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銃口は闇夜に踊る
竜人 /
2009-09-17 03:00:00
No.1508
この町には、一人の魔術師が住んでいる。
科学と魔導を駆使し、闇に潜む邪(あ)しきモノを撃ち滅ぼす。
故に、人呼んで<退魔探偵>
故に、人呼んで<ホラー・ハンター>
彼の名は―――
episode:1
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁっ・・・!」
もう少しで日付が変わろうかという時刻。大通りから離れた裏路地を、必死に駆ける少女がいた。
高校生程の年齢だろう、ブレザーに身を包んだ少女は、脇目も振らず走り続ける。
心臓がうるさいくらい鳴り響き、肺は酸素をよこせと喚き立てる。足も休ませろとうるさい。
だが立ち止まり休む暇などない。止まれば瞬く間に追いつかれ、<喰い殺される>。
彼女は見てしまったのだ。あの二足歩行の<化物>の食事を。
ほんの数刻前までは恐らく人間であっただろう肉片を、がつがつと貪り喰らう様を。
そして、黒一色に染まる貌が、新たな獲物を見つけた愉悦に歪むところを―――。
「助っ・・・はぁっ、けて・・・!」
走る、走る、走る。
十字路を曲がり、水溜まりを踏み越え、木の枝で腕を切り―――なお走る。
自分が必死に逃げているだけで、実は<化物>など追ってきてはいない。そんな考えも一時は浮かんだ。
だが、アレは確実にいる。背後から聞こえる獣にも似た息遣いが、腐敗したような異臭が、アスファルトを蹴る音が、その存在を真実だと告げている。
彼女の後ろを、まるで逃げる餌を追い回して遊ぶように、付かず離れず追ってきている―――。
「はぁ、はぁ、はぁっ・・・あうっ!?」
視界ががくりと落下する。そのまま地面へと体を打ち付けた。転倒したのだ。
全力疾走を続けた疲労からか、起き上ろうとしてもなかなか体がいうことをきかない。立ち上がろうともがいて、もがいて、
もがいて―――振り返った一瞬、自らを追い立てていた<ソレ>と目があった。
否、目があった、というのは正しくない。その<化け物>には、目など存在しない。
眼だけではない、鼻も、耳も―――赤い亀裂のような、鋭い牙の並ぶ口以外は、<化け物>の頭部に存在していなかった。
だが<化け物>は確かに少女のいる位置を、その姿を、その怯えを認識している。一歩一歩、少女を手にかけるまでの間を愉しんでいる。
「あ、ああ・・・嫌ぁっ、誰か・・・!」
体毛の存在しない黒くぶよぶよとした表皮。肉を引き裂く為の鉤爪。水掻きのような膜の付いた足。
<化け物>から逃れようと必死に後ずさる。だが化け物はたやすく距離を詰め、少女の首に手を伸ばし、
「誰か助けてぇっ!!」
「助けるさ」
唐突に現れた何者かの跳び蹴りを受けて、吹き飛んだ。
Re: 銃口は闇夜に踊る
竜人 /
2009-09-17 03:00:00
No.1509
「うおお、気持ち悪ィ。ぶにょって感触だったぞオイ」
少女は呆然としたまま、その背中を見つめていた。
突然の乱入者。<化け物>を蹴り飛ばした人物。
その人物が肩越しに少女へと振り返った。
「もう大丈夫だ。見てな。あんなキモいヤツ、俺がブッ飛ばしてやらァ」
そう言って、屈託なく笑う。
この場にあまりにも似合わない表情に、少女の緊張が一気に解ける。
ぐらり、と視界が傾いた時にはもう遅かった。
意識が遠ざかる。視界が一瞬で闇に包まれる。
朦朧とする意識の中、あの恐ろしい<化け物>と、自分を護るように対峙する背中が見える。
ああ、わたしは気を失うのだ。そう認識した瞬間、その言葉は無意識に口から出た。
「あなた・・・誰・・・?」
「坂下恭一。まあ、私立探偵みたいなもんだ」
最後の一瞬。すべてが闇に包まれる、その直前。
「安心してくれ。こいつは悪い夢だ。目が覚めたら元の日常に―――」
自分に向けてほほ笑む男の姿を見ながら、少女は意識を手放した。
「こんな女の子追い回して愉しむ、か。趣味悪ィな」
右手にぶら下げた散弾銃、ベネリM3を肩に乗せ、坂下恭一は言った。
「GURUUUUUUUUUUU・・・!」
<化け物>が低く喉を唸らせる。腰を落とし、腕を地面につけた、今にも飛びかからんとする体勢。
対する恭一は構えすら取らない。M3を肩に乗せたまま、左足を前に出した半身の姿勢で<化け物>を睨んでいる。
「どうした、来いよ」
左手で手招きをする。その挑発に応じるように、<化け物>は深く体を沈ませ、
「GYAAAAAAAAAAAAOッ!!」
恭一へと跳躍、鉤爪でその喉を切り裂かんと躍りかかる―――!
だが恭一は動かない。回避も迎撃も行おうとせずに、不敵な笑みを浮かべ、自らの首を刈りに来る<化け物>に視線を送り続けている。
距離が一瞬で詰まる。残り3メートル。2メートル。1メートルを切り、<化け物>の爪が無防備な頸動脈めがけて振り下ろされる。
殺った。<化け物>が確信を抱き、確信が現実に変わる。その寸前。
「我は守護を司る者。五芒の印を以て、邪(あ)しきものを封ずる者也」
澄んだ声が響いた。恭一でも、気絶している少女でもない、女の声だ。
同時に、恭一を中心として円状に光が走る。円の内側にも5本のラインが走り、星を形作った。
恭一に襲いかかる<化け物>がそのラインに触れた瞬間、<化け物>の動きが停止する。
停止した、というのは正しくない。今も<化け物>は体を動かそうと必死に足掻いている。止まった、ではない。止められた。動きを封じられたのだ。
「あまり簡単に誘いに乗っちゃいけません。わたしみたいに、罠が仕掛けられてるかもしれませんよ?」
恭一の後方。気を失った少女よりも向こうから現れた声の主は、人差し指を立て、子供に注意するように言った。
セミショートの黒髪を揺らし、恭一の横へ並ぶ。
彼女は<燕のナギサ>。坂下恭一を主とする、守護天使である。
「捕縛結界。対象を絡め取る結界です。もう、動けません」
「ウチの助手は結界系が得意でね。どうだい?一瞬で狩る側から狩られる側になった気分は」
恭一が<化け物>にゆっくりと近付き、その額に銃口を押し当てる。
<化け物>が咆哮する。結界の捕縛から逃れようと、足掻いて、足掻いて、足掻いて、
「くたばれ」
銃口から放たれた九つの弾丸によって、頭部を粉砕された。
Re: 銃口は闇夜に踊る
竜人 /
2009-09-17 03:02:00
No.1510
「・・・これで5匹目、ですね」
目の前で泥のように溶け、消滅していく<化け物>だったものを見ながら、ナギサは呟いた。
彼女とその主が<化け物>を葬ったのはこれが初めてではない。今月に入って5匹目だ。
目も耳も鼻もない異形の怪物。夜に蠢き、人を喰らうモンスター。
そして、この怪物には、もう一つの特徴があった。
襲われていた少女を介抱するナギサへと問いかける。
「仕留めた、ってわけじゃなさそうだな」
「はい。たぶん、本体じゃないと思います」
やっぱりか、と呟いて、<化け物>がいた場所へと目を向ける。最後の泥が消滅するところだった。
<化け物>は、何度でも復活する。復活までにどれだけの時間を要するかはわからないが、頭を吹き飛ばしても、胴に風穴を開けても、何度でも蘇る。
「不死不滅、っていうより、使い魔の一種・・・端末みたいなもんか?」
「だとしたら、大本をどうにかしないと、きりがないですね」
<化け物>を統率する何者かを倒さなければ、何度でも現れる。
今のところは確たる証拠もない仮定だ。最初から同じ<化け物>が複数いるだけの可能性もある。復活している、というのは恭一たちの勘違いということもあり得るのだ。
だが、恭一は前者だろうと結論付ける。証拠はないが、彼の勘がそう告げている。
空を見上げる。闇の中煌々と輝く月を見上げて、呟いた。
「ああ、くそ。厄介な話になりそうだ」
あとがき(但し本編には一切触れない)
こっち(掲示板)ではお久しぶりです。竜人です。
恐ろしく長い間、何も書いてなかったわけですが・・・大学入ってから何やってたかといえば、ずっとチャットで話してたり、創作資料を買いあさってましたw
いや、恐ろしいね、F-FILES!イラスト付きでわかりやすく、しかも簡潔。最初は「図解 近接武器」と「図解 ハンドウェポン」だけ買ったんですが、気がつけば「中国拳法」「ヘビーウェポン」「クトゥルフ神話」「特殊警察」「戦車」「戦闘機」と本棚に並んでます。
F-FILES以外だと「カンフーテクノロジー」「図解コーチ 空手道」「SAS護身術マニュアル」「サバイバル戦闘技術」・・・何だこの物騒な本棚。アパートの一室が、着々と危険人物養成所へと変貌を遂げ続けている・・・・・・ッ!?
さて、次は「コラム:竜人世界における銃と剣、魔法について」か「退魔師及び守護天使の関係について(講師:坂下恭一)」「結界について(講師:燕のナギサ)」どれにしようかな?
いや、無論この続きも書きますけども。最初だから短いですが、次からは普通に長くなるんではないでしょーか。
Re: 銃口は闇夜に踊る
エマ /
2009-09-23 18:44:00
No.1514
いよいよ! 来ました!
恭一さんSS本編!!(なのかな?
しょっぱなから、事件で始まりましたねー。
モンスターに追われる女子校生。うむw
一瞬バイオハザードを連想してしまいましたが、きしょいモンスターのお食事中に遭遇して、気付かれて追われるというのは、定番ですなw
まー、以前チャットでみせてもらった設定ビジュアルをみると、誰でも逃げますわ、アレは、しかもなんですか?全速力で逃げても容易く距離を縮められるんでしょ?あのビジュアルで。つまり、振り返るたびに毎回前よりも接近してるわけでしょ?あのビジュアルで。きゃーこわいこわい、キモイわぁーーーーー!!ww
しかし、「助けるさ」と声をかけたり、にこやかに笑うあたり、恭一さん、結構人当たりいいのかしらん。
ワイルドさんやカムドあたりなら無言で敵を倒して去っていく感じだけど、そこらへんは恭一さん、結構女性から人気でそうですね。性格的にも。
ナギサちゃんの登場も期待以上にカッコいいですね。呪文の詠唱から始まるとは・・・。てっきり、恭一さんの行動に対するツッコミから入ると思っていた私の予想と裏腹に、こんなに真面目に来たとは・・・w
今回の化け物は、標準的な銃火器が効く、対応しやすい類いのものみたいですね。
とはいえ、何度でもよみがえり、大本を断たなければならないあたり、序章としてはぴったりですね。
黒幕はどんな奴らなのか・・・。化け物なのか人間なのか、はたまた呪詛悪魔なのか・・・。
また、カイルさんと違い、恭一さんは台詞が多そうだし、ナギサちゃんの会話もあるし、比較的にぎやかな感じになりそうな気がします。
探偵という事で、魅力的な依頼人の存在も出てくるんじゃないかと勝手に期待w
次回も楽しみにしていますっ!
・・・しかし、竜人さんの本棚、ネットで公開したらFBIみたいな黒服の人たちが取り調べにきそーだのw
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科学と魔導を駆使し、闇に潜む邪(あ)しきモノを撃ち滅ぼす。
故に、人呼んで<退魔探偵>
故に、人呼んで<ホラー・ハンター>
彼の名は―――
episode:1
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁっ・・・!」
もう少しで日付が変わろうかという時刻。大通りから離れた裏路地を、必死に駆ける少女がいた。
高校生程の年齢だろう、ブレザーに身を包んだ少女は、脇目も振らず走り続ける。
心臓がうるさいくらい鳴り響き、肺は酸素をよこせと喚き立てる。足も休ませろとうるさい。
だが立ち止まり休む暇などない。止まれば瞬く間に追いつかれ、<喰い殺される>。
彼女は見てしまったのだ。あの二足歩行の<化物>の食事を。
ほんの数刻前までは恐らく人間であっただろう肉片を、がつがつと貪り喰らう様を。
そして、黒一色に染まる貌が、新たな獲物を見つけた愉悦に歪むところを―――。
「助っ・・・はぁっ、けて・・・!」
走る、走る、走る。
十字路を曲がり、水溜まりを踏み越え、木の枝で腕を切り―――なお走る。
自分が必死に逃げているだけで、実は<化物>など追ってきてはいない。そんな考えも一時は浮かんだ。
だが、アレは確実にいる。背後から聞こえる獣にも似た息遣いが、腐敗したような異臭が、アスファルトを蹴る音が、その存在を真実だと告げている。
彼女の後ろを、まるで逃げる餌を追い回して遊ぶように、付かず離れず追ってきている―――。
「はぁ、はぁ、はぁっ・・・あうっ!?」
視界ががくりと落下する。そのまま地面へと体を打ち付けた。転倒したのだ。
全力疾走を続けた疲労からか、起き上ろうとしてもなかなか体がいうことをきかない。立ち上がろうともがいて、もがいて、
もがいて―――振り返った一瞬、自らを追い立てていた<ソレ>と目があった。
否、目があった、というのは正しくない。その<化け物>には、目など存在しない。
眼だけではない、鼻も、耳も―――赤い亀裂のような、鋭い牙の並ぶ口以外は、<化け物>の頭部に存在していなかった。
だが<化け物>は確かに少女のいる位置を、その姿を、その怯えを認識している。一歩一歩、少女を手にかけるまでの間を愉しんでいる。
「あ、ああ・・・嫌ぁっ、誰か・・・!」
体毛の存在しない黒くぶよぶよとした表皮。肉を引き裂く為の鉤爪。水掻きのような膜の付いた足。
<化け物>から逃れようと必死に後ずさる。だが化け物はたやすく距離を詰め、少女の首に手を伸ばし、
「誰か助けてぇっ!!」
「助けるさ」
唐突に現れた何者かの跳び蹴りを受けて、吹き飛んだ。