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僕と彼女たちと天使たちが歩く道 1
KSARS /
2008-12-28 02:58:00
No.1297
月が綺麗だった。
雲1つ無い空は、酒を飲むには適した夜だった。
「静かだな」
自分で作ったつまみと日本酒を飲みながら、眼下に広がる街を見る。
時間は深夜を回り、街頭もまばらで、静寂だけが支配していた。
だからだろうか。
妙に自分の息遣いが荒く、体が火照っているのがわかるのは。
「……桃華と澄華、か」
小日向桃華。愛称、もも。
小日向澄華。愛称、すみ。
俺、小日向浩人の双子の義妹たちであり、つい数時間前に恋人になった娘たち。
ももとは、彼女が生まれてからの付き合いで、忙しい両親の代わりに世話を頼まれていたから、一時期は親よりも俺の方に懐いたときもあった。
人見知りが激しく、小さい頃はよく俺のズボンを掴んで怖がっていたものだ。
いや、今もあまり変わりないか。
そんなももとすみを、俺はいつから一人の女の子として見て、好きになってしまってのか、はっきりとは覚えていない。
気がつけばももとすみの行動を追っていたし、愛くるしいと思っていた。
一時期は、どっちが一番好きかと悩んだこともあった。
でも、俺たちはずっと一緒にいたし、むしろ3人でいるのが当たり前だったから、ももかすみのどちらかを選ぶことなんて出来なかった。
ももを俺の女にしたい。
すみを俺の女にしたい。
だから今日、2人の誕生日のときに、俺は告白した。
「兄妹から、恋人になろうか?」
「……はい。喜んで、ですよ、お兄ちゃん」
「ずっと、ずっと一緒です。兄さん」
目にたくさんの涙を浮かべて、今まで見た中でも一際綺麗だった、ももとすみの笑顔。
それを見ただけでも告白してよかったと思っている。
互いに始めてのキスもした。
本当なら、もっと恋人らしいことをしてもよかったのだが、ももがキスでのぼせてしまった為に、今日はお預けになった。
「なんか、前よりも可愛く見てしまうのが、恋人補正だよな」
今までは兄として、2人のことは可愛いと思ったし、ちょいと俺に依存しているのが玉に瑕だったと思っていたのに、今では、その全てが愛くるしく思える。
2人が望めばいつだってキスしたいし、その先の、恋人同士でやる甘い一時もしたいと思ってる。
でも、一つ屋根の下にいる以上は、そういうことはいつだって出来るから、ゆっくりとしていきたいと思っている。
「……さて、そろそろ寝るか」
つまみも酒も無くなり、気温もぐっと下がってきたから、最後に一気に酒を飲み干して部屋に入った。
と、そのとき。
トントン。
「お兄ちゃん、いますか?」
「兄さん。ももちゃんと澄華です」
もう寝たと思った、2人の来訪だった。
俺はテーブルに皿を置いて、ドアを開けた。
「えへへ。こんばんわ、お兄ちゃん」
「おこんばんわ、兄さん」
2人は風呂上りなのか、ピンク色と水色のパジャマ姿で登場した。
手にはシャンパンとケーキを持っていた。
「おう。どうしたよ、それ」
「今日、お兄ちゃんと一緒に飲もうとしていたシャンパンだよ。もちろん、ノンアルコール」
「みんなとは別に、兄さんと一緒に誕生会をしたくて」
「そっか。いいよ、入りな」
「「はーい」」
2人を部屋へ招き入れた俺は、2つのクッションとマグカップを差し出した。
気がつけば、俺の部屋の大半が2人の荷物で埋まっていた。
「ありがとう、お兄ちゃん」
「兄さんもお酒飲んでいたんですか?」
「まあな。ほら、注いであげる」
「わーい」
「どもどもです」
シャンパンのコルクを空け、新たに用意した俺のを含めて、3つ分のコップに注ぐ。
それから、レモンチーズケーキを均等に一口大にカットして、紙皿に分ける。
「じゃあ改めて、桃華、澄華。誕生日、おめでとう」
「えへへ。ありがとう、お兄ちゃん」
「ありがとう、兄さん。でも、兄さんに名前で呼ばれると変な感じなのです」
「そうか? ……そうかもな」
2人がこの世に生を受け、俺が兄貴になったときからずっと呼んでいた愛称。
名前で呼んだことなんて、年に1回あるかないかだ。
そしてその一回は、必ずこの誕生日。
愛称でもいいのだが、生まれてきてありがとう、俺の妹になってくれてありがとう、そんな気持ちを伝えるために、俺は名前で呼ぶ。
「今年は、今まで一番の誕生日だよ」
「うん。みんなで祝ってくれたのはもちろんですけど、何よりも」
「「お兄ちゃん(兄さん)が、恋人になってくれたことが一番嬉しい」」
「……俺もだよ。ももとすみが、俺の彼女になってくれたことが嬉しい」
双子ならではのユニゾンに、ふいをつかれた俺は、崩壊寸前の涙腺を必死に押さえた。
最近、妙に涙もろくなったな。
「ねえ、隣、いい?」
「ああ。おいで」
「はいなのです」
右側にもも、左側にすみが、そっと俺に寄りかかってくる。
ずっと、このポジションが俺たちの定位置。
ちなみに、ももが右利きですみが左利きだったりする。
そして忘れないのが、そっと髪を撫でてあげること。
2人にとって、これが一番大好きなことだから。
「気持ちいい…」
「兄さん、もっとしてくださいなのです」
「ああ。いくらでも」
ももはさらさら。
すみはしっとり。
2人の髪を手から感じ、梳くたびにシャンプーのいい匂いがしてきた。
いつもだともっとおしゃべりしているのだけど、今日に限っては無言。
でも、それが心地よかった。
大切な恋人が腕の中にして、髪を梳いてあげる。
これ以上のことは、望んだらいけないから。
「お兄ちゃん……」
「兄さん……」
「うん?」
「「キス、してください」」
「……ああ」
ユニゾンの提案に一瞬驚いたが、俺は受け入れた。
恋人なら、当然の行為だから。
最初はももから。
「ん…」
「はむ…ちゅ」
次はすみ。
「ちゅ」
「ふあ…ちゅ」
短いキス。
たったそれだけでも、とても幸せで、頭がくらくらするほど気持ちいい行為。
世の中の恋人たちは、毎日こんなことをしているのかと思うと、非常に羨ましいと思った。
「今度は気絶しなかったな、もも」
「ちゃんと、覚悟を決めてきたからね」
「覚悟?」
「はいなのです。私とももちゃんが、兄さんのモノになるための、覚悟なのです」
「……そっか」
俺も鈍感の部類に入る(らしい)のだが、女の子がこんなことを言う意味はわかった。
期待してないわけではなかった。
2人がパジャマ姿で、しかも事前に風呂に入っていたのだから、男としては意識しないわけにはいかないだろう。
むしろ、こっちから切り出さないといけないのに、先に言われてしまったのは、少しだけ悔しい。
「もらってくれる? 私とすみちゃんの、初めて」
「兄さんの女に、してくださいなのです」
「……ああ」
俺も覚悟を決めた。
兄妹を卒業して、恋人になる儀式をするために、俺たちはベッドへと移動した。
夜はまだ、長かった。
「ようやく、このときが来ましたね。約束の日は、近いですね」
それは誰の声だったのだろう。
上空から見つめる人物に誰も気づくことなく、時間は静かに過ぎていった。
<続>
僕と彼女たちと天使たちが歩く道 1
KSARS /
2008-12-28 02:59:00
No.1298
あとがきみたいなもの
はーい。みなさま、始めまして、はろあー。
私、長らくSS活動を休止していたKSARSと申すものです。
そして我がアシスタントは、
「すぴー。すぴー」
………てい!
ぽか
「いひゃう!」
おいこら、いきなり寝てるじゃない。
「うう、だからって殴ることはないと思うの〜」
いいから、挨拶せんか。
「えぅ〜。わかったの。えっと、私、小日向魅沙といいます。よろしくお願いします」
基本、この2人でお送りいたしますので、今後ともよろしくお願いします。
「しま〜す」
ではでは、今回はこれにて。
「でははん、ですの」
僕と彼女たちと天使たちが歩く道 2
KSARS /
2009-01-07 04:35:00
No.1304
それは俺が大学からの帰り道だった。
「これ、そこの青年」
「……俺?」
「そうです。というより、この時間帯に青年がいる方が珍しいのです」
時刻は午後3時。
近所にある昔ながらの商店街には、全国的に寂れているとは思えないほどの活気に溢れていた。
そんな中で、確かに周りを見渡せば、大学生らしき姿は俺しかなかった。
んで、俺を呼びつけたのは、全身をローブで身を包んだ、見るからに怪しい占い師みたいな女性。
「あなたを見た瞬間に、私の中にでん……もとい、運命が流れてきたのよ。お金は取らないから、ちょいと聞いてみてくだされ」
「……まあ、いいけど」
別に急ぐ必要がなかったし、約束の時間まで少しばかりあったので、暇つぶしになればと思って寄ってみることにした。
「いらっしゃいませー」
「軽いなぁ」
「さてさて、では早速」
女性は手馴れた手つきでタロットカードらしきものを切り、その中から数枚のカードを並べていく。
かなり本格的だなと思っていたとき、女性が一枚のカードを手に取り、こう言った。
「……あなた、ツキますよ」
「はあ…。具体的には、どうなるんです?」
「カードが示したのは、金運、仕事運、人間関係、特に女性関係は、これからもっと良くなると示してありますね」
「そうですか…」
金運と仕事運はともかく、人間関係はすごく良好、というか、幸せの真っ只中にいるから、これ以上上がりようがないのだが。
まあ、占いなんてものは気の持ちようだから、いいように捕らえれば問題ないな。
「久しぶりにいい占いをさせてもらいました。ありがとうございました」
「いえ、こちらこそ。じゃあ、俺は行きますね」
「では」
俺はもう一度一礼して、そこから離れた。
「……過去より紡ぐ想いに、どうか、祝福を」
「えっ?」
何かを呟きが聞こえたから後ろを向いたら、さっきまでそこにいた占い師が消えていた。
俺が占い師から目を話したのは、わずか数十秒。
たったそれだけの間なのに、テーブルごと消えていたのだ。
「嘘だろう……」
狐か狸に化かされていたのかと、思わず錯覚してしまう。
でも、あれは確かに現実だった……と思う。
と、そこに、
(しっぽ〜のあるてんしたち〜)
携帯の着メロが鳴った。
ディスプレイを見ると、ももだった。
「お、おう、ももか」
『あっ、お兄様。今、終わりました』
「……まだ、学園か?」
『はい。これから、校門に向かいますね』
「ああ」
短い通話を終えて、俺は今一度、占い師がいた場所を見る。
もちろんそこには何も無い。
「……行くか」
まだ疑心暗鬼は解けないが、ももを迎えに行くという約束を果たすために、その場を離れた。
ある意味、迎えに行くときが一番戸惑うと思うんだろうなと、心にしながら。
私立天川女学園。
ももとすみが通う学園は、俗に言うお嬢様学校。
ほぼエスカレータ式に進学できるシステムで、2人は初等部からずっと通っている。
月単位の学費が、一般の学園の年間費以上。
その分、学園内部の施設は充実していて、もも曰く
「世界の最先端の技術から、そのプロトタイプまでなんでもあるよ。天川学園は、企業の製品モニターも勤めているの」
だそうだ。
俺も学園祭とかで入ったこともあるが、セキュリティが半端なく、入場門で厳しく手持ち検査を受け、来客用のIDカードを持たされた。
まあ、一流企業や金持ちのお嬢様たちが通う学園なんだから、そのぐらい当然といえば当然なのだが。
ちなみにうちは、決してそんなに金持ちではない。
あえて言うなら、多くもなく少なくもない程度。
ではどうしてここに通っているのかと言えば、天川学園の学園長と両親が親友で、学費の半分をポケットマネーから払ってくれているから。
なんでも、学生時代に世話になったから、その恩返しをしたかったからだとか。
本当であれば全額負担したかったらしいが、そこは両親がなだめて、半分までにしたんだとか。
ももとすみは、その辺りの事情をちゃんと理解して、学園長と両親の思いを無駄にしない為に、勉強に部活にと、学園生として恥ずかしくない努力をしてきた。
その努力が実り、2人は学園生の誰もが憧れる存在となった。
ファンもいっぱい出来て、2人の周りにはたくさんの学園生が取り巻くようになった。
ももには憧れを。
すみには尊敬を。
大切な妹、いや、恋人たちがそんな風に活躍しているのは、俺としては自分のことのように喜ばしいのだが、唯一、困ったことがある。
それが、
「あっ、お兄様」
「兄様」
学園の校門についた俺は、中から制服姿のももとすみが現れ、それに続くように、たくさんの学園生も現れた。
2人は、双子の違いを表すために、腕にリボンをしている。
ももは右腕にピンクのリボン。
すみは左腕に黄色のリボン。
体育のときにもそれをしているってことなので、ほとんど間違われないらしい。
問題なのは、2人の俺に対する態度。
「お迎えご苦労さまです、お兄様」
「ありがとうございます、兄様」
家では甘えてばかりの2人が、今は優等生丸出し。
言葉遣いもおろか、立ち振る舞いも生粋のお嬢様みたいに振舞っている。
学園モードと、2人は呼んでいた。
「今日は終わったのか?」
「はい。もう帰るだけです」
「お買い物に付き合いますわ」
「それではみなさま、ごきげんよう」
「ごきげんよう」
「「ごきげんよう。会長様。副会長様!!」」
2人が学園生たちに挨拶すると、見事なユニゾンで挨拶を返して、さらには奇声まで挙げて騒いでいた。
まるでアイドル並だなと思いつつ、俺は2人の手を取って、気持ち早足でその場を離れた。
僕と彼女たちと天使たちが歩く道 2
KSARS /
2009-01-07 04:37:00
No.1305
「いらっしゃいませ。すみません、今準備中で……あっ、お兄さん、ももちゃん、すみちゃん」
「よっ」
商店街のタイムセールという戦場へ向かうまでの少しの間、俺たちは行きつけの喫茶店へと立ち寄った。
喫茶「たまてばこ」
親子2代に亘って、ここのコーヒーとパンケーキとペペロンチーノをこよなく愛している、家以外での憩いの場所であり、俺のバイト先でもある。
そして出迎えてくれたのは、ここのオーナー代理兼俺たちの幼馴染。
「こんにちわ、お兄さん。今日はお客さんですか?」
「ああ。いつもの待ち」
「はろあー。美崎」
「はろあー。みさちゃん」
「はろあー。ももちゃん、すみちゃん」
さっきまでの「学園モード」は完全に息を潜め、今は「私情モード」に切り替わっている2人。
日高美崎。
ももとすみと同時期に生まれ、病院まで同じ、さらには両親と仲が良いという結びつきから、俺たちにとってはもう1人の妹みたいな存在。
美崎は早くから喫茶店を継ぐことを目指し、今では美崎オリジナルブレンドのコーヒーを完成させて、店番ぐらいならさせてくれるようになった。
でも、調理師免許を持っていないために、料理とかは出せない。
そこで将来の修行のために、たまてばこが休憩中に、俺たちを練習台にして、たまてばこのメニューに書いてある料理とかを作ってもらっている。
おまけに、練習ということなので、料金は取らない。
俺たちにとっては、休憩も出来てただで腹を満たすことが出来るので、この提案は大歓迎だった。
「お兄さん、ももちゃん、すみちゃん。今日もよろしくお願いしますね」
「ああ」
俺たちは窓際の指定席に移動して、お冷を持って来てくれた美崎に注文を言う。
「俺、美崎ブレンド」
「私、ホットケーキ」
「私、ペペロンチーノ」
「かしこまりました。ご注文を繰り返します。美崎ブレンド、ホットケーキ、ペペロンチーノを各1つでよろしいですね」
「よろしく、オーナー」
「もう、オーナー代理ですってば。少々お待ちくださいませ」
少しばかり頬を膨らませて、美崎はオーダーを通ったあと、2つあるうちのコーヒーメーカの1つからコーヒーを注いで、俺のところに持ってきた。
「どうぞ。美崎ブレンドです」
「おう。ありがとう」
俺は少し冷ましたのちに、少しずつ飲んでいく。
喉にほどよい苦味と酸味が広がり、体の中にすっと染みていくのがわかる。
「うへ。お兄ちゃん、よくブラックで飲めるね」
「大人なのです。兄さん」
「てか、ももすみの味覚が変なだけだと思うのだが」
「「繋げちゃやーーー(なのです)」」
ぶんぶんと手を振りながら講義する2人を無視して、美崎ブレンドを堪能する。
ちなみに、2人にコーヒーを飲ませると大変なことになる。
ももはどんなにおいしいコーヒーも、激甘のコーヒー牛乳と化し。
すみはどんなにおいしいコーヒーも、激辛のコーヒー(?)と化す。
これが日常生活にも影響して、ももに作らせると、目を離せば甘くしようとするとし、すみに作らせると、目を離せば辛くしようとする。
だから小日向家では、もっぱら俺か妹の晴香が食事担当になっている。
むしろ、キッチンには立ち入り禁止命令を出している。
「はい。パンケーキとペペロンチーノです」
「うーん。相変わらず、おいしそうなパンケーキだよぉ」
「流石みさちゃんなのです」
「……何度見ても、おやつを食べに来ているのか食事しに来たのはよくわからん組み合わせだな」
「「両方ーーー(なのです)」」
「はいはい。わかっていますよ。……おっと、時間だ」
携帯にあらかじめ仕込んでおいたアラームがなったのを合図に、席を立ち、財布を取り出す。
実弾、良し。
ポイントカード、良し。
うむ。抜かりなし。
「もも、すみ。俺はこれから、戦場へ向かうから、ここで大人しく待っているんだぞ。美崎、ちょっとだけ面倒見てくれな」
「うん。がんばってね、お兄ちゃん」
「応援してるのです、兄さん」
「ファイトです、お兄さん」
「ありがとう。じゃあ、行ってくる」
3人の頭を撫でた後、俺はタイムセールという名の戦場へと向かった。
僕と彼女たちと天使たちが歩く道 2
KSARS /
2009-01-07 04:38:00
No.1306
「うう、重いよ〜」
「あわわ。落ちそうなのです」
「お前ら、少しは筋トレしろ」
商店街一斉タイムセールという戦場から帰ってきた俺は、食べ終わっていたももとすみを回収して、家へと向かっていた。
その際に、2人が手伝いたいと申し出たので、比較的軽いビニール袋を持たせたところ、10分もしないうちに根を上げてしまった。
「非力は女の子の基本スペックだよ」
「そうなのです」
「あのな……。2人が持っている荷物の量からして、3キロもないはずだが」
「「それでも重いのーー(です)」」
「…はあ」
本日何度目かのユニゾンも、俺のため息を増やすばかり。
こうなったら、少しイジめてやろう。
「ダッシュ」
ある程度広い路地に出た瞬間、俺は軽く走ってみた。
全力で走ろうとも思ったが、背中に米10キロと両手に生活資材を持っていて疲れるだけという理由で、軽くにすることにした。
んで、案の定。
「はわわ。待ってよ、お兄ちゃーん」
「あわわ。待ってくださいなのです、兄さーん」
ハンデを背負っている俺に、全く付いて来れないももとすみ。
2人の通信簿を見ると、学問の面では常に4以上を取っているが、こと体育、というか運動全般が万年1を叩き出しているぐらい、運動音痴。
一度、100Mのタイムを計ってみたことがあったけど、そのときのタイムは、21秒台。ものすごく遅かった。
ましてや、普段の行動でも、何も無いところで転ぶことがあるももとすみにとって、俺の軽いダッシュは、2人にとっては全力ダッシュにも等しい。
「早く来ないとおいていくぞ」
「待って〜」
「待ってくださいなのです〜」
付かず離れずの距離を保ちつつ、緩やかな長い坂を上っていく。
小日向家は坂のてっぺんにあるために、ちょっと走っただけでも運動になってしまう。
俺はほぼ毎日のように、ここを走って往復しているのでこれぐらいなんともないが、ももとすみはそうはいかず。
「はわ〜〜」
「あわ〜〜」
家についたときには、2人とも目を回して、庭のベンチに座り込んでしまった。
「も、もうダメ〜」
「動けないのです〜」
「はぁ。これほどまで運動が出来ない娘っても、希少価値に等しいな」
「おかえりなさい兄ちゃま。また姉ちゃまたちに意地悪してる」
リビングから顔を出したのは、小日向家3女の晴香。
晴香は数少ない、家事全般が出来る常識を備えた娘で、ももとすみの代わりに、俺と一緒に家の中のことをしている。
「ただいま。意地悪じゃないぞ。鍛えたというんだ」
「まあ、姉ちゃまたちは相当運動不足だから、鍛えるのは賛成だけどね。……知らない人が見たら、フルマラソンしたみたいだね。はい、タオルとお水」
「あ、ありがとう、晴香」
「はるちゃん。ありがとうなのです」
よく冷えたミネラルウォーター(中身はうちに設置してある浄水器でろ過した水)をかぶ飲みして、タオルで汗を拭くももとすみ。
その際に、中の熱を逃がすために、パタパタと服を上下に仰ぐものだから、立っている俺からは、ちらっと下着が見えてしまう。
ももとすみの同年代の男がこの場にいたら、思わず興奮してしまいそうな場面だが、付き合いが長いのもあってか、そのぐらいなら日常茶飯事で興奮なんてしない。
「あ、そうそう。兄ちゃま。兄ちゃまに大きなお届けものがあったよ」
「大きな届け物? うーん。そんなの頼んだ覚えがないんだけどな」
「とりあえず、危険なものじゃないようだったから、兄ちゃまの隣の部屋に運んでもらったよ」
「そっか。じゃあ、見てみるな。はる、2人のこと、頼むな」
「頼まれました」
俺はももとはるの髪を撫でてから、玄関から中に入り、食材その他を冷蔵庫や棚の中に入れた後に、自分の部屋の隣の部屋に入った。
「……でかいな」
部屋に運ばれたという荷物を見て、最初に出た言葉がそれだった。
8畳ぐらいある部屋の3分の1は埋まるぐらいの大きさがあり、よく入れたなと感心するぐらいの大きさだった。
丁寧に、リボンで包装までして。
「差出人は……。天川沙子。母さんの知り合いかな? だった尚更、俺に送られるはずないよな」
と、あれこれ悩んでいるときだった。
ぴかーーー。
「なっ!」
突然、目の前に荷物が眩しい輝きを放った。
その輝きはとても眩しく、俺は思わず目を瞑ってしまった。
数秒後。光は収束した。
「な、なんだったんだ……あれ?」
次第に焦点が定まり、視界が開けてくると、今までそこにあった大きな荷物が無くなっていることに気づく。
そして変わりに、
「お、女の、子?」
丁度、ももとすみと同じぐらいで。首に大きなリボンをつけた女の子と、小学中学年ぐらいの、髪に大きなリボンをした女の子が、メイド服らしきものを着て眠っていた。
位置は、さっきまで大きな荷物があった場所。
「これが、荷物の正体?」
あまりにもありえない出来事に、頭が混乱しようになる。
俺に届けられた荷物がいきなり大きな光を放って、収まったら女の子が出てきた。
どこぞのファンタジーじゃあるまいし、そんなことが現実にあるわけがない。
そう、あるわけがない。
けど、今目の前で起こっていることは確かに現実で、俺がそれに直面しているのは紛れも無い事実。
「……夢として片付けるのが一番いいんだけどな」
これも現実逃避の一言。
夢なら夢で覚めてほしいが、これは間違いなく現実。
「とりあえず、起こすか」
あまりにも気持ち良さそうに寝ているようで起こすのは躊躇うのだが、話を聞かない限りはどうしようもないことに結論づけた俺は、起こすことを決めた。
そっと、抜き足で忍び寄り、女の子の顔を見る。
「……似てるな」
首にリボンをつけている女の子は、俺がまだ小さいときに遊んでもらっていた人に似ていた。
もうかなり昔のことだから、記憶が曖昧な部分があるが、多分間違いない。
でも、あの人は、もう……。
「……えぅ?」
ふと、女の子と視線がぶつかった。
ぱちぱちと2、3回瞬きをした後に、むくっと起き上がった。
「えぅ〜? どうして、男の人が、いるんですかぁ?」
まだ頭がはっきりしていないのか、寝ぼけた声を出して女の子は聞いてきた。
声まで一緒かよ。
「……えぅ〜!?」
焦点が定まって、改めて俺の方を見た女の子は、いきなり大声を出して驚いた。
はて? 俺の顔に何かついていただろうか?
それとも、現状を理解しただけだろうか?
にしては、目が潤んでいるような。
「ご、ご、ごごごご……」
「ご?」
……この展開は。
「ご主人様ぁー!」
「おっと」
突然抱きついてきた女の子を、俺はかわすわけにもいかず、正面から受け止めた。
女の子の甘い匂いが鼻に届いた。
同時に、あの頃のあの人の感触も同時に思い出した。
「君は……」
「わ、私は、サキミですぅ。昔、浩人様にお世話になった、ハトのサキミですぅ〜。くうぅん。すりすり」
「サキ、ミ?」
子犬のようにじゃれているサキミを尻目に、俺は昔のことを思い出していた。
あのとき、あの人と一緒に、確かにハトの世話をしていた。
その中の一匹が翼を怪我をしていて、交代で治療していた。
どの子が手当てした子かわかるように、首にリボンをしてあげた。
その子の名前が……。
「確かに、あのときと同じ色のリボンだな」
「はいですぅ。さすがに、同じリボンというわけでありませんでしたけど、それでも、ご主人様と再会したときは、あのときと同じように、首にリボンをして会いたいと思っていました」
「……そっか」
信じたわけではない。
むしろ、常識的に言えば信じられるわけがなかった。
でも、当時のあの人の姿で、リボンの話が出てしまっては、認める以外ありえなかった。
「色々と聞きたいことはあるけど。とりあえず」
なでなで。
「えぅ?」
「おかえり。サキミ」
「えぅ〜。はいですぅ! ただいまですぅ、ご主人様ぁ〜」
そのときに見たサキミの笑顔は、あの人が見せた笑顔を同じで、とても輝いて見えた。
<続>
僕と彼女たちと天使たちが歩く道 2
KSARS /
2009-01-07 04:38:00
No.1307
あとがきみたいなもの
はーい。僕と彼女たちと天使たちの歩く道、略して、ぼかてんの第1話をお送りしましたが。
「えぅ〜。なんか嫌なの、そんな略。素直に『ぼくかの』にすればいいの?」
そんなありきたりな略、認めんな。
「認める認めないってことじゃないと思うの」
いいのだ。これを徐々に浸透させていけば問題ない。
「えぅ〜。いいのかなぁ…」
これでいいのだ。
「えぅ〜」
さて、ちゃっちゃと2話目を書こうかね。
「はいなの」
でははん!
Re: 僕と彼女たちと天使たちが歩く道 1
エマ /
2009-01-10 15:47:00
No.1308
あけましておめでとうございます(遅
今度のシリーズは、略して「ぼかてん」ですか。若干一名抗議があるようですが、言いやすくていいと思いますw
>1
で、桃華ちゃんは不良時代のあった初代設定を残し、他は黒歴史として封印、今回晴れて新生桃華ちゃんとして、まぁこんなあまあまな妹キャラになったと、個人的には初代ファンですが、まぁ以後よろしくおねがいしますw
澄華ちゃんも居た記憶があるなぁ、二人仲良く、双子として浩人さんの妹ということになるわけですね。ん? 数時間前に恋人? まーたしょっぱなから業を極めるんだからw
まぁ血はつながってないし・・・世間的にはともかく、人としてはまだ大丈夫か。(かろうじて)
3人の間の甘々な描写に関してはあえてコメントしませんがw でも些細なところで二人の微妙な違いを書いているところは良いですね。
2人とも、世間体とか倫理とかガン無視で突っ走ってますので、浩人さんに大人としての理性を期待したいのですが、まだ大学生だからなのかな、元からなのかな、よくわからんが、諫めるどころか、覚悟決めちゃってるぞ?w
多少は障害がある方が面白いと思うのですが、ハラハラしながら続きを楽しみにしています。
内容によってはエマ倫に抵触すると思うので、そこは要相談でw
ところで、二人とも歳はいくつだ? まさか2人合わせて18歳とかいわ・・・(ry
あ、まだ続きがあるのね・・・。
>2
この占い師は、メガミ様ですかね−。至る所に出張されて、ご苦労様です。
女性関係が良くなるなんて、良い占いでよかったですね。良くなりすぎてそのうち女難の相になるような気もするがw
で、2人はお嬢様学校に通っているんですね。ミッション系のところなんでしょうか、最先端からプロトタイプまでって、なんかロボ娘が出てきてもおかしくなさそうな設定ですが・・・。って、2人とも、生徒会長、副会長かよΣ(´Д` )
喫茶「たまてばこ」も出てきましたね。
個人的にここで思わず身を乗り出してしまったが、ひみつ、ひみつw
美崎ちゃんの設定は、他の「みさき」キャラ2人とそう性格が離れていなさそうで、これからどうこのお話の脇に花を添えていくか楽しみですね。
劇甘、劇辛(劇は「劇薬」の劇)な2人のオーダーには苦労も多そうですね。それとも、昔からのつきあいなら慣れっこなのかな。
しかし・・・アレですか、美崎ちゃんも浩人さんの妹さん的存在なんですか。美崎ちゃん、くれぐれも気をつけてくださいね(何を)
晴香ちゃんは、年齢がさらに下がったのかな?
まともな味覚の持ち主ということは分かったが、年齢が分からない・・・。ももすみと同じ学校に通っているのでしょうか?
最後に、おなじみサキミちゃんも出てきましたね。かわいい美少女が5人も登場したわけですが、どういう関係図になるのか・・・。ももすみ、美崎ちゃんのインパクトの陰に、サキミちゃんが隠れないように期待したいところですぅ、えぅ〜w
全体的な感想ですが、これまでのシリーズや他シリーズのキャラクターが一部設定を変えて集約された感じですね。お嬢様学校やら生徒会長やら・・・いろんな要素がたくさん入っていて、少し詰め込みすぎ感はありますが、ぜひ今回は途中でまた路線変更せず、着実に完結させてあげてくださいw
私も人のことはマッタク、言えないのですがw
個人的には、エマHGのが出てくるかどうかも気になるな・・・。あ、無理に出さなくて良いよ?w
ADVENBBSの過去ログを表示しています。削除は管理者のみが可能です。
雲1つ無い空は、酒を飲むには適した夜だった。
「静かだな」
自分で作ったつまみと日本酒を飲みながら、眼下に広がる街を見る。
時間は深夜を回り、街頭もまばらで、静寂だけが支配していた。
だからだろうか。
妙に自分の息遣いが荒く、体が火照っているのがわかるのは。
「……桃華と澄華、か」
小日向桃華。愛称、もも。
小日向澄華。愛称、すみ。
俺、小日向浩人の双子の義妹たちであり、つい数時間前に恋人になった娘たち。
ももとは、彼女が生まれてからの付き合いで、忙しい両親の代わりに世話を頼まれていたから、一時期は親よりも俺の方に懐いたときもあった。
人見知りが激しく、小さい頃はよく俺のズボンを掴んで怖がっていたものだ。
いや、今もあまり変わりないか。
そんなももとすみを、俺はいつから一人の女の子として見て、好きになってしまってのか、はっきりとは覚えていない。
気がつけばももとすみの行動を追っていたし、愛くるしいと思っていた。
一時期は、どっちが一番好きかと悩んだこともあった。
でも、俺たちはずっと一緒にいたし、むしろ3人でいるのが当たり前だったから、ももかすみのどちらかを選ぶことなんて出来なかった。
ももを俺の女にしたい。
すみを俺の女にしたい。
だから今日、2人の誕生日のときに、俺は告白した。
「兄妹から、恋人になろうか?」
「……はい。喜んで、ですよ、お兄ちゃん」
「ずっと、ずっと一緒です。兄さん」
目にたくさんの涙を浮かべて、今まで見た中でも一際綺麗だった、ももとすみの笑顔。
それを見ただけでも告白してよかったと思っている。
互いに始めてのキスもした。
本当なら、もっと恋人らしいことをしてもよかったのだが、ももがキスでのぼせてしまった為に、今日はお預けになった。
「なんか、前よりも可愛く見てしまうのが、恋人補正だよな」
今までは兄として、2人のことは可愛いと思ったし、ちょいと俺に依存しているのが玉に瑕だったと思っていたのに、今では、その全てが愛くるしく思える。
2人が望めばいつだってキスしたいし、その先の、恋人同士でやる甘い一時もしたいと思ってる。
でも、一つ屋根の下にいる以上は、そういうことはいつだって出来るから、ゆっくりとしていきたいと思っている。
「……さて、そろそろ寝るか」
つまみも酒も無くなり、気温もぐっと下がってきたから、最後に一気に酒を飲み干して部屋に入った。
と、そのとき。
トントン。
「お兄ちゃん、いますか?」
「兄さん。ももちゃんと澄華です」
もう寝たと思った、2人の来訪だった。
俺はテーブルに皿を置いて、ドアを開けた。
「えへへ。こんばんわ、お兄ちゃん」
「おこんばんわ、兄さん」
2人は風呂上りなのか、ピンク色と水色のパジャマ姿で登場した。
手にはシャンパンとケーキを持っていた。
「おう。どうしたよ、それ」
「今日、お兄ちゃんと一緒に飲もうとしていたシャンパンだよ。もちろん、ノンアルコール」
「みんなとは別に、兄さんと一緒に誕生会をしたくて」
「そっか。いいよ、入りな」
「「はーい」」
2人を部屋へ招き入れた俺は、2つのクッションとマグカップを差し出した。
気がつけば、俺の部屋の大半が2人の荷物で埋まっていた。
「ありがとう、お兄ちゃん」
「兄さんもお酒飲んでいたんですか?」
「まあな。ほら、注いであげる」
「わーい」
「どもどもです」
シャンパンのコルクを空け、新たに用意した俺のを含めて、3つ分のコップに注ぐ。
それから、レモンチーズケーキを均等に一口大にカットして、紙皿に分ける。
「じゃあ改めて、桃華、澄華。誕生日、おめでとう」
「えへへ。ありがとう、お兄ちゃん」
「ありがとう、兄さん。でも、兄さんに名前で呼ばれると変な感じなのです」
「そうか? ……そうかもな」
2人がこの世に生を受け、俺が兄貴になったときからずっと呼んでいた愛称。
名前で呼んだことなんて、年に1回あるかないかだ。
そしてその一回は、必ずこの誕生日。
愛称でもいいのだが、生まれてきてありがとう、俺の妹になってくれてありがとう、そんな気持ちを伝えるために、俺は名前で呼ぶ。
「今年は、今まで一番の誕生日だよ」
「うん。みんなで祝ってくれたのはもちろんですけど、何よりも」
「「お兄ちゃん(兄さん)が、恋人になってくれたことが一番嬉しい」」
「……俺もだよ。ももとすみが、俺の彼女になってくれたことが嬉しい」
双子ならではのユニゾンに、ふいをつかれた俺は、崩壊寸前の涙腺を必死に押さえた。
最近、妙に涙もろくなったな。
「ねえ、隣、いい?」
「ああ。おいで」
「はいなのです」
右側にもも、左側にすみが、そっと俺に寄りかかってくる。
ずっと、このポジションが俺たちの定位置。
ちなみに、ももが右利きですみが左利きだったりする。
そして忘れないのが、そっと髪を撫でてあげること。
2人にとって、これが一番大好きなことだから。
「気持ちいい…」
「兄さん、もっとしてくださいなのです」
「ああ。いくらでも」
ももはさらさら。
すみはしっとり。
2人の髪を手から感じ、梳くたびにシャンプーのいい匂いがしてきた。
いつもだともっとおしゃべりしているのだけど、今日に限っては無言。
でも、それが心地よかった。
大切な恋人が腕の中にして、髪を梳いてあげる。
これ以上のことは、望んだらいけないから。
「お兄ちゃん……」
「兄さん……」
「うん?」
「「キス、してください」」
「……ああ」
ユニゾンの提案に一瞬驚いたが、俺は受け入れた。
恋人なら、当然の行為だから。
最初はももから。
「ん…」
「はむ…ちゅ」
次はすみ。
「ちゅ」
「ふあ…ちゅ」
短いキス。
たったそれだけでも、とても幸せで、頭がくらくらするほど気持ちいい行為。
世の中の恋人たちは、毎日こんなことをしているのかと思うと、非常に羨ましいと思った。
「今度は気絶しなかったな、もも」
「ちゃんと、覚悟を決めてきたからね」
「覚悟?」
「はいなのです。私とももちゃんが、兄さんのモノになるための、覚悟なのです」
「……そっか」
俺も鈍感の部類に入る(らしい)のだが、女の子がこんなことを言う意味はわかった。
期待してないわけではなかった。
2人がパジャマ姿で、しかも事前に風呂に入っていたのだから、男としては意識しないわけにはいかないだろう。
むしろ、こっちから切り出さないといけないのに、先に言われてしまったのは、少しだけ悔しい。
「もらってくれる? 私とすみちゃんの、初めて」
「兄さんの女に、してくださいなのです」
「……ああ」
俺も覚悟を決めた。
兄妹を卒業して、恋人になる儀式をするために、俺たちはベッドへと移動した。
夜はまだ、長かった。
「ようやく、このときが来ましたね。約束の日は、近いですね」
それは誰の声だったのだろう。
上空から見つめる人物に誰も気づくことなく、時間は静かに過ぎていった。
<続>