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てんゆび新章
K'SARS / 2006-04-30 01:44:00 No.871
    天使とのゆびきり〜満月での再会〜


「ありがとうございました」
「たー」
 夕暮れ時のコンビニでのバイト。
 商店街に面しており、立地条件も割りといいここは、ひっきりなしに客が出入りし、レジが絶え間なく動いている。
 にも関わらず、俺を含めた店員が2人しかいないために、結構ハードな状況になっていた。
 それもどうにかやり過ごして、時間は7時を回る頃にようやく交代のバイトが入ってくれて、上がることを許された。
 俺はその日のレジでの最後の仕事をやり終えて、帰っていく客に社交辞令満載の言葉を投げかけて、奥へと引っ込んだ。
「ハードだったな…」
「せやな…ほんま、しんどかったぁ〜」
「互い、少し強い風が吹いたらアウトかもな」
「洒落にならんで、それ」
 一緒に着替えているのは、俺の少しあとにバイトに入った、功坂亮という野郎。
 何かと息が合うやつで、すぐに親しくなった。
 ただし、唯一こいつとの違いと言えば…。
「あっ、亮さ〜ん」
「おう。さこ」
 亮が終わる頃になると、必ずと言っていいほど、同棲しているさこちゃんが迎えに来る。
 その姿は、新婚さんモード全開のバカップルという感じ。
 ぶっちゃけ、一人身には猛毒だ。
「浩人さんも、お疲れ様ですぅ」
「とってつけたように言ってくれて、ありがとう」
「妬くな妬くな」
「うっせ、バ〜カ」 
 益体ついて、俺は帰り道を歩く。
 だが、亮の住んでいるアパートと俺のアパートが近くなため、嫌でもその姿が目に入る。
「それでな、その客がな…」
「あはは。そうなんですか…」
「あいつ、絶対に見せ付けてやがる」
 前に身の上を話したことを、俺は今となって少し後悔している。
 というか、女性の「じ」の字すらなかったあいつが、どうしていきなりああいう風になったのか、未だに納得できない。
 人間、生まれながらにして公平というのは、人生の部分においては間違っている気がする。
「なあ、ヒロやん。今日、うちで飯でも食っていかんか?」
「……目の前で、新婚バカップルをしない限りは」
「あはは。どう〜かな〜」
「亮さん。あまり浩人さんをからかうと、仕返しがきちゃいますよ」
「今だったら、どんとこいやって感じやな」
「…シメたるぞ、この野郎」
 自分の台詞がものすごく虚しく思える。
 これが余裕の有無の差というやつか。
 今だけ、サキミという存在が非常にありがたかったと認識する。
 この場にいてくれれば、こんなに虚しいことにならなかっただろうな。
「じゃあ、俺こっちだから」
「また明日な、ヒロやん」
「おやすみなさい」
 亮とさこちゃんは俺と別れたとたん、さらにバカップルを発揮。
 その光景に、かつての自分と隣にいた彼女を少し重ね合わせつつ、俺はちょっとした買い物をして、家への通り道である公園に足を向けた。

てんゆび新章
K'SARS / 2006-04-30 01:45:00 No.872
「たまには、月見酒というのも、いいものだな」
 公園にある高台のベンチに座り、ビニール袋からカクテルを取り出して、プルタブを引いてそれを一口飲む。
 正直な話、あまり酒は得意じゃないのだが、飲みたい気分になったときにはここで飲むようにしている。
「…瑞希さん、か」
 こっちに帰ってきてからというもの、かつての姉さんみたいな存在だった女性を良く思い出すようになった。
 よく一緒に、懐いていたネコもいたような気がする。
 確か、名前は……。
「隣、よろしいですか?」
 声をした方向を見ると、月明かりに照らされた少女がいた。
 俺はその姿に絶句する。
「……何故ゴスロリ?」
 彼女は10人居れば9人は振り向くであろう、ゴスロリファッションで佇んでいた。
 しかも、ベーシックである黒ではなく、白と青がうまい具合に混じったもので、より一層の注目度がある。
「はや? どうかなさいましたか?」
「…視線が気にならなかった?」
「いつものことですから」
「なるほど」
 達観した一言が全てを物語っていた。
 俺は隣にあったビニールをどけると、少女はゆったりと座った。
 なんというか、高貴な人形がそのまま出てきたような感じ。
「綺麗ですわね」
「ああ」
 カクテルを一口飲み、さらにつまみを口に運んだところで、少女の顔をちら見した。
 横顔に、俺は見覚えがあった。
 その人は柔らかな笑顔で包んでくれて、まだ当時、ガキだった俺の心の支えになっていたが、もう見ることは無くなったはずだった。
 きっと、少し前の俺だったら、今の事態に混乱していただろうな。
 死んだはずの人が隣にいる。なんてことは、ありえないことだから。
「はや? どうかなさいました?」
「君が、昔の知り合いに似ていたから、つい見とれていた」
「そうですか。ですが、私はその方とは違いますわ」
「いいのか? そんな言い方をして」
「はいですわ。私、その方に言われたんです。『私の分まで、守ってあげて』って」
「……死んでも、俺は瑞希さんに心配されていたんだな」
「そうですわ。ご主人様」
 彼女は自ら、正体をバラした。
 まあ、サキミもそうだったけど、元から隠そうとはしていないようだから、さも当然なんだろう。
「主様は、私が守護天使になる転生する前に、私に託したのですわ。ご主人様と作る未来を」
「じゃあ、お前は義理でここにいるのか?」
「違いますわ。私は、ご主人様のことが大好きですから。主様とは違う温もり。心安らげる時間。日向のような手。触れ合いたいと思いましたから、ここにいるんですわ」
「…言ってて、恥ずかしくないか?」
「本心ですから」
 こいつら守護天使という存在は、恥ずかしい行動や言語に耐性を持っているらしいな。
 人間だと、思春期の少女や、乙女ちっくな連中しかいけないことを、すらすら言えるんだから、ある意味すごい。
「じゃあ、お前は、なんなんだ?」
「私は…」
 少女はベンチから立ち上がって俺の前に来て、スカートの両端を持ち、軽く会釈を交えて、自己紹介をした。
「お久しぶりです、ご主人様。私は、チカですわ。かつて貴方様にお世話になった、ペルシャネコのチカですわ」
 実に、17年ぶりの再会だった。


<続>





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後書き♪

K'SARS「さて、チカ編がようやく始まった」
サキミ「えう〜。私の出番〜」
ミナト「あう。サキミちゃんが、グジュグジュな状態で登場しました」
カナト「可哀想…」
K'SARS「お前、こんなところで油を売っていないで、書類に取り掛かって居ろよ」
サキミ「無理ですぅ! ワンルームのお部屋が軽く埋まってしまうぐらいの書類なんて、出来ませんよぉ〜」
K'SARS「根性だ!」
サキミ「えう〜〜」
ミナト「哀れ、というしか、言葉がないですね」
カナト「うん」
K'SARS「うっとしいから、さっさと行け」
サキミ「え〜〜〜う〜〜〜」
カナト「あっ、逃げた」
K'SARS「ふう。やっと去った」
ミナト「はあ〜。それより、予定通りだと、てんゆびのジャンルを覆すことをするんですよね?」
K'SARS「元々、そういうシーンは入れる予定だったし、援護天使という仕事の説明も出来るからな」
カナト「それが書き終わるのは、いつになることやら」
K'SARS「……善処しますよーだ」
ミナト「さ、作者さんがいじけてしまったところで、今回はこの辺で」
カナト「でははん!」

てんゆび2章02・1
K'SARS / 2006-05-04 11:03:00 No.878
   天使とのゆびきり〜それは唐突に激しく 前編〜


「お久しぶりです、ご主人様。私は、チカですわ。かつて貴方様にお世話になった、ペルシャネコのチカですわ」
 満月の月夜に照らされて、俺の中の瑞希さんは、中身を変えてやってきた。
 ペルシャネコのチカ。
 白と青の混じった変り種で、よく着せ替えとかさせられていた。
 そして、瑞希さん以上に俺に懐いでいた。
 今にして思えば、このゴスロリファッションも着せられていたような気がする。
「守護天使、なんだよな?」
「ご存知ですの?」
「ああ。少し前まで、俺のところにもいたんだけど、すぐに連れ戻されてしまったよ」
「まあ。それはあまり前例がありませんわ。何か、ご主人様の機嫌を損ねることをしましたか?」
 前例があるのかと思いつつ、あの前後のことを思い出していた。
 俺は機嫌を損ねていないし、むしろ、サキミの仕事を助けたことになる。
 となると…。
「俺というよりは、あいつの上司が、だけど」
「もしかして………その子、サキミちゃんっていうお名前では?」
「知っているのか?」
「はいですわ。私は直接会ったこと無いんですが、援護天使の中ではもっぱらの噂ですわ。『ご主人様に助けてもらった幸運馬鹿天使』だと」
「なにやら、複雑な言い方だな」
「はいですわ。援護天使としては最低だけど、守護天使としてはうらやましいと、サキミちゃんの上司にあたる方がそうおっしゃったのが、みんなに広まったんですわ」
 いくらめいどの世界といえど、その辺りは人間社会と変らないということか。
 いや、逆に元が動物たちということで、人間社会よりも厳しいのかもしれない。
「それで、今サキミはどうしているんだ?」
「聞いた話では、多少強引に来てしまったので、溜まっていた書類の片付けに追われているとの話しですわ」
「めいどの世界にも事務処理なんてあるんだな」
「はいですわ。私たちも人間さんと同じ姿形をしている以上、めがみ様を除くと、通信手段は人間さんとほぼ同じなのですわ。現に、めいどの世界とのやり取りは、このように携帯電話でするんですわ」
 そういうとチカは、胸ポケット(外側からだとよくわからない)から、今時の携帯を取り出した。
 カメラ付きで、見る限りだとテレビも見られる仕様らしい。
「高性能なんだな」
「最新型ですから」
「そうなのか…」
 ちゃっちゃら〜ちゃちゃちゃちゃ〜らちゃちゃちゃ〜♪
「はやや? 電話ですわ。えと、えと……」
 突然来た着信に、チカはあたふたしていた。
 初めて見た。携帯を持って慌てるやつ。
「ここを押すんだよ」
 俺は着信ボタンを押してやった。
「あ、ありがとうですわ。はい、チカですわ」
『もしも〜し。チカ?』
「ヒューネさん?」
 ボリュームを最大にしているのか、相手の声が俺にまで聞こえてくる。
 間延びした女子高生風の声だった。
「誰?」
「チワワのヒューネさんですわ。小さいんですけど、相当なキレものなんですわ」
『小さい言うなー!』
 チカが携帯を押さえて、さらに小声でチカは俺に教えてくれたが、何故か聞こえていたようだ。
 人間、トラウマがあると、相当敏感になるらしい。
「どうしたんです? 私、長期休暇をもらっているはずですわ」
『知っているよ。ご主人様に会いに行っているんでしょう? でも、さっきから動いていないようだけど、どうしたの?』
「はや? どうしてそれを?」
『今時、携帯にGPSがついているなんて当たり前だよ。おっと、世間話の為に電話したんじゃなかったんだった』
「……お仕事ですか?」
 諦めたように、チカは溜息を吐きながら言った。
 同時に、それまでほんわかとした雰囲気が引き締まって、緊張感が出てきた。
『そっちにね、呪詛悪魔が2人、流れちゃったのよ』
「はや? 流れたということは、誰かが捕獲、もしくは、迎撃をしていたということになりますわね」
『07小隊が交戦していたんだけど、仕留めきれずに流れてしまったの。消耗も激しかったから、追う事は出来なかったの。だから、08小隊と私が今、向かっているの。でも、ちょうどチカがいるところに現れるから、足止め、もしくは、捕獲をしてほしいの』
「はやや。私、ほとんど装備を置いてきましたわ」
『それでも、なんとかして。チカならなんとかなるでしょう?』
「まあ、護身用ぐらいは持っていますから、なんとかしますわ」
『お願い! こっちもなるべく早く向かうから』
 ブツという音と共に、携帯から電話が切られた電子音が聞こえてきた。
 会話の内容からして、かなり物騒で、俺に間接、いや、直接的な被害を被ることになるな。
「ふう〜」
「大変だな」
「はいですわ。せっかくお仕事から解放されて、ご主人様と、甘いひと時が過ごせると思いましたのに、残念ですわ」
「甘いひと時かどうかは別にして、さっさと終わらせればいい話だろう?」
「それもそうですわね。あっ、ご主人様には決して手は出させないので、ご安心を」
「頼むぜ」
「はいですわ」
 ほんわかな、俺の好きだった笑顔を向けたチカだったが、それもすぐに引き締まった顔になる。
 そして、満月の空を見上げた。
 展開としては、敵が来たという合図。

てんゆび2章02・2
K'SARS。 / 2006-05-04 11:06:00 No.879
「来ましたわ」
 俺も空を見上げると、満月と重なるように、黒い影が2つ現れ、地上へと降りていく。
 1つは、人型。
 もう1つは、ゲームのRPGとかに出てくるような、モンスター。
 形状としては、ケロベロスに近い。
「ほお。人間と守護天使の組合せか」
「ニンゲン、シュゴテンシ、エモノ!」
「またモンスターの方はベタだな。涎なんか垂らしちゃって、みっともない」
「ですわ」
 チカは内ポケットから、ノートサイズの機械を取り出して(物理的に絶対に入らないと思うのだが…)、装置を起動させる。
 様々な数値が出てきて、数秒後には結果らしきものが表示された。
「魔獣タイプでマンタイプのジャッカルとモンスターのハンター、レベル10ですか。07小隊が逃がすのも無理ないですわ」
「強いのか?」
「そうですね……。そこそこ、強いですわ」
「貴様、我を馬鹿にするとは、いい度胸だ」
「コロス、コロス!」
 雑魚キャラにありがちな、ちょっと馬鹿にされるとキレるやつと、殺気むき出しのモンスター。
 大抵のパターンだと、こいつらは負けてしまうのがセオリーだが。
「いいだろう。先ほどは数で押されたが、守護天使1人と人間1人では、我らに叶うわけがない」
「ガルルルルル!」
「ご主人様。下がってくださいですわ」
「わかった」
 情けないが、丸腰の俺では足手まといになる。
 俺は500Mほど離れたところに移動し、情勢を見守ることにした。
「では、いきますわ」
 チカはもぞもぞとポケットに手をやると、これまた物理的に収納が不可能な、ライフルとシールドが出てきた。
 一体、あのポケットの構造はどうなっているのだろうか?
「そんな武器で我らを倒せると思っているのか?」
「これで十分ですわ」
「ナメルナ!」
 先にしかけたのは、モンスターだった。
 人間とは明らかにかけ離れたスピードを持って、チカに襲い掛かる。
 両者との間はゆうに400M越えていたが、それをあっさりと縮めてしまった。
「シネ!」
「はやや。せっかちさんは嫌われますわ」
 すぐ目の前に、敵の刃が迫っているというのに、チカは全く慌てることなかった。
 むしろ、余裕の顔をしている。
 それはすぐに結果となって現れることとなった。
 モンスターの刃が目の前に来たとき、チカは瞬時に身をかがめて避けた。
 同時にライフルをモンスターの腹部へと押しやり、「さようなら、ですわ」と呟いて、トリガーを引いた。
 重く乾いた音と共に、次々と弾丸がモンスターへと被弾し、絶命の叫びが空間に響き、そして消えていった。
 その間は文字通り、ほんの一瞬だった。
「捕獲完了ですわ」
「あれで、捕獲なのか?」
「はいですわ。一見、銃殺した感じなのですが、あれは対呪詛悪魔戦用、180ミリ魂吸弾を使用しまして、肉体を破壊し、魂を吸収するんですわ」
「……あまり理解は出来ないが、わかった」
「要は、魂を吸収した弾を使ったと思ってくだされば、それで結構ですわ」
 にこっと笑顔で言うチカ。
 なんというか、毒電波だ。
「ほお。あやつを瞬殺するとはな。誤算だったぞ」
「これでも、小隊長ですから」
「ただの雑魚じゃないってことか。まあ、よかろう。どのみち、地上に降りてきた以上、手ぶらでは帰らないのだから、貴様を倒し、デットエンジェルとしてやろう」
「ジャッカル程度では、私には勝てませんわよ」
「ふふ。これでも、そんなこと言えるのか?」
 呪詛悪魔の人型(以下、悪魔人)は、何も無い空間から瓶を出現させ、中に入っていたのを地面へと蒔く。
 数秒後。
 地面が揺れる現象が起こり、何やら巨大な物体が姿を現した。
 あの姿は……
「きょ、巨大ミミズ…」
「はやや」
 地面の下に生息していたと思われるミミズが巨大化した。
 体長は軽く俺たちの背丈を超え、見るからに凶暴な感じ。
「はや〜。生態系が乱れるのでやめてほしいですわ」
「そういう問題か?」
「全ての生物はあるべき姿で、あるべき場所にいることが良いことなのですわ。なのに、こんなことをされては、この辺りの生物さんたちは逃げてしまって、この場所は廃れてしまいますわ。それだけは、断固阻止しなければなりませんわ!」
「ふふふ。ただのミミズだと思うなよ。そいつらは、薬で強化、凶暴化しているからな」
「なら尚更、ですわ!」
 チカは持っていたライフルとシールドをポケットにしまい、今度はガトリングシールドと火炎放射らしきものを取り出した。
 護身用とか言っていたが、これはその範囲を超えているのではなかろうか?
「ミミズさんたちには悪いのですが、倒させていただきますわ!」
「倒せればな」
「「GAAAAAAAAAAAAAA!!」」
 悪魔人が右手を俺らの方に向けると、ミミズたちが雄叫びみたいなものをあげて、襲い掛かってくる。
 その速さは、本当にミミズかと思うぐらいに早かった。
「ご主人様には近づけさせませんわ!」
 チカは俺のすぐ前に立ち、ガトリングシールドをぶっ放しながら、火炎放射器を発射する。
 あくまでも、ガトリングシールドは相手の足を止めるのと、装甲を削る目的であり、メインは火炎放射器で熱殺するなのだが……。
「はやや?」
「言っただろう? ただのミミズではない、と」
「いや、もうミミズじゃないと思うぞ」
 恐らく、人間があの銃弾を受けたら即死するぐらいの威力を持っていると思われるガトリングシールドなのだが、巨大ミミズはそれを跳ね返し、火炎放射器をも持ちこたえている。
 強化しすぎだろう、あれは。
「はやや。仕方ありませんわね。なるべく穏便にしたかったのですが」
 あれで穏便だったのかと、心の中で激しいツッコミを入れると同時に、チカはまたポケットに武器を仕舞い、別の武器を取り出した。
 大きなシールド状のものと、何かの筒みたいなものだった。
 武器なのかと疑問に思っていると、すぐにチカが答えを出してくれた。
 筒についているボタンを押すと、SFとかでは定番になっているある武器になった。

てんゆび2章02・3
K'SARS / 2006-05-04 11:09:00 No.880
「び、ビーム…」
「実弾が効かなければ、これですわ」
「めいどの世界って、一体…」
 下手すれば、人間の世界よりも遙かに文明が進んでいるのかもしれない。
 しかも、SF好きにはたまらない方向へと。
 絶対に、どこかがずれているような気がする。
「行きますわ!」
 チカはシールド状のものを前に向け、内側にあるボタンを押すと、真ん中から2つに割れ、銃口みたいなものが現れた。 
 それはまるで、ハーモニカみたいな感じだった。
「ハモニカ砲、発射ですわ!」
 内部に充電されたエネルギーが、発射ボタンにより解放される。
 広範囲に広がり、次々と巨大ミミズを打ち抜いていき、倒れていった。
 さらにチカは、とどめとばかりに、ビームサーベルで巨大ミミズたちを縦に切り裂いていき、あのモンスターと同じように消していった。
 一時の迷いもなく、それが当然であるとばかりに。
 さっきまでのほんわかとしたチカは、そのときばかりは消えていた。
 目の前にいるのは、邪魔者を消滅させるだけの、狩猟者。
「さてと、次はあなたの番ですわ」
 サーベルを冷たい目で、チカは悪魔人に向ける。
 どうやらさっきので、スイッチが入ってしまったようだ。
「いいだろう。我の実力、直に受けてみるがいい」
 そう言うと、悪魔人は地面を強く踏み、力む動作をした。
 どうやら、力を解放するようだ。
 チカはそれを阻止することなく、ただ見ているだけだった。
「いいのか?」
「かまいませんわ。それに、もう少しで援軍が来ますわ」
「援軍って、さっき電話で話していた?」
「はいですわ。……あっ、来ましたわ」
 チカが見上げた先を見てみると、何やら空間が歪む現象が起こった。
 それから少しして、天使の羽みたいものが出現し、歪みから3人の女の子たちと野郎が出ていた。
「えっ?」
 出てきた場所が予想していた場所と違ったのか、先頭にいた女性は、思いっきり目を丸くし、後から出てきた少女たちと野郎は顔面蒼白って感じで、地球の重力に引っ張れて落ちていく。
 そしてその出現した場所は、ちょうど悪魔人の真上で、落ちてくるのに気づいていない悪魔人は、落下速度と各種体重の威力で潰されるという、ギャグ漫画ではすごいおいしい画になった。
「あいたたた。んもう、地表近くに転移するはずだったのに、どうして空中だったんだろう?」
「うう、お尻、痛いよ〜」
「ふえーん」
「しっかりと座標を固定してなかったからな」
 四者四様の反応。
 見た目は普通の男と女だったが、着ている服が守護天使のものと似ていた。
「大丈夫ですか? ヒューネさん。アズミちゃん。カズミちゃん。それと、名も無い男援護天使Aさん」
「アラドだ! お前、まだ根に持っているのかよ」
「ふん、ですわ」
「……お前ら、一応そこから退いた方がいいぞ。下敷きになっているの、お前らの敵なんだぞ」
「「「「えっ?」」」」
 俺の言葉で4人は下を向いた。
 数秒ほど固まってから、まるで汚物を見るかのように、さっと遠退いた。
 なんというか、個性的キャラばかりだな、こいつら。
「くっ。不意打ちとはな、やってくれる」
「ふっふっふ。それに気づかないあんたが悪いのよ」
 這い上がる悪魔人に人差し指を向けて、勝ち誇ったようにほざくヒューネとやら。
「お前、さっきと言っていることが違うぞ」
「あれは敵を油断させるための口実よ」
「あっ、そ」
「ムッカー。何よ、その態度〜」
「ヒューネさん。今は、任務の方を優先してくださいですわ」
「おっと、そうだった」
 喜怒哀楽が激しいヒューネを先頭に、フォーメーションらしきものを組むチカたち。
 並び的には、アズミ、アラド、ヒューネ、チカ、カズミとなる。
 ちょうど、くの字の形になる。
「援護天使特務機関『フォースバルキリー』第08小隊『ヒューネと愉快な仲間たち』、只今参上!」
 ズコッ。
 ヒューネを除く全員が、ドリフの様にずっこけた。
「違いますわ! 『ストライクバルキリー』ですわ」
「いいの。今は私がいるんだから、『ヒューネと愉快な仲間たち』なの」
「はや〜」
「なんか、カッコいいよ〜」
「そ、そうかな…」」
「はあ〜。嫌な予感的中」
 悪魔人を無視して、完全に自分たちの世界に入りこむ連中。
 なんというか、緊張感がない連中だ。
「んもう。チカぼーがそういうんだったら」
 ヒューネは軽く咳払いをして、またフォーメーションを組む。
 ただ、今度はチカが先頭になった。
「援護天使特務機関『フォースバルキリー』第08小隊『ストライクバルキリー』参上ですわ!」
 先ほどの失態を取り戻すように、チカが威勢良く叫んだ。
 こいつら、本当に大丈夫なのか?


<続>



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  後書き♪

K'SARS「久しぶりに多人数を出した」
ミナト「このお話しに出ているアズミちゃんとカズミちゃんって、あの2人ですか?」
K'SARS「ああ。少し年齢を上げているけどね」
カナト「どのぐらい?」
K'SARS「ヒカリと同じぐらいかな。ほぼ同時期に出会った」
ミナト「ようやく、日の目を浴びましたね。よかったです」
カナト「そうですね」
K'SARS「これからは、サキミに変わって、しっかりと活躍してもらうから」
サキミ「しくしく…」
ミナト「ああ、サキミちゃん、涙を流しながら、草もちをやけ食いしつつ、書類にむかっています」
カナト「なんというか、哀愁が漂っているね」
K'SARS「さてと、あいつはほっといて、次は新キャラの紹介じゃ」
ミナト「作者さんには珍しく、男の方と、なんか、チカちゃんよりも年上の方を出しましたね」
カナト「ヒューネさんと、アラドさんですね」
K'SARS「見たとおり、ヒューネはバカ。アラドはツッコミじゃ」
ミナト「そ、その紹介の仕方は、ちょっと…」
カナト「的確な例えだと思うけど、もう少し詳しく言ったほうがいいと思うけど…」
K'SARS「いいのだ。詳しい紹介は、また後日載せるから」
ミナト「はあ〜」
カナト「らしいといえば、らしいんだけどね」
K'SARS「さて、次で悪魔人との決着をつけるとしますかね」
ミナト「でははん」

Re: てんゆび新章
エマ / 2006-05-11 10:02:00 No.886
こんにちは。
天ゆび、新しい章に突入しましたね。ううむ、サキミちんの章の掲載を早く完了させねば……えう〜w

コンビニでのバイト、おや? どこかの誰かさんと共通点が……。とおもったら、亮たん&さこやんとの夢の共演だとぉ〜!?w
いやー、この調子なら、チカたん編のつぎの章ではきっと真吾さんが登場するに違いないww
それはおいといて……。

うさこちゃんとの熱々ぶりが……抑えてください浩人さん。亮たんきっとわざとやってますからw 
確かに、独り身には猛毒ですよね。私も普段道歩いててバカップルに遭遇するともう(ry
でも、浩人さんにはサキミちゃんが居るんだから……と思ったら、ああ、そういえば……サキミちゃん天界に戻っているんでしたね。そうか……イジる対象が居ないから寂しいノカ……w

男独りで月見酒、くぅ〜。場所によるかもしれませんが、いいですね。もっとも私なんかは夜に公園で一人飲むなんて怖くて出来ませんけど。

……ごく、自然な感じで現れましたね。チカさん。思えば天使のしっぽアニメ版とかだと風呂から上がったらいきなり部屋に居たとかいうノリでしたから、それよりもさりげなくて良いのかも。
自然な感じでゴスロリ……ぷぷぷw

実際の服装の印象とかがまだ想像しきれないんですが、そのうちイラストになったらぜひ見せてください。高貴な人形がそのまま……という事はおそらくローゼン……あわわw

瑞希さんて、もしかしてあの……浩人さんが道を踏み外してしまうきっかけになった別れ方をした方でしょうか。人間と親しいペットがメッセージをやり取りする場所でもあるのでしょうね。チカちゃん自身の意志でもあるのでしょうが。歯に浮くようなセリフをすらすらと言えてしまうのはやはり守護天使だからこそですね。思春期の女の子でもフツー口に出さないと思うw

それはそうと、サキミちゃん。援護天使達の間では悪い意味で有名になってしまったんですね。援護天使としては最低とか、言われ放題やん……えうぅw
めいどの世界の事務処理って、私はあまり考えた事無いんですよね。人間社会みたい書類と格闘とか、パソコンとにらめっことか……天界なんだからもう少しファンタジーな事務処理でも良いような気はするのですが……。
携帯電話は、アニメの影響は大きいですね。私も美月さんにZOMAとかいう機種を持たせてますがw
チカちゃん、ワンセグ対応の最新機種ですか。いいですな。しかも自分のなのに使い方わかってないというのが萌えw
「はやや」というのが、良いですな。うむ、どかんと来たよ。おいらのツボにw

で……戦闘ですか。再会していきなり……。
で、モンスタータイプとマンタイプの呪詛悪魔のご登場……。色々と呪詛悪魔の設定について聞いてたのはこういう事だったのねw
魔獣レベル10というと、あと少しで魔王レベルですから、かなりの強敵という事ですね。死の先だと1話からサキさんに瞬殺されていますが、逆にレオンさんやチップさんだと応戦するのがキツい程のレベルでもあるわけで……。いや、最近フェンリル隊員を中心にめちゃくちゃ強いキャラが出てきてますが、こうした魔獣レベル以下の人たちの強さも見直そうぜ習慣を個人的にやってます。はいw

しかし、「コロス、コロス!」ってカムド兄さんじゃないんだか(ry
っていうかチカたん四次元ポケ……(ry
いや、ケロちゃん瞬殺、うむ、弱い!w
いや、チカちゃんと、ブッソーなライフルが強いのか……。って、アンタ180ミリってどこの大きさですか。口径だったりしたら、超弩級大砲なのでそれはないとしても……長さとしてもありえんわな。きっと、銃口から離れたら急激に膨らむのであろうww

ミミズさんを巨大化・凶暴化して襲わせるなんて……生態系が乱れるからやめてほしいですわw でも自分で戦わずにこういうのを呼び出すって、ジャッカルタイプらしいとはいえば、そうなんですかねぇ……。
しかし、女の子なのに火炎放射器は……ヤバイよチカさんw
最後には未だ人類が到達していないビーム兵器……。天界の技術はバケモノか!!w
ゴスロリセクシーコマンドーというクラス名を与えましょうw

で、ヒューネたんとかアラドくんとかカズミたんとかアズミたんとか、知り合いが何人か出てきたと思ったら……チカたんとこの人たちがあのアレか! 噂に聞く強いけどクセのある奴ばかりとゆー、第08小隊のお方々かー!w

隊長が誰なのかが気になりますが……。ううむ。この章はサキミ編とは違ってアレな展開になりそうですね。別の意味で期待大w
次の話も期待してますよー♪

てんゆび2章03・1
K'SARS / 2006-05-24 23:11:00 No.898
   天使とのゆびきり〜それが唐突に激しく 後編〜



「援護天使特務機関『フォースバルキリー』第08小隊『ストライクバルキリー』参上ですわ!」
 チカが宣言すると、周りの4人がフォーメーションを組んで、決めポーズをする。
 ちょうど五人いるから、何かの特撮のように見える。
「さあ、覚悟してくださいですわ」
「その台詞、まとめて返してやるよ」
 悪魔人は、ファイティングポーズを構えた。
 あれ? なんか雰囲気が……。
「それじゃ、アラドくん、アズミちゃん、カズミちゃん。戦闘モードJで行きますわ」
「「「はい」」」
 フィーネを除いた4人は、悪魔人を囲むように散っていく。
 包囲して殲滅する。
 兵法では基本的な陣形だな。
「あなたが、チカぼーのご主人様?」
 フィーネが俺に近寄って、腕を組んで観戦を決め込んだ。
「ああ。奥村浩人っていうんだ。んで、お前は…」
「チワワのフィーネっていうの。階級は、3級神なんだけど、私、現場主義だから、各小隊の大隊長しているの。よろしくね、ヒロっち」
「……勝手に人のあだ名を付けないでくれ。それより、いいのか?」
「大丈夫よ。ほら」
 アズミとカズミが中距離から仕掛け、悪魔人がそのどちらかに攻撃を加えようとしたら、チカが遠距離ライフルで牽制し、怯んだところでアラドが接近戦を挑む。
 本格的な戦闘が開始されてから、ずっとこの形。
「08小隊は、性格に多少なりとも難ありど、実力は援護天使の中でも、折り紙つきなの。アズミちゃんとカズミちゃんはその中でも、最年少で上がってきた子たちなんだからね。安心してみていられるの」
「じゃあ、なんでお前が降りてきたんだよ?」
「それはね……」
 フィーネは俺の前に立ち、後ろに手を組んで、前かがみの姿勢になった。
 恐らく、俺と年齢的に変わらないと思うのだが、かなりの童顔と女子高生風の口調のため、かなり幼く見える。
「えへへ」
「な、何だよ」
「すっかり、大きくなったね〜」
「それは、どういう…」
 突然、俺の中で、心の奥底に眠っていた記憶が蘇った。
 それは、温もり。
 それは、安らぎ。
 それは、始まり。
 全ての原点がそこにあって、この人がいなかったら、俺はこの世に生を受けていなかった、大切な、生みの母親の記憶。
「思い出したみたいだね」
「……まさか、死んだ母親の守護天使に会えるなんて、思ってなかった」
「そうだよね。確か、観鈴様が亡くなったのって…」
「俺がまだ物心つく前だな。気づいたときには、俺は平野の家の養子になっていたから。だから、ほとんどなんも覚えていない。顔は、アルバムに写っていたのがあるから、かろうじてわかるけど、だけどそれは、他人の中にある母さんの一部で、俺自身の中の母さんは、もういないから」
 気が付いたときには、俺はもう、生みの両親の温もりが感じられなくなっていた。
 育ての親である平野の両親に、本当の子供のように育ててもらったし、その後に出来た義理の妹弟ともうまく行っていたから、不自由なく生活をしていた。
 俺が生みの両親のことを知ることとなったのは、平野の両親と一緒に墓参りに行ったときのこと。
 そのときに、死因や経過をまとめて知ることとなる。
 高校生になっていた俺は、驚きはそれほどでもなかったし、もう過去のことだから、あまり関心はなかった。
 ただ、今の生活を始めるに際して、奥村の姓があるというのはありがたかった。
「私は、ヒロっちのことをずっと見ていたよ。本当なら、ヒロっちが一番辛いときに飛んできたかったけど、転生に必要な条件が揃っていなかったから、だから…」
「気にするな。フィーネが来たところで、多分、俺の生活は変わっていないと思う」
「うう、そう言われると、悲しい」
 およよよっと、明らかな演技で崩れ落ちる、フィーネ。
 俺の心を痛めようという魂胆だろうが、そんな単純な策に引っかかるほどバカじゃない。
「それよりも、雲行きが怪しくなってきたぞ」
「うん?」
 フィーネに気を取られてあまり見ていなかったが、チカたちと悪魔人との戦いは、徐々に悪魔人が押してきていた。
 というよりも、悪魔人がチカたちの動きに慣れてきたというところだろう。
 アズミとカズミの攻撃をかわし、アラドの攻撃をも難なくかわしてきている。
 唯一、チカの攻撃が効果を与えているみたいだが、見た目はあまりダメージを与えている感じはしない。
 何よりも、アズミとカズミとアラドの動きが鈍くなっているのが痛い。
「あら〜? 予想外の展開ね」
「チカ以外は後退させた方がいいぞ。あれじゃ、的になるだけだ」
「そうね。ちょっと行ってくるよ」
「ああ」
 フィーネは俺に笑顔を向けた後、すばやい動きで闘いの中へと身を投じた。
「これで、沈め」
「きゃあ!」
「てい!」
「なっ…!」
 悪魔人がカズミを沈めようとしたときに、フィーネが体当たりをかました。
 それと同時に、チカが腹部にスナイパーライフルを命中させる。
 まさに、息の合った連携。
「大丈夫?」
「あっ、はい」
「ここは私とチカぼーにまかせて、カズミ、アズミ、アラドの3名はヒロっちのところまで後退しなさい」
「りょ、了解です」
「は〜い」
「わかった」
 アラドがアズミとカズミをかばうように、俺のところまで後退する。
 近くで見ると、消耗が激しいのか、3人とも、肩で息をしていた。
「さてと、チカぼー。弾薬その他もろもろ、まだ大丈夫?」
「節約すれば、あと2時間はやれますわ」
「そんなにやりあうつもりはないからさ、1分で決めるわよ」
「はいですわ」
「なめるなー!」
 悪魔人が体当たりを決められて逆上したのか、フィーネに狙いを定めて突進してくる。
 だが、その時点で自分との技量の差を感じ取れなかったのが命取りになる。
 フィーネはあっさりとかわし、手にしたナイフで確実に延髄を刺した。
「チカぼー」
「了解ですわ」
 チカはライフルを悪魔人に浴びせながら接近し、心臓と思える場所をサーベルで貫いた。
「がは!」
「捕獲ですわ」
 最後に、ゼロ距離からライフルを発射させると、先ほどのモンスターと同じように消えてしまった。
 ここまで、1分も経っていない。
 まさに、一瞬の出来事だった。
「さすがフィーネさんだよ〜」
「うん。すごいね」
「俺たちって、一体…」
「まあ、それが実力の差ってもんだろうよ」
 詳しいことはわからないが、最低でも、8つの部隊の総隊長をしているフィーネ。小隊長をしているチカとでは、アラドたちがいくら束になっても、今はとてもじゃないが叶わない。
 かつて、俺も同じことを経験しているだけに、アラドの気持ちがよくわかった。
「ところで、あんたがチカさんのご主人様なんだって?」
「ああ。そうみたいだな。ついでに言うと、フィーネのご主人様代理ってことになる」
「それでね〜〜」
 一番へばっていたアズミが、いきなり俺の腕を掴んだ。
 その際に、小さいながらも柔らかい感触がするが、流石に免疫がないわけじゃないので、あまりドキドキはしない。
 つうか、この状況でドキドキしていたら、俺は特殊な趣味の持ち主になってしまう。
「あ、アズミちゃん。ずるい…」
「いいの〜」
「もしかして、お前たちも?」
「うん! ア・ズ・ミだよ。アライグマの、ア・ズ・ミだよ♪」
「か、カズミです。アズミちゃんと一緒にいた、アライグマのカズミです」
「う〜ん……。あっ、あの双子ちゃんか」
「「はい!」」
 高校に入学して2年目の春に、隣に引っ越してきた双子ちゃん。
 家の環境がそれほど良くなかった彼女たちは、母さんの誘いもあって、よく妹たちと一緒に遊んでいて、俺はその付き添いをしてこともしばしばあった。
 そんなある日、双子ちゃんの親が、2匹のアライグマをもらってきた。
 普段、辛い思いをさせてきたという罪悪感もあったのかもしれないが、そんなことは双子ちゃんたちにはどうでもよくて、新しく出来た家族に大喜びで、俺も世話をした。
 当時いた恋人との時間以外のほとんどの時間を裂いていたと言っても、過言ではないかもしれない。

てんゆび2章03・2
K'SARS / 2006-05-24 23:13:00 No.899
 だからだったのか、一番上の妹が、ちょくちょく俺に不満をぶつけてきた。
 細かい部分までは覚えていないが、要約すれば、一緒に住んでいる妹と双子ちゃんのどっちが大切なのっていうことだったと思う。
 俺は妹をなだめることはしなかった。
 下手な言葉をかけたら、余計にこじれることは火を見るよりもわかっていたし、俺自身が行動で示さない限りは納得してくれるとは思っていなかったからだ。
 拒絶したつもりはないが、妹は俺の態度をそれと思い、自然と避ける様になってしまった。
 両親は一時的なものだと言っていたが、結局はそのままの状態で別れることになってしまうのだが、これはまた、別の機会にでも。
 んで、双子ちゃんたちと俺、そして、当時の恋人の4人は、それなりにうまく行っていたのだが、突然、双子ちゃんたちがいなくなったことで、終止符が打たれてしまった。
 聞くところによれば、夜逃げだということだった。
 以来、まるっきり音信不通だったのだが、ある日見たニュースで、彼女たちが死んだということが報じられた。
 死因は、一酸化中毒による中毒死。
 しかも一家集団自殺。
 犯人は父親で、深夜、家族が寝静まったところでキッチンのガスを抜いたということ。
 そのせいか、双子ちゃんたちと母親は、綺麗な顔で死んでいたという。
 俺は恋人の前で、大泣きしたことを、すごく覚えている。
「まさか、お前達まで来るとはな」
「偶然って、重なるものですわね」
「そ、そうね」
「……フィーネ。お前、知っていて、こんな編成組みやがっただろう?」
「(ぎく!) な、なんのこと〜」
「とぼけるでない。小隊を編成する権限を持っているお前が、隊員の経歴などを知らないわけじゃないだろうが」
「あ、あはは」
 どうやら、フィーネは嘘はつけないタイプらしい。
 正直、自分の生みの親がこんな性格でなかったと思いたいが、その辺は、平野の家に帰って聞けばいいだけか。
 もっとも、今帰ったところで、妹達に追い出されるのが目に見えているが。
「さてと、本当はもっとヒロっちといちゃつきたかったけど、チカぼーを残して、08小隊は帰還するよ」
「「ええ〜!!」」
 アズミとカズミは明らかに不満の声を上げる。
 まあ、それが普通だと思うが。
「もっとご主人様と居たいよ〜」
「そ、そうです。せっかく、お会いできたのに」
「それは私も一緒よ。ヒロっちとラブラブしたい気持ちは、すっっっごくあるんだけど、私達は任務のために降りてきたんだからね」
「でも〜」
「アレ、食べたい?」
 フィーネの一言は、俺以外の時間を止めた。
 チカは表情には出さないが、明らかに嫌そうな雰囲気を出し、アラドは露骨に顔を歪め、アズミとカズミに至っては、直立不動で全身から脂汗を出していた。
 言った本人でさえ、勘弁してほしいというオーラが噴出していた。
「任務は確実に忠実に。私達は任務を果たした以上、帰還するのが当たり前なの。チカぼーは事前に長期休暇申請をしていて、あの人がそれ受理した。だからここに残る。従わないときは、それ相当の処罰を受ける。わかるでしょう?」
 ぶんぶんぶん。
 チカたち08小隊は、激しく首を縦に振る。
 完全に内部事情なのでさっぱりなのだが、見る限りでは、精神崩壊が起こっても不思議じゃないぐらいの、食の化学兵器に相当するぐらいの食べてものを食べさせられるのであろう。
 俺もかつて、それに相当するぐらいのものを食べた(正確には、無理矢理に妹につっこまれた)ことがあるので、その気持ちはよくわかる。
「それで、どうするの?」
「「「即刻帰還します!!」」」
 見事までにハモる3人。
 そりゃそうだ。
 自ら死地に向かうようなことはしないだろうな。
「じゃあ、扉を開くからね。チカぼー。ゆっくり休暇を楽しんでいらっしゃいね」
「はいですわ」
「じゃあね、ヒロっち」
「ああ」
 フィーネが何やら小言で呟くと、何も無い空間に扉が現れ、アズミを先頭に、カズミとアラドが続き、最後にフィーネが入ったあとに自然に閉まり、粒子となって消えていった。
 残された俺とチカの周りの空気は、シーンと静まり返っていた。
 この世界が、今までのイレギュラーな出来事を相殺するかのように。
 だが、現実にアレは起きており、隣にいるチカがそれを確認できる存在だ。
「……せっかくの月見酒が台無しだな」
「はや〜。そうですわね」
「まあ、愚痴っても仕方ないし……帰るか」
「はいですわ。ご主人様」
 …ご主人様、か。
「チカ。その呼び方、やめてくれないか?」
「はやや?」
「理由は2つ。1つは、俺が嫌だから。もう1つは、今のチカの格好で呼ばれたら、世の中の野郎を敵に回すことになる」
 ゴスロリファッションでご主人様と呼ばれることほど、やばいものはない。
 俺はあまり世間の目は気にしない、というか、慣れてしまったのだが、さすがに無数の殺気を浴びて平然といられるほど図太い精神ではない。
「では、どうお呼びすればいいのでしょうか?」
「まあ、人前では名前で呼んでくれたらいいよ。ただし、絶対に兄と呼ばないこと。それの類義語もダメ」
「はやや〜。人間さんの世界は難しいですわ」
「かたっ苦しく考える必要ないから、普通に名前で呼んでくれ」
「では、浩人様」
「……わざとか?」
「これ以上は、私には無理ですわ」
「はあ〜。わかった。それでいいよ」
 そろそろ深夜になりかけて寒くなってきたので、これ以上の口論はやめたほうがいい。
 続きは、また明日考えよう。
「じゃあ、チカ。家に帰ろうか」
「はいですわ!」
 チカは俺の右腕にしがみついて来た。
 女性特有の柔らかさが直に伝わってきて、一瞬、ドキっとしてしまった。
 情けないことだが、反応してしまった。
「はや? どうかしましたか?」
「…なんでもない。さあ、行くぞ」
「はいですわ」
 俺はチカを連れて、自分のアパートへと向かったのであった。


<続>



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 後書き♪

K'SARS「ようやく一日が終了」
ミナト「また新しいキャラですか。しかも、観鈴さんの守護天使」
カナト「そして、近年まれに見る、男の守護天使」
K'SARS「な、なんだよ」
ミナト「珍しいですね」
カナト「だね」
K'SARS「まあ、たまにはな。それよりも、苦情が来ているって」
ミナト「ええ。ちょっと待ってくださいね……。えっと、これです」
カナト「紙がぐしゃぐしゃだね」
K'SARS「何々……。『わ〜た〜し〜の、で〜ば〜ん〜を、く〜だ〜さ〜い、ですぅ』 なんだこれ?」
ミナト「なんというか……」
カナト「血の叫びだね」
K'SARS「まあ、あのえう〜には、あとでとてつもないお仕置きをするということで」
ミナト「ひどいですね」
カナト「まったく」
K'SARS「さてと、ようやくチカぼー編も最初の3話で終わったところで、次のステップにいけるよん」
ミナト「どうなるのですか?」
K'SARS「しばらくは、いつものてんゆびになるかな」
カナト「いつまで続くことやら」
K'SARS「いいのだ。さて、次の話で会いましょう」
カナト「でははん!」

Re: てんゆび新章
エマ / 2006-06-01 01:37:00 No.900
ふふふ、Kやんが慎ましくも後続のレスにて次の話を書いていた訳だが、みなさんは気づいたであろうか?w

しかし、なんですか。援護天使特務機関なんてのが出てきましたね。ううむ、DFに新たなライバル機関が出現したことになるのかなw
バルキリーというからには、なんだか女性が多い感じはするのですが……。

フィーネちゃん、馴れ馴れしくヒロっち、とか呼んできましたが、なんと、浩人さんのお母さんに仕えていた守護天使だったんですね。何気に超重要な再会イベント……。
平野家への養子だった、という浩人さんの設定、今思い出しました。ああ、色々な事情があったんですねぇ……。
感動の再会なのに「来た所で変わってない」とかはっきり言っちゃう浩人さんも相変わらずですが、フィーネちゃんも軽くながすし、楽天家という感じですね。しかもめちゃ強いし。
3級神というのもうなづけますが……それでもちょっと階級高すぎのような気がしないでもないけど。まぁいいか。

しかし、アズミちゃんとカズミちゃん、双子だったんですね。しかも……思い出の子たちの生き写し……。なんか、もの凄く悲しい過去があったようですが……それはまた別の機会に語られるのでしょうか。ちょっと辛そうですが、見てみたいかも。

さて、怒濤の勢いで戦いが終了して、現実に戻りましたね。このチカちゃん編は、日常とこうした非日常の入れ替わりがポイントになるのでしょうか。日常では、意外とチカちゃんとほんのりした生活が見られそうですね。食事時は、まぁまた違うでしょうがw

次も期待してますよー。
サキミちゃんの血の叫びにちょっと笑ったw

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