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想いを未来へ。4-1
K'SARS /
2005-10-11 11:31:00
No.738
早朝。
太陽が昇ると共に起きた聖者は、隣に寝ている人の気配に気が付いた。
桃だった。
「なっ!」
目の前にあった女の子の顔にびっくりした聖者は、猛烈な勢いで飛び上がり、壁際に背中をつけた。
「お前、本当に男か?」
隣で座禅していた拳者が、あまりにひどい聖者の反応に、溜息をつく。
「拳者。君だろう? 桃ちゃんを僕の隣に寝かせたのは」
「まあ、それは認める。つうか、男が女の、しかも、幼女の寝顔にいちいち驚くんじゃないの。見ているこっちの方が恥ずかしいわ」
「……どうも、ね」
気持ちを落ち着かせた聖者は、拳者の隣に座って、一緒に座禅をする。
「別に女が苦手ってわけじゃないだろう?」
「うん。確かに、そう」
「……まあ、いいけど」
聖者の中に芽生えた感情の正体を、拳者は自ずと感じた。
過去、同じような経験をしてきた者のカンというやつだろう。
ただ、それを思い出すと苦しい思いにもなる。
「さてと。僕は外にあった井戸で身を清めてくるよ」
「ああ」
荷物の中から手ぬぐいを取り出して、そっと離れから出る聖者。
それと同時に、健やかな寝息を立てていた桃が軽く身震いし、目を覚ました。
「う、うーん」
「よお。おはよう」
「………はふぅん?」
「また、すごい言葉を発したな」
拳者はまだ寝ぼけている桃を強引に起こして、白い肌が露出してる着崩れの部分を直す。
それから何故か携帯していた櫛を取り出して、ストレートな桃色の髪を梳いていく。
「うん。あとは、寝ぼけ顔を整えれば、可愛い幼子の出来上がり」
「あ、ありがとうございます……。それと、おはようございます」
「おう」
拳者は手元にある水が張ってある桶に手ぬぐいを入れ、きつく絞ったあとに、そっと桃の顔を拭いていく。
「あ、あの、自分でやりますから」
「いいからいいから。こう見えても、妹にこういうことをしてあげたことあるから」
「はふぅん」
一応は抵抗するものの、がっちりと身体を拘束されているために、桃は身動きが出来ないまま、拳者の人形と化す。
でも、嫌な気分ではなかった。
(なんだろう、この気持ち。拳者様に始めて出会ったときから、ずっと…)
ドキドキはしない。
それよりも、暖かい気持ちが体中に広がって、ほわーんとなる感じ。
「…うん。完了っと」
「す、すみません」
「はは。俺相手に遠慮はしなくてもいいよ」
「は、はいです」
わちゃくちゃと桃の頭を撫でた拳者は、うーんと背伸びしてから立ち上がり、外の空気を中に入れる。
同時に太陽の光が入ってきて、身体いっぱいにそれを受けた。
「今日もいい天気だな」
「そうですね」
トントン。
ふいにノックの音がした。
拳者が開けてみると、そこには、藍を筆頭とした女性たちが手にお盆を持ってやってきた。
「ご機嫌様です」
「あっ、藍お姉様」
「おぃーっす」
「うふふ。変わったご挨拶ですね」
藍たちは軽く挨拶をすると、離れの中に入り、さっきまで拳者たちが寝起きしていた場所にお盆を置く。
そこには、おいしそうな匂いを放っている食事があった。
本来ならば、この辺の庶民が咽から手が出そうなほど、豪勢なご馳走の数々なのだが、拳者は逆に表情が硬くなっていく。
「……(肉があるかと思ったんだけどな)」
「拳者様?」
「いや、なんでもない。さてと、聖者を呼びに行くか」
苦し紛れに外に出た拳者に、離れに居た者たちが一様に『?』マークが頭の上に上がった。
「ふう」
ふんどし姿一丁になった聖者は、井戸の水で身を清めていた。
それは同時に、己の中の魔力を高める行為でもある。
聖者は幼いころから、常人にはない力を持っていた。
自分の意思で手に光の球を出し、あらゆるモノにそれをぶつけ、様々な効果を生み出してきた。
時には癒しの力を。
時には破壊の力を。
心優しい聖者は、主に前者の力を使い、病に苦しむモノたちを助けてきた。
ここで言うモノには、動物も含まれている。
つまりは、全ての生きとし生きているモノたちが対象となっている。
もちろん、その力を狙ってくる輩も、それこそわんさかいた。
始めは、村の者たちが守護してくれたが、次第に増える夜盗や賊たちの対処に悩まされ、聖者を筆頭に、男たちの疲労が蓄積していた。
この状況に、聖者は村を離れることを提案したが、村長は己の欲望と女子供たちの説得されて、出るに出れなかった。
そんなときに現れたのは、拳者だった。
日々の変化と共に、運命の変化となった聖者は、この機を逃すことなく、無事に村を出ることができ、これまで拳者と共に歩んできた。
「お前、ここには婦女子たちがわんさかいるというのに、よくもまあ、そんな格好なんて出来るものだな」
「拳者」
呆れと関心をあわせた顔で、拳者がやってきた。
「服を着たままだと、清められないだろう?」
「それにしても……。まあ、いいか。それがお前の常なんだろうから」
「僕としては、拳者の行動の方が異質に思えるけどな」
聖者から、いや、全ての人たちから見て、拳者の行動は全てにおいて異質に移った。
その逆もしかり。
「まあいいや。それよりも、朝餉が出来たみたいだから、行こうぜ」
「うん」
と、そのときだった。
「……嫌な感じが、した」
「ああ。嫌な気配が漂っているな」
聖者の先見と拳者の索敵能力が発動した。
「もう、この辺りを囲んでいるみたいだね」
「みたいだな。数はざっと百は超える」
「狙いは僕たちかな? それとも別の何か」
「その可能性はあるだろうけど、それにしちゃ、数が多いな。複数の、しかも、別々の連中がいると思うほうが妥当だな」
「じゃあ、狙いはここ?」
「まあ、すぐには襲い掛かってこないだろう。大方、様子見ってとこだろうな」
「どうするの?」
「とりあえず、朝餉にしよう。いくら粗食でも、腹が減っては戦は出来ぬぞ。それに、桃も待っているし」
「あ、ああ」
桃の名前を聞いたとたん、聖者の脳裏には先ほどの光景が思い浮かび、顔を赤くする。
(ロリだったのか、聖者って。うーむ)
自分のことを棚に上げて、聖者のことを心の中で突っ込む拳者。
「ほれ、行くぞ」
「分かった」
聖者は脱いでいた着物を着て、拳者と共に離れへと向かった。
想いを未来へ。4-2
K'SARS /
2005-10-11 11:32:00
No.739
朝餉を終えた聖者と拳者は、軽く屋敷の外を回ることにした。
昨晩は暗くてよく見えなかった地形が徐々に明らかになり、同時に、この屋敷が数多くの敵から守る手段を取っていることがわかった。
「平地でこれだけの防御手段。あまり平穏っていうわけじゃなさそうだね」
「ああ。しかも、ここ最近にも襲撃があったらしいな」
外壁に残る火の後。
この時代には火薬というものがないため、必然と、火矢ということになる。
「しかし、燃えなかったというのはどういうことだ?」
「結界が張られているからだよ」
「結界?」
「うん。この屋敷全体を覆うほどの防御壁。そのおかげで、今まで凌いで来れたんだね」
「裏を返せば、ここは夜盗やら賊が狙う、何かがあるわけか。なんか、昔のお前みたいな感じだな」
「…そうだね」
聖者は屋敷にあった墓を思い出していた。
ここの人たちを守って逝った人たち。
それはかつて、聖者の村にもあった光景。
名前も知らない人たちが自分の身を犠牲にしてくれた結果。
もうそんなことが嫌で、聖者は村を飛び出した。
なのに、ここでも同じような光景が繰り返されていることに、聖者は苛立ちを覚えずには居られなかった。
「……なあ、聖者」
拳者は痛いほど握っている聖者の拳に自分の手を合わせて、同じ方向を見ながら、静かに言葉を紡いだ。
「お前は、もう守られるだけの存在じゃない。現に、この旅に出てから、お前は、いや、俺たちはたくさんの罪のない人間、動物たちを助けてきたじゃないか。それは、どういう気持ちでそうした?」
「それは……。守りたかったから、そうしたかったんだ。人間も動物も、命あるモノ全ては、等しく生きる定めを天から与えられた。なのに、それを平然と奪う連中が許せなかったから」
「なら、やることは1つだな。それに、せっかくおいしい飯を食わせてもらったんだ、何もしないで去ることなんて出来ないだろう?」
「うん!」
「はふぅん!」
聖者が年相応の元気の良い返事をすると同時に、拳者の後ろで情けない、聞き覚えのある悲鳴? が聞こえてきた。
2人してみると、生足を出して倒れていた桃がいた。
「うわわ!」
案の定、聖者はくるりと一回転して、顔を真っ赤にしていた。
「はあ〜。お前らは…」
しょうがないな、という感じの顔をして、拳者は桃を立たせて、着物についた埃を払った。
「はふぅん。ごめんなさい、拳者様」
「別にいいよ。それより、どうしてあんなところで倒れていたんだ」
「えっと、聖者様の声に驚いてしまって。それで、見つかってしまったって、思って」
「見つかった?」
「はふぅん! な、なんでもないですぅ」
突然じたばたとやり始める桃。
まるで、悪戯をバレるのを嫌がっている幼子の行動そのものだった。
拳者は桃が倒れていた場所の周辺を見てみた。
すると、外壁の一部が、少しだけ開いていた。
構造からして、避難用の隠し扉。
そしてそこから出てきた桃。
答えは自ずと出た。
「また抜け出そうとしたのか?」
「……(こくん)」
「はあ〜。そんなことしたら、また、歩美さんだっけ? に怒られるぞ」
「だってぇ〜」
「あっ、居た!」
「はふぅん!」
慌てて逃げ出そうとする桃だったが、拳者に両腕を捕まれているので脱出出来ないでいた。
「放してくださ〜いぃ」
「敵前逃亡は、きついおしおきを受けることになるぞ」
「はふぅん…」
「桃ちゃん。僕たちも弁護するから、大人しくしようね」
「は、はい…」
拳者のときと対照的に、聖者が桃の頭を撫でたら大人しくなった。
おまけに、聖者のときと同じように、顔を赤らめていた。
このときにはすでに桃の中で、聖者と拳者の違いを、本能的に区別していた。
「なんか納得いかないんですけど、俺」
「まあまあ」
「はあ、はあ…。あ、ありがとうございます」
桃を追いかけてきたのは、青髪の少女だった。
藍よりも下という感じがする。
「ったく、桃も、いい加減、抜け出すのはやめてよね。あたしたちだって、怒られるんだから」
「はふぅん。ごめんなさい、翼お姉様」
「一体、お前らは何人姉妹なんだ?」
次から次へと出てくる幼子の軍団に、拳者はつい思っていたことを口にした。
「えっと?」
「俺たちは、昨日の夜から世話になっている者たちだ。俺は拳者で、こっちは聖者」
「よろしくね」
「ああ。歩美お姉様たちがなにやら言い争っていたのって、あなた様たちのせいだったんだ」
「まあ、どこの骨とも知れない輩だからな」
「でも、桃を助けてくれた、お優しい人たちです」
「そもそも、桃が抜け出さなければそんなことにならなかったと思うんだけど」
「はふぅん」
翼の正論に、桃はますます小さくなるばかり。
2人もそう思っていただけに、援護射撃が打てない。
「えっと、あたしたちは、全員で12姉妹なの。この辺りじゃ、美人12姉妹ってことで、よく遠方から、あたしたちを嫁にしたい殿方がわんさか来るの」
「ふーん。それだけにしちゃ、随分と守りを固めている感じがするけどな」
「ああ。これ」
まるで汚物を見るように、翼は外壁を見た。
「世の中には、優しい人たちばかりじゃないってことだよ」
「そうだな」
「…さてと、桃も見つかったことだし、あたしは戻りますね。悪いんですけど、桃を連れてきてもらえません? あたしと一緒に戻るよりは、桃も素直に言うことを聞くと思いますから」
「わかった」
「まかせて」
「それでは」
聖者たちに軽く頭を下げて、翼は桃が抜け出した場所から去っていった。
それを見た桃は再び逃亡しようとするが、脇を2人に固められて出来なかった。
「こら。姉貴の言うことは素直に聞け」
「はふぅん。だってぇ〜」
「誰かと待ち合わせしているの?」
「は、はい。きっと、桃のことを待っています」
「……はあ。しょうがないな」
軽く頭をかいた拳者は、いきなり、桃をお姫様抱っこ状態で持ち上げた。
「はふぅん!?」
「聖者。悪いんだけど、桃のことを聞かれたら、俺が勝手に連れ出したって言っておいてくれ」
「ったく、また悪い癖が出たね」
「性分と言ってくれ」
「はいはい。…気をつけてね」
「おう。さて、どこに行こうか、お姫様」
「えっと、あっちのお山の方に」
「わかった。しっかり捕まって居ろよ」
「えっ? は、はふぅん!」
桃の指差した方向へと、拳者は常人ではないほど速さで走り出し、跳んでいった。
それと共に、桃の断末魔が響く。
残された聖者は、どう言い訳をしようかと、徐々に迫ってきている夜盗たちの対策をどうしようと考えながら、屋敷の中へと戻っていった。
<続>
感想をば
K'SARS /
2005-10-11 12:26:00
No.740
ええ、遅れながら、感想でも書きたいと思います。
感想と言っても、この掲示板だけじゃないんがね(汗
☆死の先
まずは、今まで読んでいなかったことの謝罪を。申し訳ありませんでした<(_ _)>
んで、感想。
第一印象としては、シンシアたんに惚れました(ぉぃ)
描写といい、人物の動きといい、随分と勉強させられる部分が多かったです。
本当、このようなすばらしい作品を読んでいなかったことが悔やまれて仕方ないですね。
……すみません。おいら、あまりこういうことを書くのが苦手なので。
続きがあれば、楽しみにしていますね。
☆H.A.P
YM3さんとは、チャットで何度か会話をさせていただいているのですが、作品を見るのは初めてでした(汗
では、感想。
まずは、ましろんとミーコちゃんと、かすみさん萌えでしたw
本当、真吾さんがうらやましいぜ、こんちくしょーw
作品としては、途中から闘いモノへと進展して、なんか、血が滾る思いで拝見しました。
七曜〜の設定は、随分と勉強になりましたね。
様々な方のキャラクターも登場させて、多人数同時に進行というのは、まだおいらには難しいですから、徐々に慣らしていって、挑戦していきたいと思います。
続きを楽しみにしておりますよぉ。
☆きよただ
作者の千田さんとはあまり面識がないのですが、何かとおいらの作品と共通点があったのは、嬉しかったですね。
んで、感想。
まずは、きよちゃん。ラブリーですぅw
内容としては、きよちゃんと恵ちゃんとの三角関係がどきどきで、呪詛悪魔たちにさらわれたときには、はらはらしながら読ませていただきましたよ。
今度、うちの女主人公の桃華と千田さんを戦わせて見たいものですw
☆盛夏の祝福
ええ、こうして師匠の作品に感想を書くのは初めてですね。
まずは、みさきたん、可愛いですな。
うちの女主人公にも見習わせてみたいですね。
桃華「……(無言で右ストレート)」
がは!
何をするんだ。
桃華「うるさいわね。失礼なことを言った罰よ」
本当のことじゃないか。
桃華「まあ、いいけど。このみさきは、本当に可愛かったからね。私がお持ち帰りしたかったぐらいだし」
……そっちの趣味があったとは。
桃華「妹として、だよ」
はいはい。
んで、全体的に構成がしっかりしていて、本当に、おいらとの格の違いを見せられたって感じです。
あと、最後の瑞穂さんには驚かされましたねw
あの人は、素で桃華とタメが張れそうですw
連載、お疲れ様でした。
今回は、ここまで。
次回は、みさき姉さんのと、クゥエルOSの感想を書くことにします。
でははん!
想いを未来へ。5-1
K'SARS /
2005-10-16 00:12:00
No.743
続きをば。
「あっ、ここです」
拳者に連れられて、桃は行きたがっていた山へとやってきた。
そこは昨晩、桃と拳者たちが初めて会った場所でもあった。
嫌な雰囲気もなく、危険もない。
「ここに、桃の待ち人がいるのか?」
「はい。いつもこの時間に待ち合わせしているんです」
「誰と?」
「それは、えっと…」
「安心しろ。俺は口は堅いほうだぞ。それに、桃がそこまでして会いたいって思うぐらい、大切なやつなんだろう?」
「はい!」
拳者の袖を引っ張りながら、力いっぱいうなずく桃。
幼子が隠し事をしてまでも行動に移す気持ちは、拳者は痛いほど知っていた。
かつて自分も同じことをしていたから。
大切な人と、大切な命。
身内よりも大切な存在。
その人たちの笑顔を見たいから、多少の危険を冒すことぐらい平気なのだ。
「その子は、半獣なんです」
「なるほどな。確かに、あまり堂々と会いにいけないよな」
半獣とは、人間と動物の間に生まれた子供のことで、近年、その数は増えていったが、人間たちの世界ではその存在を禁断とされており、見つけ次第抹殺及び捕獲するのが常識となっていた。
もちろん、そのことを良しとしない人たちもたくさんいるが、かくまったりしたら、自分たちにも害が及ぶということで、受け入れるにもそれが出来ない状態。
だから、桃みたいな行動を取らざる得ないのだ。
「じゃあ、俺は居ない方がいいのかな?」
「大丈夫だと思います。人懐っこいですから」
「桃がそういうのなら、いいんだけど」
がさがさ。
「あっ、来たみたいです」
物音がしたところから、明らかに人とは違う耳をした人が出てきた。
それも2人。
「はう〜。桃ちゃんだー」
「えう〜。走っちゃ駄目ですよぉ、ラナちゃん」
「ラナちゃん。サキミさん」
走り寄ってくる2人に、桃も手を振って駆け寄る。
そして互いの手を取って、その場でくるくる回る。
見た目、桃と同じぐらいと、翼と同じぐらいに見える。
「…はう!」
「…えう!」
拳者に気が付いたラナとサキミは、思わず身構える。
そして、ラナは桃の後ろに、サキミは2人の前に出て、「えう〜」という威嚇に思えない威嚇をする。
その目は、敵意に満ちていた。
「どうして人間がこんなところにいるんですかぁ〜!」
「はあ。半獣の噂は前々から聞いていたけど、ここまで人間に対する憎悪が強いとはな」
拳者は、サキミとラナを見て、その先にある過去を感じ取った。
目の前で行われた、非情なまでの殺戮と強奪。
男たちは全て殺され、女たちは次々と心なしの輩に買い取られていく。
心身ともに日が経つごとに朽ちていき、やがては死に至る。
2人は、そんな光景を目の当たりにして、人間への憎悪が激しいものへとなっていた。
「安心しろ。誰も捕って食べようなんて思っていないから」
「嘘ですぅ! 人間はそうやって、私たち半獣を騙して、自分たちの都合のいい様にもてあそんで、いらなくなったら殺すんですぅ!?」
「さ、サキミさん。拳者様は…」
「桃ちゃんも、サキミお姉ちゃんの言うとおり、騙されちゃ駄目だよ」
「そうですよ」
「で、でも…」
完全に聞く耳持たず状態。
拳者はその場で腕を組んで、どうすればいいのか考えた。
待つこと30秒。
良い案が思いついたのか、不気味な笑みを浮かべた。
その顔に、サキミは軽く身震いした。
「…わかったよ。お前たちがそこまで言うんじゃ、しょうがない。でもな、俺も桃の護衛としてきている以上、そう簡単には引き下がれないんだ。だから、勝負しよう」
「えう? 勝負?」
「ああ。人間が憎いんだよな」
「はいですぅ!」
「だったら、その内に秘めた憎しみを、全部俺に吐き出せ。その間、俺はお前には手を出さないから。一定時間内に俺を倒せれば、もうここには近づかないから」
「えう〜。信用なりません〜」
「疑り深いな。いいから、ぶつかって来い」
両手を前に突き出して、無抵抗だということをアピールする拳者。
サキミはラナと目配せをして、その後で、一気に殺気を放出する。
放出とは言うものの、拳者からしてみれば微々たるものだった。
「え〜い」
「よっと」
「えう!」
こけ。ばた。
ぐるぐると両手を回しながら突進してきたサキミを、拳者は直前で避けた。
前傾姿勢でいたためにバランスを崩したサキミは、足元にあった石につまずいて、顔面から倒れてしまった。
「うわ。お約束だな」
「えう〜」
「よっと」
拳者はサキミの両脇に手を回して、そのまま持ち上げるように起き上がらせ、向かい合わせる。
サキミの顔は泥だらけになっていて、頬からは血が少し出ていた。
「えう〜。やっぱり、嘘ついたですぅ〜」
「確かに手は出さないとは言ったけど、避けないとは言っていないぞ」
「屁理屈ですぅ〜」
「ほれ。じっとしていろ」
拳者は着物の袖で、サキミの顔を拭く。
「痛いですぅ」
「かすり傷だから、すぐに治るよ。それより、続き、どうする?」
「やるですぅ〜」
ぽかぽかぽかぽかぽか。
本人は叩いているつもりだが、拳者には全く痛くない。
というよりも、サキミが非力なだけなのだが。
「はあ、はあ、はあ…」
「…向いてないな、こういうの」
「ま、まだこれからですぅ」
「やめておけ。疲れるだけだ」
そういうと、拳者はサキミの足を払った。
「えう!」
「よっと」
倒れる直前に、拳者はサキミの背中に両手を回して、そっと地面へと寝かせる。
そして、隠し持っていた銅剣を、サキミの首元に当てる。
「ひい」
「さ、サキミお姉ちゃん!」
「ラナちゃん!」
それまで桃の後ろに隠れていたラナは、突然自分の姉に降り注いだ危険に、いてもたってもいられずに、拳者に向かって走り出した。
そして、銅剣を持っている方の腕を、力いっぱいに噛み付いた。
「くっ」
「ら、ラナちゃん! に、逃げて」
「このひぇをふぁなひぇ〜(この手を離せ〜)」
「私のことはいいから! だから、ラナちゃんだけでも、逃げて〜」
「いひゃでしゅ〜(嫌です〜)」
「しょ、勝負だって、言っただろうが。最初から、こいつに危害を加えることはしないから」
拳者は銅剣をサキミの隣に置き、噛み付いているラナを引き離そうとする。
だが、どんなに力を入れても離れなかった。
「はぐぅ〜!」
「もうしないから、離してくれ」
「ラナちゃん。拳者様から離れて。もう、危険なことはないから。ねえ、拳者様」
「ああ。桃の言うとおりだよ。ちょっと、悪ふざけが過ぎただけだから。ごめんな」
「……ふぉんと(本当)?」
「約束する」
ラナはそれからしばらくしてから噛み付くのをやめて、放心状態のサキミの側に近寄った。
「っ痛。幼子のくせに、顎強いな」
「大丈夫ですか? 拳者様」
駆け寄ってきた桃は、大量に流れ出ている血に顔を真っ青にしながらも、近くにあった大きな葉っぱで出血部分を多い、止血を施す。
「悪いな」
「もう、あんなことしちゃ駄目ですよ。桃まで、ドキドキしちゃったんですから」
「ああ。そうするよ。…もういい。ありがとう」
血の流れが少なくなったところで、拳者はサキミたちに近づいた。
「勝負は、俺の勝ちだな」
「え、えぅ…」
「勝てるわけ、ないじゃないですか! 半獣とはいえ、私たちは人間と同じ女子なんですよ。なのに、なのに、人間たちは、半獣ってだけで化け物扱いして……」
「えぅ。いいの、ラナちゃん」
なでなで。
サキミは興奮するラナをなだめるために、そっと髪を撫でる。
「勝負を挑んだのは私なんだから。悔いはないよ」
「でも〜」
「おーい。勝手に2人の世界を作るな」」
「えう?」
「はう?」
「別に勝ち負けをつけるために勝負したんじゃない。ただ、俺の話しを聞いてほしかっただけだから」
「え、えう〜。それだけだったら、早く言ってくださいよ〜」
「あのな。お前らが話しを聞く雰囲気じゃないから、芝居する羽目になったんだろうが」
「えう〜。そうでしたよぉ〜」
「にゃろ……」
あまりのサキミの天然さに、拳者は無性にイジりたい衝動に駆られつつも、必死に我慢する。
しかし、気持ちとは裏腹に、身体はぴくぴくと震えていた。
「拳者様。落ち着いてください」
「わーってる。はあ…」
「お話しって、何ですかぁ?」
「まず、俺はお前たちに危害を加えるつもりなんて毛頭無いことと、半獣だからって差別することなんてないって、言おうとしたんだよ。なのに、お前たちったら…」
「えう〜。そうだったんですか。ごめんなさいですぅ」
「さーい」
「まあ、気持ちもわからなくもないけどな」
行く先々で、半獣たちの死体を目撃しているため、人間を憎む気持ちは痛いほど感じていた。
さらに、実際に人間たちと争っている場面も見ているので、その思いは一入。
補足だが、拳者はその現場に出くわした場合、人間、半獣の両方をぶっ飛ばし、ほぼ半殺しにして強引に争いをやめさせていた。
「だから、安心していいぞ」
「はいですぅ」
「わかりました」
誤解が(勝手にしていただけだが)解けたサキミとラナは、桃の言うとおり、人懐っこい笑顔を拳者に向けた。
想いを未来へ。5-1
K'SARS /
2005-10-16 00:14:00
No.744
「さてと…」
ぐら。
「おう」
歩こうとした拳者だったが、先ほどの出血が思ったよりもあったために、軽い貧血を起こしてしまった。
「拳者様!」
「だ、大丈夫だ。ちょっと休めばすぐに治る」
「……あの、拳者様」
「うん?」
「失礼します!」
そういうと、桃は拳者の着物の袖を巻くって、ラナがつけた歯形と血が滲み出している箇所を露出させた。
外気に触れたため、その箇所から痛みがぶり返す。
「も、桃?」
「静かにしてください。……木の森の精霊さんたち。聖女、桃の名の下に、私に少しずつ力を貸してください。そして、傷つきし者を癒す力に」
詠唱が終わると、桃の両手に緑色の光が集まり、包み込むように拳者の傷の箇所へと当てる。
すると、徐々に傷がふさがっていき、数分後には完全にふさがった。
「ふう」
「うわー。桃ちゃん、すごいよ〜」
「はいですぅ」
「…そっか。桃は、聖女なんだな」
「はい。黙っていて、申し訳ありませんでした」
「いいよ。それよりも、ありがとうな」
なでなで。
「はふぅん」
桃は気持ちよさそうに、ほわーんって顔をする。
「…聖女、か」
聖者が探していた、聖者と同じ力を持つ者。
そもそも、聖者の持つ力とは、人間と動物をつかさどる力だと言っていた。
聖女は、世界に危機が迫ったときに、聖者に力を貸す存在。
先日までは本当にいるのかわからなかった存在が、今目の前、しかも、こんな幼子だったと思うと、拳者は不思議な感じがした。
そして必然と、美佳たちも聖女だということを感じた。
「すごかったね、サキミお姉ちゃん」
「そうですねぇ」
「ところで、3人して遊ぶんじゃないのか?」
「えう。そうでしたぁ」
「色々あって、忘れていました」
「はいはい。俺が悪うございました」
皮肉を言えるぐらい、4人を囲む雰囲気は柔らかくなっていた。
拳者は、久しぶりに味わう暖かさに包まれながら、しばらくの時を過ごした。
一方聖者は、藍と一緒に屋敷を見物していた。
拳者が桃たちを聖女だと知るのと同時に、聖者もまた、聖女のことを知らされていた。
「そっか。君たちが、聖女だったのか」
「はい。本来であれば、すぐその場で、藍たちが聖女だということを言わなければいけなかったんでしょうけど、拳者様が一緒でしたので、言うに言えない状態でした」
「謝らなくてもいいよ。慎重になるのは当たり前だしね」
「そう言ってもらえると助かります。……ここが、藍のお部屋です」
見上げる先には、旅で見てきたどんな家よりも豪華な佇まいがあった。
それを「部屋」という藍に、聖者は驚きを通り越して、感心していた。
「どうぞ」
「う、うん…」
履物を脱いで中に入ると、一軒の家と同じような作りになっており、数人の使用人らしき人たちまでもいた。
囲炉裏のある土間に通されると、お茶と茶菓子が出されて、一服する。
藍が作ったというそれは、聖者の口に合って、次から次へと平らげる。
「ここでは、10を過ぎたら1人立ちという名目で、藍と同じような暮らしをするんですよ」
「それは……。寂しくないの?」
「最初は。ですが、別に一緒に寝るのは禁止されていないので、気持ちが沈んだときなどは、他のお部屋に行って寝ることも出来ます」
「そっか」
「失礼します」
使用人の1人が入ってきて、藍に耳打ちをする。
「わかりました。しばらくしてから行くと、美佳お姉様に伝えてください」
「かしこまりました」
聖者にも軽く頭を下げると、使用人は丁寧なしぐさでその場をあとにした。
それから一息ついて、藍は溜息をついた。
「どうしたの?」
「…今日、藍はお見合いをするんです」
「あまり気に召さない相手なの?」
「はい。お相手は、朝廷のお偉い方の息子さんなんです」
「朝廷、か」
聖者は朝廷という言葉に、顔を歪めた。
そもそも朝廷とは、この時代の首都を指し、もちろん、それを納める役人も存在する。
しかしその役人たちは、一言でいわば、無能な連中の集まり。
己の欲望と身勝手さで力無き者たちをねじ伏せ、生きている者たちの命をなんとも思わない行動をとっていた。
聖者も拳者と旅に出るまでは、幾度となく、聖者の能力を我が物としようとした朝廷軍に襲われたこともあった。
「最初は、美佳お姉様と歩美お姉様が、このお話しを反対していたんです。そもそも、あの外壁を作るきっかけとなったのは、朝廷軍が襲撃したからなんです。そして、姉妹が別々のお部屋に住むこととなったのも」
「そっか…」
「ですが、これ以上誘いを断っていたら、次はもっと大きな規模で襲撃を受けるかもしれません。そして、今まで以上に、命を絶たれてしまう人たちも。今度来られたら、藍たちに防ぐ術はありません。私たち、聖女の力を合わせれば、何とかなると思うのですが、常日頃から、聖女の力を決して命あるものを傷つけるために使ってはいけないと、教えられてきましたので」
「そうだね」
創造、癒しの力を破壊に使ってはいけない。
幼いころから、そう言い聞かされてきた聖者は、聖女たちが取っている行動が痛いほどわかった。
例えそれが、自分たちの命を奪われることとなっても、使うことはない。
逆に、運命だと思って受け入れる。
常とは違う力を持って生まれた宿命だと、聖者たちが生きる上での根に当たる部分でそう感じている。
「それに、藍がお見合いを受け入れれば、私たちへの風当たりを弱めることが出来るかも知れませんから」
「でもさ、好きでもない相手と結ばれても、藍ちゃんは…」
「ありがとうございます、聖者様。でも、藍が行くだけで姉妹の命が安全になるのであれば、良いと思いませんか? それに、付き合っていれば、好きになることがあるかも知れませんから」
そういう藍の表情は、誰の目から見ても無理をしていた。
無論、朝廷の人間にも良い人はいるかも知れない。
しかし、評判は良いものを全て悪いものへと変化させてしまい、また、人も変化させる。
お見合いが成功したところで、藍がその人を好きになるとは思えないし、風当たりが弱まること可能性は低いことを、聖者はこれまでの経験からわかっていた。
「さて、そろそろ行きませんと、先方の方に悪いですから」
「無理なら、断ったほうが」
「……失礼します」
込み上げてくる感情を抑えて、藍はその場から去った。
その目には、溢れるばかりの涙が光っていた。
「…さっきの悪い感じが、ますます強くなっている。何か、世界を揺るがすようなことが起こるかも知れない」
それは確かな予感だった。
聖者は、先見の能力の信憑性を高めるための行動を行うため、藍の部屋から立ち去り、井戸へと向かった。
<続>
想いを未来へ。6-1
K'SARS /
2005-11-21 00:14:00
No.760
「……えう?」
「どうした?」
滝で水遊びをしている桃とラナを見ながら、色々と話をしていた拳者とサキミだったが、突然、何もない空を見て、サキミが首をかしげた。
いや、そこにはハトがいた。
「何か言っているですぅ」
「さすが半獣。伊達に鳥耳はしていないな」
「えう。ありがとうですぅ」
「んで、何ていったんだ?」
「えっとですね。……えう!」
飛び上がるほど驚くサキミに、遊びに夢中になっていた桃たちが注目する。
そしてその本人は、あまりの衝撃におろおろしていた。
「えうえう〜」
「チョップ」
「えう!」
あたふたしているサキミを止めるため、拳者は手投をかました。
しかしその一撃は、確実に急所を捉えていたため、そのまま気絶してしまった。
「さ、サキミお姉ちゃん!」
「しまった。つい、いつも調子でやってしまった」
「はう〜!」
先ほどのことがぶり返したのか、ラナはサキミと同じように威嚇と思えない威嚇をした。
「ラナちゃん。拳者様だって、わざとじゃないんだから、そんなことしちゃだめだよ」
「だってぇ〜」
「いや、マジで身体に染み付いた習慣というか、なんというかが働いたんだ」
拳者は幼いころから急所を突く技術を磨いており、戦うときは大抵、急所を突いて倒している。
それが無意識の部分まで達しており、今回のことが起こってしまったのだ。
「……えう?」
「さ、サキミお姉ちゃん?」
数分して、サキミが目を覚ました。
自分の身に何が起こったのかわからないようで、しきりに首をかしげていた。
「えっと、ハトさんから人間の大群が桃ちゃんたちのお屋敷に向かっていることを聞いて、それから…」
「はふぅん!? そ、それ、本当ですか?」
桃はまだ正気に戻れないサキミの肩を掴んで、ぶんぶんと縦に振った。
「えう〜!」
「落ち着け、桃」
拳者はサキミから無理矢理桃を引き離して、視線を同じにして、軽く身体を揺さぶった。
「だ、だってぇ〜」
「もっと詳しく話を聞いてみないとわからないだろう?」
「でもでも」
「大丈夫。まだそれなりに距離と時間はある。戻って伝えるにしても、信じてもらえる材料をそろえないとな」
「……はい」
落ち着きを取り戻した桃は、拳者の言葉を素直に受け入れた。
それに、拳者はあらかじめ大軍が来ることを予測していたことなので、余計に落ち着いていた。
「それで、今、どこら辺にいるんだ?」
「えっと……。山と平地の分かれ道の前まで、と言っていますぅ」
「ということは、屋敷までまだ随分とあるってわけか」
昨日自分たちが歩いてきた道を思い出しながら、聖女たちのいる屋敷までの距離を算出する。
しかも、山道よりも平地の道のほうがより時間がかかるので、その分の修正値も忘れない。
「なあ、この山から平地を見下ろすことの出来る場所って、あるか?」
「えう? どうしてですか?」
「どのぐらいの規模の連中なのか、見ておいたほうがいいだろう? それに、戦う意思があるのかないのかぐらいは、知っておきたいし」
「でしたら、とっておきの場所がありますよぉ」
「じゃあ、サキミ。その場所に案内してほしいな」
「はいですぅ」
「も、桃も」
「……分かったよ。ラナも一緒に行こう」
「うん!」
一瞬、ここに桃とラナを置いていこうと考えた拳者だったが、昨日のように桃が襲われたときのことを考えて一緒に行くことにした。
滝から林の中に入り、道なき道を歩いていく。
そこはゆるやかな上り坂になっており、木々のざわめきが心地よい。
「ここですよぉ」
着いた場所は、坂を上り坂を上がりきった場所にあり、平地をほとんど見渡せるようになっていた。
「すごいな」
「えぅ。私も結構お気に入りなんですよ。あと、ここは私たちのお家なんですよ」
「家?」
「はいですぅ。あそこです」
少し降りた場所に、粗末な小屋と思われるところがあった。
布団と毛布があるため、確かに生活をしていることを思わせていた。
ただ、衛生上良いとは思えない。
「割と住みやすいよー」
「…たくましいよ、お前たちは」
「私たちだって、こういう生活はしたくないですよぉ。でも、もし人間に見つかったら、殺されるかも、しれないですぅ」
「…そうだな。それにここなら、食べ物には困らないな」
「はいですぅ」
木の実などがたくさんあり、魚とかもいるため、森が枯れない限りは暮らしていける。
人間がここで生活しても大丈夫だ。
「さて、どうなっているかな」
拳者は地面にうつ伏せになる格好になり、遙か下にある地面に目を凝らせる。
するとそこには、ハトの情報どおり、人間の大群、しかも、武装をしている軍団が歩いていた。
その郡の中央には人を乗せる駕篭がある。
「朝廷の連中か。しかもあれは、千田家の紋章か」
「千田って、剣豪で有名な?」
「ああ。滅法強いって噂で、息子の善っていうやつも相当な腕を持つという。それでいて、他の朝廷のような心なしではないと聞いている」
「そういえば、今日、藍お姉様がその千田家とお見合いをするというお話しを聞いていました」
「それにしては、なにやら物騒だな」
火を絶やすことなく、常に殺気を出して進行しているその行列。
先頭から駕篭まで、駕篭から後方までの雰囲気がまるで違うことから、2つの意思が交錯していることを、拳者は感じ取っていた。
「……戻るか」
「えう?」
「俺は、桃と一緒に屋敷に戻ることにするよ。お前たちは、ここで待っていてな」
「は、はいですぅ」
「大丈夫かな?」
「さあて。どう転ぶにしても、嫌な感じはするけどな」
「はふぅん。そうですね」
桃も、先ほどから両手で身体を包み込むようにしていた。
何か悪いことを感じたときの桃の癖だ。
「じゃあ、そういうことだから、大人しくしているんだぞ」
「はいですぅ」
「桃、行くぞ」
「はい。って、はふぅん!」
拳者はこの場所に来たときと同じように、桃をお姫様抱っこして、一気に山を下っていった。
想いを未来へ。6-2
K'SARS /
2005-11-21 00:16:00
No.761
「あっ、拳者」
「おう。今戻ったよ、聖者」
「はふぅ〜ん」
千田家の行列が到着する少し前に、山から拳者と桃が戻ってきた。
ずっと拳者に抱っこされたままだった桃は、激しく変わる景色と速さに目を回していた。
「拳者。もっとゆっくり来ればよかったのに。桃ちゃん、ぐったりしているじゃないか」
「しょうがない。桃と一緒に移動すれば日が暮れてしまうからな」
「も、桃なら、大丈夫、です。……はふぅん」
桃の足が大地に立つと同時に、へなへなと座り込んでしまった。
「ほら、拳者があまりにも激しく移動するから」
「そうだな。次からは気をつけるよ」
聖者は座り込んだ桃をおんぶして、拳者と一緒に屋敷の中に入る。
屋敷はにわかに賑わいを見せており、人がせわしく動いていた。
「迎える気満々だな」
「拳者もここに来る人たちのことわかっていたんだ」
「ああ。直接この目で見てきた。結構な数だったな」
「うん。何か悪い予感がしてならないよ」
「桃も、そう思いました。……あっ、ここです」
離れに続く坂の手前で、桃は止まるように聖者に言った。
そこは他とは違い、別の意味で活気に満ちていた。
「ここに、桃と2人の妹と一緒に暮らしているんです。それと、ここはいざというときのための避難場所になっているんです」
「ふぅん」
「さあ、どうぞです」
桃を降ろしてから聖者と拳者は中に入る。
そこで見た光景は、たくさんの女性たちがせわしく走り回っていた。
その手には、ご馳走があった。
「……聖者」
「なんだい?」
「俺ら、あんなにおいしそうなご馳走とか見たことあったか?」
「まずないね」
「なんというか、理不尽を感じる」
ここにたどり着くまでに、聖者たちはたくさんの村や町を見てきたが、どこも今見ている光景に出てくるようなご馳走はなかった。
もちろん貧富の差は出ていたが、ここに比べれば、他の場所が全て貧乏に見えた。
「まあ、これだけの土地を所有しているし、聖女たちが暮らしているんだから、このぐらいはいいんじゃないかな?」
「それを言うんだったら、聖者であるお前の方が格上なんだから、もっといい暮らしが出来ていたってよかっただろうが」
「僕はいいんだよ。みんなと一緒の暮らしをしていた方が、色々と見えてくる部分があるからね」
「そういうものかね」
「あっ、拳者様だ」
2人で議論していたところに、昨晩、拳者が出会った少女、茜がやってきた。
「よお。お前もここにいたんだ」
「うん。久留巳姉様以下の聖女たちはここに集められているの」
「はふぅん? そうなんですか」
「って、桃。あんた、何平然としているのよ」
「はふぅん…」
すっと、桃は聖者の裾を掴んで、後ろへと隠れた。
桃にとって、茜は苦手な姉の1人であるため、身体が自然と反応してしまっただった。
「はあ…。まあ、いいよ。こうして無事に戻ってきてくれたし、お客さんも連れてきてくれたんだし」
「俺たちもここに呼ばれたのか?」
「そうだよ。藍お姉様のお見合いが終わるまで、ここで待機するの。それと、万が一に備えての避難の意味もあるみたい」
「色んな意味で用意周到だね」
「だって、人間は信用していないからね。今回のお見合いだって、こっちのことなんか無視して一方的に決めたことだから」
茜の陰を落とした言葉が、全てを物語っていた。
そしてそれは、聖者たちも身を持って経験してきたものだから、茜たちの気持ちは痛いほどわかっていた。
「さてと、そろそろ夕餉の時間だから、拳者様たちもこっちに来て」
「ああ」
茜に誘導されて、拳者たちは奥の部屋へと移動した。
そこには、数人の幼子たちがいた。
「あっ、桃ちゃんなのー」
「何事もなくてよかったれす」
「全く、あまり心配をかけないでほしいものです」
「そう、ですね」
「そうらおー」
「……いっぺんに話されたら、誰が誰だかわからんな」
「あはは。紹介するね。奥から、久留巳お姉様。碧。珠美。奈々。縷々っていうの。みんな、こちら、聖者様と拳者様だよ」
それぞれ、紹介された順番に挨拶をする。
いずれも、そこらの町娘よりは顔つきは良い。
「久留巳お姉様。つまみ食いはしていないよね」
「かろうじて、というころでしょうか」
「珠美ちゃん、ひどいのー。久留巳だって、我慢ぐらいは出来るのー」
「そうですね。もう14になりましたからね」
「そうなのー」
呑気にそういう久留巳に、茜を始め、その場にいた全員が信用していない目をした。
「まあ、いいや。それよりも早く食べよう」
「そうだね」
聖者たちは、空いている場所に座って、ほどなく運ばれてきた食事を、みんなで食べた。
そして時は過ぎて、藍のお見合い相手が到着したのであった。
<続>
感想をば
K'SARS /
2005-11-21 00:32:00
No.762
さて、ここで感想を
☆白鷺羽ばたく1〜3
ええ、ようやく感想を書きます。
作者のみさき姉さんには、本当にここまでおまたせして申し訳ないと思っておりますよ。
ごめんなさいですよぉ。
では、書きますね。
まず、これの元となっているのがダイダロスさんの死の先ということで、それだけで血が滾ってしまいましたねw
読んでいると、サキちゃんとかのキャラを忠実に再現していて、本当に、死の先を読んでいるのと変わりなく読み進めることが出来ました。これはみさき姉さんの力なんでしょう。ええ、そうでしょうともw
臨場感も感じることが出来て、良いと思いますよ。
戦闘シーンにおけるキャラの心情とかもいい感じでした。
……感想、もっと練習しないとねw
さて、残りの話をさっさと読んでしまうことにしようと思います。
でははん!
Re: 想いを未来へ。4-1
エマ /
2005-11-27 15:28:00
No.765
どうも〜。今日からレスを早く追い上げよう週間を始めました。前にもにたような事言ったてたけどとかいうツッコミはおいといて。いや、早くレスをつけなかった私もいけないんだけども、いやこれは…………長いw
がんばってレス作りますw
しかし聖者と拳者ってホント良いコンビですね。凸凹とはまでは行かないでしょうが、生真面目な聖者と楽天家な拳者ということで。しかし桃ちゃんを隣に寝かせるなどと、ものすごいおせっかいというか心遣いというかどっちだか分かんないですがw
でも桃ちゃん位の子供にそれほど驚いて赤面するほどの聖者のウブさも面白いですね。でも桃ちゃんの年でもよく考えると……最近の小学生って大きいですし(ってこれは昔の話でしたっけ)、翌々考えればビックリするものなのかも……。
細かい所では、藍ちゃん達が用意した朝食に全く肉や魚類が無かったのが、守護天使としての彼女たちを彷彿とさせますね(笑)
徐々に、聖者たちの以前の出来事とそれに対する無念の気持ちや、屋敷に迫る脅威とそれに対する防衛、という、物語序盤の展開が見えてきましたね。さらに深い部分はこのスレの後半の回で出てくるんでしょう。
あと、少し気になったんですが、桃ちゃんの二人に対する反応。
>聖者と拳者の違いを、本能的に区別していた。
とありますけど、最初桃ちゃんの顔を拭いたりしている拳者に対しても特別な反応を示していたので、聖者との区別があまりついていないような気もしたんですが。
もしかして、聖者は異性、拳者はお兄さんみたいな捉え方なんでしょうか。それなら何となく納得ですけど。
以上前半の感想です。
>シンシアたん
可愛くてけなげですね。過去回想だけしか出てこないのはわたしももったいない気がしますw
>H.A.P
かすみさん最高でしょうw
恐らく真吾さんは光彦さんと双璧をなすハーレム系ご主人様だと思いますので(笑) 私もそのうちにたようなご主人様を作れないかなとか考えているんですがw
いやそれよりもむしろ逆バージョンを作りますかね。ハンサム守護天使を従えまくってる女ご主人様。美月たんがもっとペットを沢山飼っていたという設定にすればいいのかなw
>きよただ
千田一心流が熱いんですよ。千田一心流が。
最後みんなの力を受け取って究極奥義ってのがもう最高に興奮でした。
確かにインパクトとしては桃華ちゃんの聖女の神パンチと良い勝負かとw
あ、そういえば桃華ちゃんって殺生には使っちゃ行けない聖女パワーをこんなのに使っちゃってるのねw
>真夏の祝福
あ、文兄ぃってKちんのお師匠さまだったんですか。知らなんだw
このライオンのみさきちゃんも、なんというか色んな意味で可愛かったですね。
独創的な歌とか、リアクションとか、なかなか……w
あと瑞穂さんは、女性としては珍しい、桃華ちゃんと並ぶ「殴るときはグー」キャラとしてエマステに公式認定されましたんでw
合い言葉も「殴るときはグー」でいっちょw
Re: 想いを未来へ。4-1
エマ /
2005-11-30 15:36:00
No.766
後半の感想〜。
半獣、という新しい存在が出てきましたね。敵対同士の人間と動物の間の子、それゆえどちらからも(?)忌み嫌われているという辛い境遇なんですね。にしてはいきなり半獣として登場したのがなんとラナっぺとサキミちんとは、力が抜けますぅw
「…はう!」
「…えう!」
ってのが可愛いやね。半獣ってんだから前世のパーツが所々くっついてたりするんでしょうが、ビジュアルイラストが欲しい所ですなw
拳者に早速弄ばれてるあたり、オリジナルサキミちんの面影がふいに頭をよぎりますが、ま、まさか……拳者のモデルってやっぱり……あのヒトなのか??w
無性にイジりたい衝動に駆られつつ、とかあるしなw
これからもサキミんとラナっぺ、二人の天然半獣さんたちとの色々なかんけーを期待しつつw
で、桃ちゃんたちが聖女であるという事がここで明らかにされましたね。桃ちゃんだけでなく他の11人も全員そうだというのが驚きですが。それだけの人数の聖女が一カ所で暮らしているとあれば、狙われるのも不思議ではありませんね。
藍ちゃんにいきなりお見合いの話が出てきましたが、朝廷側との取引に近い形ですね。なんともはや、ランちゃんファンの私からしたらエマ大公国全軍を差し向けてでも朝廷をぶっつぶしたいところですがw
それでも、「付き合っていれば、好きになることがあるかも知れませんから」なんて事を言えてしまうのが、藍ちゃんの性格を表していますね。健気や……。今時おらんぞこんな娘はw
読み進めてみると、お見合い相手はなんと……千田家とな?w
ううむ、さすがKちん。ちゃくちゃくとコラボレーションを進めておるなw 善さんという方が恐らく千田さんモデルのキャラかと予想しますが、どうもその千田家とは別の意志による勢力も加わっているようで、なかなか複雑な状況のようですね。
お屋敷の方でも、お迎えと避難という二つの準備を周到にしているようで、そこはさすが、長年の侵攻を防いできただけの事はありますね。ただ、今回ばかりは軍勢が軍勢ですから、危ないような気がします。千田家がどう動くかで、状況は大きく左右されるように思いますが、はてさて……?
しかし、このシリーズ、いっきに面白くなってきましたね。ここらへんのストーリーテーリングはKさんならではの物だと思います。
次も期待しておりますよー。
……関係ないけど、白鷺羽ばたくの感想、もうちっとがんばって長くしてもええんちゃう?w
ADVENBBSの過去ログを表示しています。削除は管理者のみが可能です。
太陽が昇ると共に起きた聖者は、隣に寝ている人の気配に気が付いた。
桃だった。
「なっ!」
目の前にあった女の子の顔にびっくりした聖者は、猛烈な勢いで飛び上がり、壁際に背中をつけた。
「お前、本当に男か?」
隣で座禅していた拳者が、あまりにひどい聖者の反応に、溜息をつく。
「拳者。君だろう? 桃ちゃんを僕の隣に寝かせたのは」
「まあ、それは認める。つうか、男が女の、しかも、幼女の寝顔にいちいち驚くんじゃないの。見ているこっちの方が恥ずかしいわ」
「……どうも、ね」
気持ちを落ち着かせた聖者は、拳者の隣に座って、一緒に座禅をする。
「別に女が苦手ってわけじゃないだろう?」
「うん。確かに、そう」
「……まあ、いいけど」
聖者の中に芽生えた感情の正体を、拳者は自ずと感じた。
過去、同じような経験をしてきた者のカンというやつだろう。
ただ、それを思い出すと苦しい思いにもなる。
「さてと。僕は外にあった井戸で身を清めてくるよ」
「ああ」
荷物の中から手ぬぐいを取り出して、そっと離れから出る聖者。
それと同時に、健やかな寝息を立てていた桃が軽く身震いし、目を覚ました。
「う、うーん」
「よお。おはよう」
「………はふぅん?」
「また、すごい言葉を発したな」
拳者はまだ寝ぼけている桃を強引に起こして、白い肌が露出してる着崩れの部分を直す。
それから何故か携帯していた櫛を取り出して、ストレートな桃色の髪を梳いていく。
「うん。あとは、寝ぼけ顔を整えれば、可愛い幼子の出来上がり」
「あ、ありがとうございます……。それと、おはようございます」
「おう」
拳者は手元にある水が張ってある桶に手ぬぐいを入れ、きつく絞ったあとに、そっと桃の顔を拭いていく。
「あ、あの、自分でやりますから」
「いいからいいから。こう見えても、妹にこういうことをしてあげたことあるから」
「はふぅん」
一応は抵抗するものの、がっちりと身体を拘束されているために、桃は身動きが出来ないまま、拳者の人形と化す。
でも、嫌な気分ではなかった。
(なんだろう、この気持ち。拳者様に始めて出会ったときから、ずっと…)
ドキドキはしない。
それよりも、暖かい気持ちが体中に広がって、ほわーんとなる感じ。
「…うん。完了っと」
「す、すみません」
「はは。俺相手に遠慮はしなくてもいいよ」
「は、はいです」
わちゃくちゃと桃の頭を撫でた拳者は、うーんと背伸びしてから立ち上がり、外の空気を中に入れる。
同時に太陽の光が入ってきて、身体いっぱいにそれを受けた。
「今日もいい天気だな」
「そうですね」
トントン。
ふいにノックの音がした。
拳者が開けてみると、そこには、藍を筆頭とした女性たちが手にお盆を持ってやってきた。
「ご機嫌様です」
「あっ、藍お姉様」
「おぃーっす」
「うふふ。変わったご挨拶ですね」
藍たちは軽く挨拶をすると、離れの中に入り、さっきまで拳者たちが寝起きしていた場所にお盆を置く。
そこには、おいしそうな匂いを放っている食事があった。
本来ならば、この辺の庶民が咽から手が出そうなほど、豪勢なご馳走の数々なのだが、拳者は逆に表情が硬くなっていく。
「……(肉があるかと思ったんだけどな)」
「拳者様?」
「いや、なんでもない。さてと、聖者を呼びに行くか」
苦し紛れに外に出た拳者に、離れに居た者たちが一様に『?』マークが頭の上に上がった。
「ふう」
ふんどし姿一丁になった聖者は、井戸の水で身を清めていた。
それは同時に、己の中の魔力を高める行為でもある。
聖者は幼いころから、常人にはない力を持っていた。
自分の意思で手に光の球を出し、あらゆるモノにそれをぶつけ、様々な効果を生み出してきた。
時には癒しの力を。
時には破壊の力を。
心優しい聖者は、主に前者の力を使い、病に苦しむモノたちを助けてきた。
ここで言うモノには、動物も含まれている。
つまりは、全ての生きとし生きているモノたちが対象となっている。
もちろん、その力を狙ってくる輩も、それこそわんさかいた。
始めは、村の者たちが守護してくれたが、次第に増える夜盗や賊たちの対処に悩まされ、聖者を筆頭に、男たちの疲労が蓄積していた。
この状況に、聖者は村を離れることを提案したが、村長は己の欲望と女子供たちの説得されて、出るに出れなかった。
そんなときに現れたのは、拳者だった。
日々の変化と共に、運命の変化となった聖者は、この機を逃すことなく、無事に村を出ることができ、これまで拳者と共に歩んできた。
「お前、ここには婦女子たちがわんさかいるというのに、よくもまあ、そんな格好なんて出来るものだな」
「拳者」
呆れと関心をあわせた顔で、拳者がやってきた。
「服を着たままだと、清められないだろう?」
「それにしても……。まあ、いいか。それがお前の常なんだろうから」
「僕としては、拳者の行動の方が異質に思えるけどな」
聖者から、いや、全ての人たちから見て、拳者の行動は全てにおいて異質に移った。
その逆もしかり。
「まあいいや。それよりも、朝餉が出来たみたいだから、行こうぜ」
「うん」
と、そのときだった。
「……嫌な感じが、した」
「ああ。嫌な気配が漂っているな」
聖者の先見と拳者の索敵能力が発動した。
「もう、この辺りを囲んでいるみたいだね」
「みたいだな。数はざっと百は超える」
「狙いは僕たちかな? それとも別の何か」
「その可能性はあるだろうけど、それにしちゃ、数が多いな。複数の、しかも、別々の連中がいると思うほうが妥当だな」
「じゃあ、狙いはここ?」
「まあ、すぐには襲い掛かってこないだろう。大方、様子見ってとこだろうな」
「どうするの?」
「とりあえず、朝餉にしよう。いくら粗食でも、腹が減っては戦は出来ぬぞ。それに、桃も待っているし」
「あ、ああ」
桃の名前を聞いたとたん、聖者の脳裏には先ほどの光景が思い浮かび、顔を赤くする。
(ロリだったのか、聖者って。うーむ)
自分のことを棚に上げて、聖者のことを心の中で突っ込む拳者。
「ほれ、行くぞ」
「分かった」
聖者は脱いでいた着物を着て、拳者と共に離れへと向かった。