いいものですね♪
私もこういうの書けるといいな・・・。
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周囲をビジネスビルに囲まれたこの空き地では、逆にその会社は休みなために、むしろ今夜だけはそのにぎやかさも届かないさびしい場所であったものが今、一種の異様な別の喧騒に満たされていた。
二人そろってアイマスクをつけた二人の人物を取り囲むサンタクロースの扮装をした十数人の人影。
サンタ達の間に漂う空気は、その格好にはまったく似つかわしくないものだった。警戒、緊張、そして、敵意……。
一方、二人組の方には元気・活力はあったものの、そういったものは見当たらなかった。逆に何だか、いや、明らかに楽しげに、
「サンダアアアァァァァァ!!」
「クロオオオオォォォォォォス!!!」
二人してそう叫ぶと、二人横に並んで近い方の手を組み、同時に離れた側の手脚をまっすぐ斜めに伸ばす。すると遠目には、重なり合った二人のシルエットが大きなXの形となった。
事前に入念な打ち合わせでもしてあったかのように、息もぴったりにそうポーズを決めると、
「行くぞ、2号!」
「おお!!」
かけ声と共に飛び出すサンダークロス1号と2号。
数の上から言えば、こちらはただの二人。対する相手の方はいまだ十人を越え、当たり前なら、不利な形勢――のはずだった。
だが、2号が一人で敵に囲まれた時、救援に背後からひそかに近づきつつあったチップこと雀のチープサイドは、今は彼らから再び少し離れ、すっかり傍観者を決め込む態勢になっていた。
気分もすっかりリラックス――と言うには、また別の問題があるにしろ、戦いのための緊張はすでにだいたい解いていた。
サンダークロス2号に加えて、あの男――1号までが現れた以上、事実として、彼にもうまったくやることはなくなっていたからだった。
と言うより、こういう展開では、正直なところ、むしろ敵側に同情の念を禁じ得ずにいられない。
サンダークロス2号、そして1号。その正体は、天界の特務機関フェンリル所属の守護天使燕のマーク、そして、より根源的な超絶の存在――一角獣のゼクシア。
サンタクロースに扮した敵――呪詛悪魔たちには知る由もないことだったが、その事実は彼らのこの先の運命を決定づけていたのだった。――それも、ただの敗北・破滅などというものでなく……。
「2号、サンダーキックは俺たちサンダークロス、命の必殺技。正義のヒーローの必殺技とは、無敵でなければならない。絶対、破られてはいけないのだ」
「そうだね……すまない、1号」
「いや、心配はいらない。サンダーキックはまだ死んではいない――見ておくのだ、2号」
そう言うと、
「とうっっっ!!」
いきなりジャンプするサンダークロス1号。しかし、ただの跳躍ではなかった。何の道具も仕掛けも使わず、一跳びで頭上遙か……その高さは、信じがたいことに空き地を取り囲むビルの屋上よりも高く、20数メートルにも達した。
サンタの格好をした呪詛悪魔たちは驚愕のあまり動くのも忘れ、口をあんぐりと開けて呆然と見上げるしかなかった。
それが彼らの不幸だった。
「サンダァァァァアアアアアッッ!!」
跳び上がって、もう小さくしか見えない人影から、すでに二度聞いた言葉が違う声で降ってきた。
そして、それに続いてその上空から声を発した本人がダイブしてきた。しかし、地面に向けてまっすぐ一気にではなかった。どうなっているのか、まず空中を垂直ではなく斜めに降下し、あるところまで達すると、何もないはずの空中を蹴るようにして、それで、方向を変え、また別の向きで斜めに降り、それを何度も繰り返すことで、まさしく稲妻のようにジグザクに落下してきたのだった。地上の偽サンタの群れめがけて――
あまりのことに、魂を奪われ、ただ見守っているばかりだった呪詛悪魔たちだったが、1号の姿が間近に迫ってきたその時、はっと我に返り、各自思い思いの方向へ逃げ出した。そのままだったら、二度目のマーク――2号のキックの時同様、不発に終わっていたかもしれない。
ところが、ゼクシア――1号は地上近く降りてきたところでもまた向きを変え、数人の呪詛悪魔たちが逃げ出した方へ空中で背後から追いすがり、
「キィィィッッックッッ!!!」
そのまま、3人の相手を吹っ飛ばした。
そして、すっくと立ち、2号をふり返る。
「これこそがサンダーキック! 続け、2号!!」
「うん、分かった! やあっっっ!!」
頷くと、サンダークロス2号もその場でジャンプ。
様子を見守っていたチープサイドが思わず眼を剥いた。
何と、2号――マークもまた先ほどの1号と同じように、軽々と20メートル以上も跳躍したのだった。
(おい……おいおいおい……!!)
「サンダァァアアア・キィィィッッック!!」
そして、1号と全くそっくりに、空中で何度も方向転換しながら降下すると、逃げまどう呪詛悪魔たちを空中から追いかけ、また2人、蹴り飛ばした。
(うわあ ・ ・ ・ ・ )
チップは頭を抱えた。
(そりゃあの男なら、あのぐらいのこと何でもないんだろうが――本人だけじゃなく、マークまで同じようにできてるってことは、だ……。あれはあのゼクシアが重力を遮断するとか、空間を曲げるとか、空気を固定化するとか……よく分からんが、何か、そういうとんでもないことを、いろいろとやらかしてんだろうな……)
そのまま、かぶりを振る。
(それなのに、最後は、あれはどうもただのキックでしかないようだが……。あれだけいろいろやって、なんつー能力の無駄づかいだ ・ ・ ・ ・ )
そして、あらためてマークの方に眼をやる。
(しかし、マークの奴は……こんなこと、もちろん初めてのはずなのに、とまどいも不安のかけらもなく、何かもう当たり前のようにやってやがる――あいつは、まったく……)
それから、その場で繰り広げられた光景は、戦闘シーンとして決して悲惨というわけではなかったものの、ある意味で、見ていられないほどひどいものだった。
相変わらず、わざわざ20メートル以上も大ジャンプしてから、サンダーキックを放つサンダークロス1号と2号。それに対して、まったく為すすべのない呪詛悪魔たち。攻撃を受けるたび、確実に幾人かは倒されていく。
それでも、しばらく経つと人数が少なくなった分、一度に倒される数は減り、さすがに攻撃を予想して何とかよけようとする者たちも現れ始めたのだが――。
所詮は無駄な抵抗だった。
一人は、いちかばちかの賭けに出て、跳び蹴りを浴びせてくるマークをぎりぎりまで引きつけ、すんでの所でさっとよけることで、マークのキックをかわせた――かに一度は見えたが……
「甘い! そうはいかないよ!!」
叫んだマークは同時に地面を蹴ると、そのまままるで上から落とされたボールがはね返るように刹那の遅滞もなく――つまり、一度地面に着地してから再び跳躍したのではなく、下向きの勢いがそっくりすべて上向きにはね上がって、それで相手を蹴り飛ばした。
一瞬気を抜いていた相手はまともに食らい、上へ蹴り上げられて、かなり離れたところまで派手に吹っ飛んだ。
さらに、まったく意味はなかったが、その勢いで空中を上へ数メートル跳び上がる時にもジグザグの軌道を描いてみせた。
「パワーアップバージョン! サンダーキック・稲妻蹴り!!」
高らかに宣言する。
(――聞いた瞬間はかっこよさげだが……それ、単に同じ名前、繰り返してるだけじゃねえか)
ひそかに突っ込みを入れるチップをよそに、
「おお!! やるな、2号!」
「いや〜、それほどでも……」
感嘆の声を上げる1号と照れたように頭をかく2号。
「ならば、俺も! とおっっ!!」
気合いと共に、またも大ジャンプした1号――ゼクシアだったが、一瞬後、体を横にして、なぜか地面に近い位置の空中にいた。跳び上がってから、いつそこまで降りてきたのか誰にも分からない。
しかし、次の瞬間、その体を横に倒した姿勢のまま、足から先に、空をすべるようにして恐ろしい勢いで進み――しかし、何度も斜めに進む方向を変えつつ、呪詛悪魔たちを蹴り飛ばしていった。
「サンダーーキック・水兵さん――いや、水平タイプッッ!!!」
(ははあん……もしかするとあれはたぶん、高いところから飛び降りてキックする垂直方向の運動エネルギーを、そっくりそのまま水平方向に90度向きを変えて――なんてことなのかもしれんが……)
いい加減、驚く神経が麻痺してきたことを自分でも自覚しつつ、チップは分析を試み、
(しかし、はたから見てると、ただ空中飛んでるようにしか見えねえし……やっぱり、わざわざあんなことやる意味はねえよな)
最後にはきちんと突っ込みを入れておく。
その時、気づいた。
身を低くしてビルの壁づたいにこっそりと、しかし、必死な様子でこちらへ近づいてくる者がいることを。サンタの格好はしていなかったが、呪詛悪魔の仲間の一人であることは間違いなかった。あの喧噪の中、いち早く扮装を解き、運良く見つかることなくここまで逃れてきたものだろう。