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陰は闇中すら舞い踊る
時計屋 / 2009-10-31 23:28:00 No.1552
「今、私達を無能、と言ったのか」
 執務室らしきその部屋で発言者である女は非常に憤っていた、五体中から溢れ出る殺気を隠そうともしないのがその確たる証だった。
 対する男は鉄面皮を崩さず肘を机に突き両手を組んで彼女を見ていたが、若干眉根を強張らせて射抜くような視線を送っていた。
「そうだ、現状のD.F.では君を生かしきれん。これは賛辞だと思って頂きたい」
 彼は何故憤るのか皆目検討も付かない様子だった、対する彼女は筋肉の弛緩をせず格上と分かる相手に全く怖気付かない。
「思い違いも甚だしいぞ、イグアナのロイ。侮るのは勝手だ、しかしお前が全てだと思うな」
 つまらないものを見る視線で彼女を見下すロイ、人格面の評価を下げたのだろうか。
「この程度に気を立てるとは君の評価を改めなければならんな」
 言葉の応酬、そこに一切の馴れ合いはなかったがそれに飽いたらしい彼女の方が先に動き出した。 フッと息を吐き捨てるように漏らし、余裕の顔を一瞥すると呪詛を紡ぐが如く口を開いた。
「解らんだろうね、誇りなどない狼には。ならば黙って見ていればいいさ、この暗がりで我々の評価を改めながらね」
 両の足を揃え、一礼して彼女は真中にロイを見据えた。
「ヤマカガシのシェイド、これにて失礼させて頂くよ。 興味惹かれる話ではあったが固辞させて頂こう」
 件の発言後一瞬とて殺気を緩めなかったシェイドは凛とした所作で執務室を後にした。



「アレは危険な男だ」
 デスクに戻って控えていた部下に開口一番、不機嫌を隠さずに彼女はそう口にしていた。
「初めて相対したが私は彼程怜悧な男を知らない。確かに上官殿が手を拱く可能性もあるだろうね」
 酷く腹立てていたがその実、彼我の戦力差をある程度把握していた。着任して以来公の走狗として駆け抜けてきた経験の賜物であった、が。
 身体の細部までを見透かした様な視線を思い返すと、その彼女を以てしてもゾクッと背中に冷たい物が走った。
 丁度そこへ一人の女性が駆け込んできて、デスク前で急静止すると息も整えずに紙束を差し出したので彼女は思考中断、素早く切り替える。
「ハアッ、ック、ハァ。 シェイド殿、出動命令ですッ!」
 彼女から紙束を奪い取るとパララララッとページを数瞬の内に捲り終えて話しかけた。
「了解、現時刻を以てヤマカガシのシェイド、デッドエンジェル保護の任に就く。 A〜D班に連絡、各員装備を整え1800に指示された箇所に移動するよう手配を頼む」
 デスクに座ったのつい先程だと言うのに彼女は防弾チョッキを着込み、コートを羽織って外に駆けだしていた。



 彼女がめいどの世界を離れたのはそれから3〜4時間の後だった。 顕われたのはとある路地裏、彼女の後ろを数十名の影が連なっていてその光景は島国日本に似つかわしくない。
 彼女が振り返り影を見回す。 その光景に慣れ親しんでいるのか、特に何をするでもなく自然と口を開く。
「各自作戦プランは理解したな。なに、不安がることはない。 いつも通りだ、世界の秩序を護る為我々は最善を尽くす」
 フゥッと一息吐いて、彼女の演説とも取れる号令は続けられた。
「これより諸君らの命は私が預かった、だから、死なないこと。 総員準備、決行は15分後とする」
 一同がその号令で動き出した、勿論の事彼女も状況を見渡せる位置に陣取るべく廃ビルの屋上へと向かって何事もなく辿り着いた。
 眼下に広がるのは明かりの消えぬ不夜城、人々の営み。彼女の誤判断一つで全体が最悪犠牲になる事例も有るだけに緊張して然るべきところであるが、彼女は落ち着いて景色を眺めていた。
双眼鏡を手に取り確認した。 視線は疎らな人並みの中からある2つの人影を捕らえその後ろの『影』を見て、また人影に戻された。
「シェイド殿、A班部隊配置完了致しました。 いつでもどうぞ」
「B班配置完了」「C班、準備完了」「D班OKです」
 レシーバーから続々と聞こえる報告を確認しては、顎に手を当て何かを思案したのかレシーバーへと言葉を発した。
「総員に告ぐ、どうやらこの現場にも『狼』が1匹出張っているようだ。 暢気に見とは我々も随分と舐められたな」
 コートが強く建物を抜ける風に棚引く、その中で慄然としている彼女は忌々しげに空を一瞥して再び指示を飛ばした。
「報告より今回の目標は理由は何であれ理性が残っていると思われる。 よって作戦はAを使う」
 眼下で複数の影が動く、準備はその一瞬で十分と彼女は判断したのか間髪入れずに次の言葉を紡ぐ。
「傲慢な『狼』に見せてやろう、我々の正義を。 作戦開始」
 ダダダダダダダダッと裏路地を駆ける複数の人影を眼科に据えたまま、彼女がポンッと地を蹴り隣のビルへ移るとほぼ同時にタタタタタッ、と最小限の音が階下でした。
 続けてダンッ、ガンッガンッガンッとビルの避難用金属製螺旋階段から上ってきた音は明らかに急いている足音だった。
 更にカンカンカンカンッと規律正しい音も金属製の階段に反響した。 その中から恐らく1人分と判断される2番目の音を風音も含めた雑音から聞き分けた彼女は薄笑を浮かべていた。
 しかしそれが意思に反していたのか、表情を険しくして次の指令を飛ばした。
「指揮官、対象の分断に成功」
「C班は?段階へ移行せよ」
「A班、目標前のドアへ到着」「B班合流完了」
 それは予定調和、寸刻違わぬ最良の行動。 ダダダッと1対の疾駆する足音が先に居たビルの方へと遠ざかったのも微かに聞こえたようだがそれに気を止めはしなかった。
「突入、予定通り目標の少女を鎮圧して」
 バンッ、と音がした。瞬間、彼女がサングラスを掛け目を覆うと同時に強烈な光が15m上の彼女まで下から駆け上がった。
 閃光弾、下で使われたそれの余波であった。彼女はトランシーバーに向かい眼も開けぬまま告げた。
「A班、状況報告っ」
「少女は我々を見つけられていないと思われます」
「了解、レシーバーの音量を上げろ」
 間髪入れず状況把握をしたのは、戦場においての迅速な情報は後の勲章より勝るものだからだろう。
「聞こえるかワニガメのユイ、私はヤマカガシのシェイド。 D.F.の者(ハンター)だよ」
 轟々と台風の最中のような音が彼女の耳元に届いたがそれでも無言のままだった。
「ド……コ、ダ、キサ、マァ!」
 猛り狂う金切り声が響くが、彼女は聞く耳を持たずに状況確認もしないまま部下に号令する。
「A班、B班は後退せよ。D班、発砲(サイショット)」
「ああああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ」
 瞬間、タタタンっと複数の銃声が響く。彼女が退いた此方の隊員を認識する前に叩くが為の狙撃班による十字斉射。
 悲鳴が上がるのは狙撃銃が太腿を正確に撃ち抜いたからだろう。 しかし、彼女はまたしても確認しない。
 トランシーバーから音が途絶え、彼女は次の指示を出す。
「次、C班」
 パスパスパスパスッ。常人では気付かないだろう音は、しかし彼女の元に届いていた。
「対象乙、呪詛悪魔・シマヘビのティーゲルは死亡」
「了解、A班はそのまま捕獲、B〜D班は撤収作業を」
 タタタタッ、とまた音がして。
「対象甲を確保」
「作戦目標完了、これより帰還する」
 呪詛悪魔の誅滅を含む作戦は一分の遅延も無く5分と掛からずに終了した。



「成程、アレの真髄は教育能力か」
 上がってきた報告書を読んだロイの第一声がそれだった。
「隠密班で呪詛悪魔とデッドエンジェルを分断し目的地点へ負い込む。 同時に狙撃班を使って無力化、前線部隊で詰み、か」
 まるでチェスのような一連の流れ、しかしそれは。
「相手の思考を読みきり、且つ駒には駒として扱えるだけの練度が要る」
 最初の分断で彼女らに気付かれないだけの力量、窓越しという限定環境で太腿を狙撃する能力。
 何れが欠けてもこの作戦は成功していない、つまり、持ち駒の能力を使い情報でしかない資料からものの数時間でこの状況を作り上げたのだ。
 非凡な状況・心理把握、教育能力。自ら前線に有り机上の空論で無いその才は、つまり現場指揮官として理想に近かった。
「それでいて『誇り』と言うか。 現場にはさぞかし受けが良いだろう、しかし能力に問題は無い」
 最初に発言した意図としてそれが有った、つまり教育出来るということは彼女自身全てをその身に備えているということである。
 フッ、とロイは一息置いて彼女の処遇を結論付けた。
「まぁ、その程度はやって貰わねばな。 D.F.が全くの無能では此方も動き辛いというものだ」
 或いは彼女への引抜が断られるまで彼の掌上だったのか、余人には知る術も無い。
 今日も世界は、平穏に、或いはそれを装って回り続ける。

新出守護天使紹介、及び後書き
時計屋 / 2009-10-31 23:37:00 No.1553
名前   シェイド(shade)
前世   山楝蛇(ヤマカガシ)
性別   女性
年齢   25
死因   轢死
トラウマ 人物大以上の乗り物。後述の任務中でも彼女は車を使わずバイク等で代用する。
容姿原型 戸馬的(from DDD)
体型   身長164cm 体重51kg 3サイズ88・62・88
役職   D.F.警備部4課1係長(日本国警察での警部補相当)
職場内  「じゃあトレーニングね」の一言で部下にトライアスロンを強いるような鬼上司(ここら辺はサキさん等とも似ているが基本的に平和維持の為の練兵の際ともなればその程度の事をするだろう、と筆者は推定した上で似通わせていることを留めておく)
     しかし、彼女の部隊は上記のような訓練からか与えられた案件に対する生存率が極めて高い。
     彼女自身武略と知識を兼ね備えた優秀な守護天使であり時には大隊指揮下に入って前線へ赴くことも。
趣味   読書、散歩
性格   ご主人様と居る時などは任務中と真逆で虫も殺せないような大人しい性格をしている。
     今もプライベートでは時折見られるが仕事では性格が文字通り『切り替わる』。
     この為両面を知る一部の人々には大変揶揄われやすい。




あとがき
いやー、時間掛かりましたごめんなさい。
元々兄者の嘘予告に触発され「掌編でクロスオーバーさせてみっか」と思い立ちロイ氏におでまし頂きました、ダイダロスさんに多謝を。
しかしキャラが思うように動いちゃくれねーんで大変でしたよ、もうやりたいほーだいな文章の残骸ともいえますな(笑
おかげでこの程度の文字数に異様なまでの時間がががが(ry
なおver2.0移行に際して竜人氏には多大なご助力を頂きました、兄者、ありがとうございましたー。
嘘予告としちゃ時間掛かりすぎ、稚拙ですね。
これからも精進したいと思います、では。

Re: 陰は闇中すら舞い踊る
エマ / 2009-11-08 16:16:00 No.1563
新キャラの登場ですね!

ヤマカガシのシェイドさん。25か、若いのに、やるのうw
有能故に、今回のロイからの誘いがあったわけですね。
こうやって、有能な人材を採ってくるのか・・・
しかし、ロイもその高慢さがたたって、今回は勧誘に失敗したようですね。

シェイドさん、DFの仕事に誇りを持っている高潔さというか、働きを見ると
仕事の鬼、有能な現場指揮者ということなんでしょうが、それが女性でしかも
この若さ、というのがその才覚ぶりがより目立っていますね。
そこらへんは、セリーナさんと通じる部分もあるか。
少し会話しただけで、ロイの恐ろしさをしっかりと読み取っているあたりも、さすがです。

捕獲任務については、特殊部隊の突入を彷彿とさせるような格好良さで、これも読み応えがありました。D.F.も、よく統率されていればものすごい力を発揮する、ということですね。しかし、今回はタタタンと狙撃されてあっという間に決着がついてしまって・・・。
実際の特殊部隊の突入もそんな感じだったりしますよね。今までの死の先系の戦いモノとはまた違ったリアリティというか。
捕獲目標を他の呪詛悪魔と分断し、狙撃犯で無力化、など。作戦もきちんと理由の裏付けがあり、それを資料からモノの数時間で作り上げた、という部分が彼女の実力の一端ということですね。
フェンリルにおいても、小隊長クラスの人材として重用されそうです。

今回は固辞されてしまったわけですが、今回の作成の結果を分析していたりするあたり、ロイはまだあきらめていないんでしょうか。

いずれにしても、戦闘能力だけでなく、指揮能力も高いという戦い系キャラクターは、今まであまりいなかったですね。ヤマカガシのシェイドさんの活躍、これからも期待です。
あと、ご主人様と一緒にいるときのしおらしい感じのシェイドさんも期待大w(何

しかし、ヤマカガシって何かと最初思ったんですが。毒蛇なんですね。

Re: 陰は闇中すら舞い踊る
ダイダロス / 2009-11-14 22:55:00 No.1575
ども、読ませて貰いました。
まず、僕のオリキャラであるロイを使って下さってありがとうございます。

つーか、ロイよ。お前、まともに勧誘する気無かっただろ? と、思わず生みの親としてツッコミを入れてしまいました(笑)
いや、ロイが本気で引き抜きに掛かるのであれば、当然、性格・素行等の調査をしてから、最も適した人物(支部長・部隊長・参謀クラス)に交渉(又は”交渉という名の脅迫”)をさせますから。

さて、「ヤマカガシのジェイド」ですか、なるほど、ロイが目を付けただけあって、高い錬度と統率力を持った指揮官タイプのようですね。確かに、今までエマステには居なかったタイプです。大抵は「一人か極少人数で多数を相手取るという」タイプが多かったですから。
それに、ロイの危険性を一目で看破するというのも、彼女が有能である証でしょうか。大抵の者であれば、漠然とした不安と不審は感じるでしょうが、それを説明するのは困難であるように感じられるので。

これまでイマイチ影の薄かったDFですが、ジェイドさんを含めた新キャラの活躍で、もっと多く活躍できるようになればと思います。
まあ、そうなる原因の一端(ロイがDFを敵視・見下しているという設定)を作ってしまった僕が言えた事ではないかもしれませんが(汗)

そろそろ(1年経ったし)ネタばらし。
時計屋 / 2010-12-27 01:52:00 No.1955
>エマさん
読了感謝です。
まぁ、色々ダブってるのは仕方ないっス、公式でもヘビはユキさん、轢死はタマミちゃんが居ますからねぇ>セリーナさんと〜
居ないタイプの子を狙って作った心算ですが、実現出来ているようで何よりです。
本編では全く違った配置の彼女も後々お見せするかと思います、では。

>ダイダロスさん
こちらも読了感謝っス。

まともに勧誘〜、についてはおっしゃる通りです。自分の設定した彼の動機として、
1 D.F.の実働部隊長の1人に会うことで現場間の配置の参考とする
2 彼女を勧誘出来た場合単純に戦力増強となる
3 彼女を勧誘出来なかった場合彼女やD.F.を煽る結果となるためリサーチ結果からD.F.の実働部隊が発奮するだろう→フェンリルの任務量の減少→その分の人員を掛けた作戦展開が可能になる
4 この件を査問された場合彼女を引き合いに出すことが出来る

よって彼女のリサーチを終えた時点で彼はどう転ぼうともプラスを得られる、と考えるだろうと設定したのですが。
ですから断った彼女に対しわざと監視役なんてのを置いたとしています、本来の彼ならばそういう無駄をしないでしょうから。
会見役にロイ本人を出すべきかは迷いましたが自分の趣味を優先しましt(笑)
ただ現場指揮官としての彼女は一定水準以上にあると自分の中では設定しています。
その上で今回、チェスのプレイヤーを彼とすると実働する彼女は多くの場に動けるクイーン。
違う役周りで見るもう一つの盤面の勝者は言うまでもなく動かずに実利だけを得ている彼なのですよ。

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