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2人のモモ。第四話。
K'SARS /
2005-09-21 22:07:00
No.709
2人のモモ〜内に秘めていたあなたへの思い〜
ずっと、お兄ちゃんがほしいって思っていた。
私が気が付いたときには下にもう2人の妹弟がいて、年上に生まれてしまった者の勤めとして、面倒を見なければならなかったし、私立中学に入学させられるための勉強とかもあったから、いつも、気を使っていなければならなかった。
だから余計にそう思っていたけど、そのことを親に言ったところで絶対に無理なことはわかっていたから、私も強く言わないでいた。
でも、私の願いは意外な形で叶うことになった。
「今日から、あなたたちのお義兄ちゃんになる、浩人くんよ」
「よろしく」
従兄の奥村浩人さん。
私たちが小さい頃からずっと遊んでもらっている、ちょっと意地悪だけど、根はすごく優しい人。
お母さんから紹介されたとき、まさに天にも昇る気持ちでいっぱいで、すぐに私は、浩兄ぃに甘えた。
それこそ、妹弟を差し置いて、いつも甘えていた。
浩兄ぃに恋人が出来てからはちょっと距離を置いたけど、それでも、傍から見ればカップルに見えるぐらい、仲はよかった。
……あの日が来るまでは。
「どうぞ」
「ありがとう」
あの後、浩兄ぃの家に招待された私とラナは、そのまま一緒に夕食をごちそうになっていた。
驚いたことに、私の住んでいるマンションの最上階に住んでいて、かなりリッチな生活をしていた。
おまけに、女の子と同居していた。
「お兄ちゃん。私たちは、隣のお部屋に居ますね」
「ああ。悪いな」
「えう〜」
「はう〜」
佐希魅ちゃんとラナ(しぶしぶ)が隣の部屋に行った瞬間、周りの空気が重くなる。
まあ、そうさせている原因は私なんだけど。
出されたミルクティを一口飲んだ後、ゆっくりと私は話し出した。
「聞きたいこと。言いたいこと。殴りたかったこと。今度浩兄ぃに会ったら、やりたかったことが、こうして実際に会ったら、もうどうでもよくなっちゃった」
「お前らしくないな」
「くすくす。そうかもね……。1つだけ、聞いていい?」
「なんだ?」
「どうして、連絡してくれなかったの?」
少年院を出たと聞かされてから、私は幾度も浩兄ぃに連絡を取ろうとしたけど、どこにいるかすらわからなくて、両親も、ここ何年かは連絡を取っていなかったために、完全に音信不通になっていた。
私は捜索願を出そうとしていたけど、
「浩人くんの願いなのよ」
と、ずっと断られてきた。
大好きだった人がいきなり居なくなってからの私は、少しだけ魂が抜けた存在で、高校を卒業して、ラナと出会うまで、ほとんど無気力状態だった。
それぐらい浩兄ぃは、大切な人だった。
「それが、桃華たちのためだと思ったからだ。親父さんたちも、それは了承してくれた」
「そんなことを聞いているんじゃないよ。どうして、私に連絡をくれなかったかって、聞いているの」
「……必要ないからだって、思ったからだ」
「……」
浩兄ぃの言葉が、冷たく、私の心に突き刺さった。
身体に力が入らなくて、頭の中が真っ白になっていた。
「俺と桃華は他人だからな」
「……兄妹、だよ」
気が付けば、私は涙を流していた。
ラナにも見せたことなかったのに。
「私と浩兄ぃは、兄妹、だよ」
「桃華…」
「血は繋がっていないけどね、私はずっと、浩兄ぃのことが大好きで、晴華と辰也たちと一緒に、過ごした時間が、私にとっては宝物だったんだよ。なのに、なのに…」
うまく言葉にならなかった。
もう涙で感情が高ぶって、嗚咽が部屋の中に響いていた。
いつ声を出して泣いてもおかしくはなかった。
と、そのときだった。
「ご主人様!」
隣の部屋から、ラナが飛び出してきた。
私はとっさに、涙を拭いて、駆け寄ってきたラナを抱きしめた。
「泣いちゃ駄目です。泣いちゃ、駄目」
「ラナ…」
「えう〜。女の子を泣かすなんて、駄目ですよ。ご主人様」
「ご主人様言うなっていつも言っているだろうが」
「いいじゃないですか。お家なんですから」
「えう〜のくせに、口答えするな」
「えう〜」
「ご主人様って…。まさか、佐希魅ちゃんって、守護天使?」
「はいですよぉー」
元気に返事をした佐希魅ちゃんがその場で一周すると、瞬く間に、来ていた服がめいど服へと変化した。
ラナのとは違い、青色で、大きな羽がついていた。
胸元には、なにやら勲章のようなものがあった。
「改めて、ご挨拶しますぅ。私は、ハトのサキミと申します。3級守護天使で、上級援護天使なんですぅ」
「ドジでバカだから、何時まで経っても評価が上がらないんだ」
「えう〜。ひどいですよ、ご主人様」
「何だよ。本当のことだろ、純粋天然無垢馬鹿えう〜天使」
「えううううう!」
頬を膨らませて抗議する佐希魅ちゃん、もとい、サキミちゃんはだったけど、浩兄ぃはなんてことなくスルーした。
というか、見事まで遊ばれているね。
「…ったく、調子狂ってしまっただろうが。せっかく、久しぶりに桃華に会えたから、少し格好をつけていたのに」
「そ、そうなの?」
「まあな。じゃないとさ、色々と湿っぽい話とかしちゃうだろう?」
苦笑いをしながら、浩兄ぃはそっと、拗ねているサキミちゃんの頭を撫でている。
「つーん」
「サキミちんよ。このぐらいでいちいち拗ねていちゃ、身が持たんぞ」
「えう〜。自分で言わないでくださいよ、ご主人様」
「いいのだ。これが俺だ」
「威張って言うことじゃないですぅ」
目の前で繰り広げられている光景を見ているうちに、私の脳裏に、昔の浩兄ぃとのやりとりが浮かんできた。
いつもからかわれる私たちと、いつもからかっている浩兄ぃ。
最初は嫌だったけど、毎日のように繰り返しているうちに、コミュニケーションの一部になって、そんな日々が楽しくて、浩兄ぃのことが好きになっていく自分がいた。
一度は忘れようと思っていたけど、こんなにも簡単に甦ってしまった。
「じゃあ、もう一度聞くけど、どうして連絡をくれなかったの?」
「取ろうと思ったんだけどよ、新しい住所の番号とか聞いていなかったから、取れなかったんだよ。親父さんたちもそのことを忘れていたみたいだったから、どうしようもなくてよ」
「……はあ」
体の奥底から、私は溜息をついた。
こういう抜けているところ、本当に変わらないな。
「携帯というものがあるんだけどさ」
「……そうだった」
機種は変えているけど、ずっと番号は変わっていない。
浩兄ぃは持っていなかったけど、もう何回か掛けていたから、もう覚えたと言っていたし、何よりも、今の本人がしている「しまった」って顔をしているから、まだ覚えていたんだろう。
「もちろん、今でも同じだよな」
「うん。だって私、今の番号好きだもん」
私の好きな数字がたくさん入っていて、縁起もいいからと思っているからね。
「はあ……。俺ってやつは…」
「えう〜。ご主人様がこんなに落ち込んでいるの、初めてですぅ」
「…まあ、こうしてまた再会できたし、近くに住んでいるんだから、毎日でも会えるよね」
「会う気か?」
「もちろんよ」
年頃の乙女に寂しい想いをさせたんだから、そのぐらいは当然よね。
Re: 2人のモモ。第四話。
K'SARS /
2005-09-21 22:08:00
No.710
「ラナも、ここが第二の家だと思って、来てもいいよ」
「はう〜。で、でも…」
「桃華の守護天使なら、遠慮はしなくてもいいよ。ここにはサキミたちもいるからさ、寂しくはならないと思うし」
「たち?」
「ああ。後2人いるんだけど、野暮用でいないんだ」
ということは、浩兄ぃのところには、3人の守護天使がいるのか。
……まさか、ね。
「えう。ご主人様。そろそろいらっしゃいますよ」
「もうそんな時間か」
「お客さんが来るの?」
「まあな」
ぴーんぽーん。
なんていっている間に、家のチャイムが鳴った。
「こんばんわー」
あれ? この声は…。
「私、出てきますね」
「おう」
サキミちゃんが玄関に向かってからほどなくして、1人の男性が入ってきた。
玉手箱にいた、エマさんだった。
「あれー? 桃華ちゃんだわ」
「こ、こんばんわ」
「桃華とは従兄妹なんですよ」
「まあ、そうだったの」
「ところで…」
「わかっているわよ。せーの」
浩兄ぃとエマさんは、2人揃って変な格好をして、そして、高らかに叫んだ。
「「HOOOOOOOOOOOOO!」」
「えう〜。何時見ても、不思議な光景ですぅ」
「確かに…」
「はう〜!」
ああ、ラナ、怖がって私の後ろに隠れちゃった。
まあ、気持ちはわからなくもないけどね。
「ところで、エマさんは浩兄ぃになんか用なんですか?」
「ええ。お弁当をいただきに」
「お弁当?」
「あれ? 桃華、ここに入るときの契約書に書いていなかったっけ? ここ、エマさんに食事を作ってあげると、食事の美味さや材料費などをエマさん独特に検証して、ランク付けするんだ」
「そうなのよ。浩人くんのところは、サキミちゃんが作る料理が材料費の割りにおいしいから、家賃を本来の半分にしているのよ」
「は、半分!?」
あまりにもすごい話に、思わず大声を出してしまった。
浩兄ぃが住んでいる最上階は、もちろん、ここのマンションの中の価格では一番高くて、セレブとかがいるイメージしかなかったけど、半分の価格だと、ちょうど私の住んでいる階と同じ価格になる。
もちろん、私のところもそれなりに安くしてもらったって母さんが言っていたけど、ご飯のことについては全くの初耳だった。
「桃華ちゃんも、エマシステム、取り入れる? まずかったら、2倍の家賃をいただくけど」
「やります!」
私はほぼ間髪を入れずに即答した。
こんなおいしい話、逃してなるものですか。
「まあ、桃華なら心配ないと思うけどな。こいつ、黙っていれば、すごく家庭的ないい女なんだから」
「……浩兄ぃ。アレ、食べさせるよ(にっこり)」
「…遠慮しておきます」
ラナと出会うに、一度だけ、罰ゲームとして、近所の喫茶店でやっていた激甘ケーキを食べてもらったことがあって、私も真似して作ったら、それが浩兄ぃのトラウマになってしまったというエピソードがある。
以来、私が浩兄ぃに唯一対抗できる手段の一つになっている。
もっとも、桃ラナSPを作ってからというもの、どんどん甘さのレベルが上がっているから、多分、あっという間に気絶してしまうかも。
「だったら、明日伺うから、そのときに判断させてもらうわ」
「はい!」
「はう〜。桃華お姉ちゃん、気合入っているよー」
「もちろんよ、ラナ。明日の潤いのある生活のためよー。というわけで、今日は失礼するわね。じゃあね、浩兄ぃ、サキミちゃん」
「ああ。また明日な」
「えう〜。バイバイですぅ〜」
私とラナは、急いで自分の家に戻って、色々と考えながら、エマさんのお弁当とラナのお弁当の内容を考えた。
そして、浩兄ぃに会えた喜びを体一杯に感じながら、次の日を迎えたのであった。
<続>
後書き♪
K'SARS「なんというか、締めが相変わらず弱いよな、俺」
晴華 「終わりよければ全て良しっていうのにね」
K'SARS「はあ。なんとかしないと」
晴華 「勉強しなさい」
K'SARS「わかっているよ」
晴華 「それにしても、えう〜ファンに大サービスしたみたいだね」
K'SARS「そんなつもりはないんだけどな」
晴華 「照れなくてもいいってば。もう、浩兄ちゃまと一緒で、素直じゃないんだから」
K'SARS「まあ、ある意味、奴とは一心同体だからな」
晴華 「そうだね」
K'SARS「さて、今回はこの辺で」
晴華 「でははん!」
Re: 2人のモモ。第四話。
エマ /
2005-10-31 17:59:00
No.749
二人のモモ、すでにどのシリーズなのか記憶があやふやになりつつあるのですが、まぁそれはそれとしてw
桃華ちゃんと浩人さん、どちらもご主人様としては非常にインパクトのある人だと思います。
しかしどちらも気が強くて、二人がぶつかったらどういう風になるのかな。と思ったのですが、桃華ちゃんの方が浩人さんをそこまで慕っていたとは、私の予想とは違って意外でした。こんな言い方は失礼になってしまうかもしれませんが、やっぱり女の子ですね。
今では男の子に甘えるなど無いのでしょうが、そういう小さい時に浩人さんに思い切り甘えていたシーンは見てみたい気がします。
あの事件、というのは。以前Kさんがチャットで教えてくれたあの事件ですね。罪を犯したとはいえ、浩人さんにとってはそれはもう許せなかったわけで・・・。もしかして桃華ちゃんが一時期グレちゃったのは、浩人さんの失踪も影響しているんでしょうか。
桃華ちゃん、泣き出してしまうし。今回は女の子らしい所が色々みれてクリスさんなどはそれはもう嬉しかったんじゃないかとw
そんな中、ラナちゃんとサキミちゃんが出てきて対面する、というのは状況としては混沌としてますが、なんだか実際にありそうで面白いですね。
そして、出てきた。エマHGw
なんだか強烈なキャラクターとして定着しそうですなぁ。本家レイザーラモンな人と同じく、今年くらいまではエマステ限定で一世を風靡しそうですw
というか実際にエマシステムみたいな物があるマンションとかあったら、いいですね。そしたら私も料理とか勉強してみますよ。今から上達するか分かりませんが。
さて、と。浩人さんとも再開できて、次回からどんどんにぎやかになりそうですね。次も期待しています!
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ずっと、お兄ちゃんがほしいって思っていた。
私が気が付いたときには下にもう2人の妹弟がいて、年上に生まれてしまった者の勤めとして、面倒を見なければならなかったし、私立中学に入学させられるための勉強とかもあったから、いつも、気を使っていなければならなかった。
だから余計にそう思っていたけど、そのことを親に言ったところで絶対に無理なことはわかっていたから、私も強く言わないでいた。
でも、私の願いは意外な形で叶うことになった。
「今日から、あなたたちのお義兄ちゃんになる、浩人くんよ」
「よろしく」
従兄の奥村浩人さん。
私たちが小さい頃からずっと遊んでもらっている、ちょっと意地悪だけど、根はすごく優しい人。
お母さんから紹介されたとき、まさに天にも昇る気持ちでいっぱいで、すぐに私は、浩兄ぃに甘えた。
それこそ、妹弟を差し置いて、いつも甘えていた。
浩兄ぃに恋人が出来てからはちょっと距離を置いたけど、それでも、傍から見ればカップルに見えるぐらい、仲はよかった。
……あの日が来るまでは。
「どうぞ」
「ありがとう」
あの後、浩兄ぃの家に招待された私とラナは、そのまま一緒に夕食をごちそうになっていた。
驚いたことに、私の住んでいるマンションの最上階に住んでいて、かなりリッチな生活をしていた。
おまけに、女の子と同居していた。
「お兄ちゃん。私たちは、隣のお部屋に居ますね」
「ああ。悪いな」
「えう〜」
「はう〜」
佐希魅ちゃんとラナ(しぶしぶ)が隣の部屋に行った瞬間、周りの空気が重くなる。
まあ、そうさせている原因は私なんだけど。
出されたミルクティを一口飲んだ後、ゆっくりと私は話し出した。
「聞きたいこと。言いたいこと。殴りたかったこと。今度浩兄ぃに会ったら、やりたかったことが、こうして実際に会ったら、もうどうでもよくなっちゃった」
「お前らしくないな」
「くすくす。そうかもね……。1つだけ、聞いていい?」
「なんだ?」
「どうして、連絡してくれなかったの?」
少年院を出たと聞かされてから、私は幾度も浩兄ぃに連絡を取ろうとしたけど、どこにいるかすらわからなくて、両親も、ここ何年かは連絡を取っていなかったために、完全に音信不通になっていた。
私は捜索願を出そうとしていたけど、
「浩人くんの願いなのよ」
と、ずっと断られてきた。
大好きだった人がいきなり居なくなってからの私は、少しだけ魂が抜けた存在で、高校を卒業して、ラナと出会うまで、ほとんど無気力状態だった。
それぐらい浩兄ぃは、大切な人だった。
「それが、桃華たちのためだと思ったからだ。親父さんたちも、それは了承してくれた」
「そんなことを聞いているんじゃないよ。どうして、私に連絡をくれなかったかって、聞いているの」
「……必要ないからだって、思ったからだ」
「……」
浩兄ぃの言葉が、冷たく、私の心に突き刺さった。
身体に力が入らなくて、頭の中が真っ白になっていた。
「俺と桃華は他人だからな」
「……兄妹、だよ」
気が付けば、私は涙を流していた。
ラナにも見せたことなかったのに。
「私と浩兄ぃは、兄妹、だよ」
「桃華…」
「血は繋がっていないけどね、私はずっと、浩兄ぃのことが大好きで、晴華と辰也たちと一緒に、過ごした時間が、私にとっては宝物だったんだよ。なのに、なのに…」
うまく言葉にならなかった。
もう涙で感情が高ぶって、嗚咽が部屋の中に響いていた。
いつ声を出して泣いてもおかしくはなかった。
と、そのときだった。
「ご主人様!」
隣の部屋から、ラナが飛び出してきた。
私はとっさに、涙を拭いて、駆け寄ってきたラナを抱きしめた。
「泣いちゃ駄目です。泣いちゃ、駄目」
「ラナ…」
「えう〜。女の子を泣かすなんて、駄目ですよ。ご主人様」
「ご主人様言うなっていつも言っているだろうが」
「いいじゃないですか。お家なんですから」
「えう〜のくせに、口答えするな」
「えう〜」
「ご主人様って…。まさか、佐希魅ちゃんって、守護天使?」
「はいですよぉー」
元気に返事をした佐希魅ちゃんがその場で一周すると、瞬く間に、来ていた服がめいど服へと変化した。
ラナのとは違い、青色で、大きな羽がついていた。
胸元には、なにやら勲章のようなものがあった。
「改めて、ご挨拶しますぅ。私は、ハトのサキミと申します。3級守護天使で、上級援護天使なんですぅ」
「ドジでバカだから、何時まで経っても評価が上がらないんだ」
「えう〜。ひどいですよ、ご主人様」
「何だよ。本当のことだろ、純粋天然無垢馬鹿えう〜天使」
「えううううう!」
頬を膨らませて抗議する佐希魅ちゃん、もとい、サキミちゃんはだったけど、浩兄ぃはなんてことなくスルーした。
というか、見事まで遊ばれているね。
「…ったく、調子狂ってしまっただろうが。せっかく、久しぶりに桃華に会えたから、少し格好をつけていたのに」
「そ、そうなの?」
「まあな。じゃないとさ、色々と湿っぽい話とかしちゃうだろう?」
苦笑いをしながら、浩兄ぃはそっと、拗ねているサキミちゃんの頭を撫でている。
「つーん」
「サキミちんよ。このぐらいでいちいち拗ねていちゃ、身が持たんぞ」
「えう〜。自分で言わないでくださいよ、ご主人様」
「いいのだ。これが俺だ」
「威張って言うことじゃないですぅ」
目の前で繰り広げられている光景を見ているうちに、私の脳裏に、昔の浩兄ぃとのやりとりが浮かんできた。
いつもからかわれる私たちと、いつもからかっている浩兄ぃ。
最初は嫌だったけど、毎日のように繰り返しているうちに、コミュニケーションの一部になって、そんな日々が楽しくて、浩兄ぃのことが好きになっていく自分がいた。
一度は忘れようと思っていたけど、こんなにも簡単に甦ってしまった。
「じゃあ、もう一度聞くけど、どうして連絡をくれなかったの?」
「取ろうと思ったんだけどよ、新しい住所の番号とか聞いていなかったから、取れなかったんだよ。親父さんたちもそのことを忘れていたみたいだったから、どうしようもなくてよ」
「……はあ」
体の奥底から、私は溜息をついた。
こういう抜けているところ、本当に変わらないな。
「携帯というものがあるんだけどさ」
「……そうだった」
機種は変えているけど、ずっと番号は変わっていない。
浩兄ぃは持っていなかったけど、もう何回か掛けていたから、もう覚えたと言っていたし、何よりも、今の本人がしている「しまった」って顔をしているから、まだ覚えていたんだろう。
「もちろん、今でも同じだよな」
「うん。だって私、今の番号好きだもん」
私の好きな数字がたくさん入っていて、縁起もいいからと思っているからね。
「はあ……。俺ってやつは…」
「えう〜。ご主人様がこんなに落ち込んでいるの、初めてですぅ」
「…まあ、こうしてまた再会できたし、近くに住んでいるんだから、毎日でも会えるよね」
「会う気か?」
「もちろんよ」
年頃の乙女に寂しい想いをさせたんだから、そのぐらいは当然よね。