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K-クリスタル / 2009-12-30 23:19:00 No.1614
 血の十字架(ブラッディー・クロス) 

Episode03 ―?裏?開封― −3


「キャップ」
「GIA(ぎあ)か」
 不意にすぐ近くの床面の方から耳慣れた声がした。バステラは応えたが、声の方を見はしなかった。そちらを向いたとしても、そこに何も見えはしない。そういう相手なのだった。
 日常においても、仲間たちの前にも姿を現すことはめったにない。いや、直接の上官と言っていいバステラとすら、面と向かって話をすることの方が稀だった。
 だが、これまで長いこと幾多の死線を共にくぐり抜けてきた、バステラにとっては最も近しく、また頼みとする部下であった。
「どう見た?」
 バステラの語りかける声も特殊な発声のもので、彼の近く、周囲1メートル以内なら普通に聞こえるが、その範囲を出ると、急激に聞き取りにくくなる。2メートルも離れれば、もうほとんど聞こえはしない。 
「表面だけでも、白兵戦技の体術として、最高クラス。しかも、まだとても全力というわけでもなく」
 感情のこもらない声がよどみなく答える。 
「体術・・・何らかの超能力――テレポートか、それに類するような、なにかを使っていたということは?」
「自分が見る限り、今の戦闘ではありません」
「では、リコの?針山?さえ、ただの体術で躱しきった、というのか・・・」
「リコの腕の動きより、やつの体捌きの方がはるかに迅かった――それだけのことです」
「しかし、そこまで・・・」
 そのリコの腕の動作でさえ、自分には残像で何本にも見える・・・それを身体全体で軽く凌駕する速さとは、いったいどれほどのものなのか。――しかし、確かにそう言えば、片時も目を離さなかったはずのあの男の姿をしばしば見失ってしまっていたのだった。
「言わば、次元が違います。あれほどの戦闘員、もしかすると、事前にりき丸のことも見抜いたかもしれませんが・・・そうでなかったとしても、あの男にはなんの問題もなかったでしょう。りき丸の力は同格の速さに対したときにこそ、瞬間十倍にもはね上がるその加速で、初めの一度は確実に相手の意表を衝くことができたわけですが――もともと一〇〇〇の速さを持つ者にとっては、一の速さが一〇になったところで、たいした変わりはない――そういうことです」
 GIAの指摘は残酷なまでに当を得ていた。味方のことであっても、その冷徹な分析がくもることはない。しかし、こうした目と思考がバステラには、また、仲間全体にとっても必要なものだった。
「・・・速さだけでもそこまでの差があると、それだけですでにたいへんな脅威になるが――だいたい、それでは、まともにスピードで対抗できるような者は、我々の中には・・・」
「通常では、おそらくいないかと・・・ただ、それでも――?不死蝶?ならば、あるいは・・・ですが、そのレベルになると、自分には判断がつきません」
「そうか、?不死蝶?か・・・そうだ、それに?不死蝶?なら、おそらく、奴のプレッシャーにも押されることなく動けるだろうからな――いや、だが、あれは・・・」
 ?不死蝶?であれば、GIAの言うとおり、瞬間の攻防において、あの敵のスピードにも対応しうるかもしれない。さらにまた、あの敵に向かっていくとき、他の者がまず抗さなければならないだろう圧迫感も?不死蝶?には関係ないはずだった。しかし、問題がある。?不死蝶?は他の仲間との連携はまったく取れないからだ。いかに?五爪(タランズ)?の一人と言えど、あんな相手に掩護もなく一対一の戦いを挑ませるわけにはいかない。ニールも、おそらく同じ判断をするだろう。ラギたち5人をことごとく一撃で屠ってのけたあの敵の戦闘技術の恐ろしさは、スピードだけではないのだ。
 そのうえ、超絶的なその体術の他に、間違いなく何らかの特殊能力も持っている。それも、何かとてつもない・・・。
 最初に一斉射撃の銃弾を跳ね返して味方数人を倒した――そのことは、バステラだけでなく味方全員にとって衝撃であったろうが、その後、他の仲間たちがほとんど誰も注意を向けなかったことにバステラは気づいていた。
 あれは単なるバリアーのようなものなどではなかった。跳ね返った弾がただ偶然当たったにしては、かなり離れたところにいた者までがやられているし、なにより、ちょうど急所に当たりすぎていたのだ。
 もっと何か、得体のしれない恐るべき能力・・・。
(だが――今はそうした力を、なぜか使おうとしない・・・使えない、とも思えんが)
「それで、どうされます」
 思考に沈んでいたバステラの意識は、その声で引き戻された。 
 聞こえてくる声の方向はいつのまにか、変わっていた。こうして話をしている間にもGIAは絶えずその位置を変えている。
「やつの方から攻撃してこない以上、こちらもむりには攻めずにしばらく様子を見たかったが・・・」
 バステラは敵ではなく、その敵を取り囲む味方たちの方へ目をやり、言葉を切った――と言うより、正確には自然に切れたのだった。
「だんだんみんな、奴のプレッシャーに耐えきれなくなりつつある・・・このままいけば、我慢できなくなった者が飛び出してしまうだろう。連繋も策もなにもなく――すると、各個に瞬殺されるだけだ」
「ではその前に、こちらから」
「ああ。ただし、今の話を考えても、正攻法では到底無理だ。今度は真っ向ではなく、からめ手から行く。お前たちにも動いてもらわねばならんな」
「了解。――ですが、自分達のやり方でもそう効果はないでしょう」
 その返答に、バステラはいささかショックを隠しきれなかった。
 GIAとその配下を合わせたチームは、「5人で100人に匹敵する」と言われている。通常の戦闘能力がそれほどに並外れているということではなかった。敵に対して決してまともに向き合わず身を潜め、そこから不意を襲い隙を突き、そうやって少しずつ倒していくことで、たとえ20倍の人数であっても、最後には全滅させる。あるいはまた、当たり前ならかなうはずもない格上の強敵でも、やりようによって葬る。――奇襲・暗殺に特化したコマンドなのである。
 事実、これまでに対立する別の呪詛悪魔のグループを、アジトにチーム単独で潜入し殲滅したことも、休暇で任務から離れ油断していた高位の大天使を討ち取ったこともあるのだ。それが――。
「お前でもか・・・お前たちなら、たとえ実力がずっと上の相手でも、条件さえ整えられれば、倒すことも可能のはずだろうに」
「たしかに暗殺とはそういうものですが、しかし、あの男には通用しそうにありません。――あの男には、我々と同じようなにおいを感じます」
「む? やつ自身、暗殺者だとでも・・・ばかな、単身、敵の集団のただ中に、しかも堂々と姿をさらして入ってくるような暗殺者など・・・」
「姿を隠さないのは、その必要がないと思っているからなのかもしれません。いずれにしろ、暗殺者そのものではなくとも、そうしたことを知りつくしていると思われます。自分達が気づかれぬまま近づこうとしても、すぐに察知されてしまうでしょう」
「むう・・・」
 バステラはうめいた。
 GIAの冷徹な分析は、自分たち自身のことでさえ、完全に第三者の視点からなされ、決して客観性を失うことがなかった。そこにはおのれの力への過信も幻想も、いかなる希望的観測もいっさい入り込みはしない。この男がそう言うのであれば、そうなのだと思うほかなかった。
「――それでは、虚実取り混ぜた戦法を取る以外ないな。?不死蝶?はむろん、ニールにまだ動かす気がないのなら、アレクやガルシアたちの力も当てにできんし」
「アレクなら、かっとしてニールの命に背いてでも飛び出してくる気もしますが・・・」
「確かにな。だが、それは必ずしも歓迎できん。そんな状態で出てこられても、つまらんことで、足もとをすくわれかねないからな――我々の中でもいちばんの戦力だが、あれは気質にムラがありすぎる。誰か、冷静を保たせてくれていればいいが・・・」
「アレクの力は、多少かっかしていても、たいていの敵であれば、問題にもしないでしょうが・・・しかし、あの男相手にはおそらく、そうしたわずかな隙も命取りです」
「そうだろうな」
 バステラはうなずいたが、その後の相手の言葉には、訝しげな目をした。
「少なくとも、ちゃんと見えているぐらいでなければ」

K-クリスタル / 2009-12-30 23:22:00 No.1615
「待て、アレク!!」
 鞭のような声が飛んだ。その声に振り返った若者の目はしかし、爛と燃えていた。
「――悪いが、あんたの言うことでも、もう聞けん。また5人やられた。これ以上黙って、見過ごせるか・・・!」
 アレクの声は常よりいちだん低く、一見落ち着いているようにも思えた。が、それは激しい感情をむりやり抑えつけているためで、実際には暴発寸前であることが彼をよく知るまわりの者たちには、明らかすぎるくらい明白だった。
「だからと言って、やみくもに突っ込んで、どうする? 止めろ、ガルシア!」
 その声とほとんど同時に、長く太い腕が背後からにゅっと伸びてきて若者を羽交い締めにした。その巨体からは信じられないほどに素早い動き――いや、ニールの命令より前に、すでに予想してその動作を起こしていたからだった。
「はなせ、ガルシア!!」
 首を圧迫する太い腕を両手でつかみ、もがくアレク。その力もかなりのものだが、それでも、万力のような腕はびくともしない。
「だめダ。オマえ、見えていナイだろウ」
「ああ?! なんのことだ? とにかく――」
 突然、ガルシアの腕が巻きついていたアレクの首のまわり、こまかい房のような服のえり飾りが炎を上げ、燃え上がった。フラッシュのように一瞬の間に燃えつき、なぜかそれ以上は燃え広がることなくそれだけで完全に消えたが、さすがに反射的に緩んだガルシアの腕をアレクは振りほどき、いましめから逃れた。 
「すまん。だが俺はもう、ただ見ているだけなんてできない」
 そう言い捨てて、あらためて跳び出さんと向き直ったアレクだったが、その動きは再び停止する。目の前になにか細長いものを突きつけられて・・・目の焦点を合わせると、それは閉じられた扇――漆塗りの親骨に、貼られた和紙には凝った図柄が装飾として施された高級そうなものではあるが――普通の扇だった。
「なんの真似だ、ゲン」
「なに、私も和主(わぬし)と同じでな」   
 にらむと、扇を手にした相手は目を細めて、莞爾と――いや、むしろ嫣然とほほえんだ。 
 アレクより頭半分ほど低い、せいぜい中背というところの背丈だが、頭身が高く姿勢がいいためか、実際よりかなり高く見える。まっすぐ伸びた細絹のような髪は肩まで届き、その髪と同じような黒炭のように黒い二重回しの長いコートに身を包んでいる。
 アレクとはまた違うタイプの優男の美男だった。髪型とも相まって、とりわけこうして笑みを浮かべている時など、女性のように優美な顔立ちと思える。
 今もやさしげな、だがその中にからかうような色も見せて、?ゲン?と呼ばれた青年は続ける。
「この上、仲間が無駄死にするのをほってはおけんというわけだ」
「無駄死にだと・・・俺もやられるって言うのか・・・!」
 アレクの重い怒気を向けられながら、しかし、相手はさらりと受け流した。
「はて・・・今の言の葉にそれ以外解釈のしようがあるものなら、聞きたいが」
「ちっ・・・!」
 アレクが舌打ちすると、次の瞬間、青年の持つ扇もまた先端から火を噴き出した。
 しかし、青年はあわてる素振りも見せず、優雅な手つきで火がついたままの扇を開く。開いたことで、炎はひときわ大きくなった。それを手首の動作だけでぽんと投げ上げる。
 火がついた扇がゆらゆらと揺らめきつつ落ちていったのは、その間に再び跳び出しかけていたアレクの鼻先だった。
 アレクに触れる直前、かき消すように炎は消えたが、一瞬止まった彼の今度は喉元に――もう少し力を込めれば、抉れるぐらいに――ぴたりと何かが押し当てられる。・・・いつの間にやら取り出した別の扇だった。それもただの木と紙でできた扇のようだったが、アレクはややあごをそらし、立ちすくむようになる。
「と、いう次第だ。気が急いて動きが雑なものだから、うつつの私にさえ、こうも簡単に止められる。少しは頭を冷やすがよかろう」
「くっ・・・」
 唇をかむアレクに青年は続ける。
「熱血は和主の美点と言えようが、それも場合によりけりよ。その様子ではガルシアの言うとおり、和主、やはり見えておらんな・・・」
「だから、何だ、さっきから・・・! 何だか知らんが、そんなこと言っている場合か!!」
 わかろうともせず、ただますますいらいらをつのらせるような相手に、青年はやれやれと肩をすくめた。
 その時、鈴を転がすような声が響いた。
「だめよ、アレク。衒志郎さんの言うこと、ちゃんときいて」
 先ほどまで、部屋のすみで座禅を組むような格好で座っていた女だった。こうして立ち上がってみるとかなり小柄の方だが、こげ茶のゆったりとしたラインのワイド系のパンツにブラウスを着こなしたスタイルはよく、整っている一方で、どことなく少女っぽさの抜けきらない顔立ちに黒目がちの目が印象的だった。その大きな目をじっと据えて、まっすぐアレクの方を見つめる。
「いや、ファデェ。しかしな・・・」
「いけません」
 きっぱりした口調だった。
 おとなしめで、常日頃、仲間の誰に対してもていねいで腰の低い彼女だったが、どういうわけか、アレクにだけは姉のような口を利く。
「・・・わかった」
 そして、なぜかアレクもまた、年下の彼女のそうした態度を自然に受け入れていた。
「いや、さすが・・・」
 少しだけ開いた扇で口元を隠しながら、ふっふっと、ゲン――衒志郎は笑い声を洩らした。
「火の玉坊やの扱いにかけては、やはり、?音姫?にしくはなし、か」
 ?坊や?呼ばわりに唇を曲げたが、アレクは今度はなにも言わなかった。
「しかし、さようか・・・むろん、御許(おもと)にもわかったわけだな。では、アレクに言うてやってくれ、ファデット」
 笑いをおさめて、衒志郎は扇をファデットと呼んだ女性の方へ向けた。
「あ、でも・・・わたしは、?見えた?わけではありません・・・」
「おなじこと。それに、御許からの方がアレクも聞く」
「ええと――」
 アレクや他の仲間たちからも視線を集めて頬を染めたが、思いきったように口を開いた。
「あの人――あの敵は・・・」
 そして、その内容に自然表情もあらたまる。
「戦っているとき、攻撃には、たぶん片手だけしか、使ってないわ」
「・・・!!」
 衝撃はアレクだけでなく、無音の雷鳴となって、部屋中を駆け巡った。

   
K-クリスタル / 2009-12-30 23:24:00 No.1616
「片手しか・・・使っていない?」
 バステラは呆然と聞き返した。
 片手で、ラギたち5人を・・・しかも、それで全員を一撃で、だと・・・? なんの、悪い冗談だ?
「間違いないのか? 俺には、攻撃の時のやつの動きはよく見えなかったが・・・」
「インとジンがあの男の両側を駆け抜けたとき、同時にあの男も体の向きを半回転させていました」
「ああ、そうだったな。だが、それが・・・?」
「片手の一連の動きで、両側を走る二人の首を切ったため、ああなったわけです」
 バステラはうなり声を上げる。
「むう、なるほど・・・そうだったか――だが・・・」
 だが、なぜだ? それが事実として・・・それが可能なほど、やつの強さがとんでもないものだったにしろ・・・だとしても、なぜ、そんなことをする必要がある?
 あらためて敵の方に目をやって、バステラは今さらのように気づいた。
 男の左手、手の甲から掌へ、また何本かの指にまでぐるぐる巻かれている、あれは・・・うす汚れてもう色も白くはないため、ずっと気づかなかったが――あれは・・・包帯?
「けがをしているのか? それで・・・」
 負傷していて、こんな戦いを挑んでくるということじたい、そもそもおかしいが、しかし、それなら、一応理由は・・・。
「いえ。それが使っていたのは、負傷しているように見える、その左手の方です」
「なに?」
 バステラは眉をひそめた。
「どういいうことだ、それは・・・」
「わかりません」
(フェイクか? けがをしていると見せかけて油断させ、実はそうではなく・・・いや、違うな)
 もしそうなら、たとえさり気なさを装ったとしても、負傷の様子を初めからもっとわかりやすく示していたはずだ。そうでなければ、自分がそうであるように、あれほどの強さを見せつけたあの男がまさかけがをしているかもしれないなどと、大半の者は思いもしないだろう。加えて、このプレッシャーに、あのスピード――GIAくらいの動体視力と冷静さを併せもつ者であってはじめて、それに気づく。今いる仲間の内でも、あとはせいぜいガルシアと衒志郎くらいのものか・・・目じたいはあっても、すぐ頭に血を上らせるアレクもむりだろう。それでは、フェイクにはなるまい。
 それに、今ではバステラは、この敵がそんな小細工を弄するような相手とは到底思えなくなっていた。その必要があるとも思えない。
「それと、もう一つ」
 GIAの声が続けた。
「その左手ですが、よくご覧ください」
「?」
 バステラは再び敵の手に視線を向けた。だが、先ほど見た時のまま、それ以上はなんの妙な点も見当たらない。薄汚れた包帯は――一度確認すると、確かに包帯のようだ――かなりきつめに巻かれているようではあったが、今、身体の脇に下げられた腕の延長として、その包帯の覆っている手首から手の甲、その下から突き出した指の先まで、ごく当たり前の様子である。
「――どうかしたのか?」
「見ている限り、ずっとあの形のままなのです」
「ん・・・まさか! 攻撃のときにもか!?」
「インパクトの瞬間は、速すぎて自分にもよく見えないのですが、おそらくは・・・」
 バステラはさらにまじまじと敵のその左手の形を見た。
 拳ではなく、手刀でもない。自然な形で軽く曲がり、5本の指も揃えられておらず、間にすきまが空き、一本一本がばらばらである。つまりは、ただ手からいっさいの力を抜いただけのようにしか見えない。
「・・・あんな手の構えの格闘技もあるのか?」
「自分も精通しているわけではありませんが、およそあり得ません。あれでは、どんなに凄まじい勢いで腕をふるっていようと、その威力をまともに伝えられるはずがなく、むしろ、その勢いで逆にみずからの指が折れ、悪くすればちぎれ飛ぶような結果になりかねません――」
 だが、現実にはあれだけのことをしてみせた。ラギの顔面を砕き、インとジンの首を切り裂き、りき丸の後頭部を穿ち・・・リコは、なにをどうされたのか、よくわからなかったが、とにかく、それだけのことを――それぞれ、まったく別の効果をあの同じ、どんな力も入れられそうもない形の手で・・・?
 わからないことだらけだ。戦闘用には異様としか言いようがない手の形・・・いや、それ以前に、なぜその片手しか使わないのか? 傷を負っているのは、本当なのかそうではないのか・・・嘘ならば、なぜ? また、本当なら、どうして使うのがそちらの手なのか? 
 すべてが謎だった。このことばかりではない。あの男については、考えれば考えるほどわからなくなっていく・・・。
 自ら戦いを挑んできながら、今、さらに攻撃してこようとはしない。また、何かとてつもない能力を持ちながら、最初の銃撃のとき以外、使おうとしない――
「――いや、もういい」
 バステラは不意に思考を断ち切った。
 これ以上、わからないことをただ考えていてもしかたがない。
 敵について考えることは、むろん必要なことだ。こんな強敵なら、なおさら。どう戦うか、決めるためにも。だが、それでいたずらに時を費やすばかりではなんにもならない。危険は承知だが、それでもここは仕掛けてみるしかなかった。さらに攻撃して、初めて見えてくるものもあるはずだ。――何より、仲間の状態を見るに、もうこれ以上もちそうにない。
「やるぞ、GIA。?薄暮隊(ダスク)?の動かし方は任せる。攻撃の方法もタイミングも、いっさいお前の判断で構わん。奴とこちらの動きを見て、いいと思ったことをやれ」
「はっ」
 バステラの言葉に短かい返答が返る。
 だが、その時だった。
「キャップ。チーフ」
 澄んだ声が聞こえるとともに、バステラの後ろにいきなり一人の女性の姿が現れた。

 
K-クリスタル / 2009-12-30 23:25:00 No.1617

            ※

 ようやく、来るか――。
 いましばらく待って何の動きもないなら、揺さぶりをかけてみるつもりだった。と言っても、たいしたことではない。一歩か二歩、前へ踏み出す。それだけでも充分なはずだ。しかし、どうやらその必要もない。ほどなく、再び仕掛けてくるだろう。
 初めから少し離れた位置に立ち、仲間に指示を出していた男――前線の指揮官だろう――は、その一方で、じっとこちらの様子をうかがっていたが、今その目にあらためて力がこもってきていた。そしてまた、奥まった部屋のようになった一画の内部でも、何人かの気が漲っている・・・。
 気配は、ずっとあった。
 ここに踏み込んだときから、すぐさま向かってきた者たちとはまた別に、敵の内部、奥の方でも何らかの動きが続いていた。
 だが、今にいたるまで表には現れない。
 予想より、ずっと冷静な反応――少なくも、指揮している者たちは落ち着きを失ってはいない。そして、その抑えが充分効いている。思ったより、統制の取れたまとまりのあるグループのようだった。
 言うなれば、組織としての強さを持っている。
 ならば、その強さを十二分に発揮させる。今、まわりにいる者たちひとりひとりの純粋な戦闘力は見るところ、最初にかかってきた5人よりまさる者はむしろ少なく、それらの者にしてもたいした違いではない。つまり、同じように向かってくるなら、まったく話にもならない。
 だが、あの指揮官やその上にいるような者なら、同じ轍は踏むまい。必ず、何らかの別の策を講じてくる。そのことで単体よりずっと力を出すというなら、出させてやった上で、それを受ける。
 しかしながら、どのような戦法で実力以上の力を表したところで、ここにいる者たちだけでは遙かに力不足なのは明らかだった。だが、そうした戦いになれば、その流れの中で、まだ表に現れないものたちも出てくるはずだ。そうなって初めて、目的に適う戦いにすることもできる。
 いまだ奥にいる者たちの中で、闘気として、特に大きなものは三つ。――まずは、その3人を引きずり出す。そして、叩き潰す。
 もはや、左手だけを使う意味もない。
 一応確かめてみたわけだが、やはりむだなようだった。
 攻撃に左手だけ使うことで、戦気のもっとも濃いところに、それを置いた。万が一にも、それで傷の具合に変化が表れる可能性も考えてのことだったが、いっこう何ら変わりはない。
 半ば以上は、予想したとおりの結果ではあった。そんなことで回復するぐらいなら、もうとうに癒えているはずだ。?あれ?に喰われたということは、そう簡単なものではないのだろう。おそらく、これはただの負傷などではない。
 一方、ことのついでに、この左手がどれだけ使えるかも試した。
 今、左手がだらりと完全に力の抜けたありさまなのは、他になりようがないためだ。動かせないのだから。拳に固めるために指や掌を曲げることも、手刀を作るために伸ばすこともできない。他のどんな形もむりだ。
 痛みのゆえではない。
 指や掌を動かすべき筋肉や腱、また神経が切れ、あるいは存在しないがために、物理的に動かすことができないのだ。手首までは何ともないが、その先はほとんど自由にならない。
 当然、この状態では戦闘には耐えない。そこで、気を通すことで、力を持たせた。それも、そのやり方によって、打撃、切断、刺突、そして、内崩と・・・そのくらいのことなら可能なのは、確認した。
 これならば、普段どおりというわけにはいかないものの、とりあえずは充分だった。少なくとも、今まわりにいる程度の連中相手には、たくさんだろう。
 さらなる強者が出てきた場合でも、さほど不自由は覚えないはずだ。――もとより、力を解放するなら、なんの問題もない。
 むしろ、そういった者たちが早く出てくるように仕向けるには、今までのような極端に限定的な戦い方はもうやめた方がいいかもしれなかった。試すことも終わったことでもある。どんな戦法でかかってくるにせよ、今度仕掛けてきたらそのまま、直接向かってきた者以外も含めてここにいる半数ほどは、始末してみせるべきか・・・。
 しかし、まず相手の出方だった。

次々々  
K-クリスタル / 2009-12-30 23:28:00 No.1618
 気がついたら、前回から5ヶ月以上もたってる・・・「次回はもちっとハヤく載せる」とかナントカいっといて・・・orz
 ソレも、「年末年始にこんなハナシはないだろーって、エンリョしてたら」なんつって、もーツギの年末だし・・・(ノД`)
 ともあれ、第3回です(プロローグのぞく)

 ケド、アレだ 今回、内容的にもカンジンのアノ兄貴、チットもはたらいとらんのだが・・・
 ソノ代わりの見どころ――になるかどーかわからんけど、コノ回は敵呪詛悪魔側の描写が中心です 新キャラも、マタマタ出ました、3人も・・・(セーカクには、ファデットさんは、ナマエこそ明らかではなかったけど、前々回スデにチラッと出てたんで、ホントの新キャラではないが・・・シカシ、だとしても、別にひとりいるしね)
 また、ムダに個性の強い、曲者ぞろいですw
 ただまー、さいわい前回のヒトたちのよーに登場即死亡ってコトではないんで、どーかみなさんも、親しんでやってください <m(_ _)m> 
 (まー、イズレは、ミンナ死んじゃうんだケド・・・( ̄▽ ̄;))

 あとは、まーチョットした種明かし?
 カンディードの兄貴のやることは、一見わけワカランよーでも、じつわ、ソレなりのちゃんとしたワケがあるんだとゆー
 シカシ、それが他に理解されるコトはめったにないんで、ケッカとして、赴くところいろんなコンランを巻きおこすのがこの男の宿世なんですが、決してワザとやってるワケではありませんw
 ・・・まー、あえて他に理解させるよーなコトも、トクに必要もないんでやらないってのも事実ですが・・・

 そいでは、また
 今度はタブンけーじ板以外のトコでお会いすることになるとおもいます

Re:  
エマ / 2010-01-03 16:04:00 No.1623
ブラッディー・クロス、待望の3話目ですね。

今回は戦闘そのものはなく、呪詛悪魔側のキャラクターと作戦の模様が主に描かれていますね。
GIAという、姿を現さない謎の部下が登場してきました。
このキャラは戦闘そのものからは一歩引いて、状況を観察してバステラに報告することが任務の一つのようですね。
相手がカンディードとはいえ、かなりのところまで冷静に分析できているところはすごいですね。
もっとも、その冷静な分析の結果は、かなり絶望的なもののようですが・・・。

また、不死蝶という仲間もいるんですね。スピードにおいてはカンディードに対抗できそう、ということで
相当の手練れだと思いますが。実際にカンディードと戦うのでしょうか。気になりますね。
Giaと配下をあわせたチーム、というのは?五爪(タランズ)?のことでしょうか。不死蝶もその一人ですかね。

また、今度はアレクとガルシア、ニール、ゲン、ファデットというキャラクターが新たに出てきましたね。
アレクは相当かっかきやすいようで、確かに冷徹なカンディード相手では、それは命取りのようですね。
ゲンというキャラクターはおじいちゃんキャラですか?(笑) しかし青年、と書かれているし。実際は若者なんでしょうか。
アレクを実力で諫めるなど、実力的にもかなりの重鎮のようですが・・・。ピンチの時に頼りになりそうですね。
ファデットは、ブラウスを着た少女のような感じで、話し方などもあまり呪詛悪魔という感じがしませんね。でも、きっと何らかの過去があって呪詛悪魔になったんでしょうね。
アレクのお姉さん分のようで、二人の掛け合いとかも見てみたいですが・・・その前にやられちゃうのかな^^;

それぞれ性格と個性が大きく違うようで、それぞれどう動くか楽しみです。


しかし、カンディードの兄貴、片手しか使ってなかったんかいなw
負傷した左手がどれくらい使い物になるか、テストということですが、そんなことにためにやられてしまうというのも、
呪詛悪魔グループにとっては屈辱でしょうね。
バステラたちも、カンディードの出鱈目な強さに、一種の思考停止に落ちいってしまったようですが、小細工なしで、
実力者であるGIAたちに任せたようですね。どうなるのかなー。
あと、バステラの背後に現れた女性・・・ファデットとは別人ですよね。何者なんだろう・・・仲間なのでしょうが、気になりますね。

最後にカンディードの視点で語られていますが、どのようにして相手に最高の実力を出させるか、に腐心しているようですね。
なんというか、実力差として完全な遊びにはいっちゃった感じがありますね。
RPGでいうなら、レベルMAXになってそこらの雑魚敵を倒しても全然面白くなくなっちゃった・・・みたいなw

これが、相手がカンディードでなかれば、このバステラのグループも相当強力な呪詛悪魔グループとして、格好良く描かれたでしょうに・・・。
クリスさん、これカンディードとぶつかる前のこの人たちの武勇伝とか書いてみない?(笑)
色々個性の強いキャラが多いだけに、このままやられて、みんなの忘却の彼方に飛ばされてしまうのも可哀想ですよーw

あと、カンディードが今ほど強くなかったときの話とかも見てみたいですね。今だととにかく簡単に敵に勝ってしまうから、
あっけないよーなドキドキハラハラ感がないとゆーか・・・。うん^^;

とにかく、次回はまた戦闘がありそうなので、楽しみに4話をお待ちしていますねー。

Re:  
エマ / 2010-01-07 23:16:00 No.1628
しかし、薄暮隊(ダスク)とはどういうイミでしょうね。
薄い夕暮れ? ちがう??^^;

フェンリルはランサークラスは「SILEN」とか「ソニック」とか、名前のあるチームを組んでいますが、
呪詛悪魔にも名前を持ったチームがある、というのは面白いですね。カッコ良くてていいです。

そうそう、立ち絵を描いてくれる方から、「呪詛悪魔にも人気キャラっているんですか?」って聞かれました。

今のところ、一番存在感があるのは夢カルの「饗介」ではないかと思います。あとは、死の先の「オラクル」かなぁ。個人的に。

これから、呪詛悪魔の人気キャラもどんどん育っていって欲しいですね。

Re:  
エマ / 2010-01-07 23:48:00 No.1630
Wikipediaで調べてみた。
薄暮(はくぼ)とは日没後の黄昏を指すんですね。
へぇ〜、エマおじさん知らなかったよw

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