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ひさびさ、公国
K−クリスタル /
2005-12-27 20:56:00
No.785
『エマ大公国物語』 〜ノエルラントの名花たち〜
「お姉ちゃん、だぁい好き!!」
(この話は・・・ナンと! 一年前の「おてんばプリンセスなたね」等からの続きです!!)
その日、ノエルラントのみさき第二公女は宮廷内の居室の一つから、不可思議な音が響いてくるのを耳にした・・・。
♪う〜〜〜みゅ〜〜〜・・・きゃははは・・・
みさき「な、何かしら、あれは・・・」
おそるおそる様子を見に行ってみると、そこで、待っていたのは、まったく驚くほかない光景であった。
みさきにとっては末の妹姫である、なたね第八公女が床に大の字にひっくり返って、奇妙な声を上げてけらけら笑っていたのである。その性格が元気・おてんばとしてつとによく知られるところではあったが、それにしても、そのさまは仮にも一国の姫君としては――いや、単に普通の娘としてでも、常識的に考えて、いささか度を過ぎていた。いや、さらに言うなら、おてんばとは言っても、なたねのそれは(たとえば、次姉のつぐみなどとは違って)決してこうした形で表現されるたぐいのものではなかったので、彼女をよく知る姉のみさきには、これが異常な事態であることは明白であった。
「な、なたねちゃん!?」
あわてて駈けより、揺さぶると、なたねはうすぼんやりした目でこちらを見てきた。
「あーー・・・みさきねーさま」
「ど、どうしたの、いったい・・・」
「んー? ろーもしないよ・・・おひるれしてたらけ・・・」
「お昼寝って・・・だって、こんなところで、そんな格好で・・・」
聞き返しかけたみさきは、なたねの口から吐かれた息を湿らす臭いと、真っ赤になった相手の顔やろれつの回らない口調から、半ば原因を悟った。しかし、それはさらに意外なものではあった。
「なたねちゃん・・・あなた、まさか、お酒を飲んで・・・」
「ん〜〜? ちがうよー、ボク、おさけなんかのまないよー」
なたね公女は嘘をつくような性格ではない。ましてや、もっともなついている姉であるみさきに対して――そもそも、本人の言うとおり、その素直で健全な人となりから、未成年である自分にかかる行為を許すはずもなかった。しかし、となれば・・・。
「なたねちゃん。でも、何かは、飲んだのね?」
「ん、さくらんぼのじゅーすだよ――あまくて、おいしーの・・・えと、あれ・・・」
指さした方の床には、ビンが一つ転がっている。近づいてそれを拾い上げたみさきは、そのラベルを見て目を見開いた。
「こ、これは・・・?!」
そこには、馬に跨り、ランスを構えた女性騎士のシルエットという図柄が描かれていた。そして、そこに記された銘柄の名は「イーグレット」・・・。
(――これは・・・社交界で有名な・・・例の・・・)
これは、エマ大公国内でも最北に位置する、ダイダロス公国の名産品であった。豊富な果物とそれらから作られる各種果実酒がダイダロス公国の特産物であったが、中でも、この「イーグレット」は、桜桃酒(チェリー・リキュール)の最高級品として(かのK’SARS公国の例のモノのごとく特殊な意味で有名な?冥産?などとは違い、ごく真っ当な名産として)、エマ大公国全土でも高名である。ただ、その深い味わいと稀少性から人気が高く、市販もされてはいるものの、生産量がごく少ないこともあって、ダイダロス公国外まで出回ることはほとんどない?幻の銘酒?の一つとなっていた。だが、各公国家には贈り物として、毎年ある程度の数が贈答されている。
そう、つまりは、やはり間違いなくアルコールなのである。それも、貴重な・・・しかしながら、なたねはそんなことは知らないはずで、また、仮に知っていたとしても、それだけなら、興味を示すことはなかったであろう。
だが、そんななたねの心を惹きつける要因も、この「イーグレット」はまた持っていた。それは、ラベルに描かれた女性騎士である。その女性の正体は、ダイダロス公国のサキ第二公女であった。
女性ながら、そして、ダイダロス公国の第二公女(セカンド・プリンセス)という身分でありつつ、卓抜した軍の指揮能力と個人的な戦闘力の高さによって公国の近衛騎士団団長(ロイヤルガーズ・マスター)という要職を担う彼女は、その美貌と?雪原の凶天使?の二つ名を持つ戦場での比類なき強さから、国内のみならず、他国においても絶大な声望を誇っている。この「イーグレット」の人気の一端は、そのサキ第二公女自身の盛名に負うところも大きかった。――なお、「イーグレット」というのは、サキ第二公女の愛馬の名前である。
そして、なたねもまた、その大ファンの1人なのであった。先頃、公女の認定を受けながら、次姉つぐみが隊長を務めるノエルラント公国親衛隊への入隊をも望んでいるこの活発な姫君は、また常々将来の目標として、ダイダロス公国のサキ第二公女への憧れを公言していた。
「あのねあのね・・・このラベルのおんなの人って、サキさまで・・・それれ、このじゅーすのむと、サキさまみたいにつよくなれるんらって・・・」
自他共に認めるサキキチ(w)のなたねがそういうふうに言われれば、口にしてしまうのも不思議はない。おそらくは、その甘さと口当たりのよさにアルコールとは気づかないままかなりの量を飲んでしまい、そして、そのまま正体を失ってしまったものであろう。
(なたねちゃん――なにも、ソンナところから、真似しなくても・・・いえ、偶然なんでしょうけど・・・)
みさきは心中ひそかに呟く。
じつは、そのサキ第二公女が酒ra――もとい、アルコールに対して非常に耐性が低く、酩酊すると、きわめて特異かつかなり問題のある行動を取ってしまう体質の持ち主であるということは、一部では有名なハナシ・・・とゆーか、エマ大公国各公家の間では、ダイダロス公家との外交(おつき合い)上、「あらかじめよく知っておくべきだが、同時に決して口にしてはならない」とゆー公然のヒミツである。
ただし、公女認定されてまだ日が浅く、そしてまた世事に疎いなたねは、そのこともまた知らなかった。が、憧れの君のそうした側面を未だ知らないことは、なたねにとってはむしろ幸せなことであったかもしれない・・・。
ともあれ、なたねがかかる仕儀に陥った原因は、ほぼ知れた。
だが、問題は残る。
(でも、誰がいったい、そんなことを・・・?)
その疑問はしかし、わずか数瞬後、脳裡に浮かんだ面影によって、氷解した。
「――あ・・・! ゆ〜きちゃ〜ん?!」
思わず叫んだのは、物陰に隠れていたその相手の姿を見とめたからではない。
けれども、その時、それを合図とするかのようにバタバタと駆け去っていく足音を耳にして、みさきは自分が正解を引き当てたのを知ったのだった。
「ま、待ちなさーい!!」
そのあとをすぐみさきの声は追ったが――しかし、彼女自身は追いかけることはできなかった・・・。
廊下を駆け抜け、角を曲がってそこの壁に背を預けたノエルラント第四公女ゆうきは、しばらく息を整えると、壁のかげから来た方を覗きこんだ。
(みさき姉さま、追いかけてこないな・・・)
みさきにかわいがられているなたねをだまして酔っ払わせたのは、なたね自身に対する意趣返しのためもあったが、じつは、そのことでみさきに怒られたい――かまってほしいという気持ちも、内心あったのだった。だから、逃げはしたものの、本気で逃げるつもりもなく、みさきが追いかけてくるのを待っていたのである。
しかし、来ない。
(いったい、なにをしているのだ、みさき姉さまは・・・)
「――ゆうきちゃん」
じれながら待っていると、不意に背後から声をかけられ、ゆうきはびくっとその場で飛び上がった。
「・・・兄さま」
振り返ると、兄であり、公国の公太子でもある、完全無欠の若き貴公子が立っていた。
「なにやってんの?」
「い、いや、べつに・・・」
ゆうきは言葉をにごしたが、聡明な上に品行方正な若者はにやりとした。
「・・・なんてね。サキさまをダシにして、なたねちゃんを酔っ払わせるなんて、ひどいことするねえ・・・」
「・・・見てたのか。兄さま」
敏いゆうきがさすがに悟って言うと、さらに明哲で温厚篤実な若者は穏やかにうなずき、
「まあね――でもまあ、策士策におぼれるというか・・・逆コーカだったね」
「・・・え?」
いぶかるゆうきに、頭脳明晰な若者は言った。
「みさき姉上、追いかけてこないだろ? 様子見に行けば、わかるよ」
「?」
言われたゆうきは、首をかしげながらも、眉目秀麗・容姿端麗な兄と共に居室の方へときびすを返した。
いもーとたちの弱点
K−クリスタル /
2005-12-27 21:00:00
No.786
すると、みさきは先ほどの場所からほとんど移動してはいなかった。彼女がそのままゆうきのあとを追いかけてこられなかった原因は、ひと目見てわかる。なたねがしっかり抱きついていたのである。
「う〜みゅ〜〜、みさきねえさまああぁぁぁ・・・」
小柄な公女は姉君にぎゅっとしがみついて離れず、まるで子イヌか仔ネコのように、妙な声を上げてその胸元に頬ずりしている。
「な・・・?! 何をやっているのだ、なたねのやつ・・・!!」
いつにない興奮した面持ちで、いきり立つゆうき第四公女。
対照的に冷静沈着な若者が解説する。
「アレで、なたねちゃん、みさき姉上のことが大好きでも、小さい子みたいに甘えるのは恥ずかしいという気があって、普段は自制してたんだろうが・・・酔っ払って、そーゆータガが外れちゃったんだろーな」
「うぅ・・・」
うめくゆうきに、公明正大な若者は指摘する。
「だから、自業自得ってところかな、ゆうきちゃん」
「くっ・・・! ――あ・・・」
くちびるを噛みしめ、くやしそうな声をもらしたゆうきは、その次には情けない顔になる。
「・・・もう、今日は甘えん坊さんですね、なたねちゃん」
抱きつかれているみさきがそう言いながらも、まんざらでもなさそうに、なたねの頭をやさしくなぜていたからだった。
「うみゅみゅみゅ・・・」
「まあまあ、なたねちゃんたら・・・」
さらに甘えまくるなたねに、うれしそうなみさき。
「あ、あ、あ・・・」
それを見て、身悶えるゆうき。
ひとりだけ泰然自若たる若者は心中ひそかに呟く。
(しかしあれは、ウワサに聞く某サキさまの症状とまったく同じ・・・やるな、なたねちゃん。素質あり、だな。――まー、抱きしめた相手を気絶させるよーな怪力がないだけ、サキさまよりはよっぽど無害だが・・・)
「あ、みさき姉さま――ちょうど、よかった。助けてください」
そこへ逆方向から、新たに2人の少女が現れた。
「え、なあに、ひとみちゃん――みゆうちゃん?」
やはりみさきには妹に当たる、ひとみ第六公女とみゆう第五公女であったが、みゆうを支えるようにしてひとみは立っていた。気がつくと、みゆうは青い顔をして、ガタガタ震えている。
「こ、これは、いったい・・・?」
「はい、あの、今応接室にお客様が見えてて・・・」
「――男の方?」
それだけで、おおよその事情を察したみさきが聞き返すと、ひとみはうなずいた。
「はい、たまたまそこを通りかった、みゆちゃんが例のホッサを・・・」
みゆう第五公女は、ある事件に巻き込まれて以来、若い男性の集団を見ると、幼児退行現象を起こすというやっかいな性癖があったのであった。
「でも、たったお二人だけですし、まさか、それで発作が起きるなんて・・・」
「・・・う、う・・・あのおにいちゃんたち・・・おっきい・・・こわいよ・・・」
困惑げな表情のひとみの視線の先で、みゆうはブツブツつぶやいている。
それを物陰で聞き取った、明察神のごとき若者はうなずいた。
(ああ、そういや、竜っちゃん達が来てんだった・・・)
カンゼンにまったく一点のギモンの余地なくナットクする。
(あの2人なら、そこらへんの男子15、6人分のインパクトはゆうにある。みゆちゃんが発作を起こすのもムリはない・・・)
「とにかく、落ち着かせないと・・・みさき姉さま、お菓子ありませんか?」
幼児化したみゆうは、おびえていても、お菓子を与えるとたいそう喜ぶのであった。
「ああ、それなら、確かそこにブッシュドノエルが・・・」
そう言って、みさきが苦労して――と言うのは、いまだになたねがしがみついているからであるが――手を伸ばした先のテーブルには、ノエルラントの名物の一つである、お菓子があった。
「はい、みゆちゃん、お菓子ですよー・・・」
「わーい! おやつ、キャーッ!!」
それをまた苦しい体勢のまま、ひとみに支えられたみゆうに何とか手渡すと、みゆうは歓声を上げ、むしゃぶりついた。
「はっ・・・?! い、いかん・・・」
その有様を見ていたゆうきの声に、焦りの色が混じる。
「おいしい? みゆちゃん」
「うん! おいちい!!」
「そう、よかったですね・・・」
「うん! みさきねーさま、だいしゅき!!」
現金にもけろりと元気を取り戻したみゆうは、みさきの肩上に腕をまわして――胸の辺りには、なたねがいるので――抱きついた。そして・・・
――チュッッッ☆
とがらせたそのくちびるがみさきの頬で盛大な音を立てた。
幼児化したみゆうは、お菓子をくれた相手に、お礼としてキスするとゆーゆかいな習性(?)があったのであった!!
「あーーっっ!! み、み、み、みゆうのやつ・・・!! やっぱりーーっ!! ゆ、許せんっっ!!」
先ほどのみゆうとは正反対に顔を紅潮させ、強く握った拳をワナワナと震わせる、ゆうき。
その様子を見ながら、公平無比な若者は、
(まあ、これも・・・あのみゆうちゃんの特性を利用して、前、ゆうきちゃんは大もーけしてたりしたんだから、因果応報と言えないこともないが・・・)
しかしまた、この上なくやさしくもあったので、
(けどまー・・・ちょっと、カワイソーな気がしないこともないな・・・よし、しょーがない、ここはひとつ・・・)
一思案したとても思いやりのある若者は、再び妹に声をかける。
「ゆうきちゃん」
「なんだ、兄さま! 少し黙って・・・」
うるさげに肩を振って振り向いた妹の鼻先へ親切で妹思いな若者は、スプレー缶のようなものを突き出した。
「に、兄さま? それ・・・?」
驚愕から動揺そして狼狽へとわずかのうちにゆうきの表情は鮮やかに変貌を遂げる。その声も、いつか震えていた。
「この前は、つぐみ姉によけーな知恵つけられてヒドいめに遭わされたけど(物語内では、なんとホンの最近のことなのだ!)・・・今回は、あえてそのアダを恩で返してあげよー」
おびえた目で見つめてくる――と言うより、コワくて目をそらせないでいるらしい――妹に向けて、心やさしく献身的で情け深い若者は、人差し指でグッとそのボタンを押した――
「うみゅーーーーっっ!!」
「うーっ! うーっ!」
「・・・。えーーと・・・」
自分にしがみついたままにらみ合い、互いに対抗してイミ不明の威嚇音を発している妹2人に、みさきは困惑していた。
その時――
「ひぃっっ・・・!!」
悲鳴が聞こえ、続けて、床に何か倒れる音が響いた。
「え・・・?」
「なんでしょう?」
動けないみさきを後に残し――なにしろ、妹二人分の重しがついていたので――、ひとみが音のした方へ様子を見に行った。そして、
「ゆうき姉さま!!」
声を上げるとしゃがみ込み、みさきの方に声を上げる。
「みさき姉さま! ゆうき姉さまが・・・!!」
「えっ・・・?!」
ただならぬ様子に、みさきは抱きついたままの妹二人をむずかる幼児をなだめるようにして、なんとか引き離して、急いでそちらに向かう。
すると、ひとみに助けられ上体こそ起こしてはいたものの、床にへたり込んだまま泣きじゃくるゆうきがそこにいた。耐えがたい寒さに襲われたかのように、蒼白な顔で、ふるえる体を自分でかきいだくようにしている。
「ゆうきちゃん・・・?」
肩に手を置いてそっと呼びかけると、目からポロポロ涙をこぼしながらようやく顔を上げたゆうきは、ガチガチと歯の根も合わぬような口の中から、やっとのことでひと言だけ言葉を押し出した。
「・・・みさき・・・ねえさま」
「どうしたの? ゆうきちゃん」
「あ・・・あたし・・・」
それ以上ゆうきは言葉を続けることはできなかったが、その時、ひとみが床から何かを拾い上げ、みさきに示した。
「みさき姉さま、こんなものが・・・」
「それは・・・殺虫剤? まあ、どうして、そんなものが・・・」
ゆうき第四公女は、農薬とか殺虫剤のようなたぐいの薬の臭いを大の苦手としていた。ただ嫌いという程度のものではなく、彼女にとっては激しい恐怖の対象であり、そんな臭いをかぐと、普段少女とは思えぬほどに冷静・怜悧な彼女が怯えてパニックに陥り、まるで別人のように頼りなげになってしまうのであった。
「・・・みさき姉さま・・・あたし、あたし・・・」
「わかった、わかったわ、ゆうきちゃん。こわかったのね・・・もう、だいじょうぶ。わたしが、姉さまがここにいますからね・・・」
そう言うと、みさきは妹をぎゅっと抱きしめた。
「うん・・・」
ゆうきも、ようやく少し安堵の息をついた。
「よしよし・・・いい子ね・・・」
しばらく背中を軽くたたいてやっていると、緊張してこわばっていたゆうきの身体からやがて力が抜けていった。そして、そのまま、みさきの胸の中からその頭は滑るように下へ落ちていき、膝の上へと乗る。
そのままゆうきは小さな子ども――いや、むしろ赤ん坊のように、曲げた膝をかかえるように体を丸めて、横になった。
安心しきってすっかり穏やかな顔になったゆうきは、みさきに膝枕してもらっている形で、目をつぶっていた。そんなゆうきの今度は頭にみさきはやさしく手を乗せ、なぜてやるのだった。それは、姉妹と言うより、母子の姿のようにも見えた・・・。
仲良きことはうつくしき哉w
K−クリスタル /
2005-12-27 21:04:00
No.787
が、その平和な風景はほどなく破られた。
「みゅ〜〜〜っ、みさきねーさまーー!!」
「むーーーっ、みさきねーしゃまーー!!」
おいてきぼりにされていた、パワフル元気な酔っぱらいとおっきな幼児が乱入してきたからである!!
「きゃっ?!」
同時に胸に飛びついてきた妹2人に危うく倒れそうになるみさき。なんとか持ちこたえたが、妹2人はそのまま左右から再びしっかと抱きついたまま離れなかった。
――ちなみに、この騒ぎの中でも、ゆうきはまったく気がつくことなく、みさきの膝の上で安らいでいる。
「おも・・・ちょっと、くるしい・・・」
圧迫感から逃れるべく身体を少し動かそうとしたみさきは、その時、新たに別方向――背中の方からも押されるのを感じた。
「? ・・・え? あ・・・? ・・・ひとみちゃん?」
いつの間にか、ひとみがぴとっと、背中に張りつくようにしていたのである。
「・・・あの。ひとみちゃん・・・? なにしてるの?」
「だって・・・あたしだって・・・」
頬を染めながら、消え入りそうな声でつぶやく。
「みなさんがうらやましくて・・・みさき姉さまに、あたしも、その・・・甘えてみたくなって・・・」
「そ、それはうれしいけど・・・(なにも、今こんな時じゃなくても・・・)」
「あたし・・・家では、兄さましかいませんから、こんなふうに姉さまに甘えたことなくて・・・小さい頃から、あこがれてて・・・ダメですか?」
「・・・いえ、ダメではというわけではないけど・・・」
スデにじゅうぶん苦しい状態にあったみさきだったが、心やさしい彼女は妹にさびしそうなカオでそう言われると、すげなくすることはできなかった。
「うれしいです・・・」
さらにぴったり身を寄せ、みさきの背中に顔をうずめたひとみは、その頬に触れてくる黒の細絹にタメ息をもらした。
「わあ、さらさら・・・みさき姉さまの髪って、きれいですね・・・」
「そう? ありがとう」
「あの・・・」
またも顔を赤らめて、ひとみは言ってきた。
「髪の毛にさわっても・・・いいですか」
「・・・え? ええ――かまわないけど・・・」
ナデナデ・・・さわさわ・・・
ナデナデ・・・さわさわ・・・
「しなやかで、やわらかくてすべすべで・・・気持ちいいです」
「そ、そう?」
「その・・・姉さま・・・」
またまた上気した顔で、ひとみはさらに、
「・・・キスしていいですか?」
「・・・え? ええぇっ?」
「ダメですか? だってほら、みゆちゃんだって、さっき・・・だから、その、あたしも・・・」
「あ、ああ、そういうこと・・・。(ああ、ちょっと、びっくりしてしまいました・・・)――ええ、まあ・・・そうですね。いいですけど・・・」
「ありがとうございます。それじゃ・・・」
斜め後ろから、みさきの顔へくちびるを近づけていくひとみ。
ちゅっ♪
ほどなく、先ほどのみゆうの時よりはやや控えめな音がした。
だが、みゆうの時より、くちびるが頬にくっついていた時間は倍は長かった・・・。
さらに――
「あの・・・みさき姉さま、もう1回・・・もう1回、いいですか?」
「え? え――ええ、まあ・・・」
見ると、どういうわけか、ひとみの瞳(小笑)はウルウルしていた。
(?・・・えーと・・・ひとみちゃんは、別に酔っても幼児化してもいないはずですよね・・・??)
――ナゼかそこはかとなく、身の危険を感じるみさきであった・・・ww
そして、先ほどよりは、大きめの音がみさきの頬で鳴った。その直後――
「な、何、してるんですか?」
みさきには、残った最後の妹になるひかり第七公女がいつの間にかそこに立っていた。彼女は茫然自失の態であった。5人の姉や妹がひとかたまりに団子のようになっていたのだから、無理もあるまい。
「ああ・・・あのね、ひかりちゃん、カンタンには説明できないけど、これにはいろいろとわけが・・・」
こんなありさまを別の妹に目撃されて、本来ならあわてふためいてしかるべきところであるが、みさきはじたばたしなかった。いや、動こうにも、物理的にまったく身動きできない状態であったからかもしれないが・・・。
しかし、おとなしいひかり第七公女なら、むやみに騒ぎ立てたりはせず、落ち着いてこちらの話を聞いてくれるだろうという目算もあったのである。それで、みさきは語り始める・・・。
「でも、助かりました。聞いて、実は・・・」
――そして、数分後・・・
事態は、ほとんど変化を見せていなかった。
いや、正確には、その場に一塊となっている、世にもめずらしー美少女の団子(ww)は五人から、六人に増えていたのであった。
事情を聞いたひかりの示した反応は、みさきの予想と期待を裏切るものだった。
小さな声、遠慮がちな口調ながら、ひかりは言ったのである。
「・・・わたしひとり、仲間はずれなんて・・・いやです」
それを聞いたひとみは深く深くうなずくと、少し脇にどいて、みさきの背中の半分を空けてあげたのだった。
今、ひかりはそこにぺったりくっついている。
「・・・ねー、いいですよね? ひかりちゃん」
「はい、とても・・・。ああ、癒されます――こうして人に癒してもらうのも、いいものですね・・・」
幸せそうに、それぞれ片方の頬をみさきの背に押しつけながら、微笑みかわすひとみとひかり。
前の方では、あいかわらず、なたねとみゆうが妙な声を上げながらしがみつき、一方ひざの上ではゆうきがもうすでにすやすやと寝息を立てて、ぐっすり眠っていた。
「――た、たすけて・・・」
妹たち全員に安らぎを分け与えながら、たった1人苦しそうなみさきの声を聞いてくれそうな者は、当分いそうになかった・・・。
♪ちゃんちゃん
みさき姉さま、モテモテww
K−クリスタル /
2005-12-27 21:26:00
No.788
フム・・・どーやら、マタ新キョーチをカイタク(特にこーはん)したよーだぞ・・・
?萌え?
ってえぇぇ、ヤツをなあぁぁ!!ww
えー、ども♪ (^o°)/
ひさびさ、ナンと一年以上ぶりに、
『エマ大公国物語』 〜ノエルラントの名花たち〜 の新作でありんす!!
いや〜〜ホントは、姉さんのおたんじょープレにするつもりだっだんでつが
書いてるうちダンダンダンダン増えてきて、間にあわず・・・
しょーがないから、ま、クリスマスプレゼントつーコトで――
そいでも、2日バカリ遅れてるケドねw
でもそーすりゃ、みさき姉上ノミならずノエル父上に対しての
プレゼントってーコトにもできるし・・・ <―― いーかげん
けど、ないよーはソレらしく、ゆうきちゃん・なたねちゃんダケでなく、
いもーと達にはいちおーマンベンなく出番ありますから
ザンネンながら、姉上ぴょんはじめ姉上方のトージョーはありませんでしたが・・・
――ん〜〜・・・
しっかし、ヨク考えてみたら、コレ、姉さん、よろこんでくれるんかいな・・・? <――いまさら
ナンか、ひどい目あってるし・・・w
・・・いやモチロン、悪気はないんすよ ホントだよ
いもうとたちに好かれて、甘えまくられるみさき姉上ってスガタを
書こーとしてるウチに、ナンとなくそーなったダケなのよ
善意から出たことだから、イーよね? ウンウン・・・ (⌒v⌒;)
Re: ひさびさ、公国
ダイダロス /
2005-12-31 23:12:00
No.797
どもです。
エマ大公国の新作、読ませてもらいました。
まず最初に、僕が以前に書いたダイダロス公国ネタを使って下さってありがとうございます。
なたね公女が酩酊している時点で、例のアレを連想してしまったのですが、やっぱり「アレ」でしたか。
なたね公女もサキと同じ酒を飲んで同じ様に抱きつき魔になってしまう所などは、僕も笑わせて貰いました。
抱きつかれるほうからすれば、なたね公女の力くらいならOKでしょうけど、サキ公女の怪力で抱きつかれるのは勘弁して欲しい所ですね。確実に気絶してしまうので。(でも何故か、気絶するだけで済んでしまうのですが(笑))
あ、今、怖い事を想像してしまいました……なたね公女もいずれはサキ公女のように、抱きついた相手を気絶させるような怪力を得るまでに成長してしまうのでしょうか? ガクガク(((゚Д゚iil)))ブルブル
そして、最後のオチも秀逸ですね。みさき公女はとんだ災難でしたが。
そうなってしまったのも、多くの妹達に慕われている、みさき公女の人柄故という事なのでしょうね。(笑)
そう言えば、ダイダロス公国の姫君達と、ノエルラントの姫君達って直接の面識はあるのでしょうかね?
セリーナ第一公女は、公務で訪問する事も多いかとは思いますが。(ノエルラントは、エマ大公国本国に次ぐ貿易相手国なので。一方、交渉相手としてのセリーナ公女は、「タフ・ネゴシエーター」として、各国の財務・外務官僚達に恐れられ、また畏れられている)
追伸:デスクトップPC、復活しました!!
PC入院中に使っていた98SEノートと比べ、画面が綺麗、そして早い!
テスクトップPCの有り難味が身に染みた一週間でしたね。
Re: ひさびさ、公国
エマ /
2006-01-25 02:13:00
No.805
こんばんは。遅れましたが、感想です。
ノエルラントのSSはいつも楽しみに見させていただいてますが、いや今回のは……クリスさん、色んな意味で勝負かけてきたな、という感じがww ……します。うん。
みさき公女が主人公(?)のお話ですね。いきなり奇怪な?笑い声が響いてきて、おそるおそる近づいていくみさき公女、慌ててなたねちゃんを介抱したり、他の子たちに囲まれて困惑したり、なんというか色んな出来事をぶつけて、彼女の色んな「反応」を見れるのが魅力の一つなのかもしれません。
いきなりまとめに入ったが、気にしないw さぁ中身みていこーw
なたねちゃんが飲んださくらんぼのジュースは、実はサキ公女にちなんだ貴重なお酒だったんですね。そんな、幻の銘酒が、なたねちゃんのすぐ手の届く所にあったのかという問題はありますが、それはこういうSSだからいいとしてw なたねちゃん。笑い上戸だったんですね。泣き上戸とか怒り上戸とか色々ありますが、でも確かになたねちゃんの年齢や性格からすれば、笑い上戸がとてもよく似合っていますね。ふと、みさき公女を始めとした、他の公女は何上戸なのかとか興味が湧いてきたりも、するのですがw
銘酒「イーグレット」を関連に、さりげなくダイダロス公国やサキ第二公女の設定をフューチャーする所とかは、さすがはクリスさんと入った所で、私もこういう所は見習わなければならないな、といつも思います。
さてしかし、ゆうきちゃん。いくらみさき姉様の気を引きたいからって、何もなたねちゃんにそんなくだらんウソついてはめなくても……w でも、自分を差し置いてかわいがられているから、という理由でそういういじわるをしてしまう所は、ゆうき公女らしいのかもしれません。ノエルラント版ではない、本来のゆうきちゃんはどうなのか知りませんが。
(追いかけてこないな……)とか(いったい、なにをしているのだ、みさき姉様は)
なんて覗いて確かめようとしているところが、可愛いですね。みさき姉さん大好きな、サキキチならぬ、みさキチという設定になった事で、ゆうきちゃんの活躍の幅は大きく広がったと思います(笑)
発表したての始めの頃は、今よりずっと目立たない存在だったような気がしていましたし。私がビジュアルイメージを見させてもらってぞっこんになったのがまず最初のきっかけかなw
で、完全無欠聡明品行方正なクリス公太子。ゆうきちゃんにさらりとツッコミを居れてクリスちん上位ですが。当然逆のパターンもあるわけで、どっちが優位に立つ事が多いんでしょうね。
ゆうきちゃんはみさき姉上、クリス公太子はあすか姉上ぴょん関連の事でご執心になると、そこを互いに突かれるというパターンだと予想してみますがw
しかし、ひたすら甘えまくるなたねちゃんに対する、もー興奮と怒り心頭のゆうきちゃんの対比……お決まりと分かっていても、オモロイ!!w
そして、なたねちゃんにサキっちの酔いどれ属性を密かに継承させようとしているクリスちんの計算高さに、エマさんはただただ舌を巻くのであったw
これ以降の展開は、もーいくとこまでいっちゃえみたいなノリですね。みゆうちゃんの幼児化やお菓子くれた人にチュ☆とか、もう誰彼構わず嫉妬しまくるゆうきちゃんとか、まぁ、アダを恩で返したクリス公太子とかw こういう所はちゃっかりポイント上げてるしなーww
ひとみちゃんとか、もう…………い、いや。もう、何も言うまいw
えー、今回は"萌え"がテーマだそうですが、エマさん的には
「クリス公太子。貴公はやりすぎた……やりすぎたのだ……!」
という評価を送りたいと思いますw
さすがに私は“ここまでは”するつもりないなーw
でも、面白かったですよ。やっぱり、ノエルラントは平和だなーw
次も期待しています!
…………
(ひかりちゃん、もっと一番前で活躍させてあげよーよーw)
ADVENBBSの過去ログを表示しています。削除は管理者のみが可能です。
「お姉ちゃん、だぁい好き!!」
(この話は・・・ナンと! 一年前の「おてんばプリンセスなたね」等からの続きです!!)
その日、ノエルラントのみさき第二公女は宮廷内の居室の一つから、不可思議な音が響いてくるのを耳にした・・・。
♪う〜〜〜みゅ〜〜〜・・・きゃははは・・・
みさき「な、何かしら、あれは・・・」
おそるおそる様子を見に行ってみると、そこで、待っていたのは、まったく驚くほかない光景であった。
みさきにとっては末の妹姫である、なたね第八公女が床に大の字にひっくり返って、奇妙な声を上げてけらけら笑っていたのである。その性格が元気・おてんばとしてつとによく知られるところではあったが、それにしても、そのさまは仮にも一国の姫君としては――いや、単に普通の娘としてでも、常識的に考えて、いささか度を過ぎていた。いや、さらに言うなら、おてんばとは言っても、なたねのそれは(たとえば、次姉のつぐみなどとは違って)決してこうした形で表現されるたぐいのものではなかったので、彼女をよく知る姉のみさきには、これが異常な事態であることは明白であった。
「な、なたねちゃん!?」
あわてて駈けより、揺さぶると、なたねはうすぼんやりした目でこちらを見てきた。
「あーー・・・みさきねーさま」
「ど、どうしたの、いったい・・・」
「んー? ろーもしないよ・・・おひるれしてたらけ・・・」
「お昼寝って・・・だって、こんなところで、そんな格好で・・・」
聞き返しかけたみさきは、なたねの口から吐かれた息を湿らす臭いと、真っ赤になった相手の顔やろれつの回らない口調から、半ば原因を悟った。しかし、それはさらに意外なものではあった。
「なたねちゃん・・・あなた、まさか、お酒を飲んで・・・」
「ん〜〜? ちがうよー、ボク、おさけなんかのまないよー」
なたね公女は嘘をつくような性格ではない。ましてや、もっともなついている姉であるみさきに対して――そもそも、本人の言うとおり、その素直で健全な人となりから、未成年である自分にかかる行為を許すはずもなかった。しかし、となれば・・・。
「なたねちゃん。でも、何かは、飲んだのね?」
「ん、さくらんぼのじゅーすだよ――あまくて、おいしーの・・・えと、あれ・・・」
指さした方の床には、ビンが一つ転がっている。近づいてそれを拾い上げたみさきは、そのラベルを見て目を見開いた。
「こ、これは・・・?!」
そこには、馬に跨り、ランスを構えた女性騎士のシルエットという図柄が描かれていた。そして、そこに記された銘柄の名は「イーグレット」・・・。
(――これは・・・社交界で有名な・・・例の・・・)
これは、エマ大公国内でも最北に位置する、ダイダロス公国の名産品であった。豊富な果物とそれらから作られる各種果実酒がダイダロス公国の特産物であったが、中でも、この「イーグレット」は、桜桃酒(チェリー・リキュール)の最高級品として(かのK’SARS公国の例のモノのごとく特殊な意味で有名な?冥産?などとは違い、ごく真っ当な名産として)、エマ大公国全土でも高名である。ただ、その深い味わいと稀少性から人気が高く、市販もされてはいるものの、生産量がごく少ないこともあって、ダイダロス公国外まで出回ることはほとんどない?幻の銘酒?の一つとなっていた。だが、各公国家には贈り物として、毎年ある程度の数が贈答されている。
そう、つまりは、やはり間違いなくアルコールなのである。それも、貴重な・・・しかしながら、なたねはそんなことは知らないはずで、また、仮に知っていたとしても、それだけなら、興味を示すことはなかったであろう。
だが、そんななたねの心を惹きつける要因も、この「イーグレット」はまた持っていた。それは、ラベルに描かれた女性騎士である。その女性の正体は、ダイダロス公国のサキ第二公女であった。
女性ながら、そして、ダイダロス公国の第二公女(セカンド・プリンセス)という身分でありつつ、卓抜した軍の指揮能力と個人的な戦闘力の高さによって公国の近衛騎士団団長(ロイヤルガーズ・マスター)という要職を担う彼女は、その美貌と?雪原の凶天使?の二つ名を持つ戦場での比類なき強さから、国内のみならず、他国においても絶大な声望を誇っている。この「イーグレット」の人気の一端は、そのサキ第二公女自身の盛名に負うところも大きかった。――なお、「イーグレット」というのは、サキ第二公女の愛馬の名前である。
そして、なたねもまた、その大ファンの1人なのであった。先頃、公女の認定を受けながら、次姉つぐみが隊長を務めるノエルラント公国親衛隊への入隊をも望んでいるこの活発な姫君は、また常々将来の目標として、ダイダロス公国のサキ第二公女への憧れを公言していた。
「あのねあのね・・・このラベルのおんなの人って、サキさまで・・・それれ、このじゅーすのむと、サキさまみたいにつよくなれるんらって・・・」
自他共に認めるサキキチ(w)のなたねがそういうふうに言われれば、口にしてしまうのも不思議はない。おそらくは、その甘さと口当たりのよさにアルコールとは気づかないままかなりの量を飲んでしまい、そして、そのまま正体を失ってしまったものであろう。
(なたねちゃん――なにも、ソンナところから、真似しなくても・・・いえ、偶然なんでしょうけど・・・)
みさきは心中ひそかに呟く。
じつは、そのサキ第二公女が酒ra――もとい、アルコールに対して非常に耐性が低く、酩酊すると、きわめて特異かつかなり問題のある行動を取ってしまう体質の持ち主であるということは、一部では有名なハナシ・・・とゆーか、エマ大公国各公家の間では、ダイダロス公家との外交(おつき合い)上、「あらかじめよく知っておくべきだが、同時に決して口にしてはならない」とゆー公然のヒミツである。
ただし、公女認定されてまだ日が浅く、そしてまた世事に疎いなたねは、そのこともまた知らなかった。が、憧れの君のそうした側面を未だ知らないことは、なたねにとってはむしろ幸せなことであったかもしれない・・・。
ともあれ、なたねがかかる仕儀に陥った原因は、ほぼ知れた。
だが、問題は残る。
(でも、誰がいったい、そんなことを・・・?)
その疑問はしかし、わずか数瞬後、脳裡に浮かんだ面影によって、氷解した。
「――あ・・・! ゆ〜きちゃ〜ん?!」
思わず叫んだのは、物陰に隠れていたその相手の姿を見とめたからではない。
けれども、その時、それを合図とするかのようにバタバタと駆け去っていく足音を耳にして、みさきは自分が正解を引き当てたのを知ったのだった。
「ま、待ちなさーい!!」
そのあとをすぐみさきの声は追ったが――しかし、彼女自身は追いかけることはできなかった・・・。
廊下を駆け抜け、角を曲がってそこの壁に背を預けたノエルラント第四公女ゆうきは、しばらく息を整えると、壁のかげから来た方を覗きこんだ。
(みさき姉さま、追いかけてこないな・・・)
みさきにかわいがられているなたねをだまして酔っ払わせたのは、なたね自身に対する意趣返しのためもあったが、じつは、そのことでみさきに怒られたい――かまってほしいという気持ちも、内心あったのだった。だから、逃げはしたものの、本気で逃げるつもりもなく、みさきが追いかけてくるのを待っていたのである。
しかし、来ない。
(いったい、なにをしているのだ、みさき姉さまは・・・)
「――ゆうきちゃん」
じれながら待っていると、不意に背後から声をかけられ、ゆうきはびくっとその場で飛び上がった。
「・・・兄さま」
振り返ると、兄であり、公国の公太子でもある、完全無欠の若き貴公子が立っていた。
「なにやってんの?」
「い、いや、べつに・・・」
ゆうきは言葉をにごしたが、聡明な上に品行方正な若者はにやりとした。
「・・・なんてね。サキさまをダシにして、なたねちゃんを酔っ払わせるなんて、ひどいことするねえ・・・」
「・・・見てたのか。兄さま」
敏いゆうきがさすがに悟って言うと、さらに明哲で温厚篤実な若者は穏やかにうなずき、
「まあね――でもまあ、策士策におぼれるというか・・・逆コーカだったね」
「・・・え?」
いぶかるゆうきに、頭脳明晰な若者は言った。
「みさき姉上、追いかけてこないだろ? 様子見に行けば、わかるよ」
「?」
言われたゆうきは、首をかしげながらも、眉目秀麗・容姿端麗な兄と共に居室の方へときびすを返した。