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白鷺、羽ばたく  第七回
原案:K−クリスタル 文:ライオンのみさき / 2006-05-13 13:11:00 No.887
 こわい……。
 恐ろしい……。
 今、サキの感じているのはまぎれもなく恐怖だった。仮に負けたところで、命を取られるわけでもない模擬戦――訓練だなどどいうことはよく分かっている。が、そんなものは理屈にすぎない。
 プレッシャー――精神的に覚えるそれと言うより、ほとんど物理的な肌で感じる圧迫感に、現実に喉や胸を押さえつけられているようで、もはや呼吸も楽にはできない。
 いやな汗が全身から噴き出し、青ざめてなお美しいその面差しの額から頬を伝って流れてきた汗が形のいい顎の先より、滴となってしたたり落ちる。
 それでも、サキは気丈にも戦闘態勢を取り続けて、構えは崩さずにいた。けれど、それはやっとどうにかその形を保っているに過ぎず、ほんの一押ししただけで、すぐにもくずおれてしまいそうにもろいものであるのは、その場にいる誰の眼にも明らかだった。
 そのサキへワイルドは近づいていく。容赦なく最後の一撃を浴びせんとして……いや、そういう状態の今の彼女に対しては、むしろそれこそ情けある行為だと言えるのかもしれなかった。
 ワイルドの動作は相変わらずさほど素早くは見えないが、流れるようで淀みがなく、接近からなめらかな一連の動きで、左右のベノムで続けてサキの剣に牽制の攻撃を加えると、そのまま蹴りを放った。
 見本にして取っておきたいような、右上段の回し蹴り――来るのが分かっていても容易には避けがたい、そういう攻撃だった。
 しかし、サキは反応した。
 自分の側頭部を狙って飛んできた蹴りに対して、サキはさっと身を屈めることで、やり過ごそうとした。ほんの刹那の時間の内で、動き得たのはわずかでしかなかったが、紙一重とは言え、かわせるタイミングだった。この土壇場で、これだけのことをとっさにしてのけたことは、この少女の驚嘆すべき資質を証してあまりある。
 だが、彼女の頭の上を通り過ぎていくはずだったワイルドの足先は、次の瞬間、それまできれいな弧を描いていた軌跡が空中で急激に折れ曲がり、急降下するようにサキへと襲いかかった。
 見守っていたセリーナとレオンは、あまりのことに眼を疑う。 
(蹴る方向が途中で変わった……いえ――変えた……!)
(フェイント――じゃない! サキの動きを見て、それに合わせて、すでに放った蹴りの軌道を曲げたんだ……し、しかし、そんなことが……)
 しかも、そればかりではなかった。いよいよサキの頭に近づいた時、その足首から先がぐるりと回って、後方からサキの細い首を鎌で刈り取るかのように迫っていったのだった。  
(あれは、あの動きは、空手か、テコンドーの高等技術……!)
(サキからは全く見えない。あれは――よけれん!!)
 四人の観客のうち、心中で声にならない叫びを上げていたのは、二人だけ。あとの二人には、ワイルドのそうした体術はよく知るところだったから……。
 だがしかし、その直後、今度は四人全員が一斉に眼を見開いた。
 いや、観客に限らないなら、まだ他にもいた。その一瞬、すべての感情が乾き切って固まったような、さしものワイルドの無表情の面にさえ、ひびが入ったようだった。 
 さらに言えば、もう一人――本人である当のサキ自身こそが、その時、いちばん驚いていた当人だったのかもしれない。
(え……? 何が――私……いま……?)
 自分の身に今何が起こったのか、自分が今何をしたのか、全く把握できないままに、その前になした動作の格好で、サキは呆然としていた。
 テレポート――まるで、そのようにも見えた。だが、それはあり得ない。なぜなら、現在のサキにはまだそのような技術はなかったのだから。 
 だが、そうしたことを疑ってしまうほど、その時のサキの動きはこれまでとはあまりにかけ離れていた。観ていた歴戦の戦士達の眼にさえ、一瞬姿がかき消えたかと錯覚を覚えさせるほどに速く、また、その前にはそうした気配が微塵も感じられなかったのだった。
 絶対よけられない、観ていた全員がそう判断した、あの状況から――しかし、サキはその前の少し屈んだ姿勢で、さらに体を後ろへと退いていた。動作としてかなりつらいものだったはずなのに、無理なく素早く、あたかも彼女自身の身体による動きではなくて、誰かの見えない手に引っ張られたかのように……。
「――サキ……?」
 呆気にとられたレオンの口から、呟きがこぼれる。
 闘技場の反対側でも、無音の雷鳴のような衝撃が走り抜けていた。
「ノワール、今の……」
「ええ――どう見ても、半ば無意識ね」
「セリーナ、あの子、今まであんなことは……?」
「もちろん、なかったわ」
 3人の女性のやり取りは短い。彼女たちが全員一流の戦闘のプロであるために、多くの言葉を要さずとも足りたからだが、衝撃の重さに自然そうなったものでもあった。
「ただ……偶然、と言うか、出合い頭に、さっきのあの時一度だけということも……」
「そうね……。でも――それもすぐに分かるわ」
 闘技場の上にいる男に三つの視線が集中する。
 すでにワイルドは動いていた。たった今自分の身に起こったことにまだ気を取られて、集中を欠いていたサキにいきなり近づくと、はっとしたサキが対応するより早く逆手に持った右手のナイフで彼女の剣を刈り取るようにして半ば薙ぎ払い、次いで左のナイフをがら空きになったサキの胸元へと突き出す。
 必死にそれを避けてサキが斜め後ろへ退がるのへ、ほぼ同時に左の前蹴りを打って、追い打ちをかける。足先はサキの腹部――鳩尾へと吸い込まれるように、伸びていく……。
(ここか……?)
 ワイルドが思った瞬間、またそれは起こった。
 急に加速したように――それはちょうど、その時だけ映像が早回しにでもなったかのようだった――真横へとサキは移動し、もうほとんど当たっていたはずのワイルドの蹴りを躱していた。
(――偶然、ではないな……)
 それが得た答だった。
 そして、観ていた者達も皆、ほぼ同時に同様な結論に達していた。
(まぐれじゃなかった――しかし、あれは考えてからの動作じゃない。いや、だからこそ、他の時より反応が一段早い……まるで、加速したように見えるのは、そのためか……)
 乾いた唇をなめながら、レオンは考えを整理する。
「見て、判断して、動作を決めて、動く――そうした手順をすべてすっ飛ばしているわ。危険を感じた次の瞬間には、すでに動いている……意識としては何も考えず、でも、正しい、安全な方向へ……。あれだけ見れば、もう百戦錬磨の一流の戦士と変わらない――ただ、いつもできるわけではなく、本当にせっぱ詰まった危険に晒された時だけのようだけど……」
 たった二度眼にした光景から、クリムは的確に解析を終えていた。
「ええ。それでも、本来なら、わたくし達のように、何年もの訓練や実戦経験を積んで、体に叩き込んで、ようやくできるようになることのはず――それを、あの子……」
 同意を示しながらも、セリーナはまだ呆然とした感じを残しているように見えた。 
 そこへ、ノワールが口をはさむ。
「それもそうだけど……さらに驚くべきは、攻撃を避けるのに、必要最低限しか動いていないということよ。危険から逃れるだけなら、もっと離れてもいい。いえ、その方が普通。それなのに、ぎりぎりで躱すというあれは、つまり――無意識の動作で、おかしな言い方だけど――彼女の戦う意志の表れだわ」
「確かに……自覚はないとしても、彼女の心の根底に、それがあるからこそ、ああいうことになるんでしょうね」
 クリムは頷く。
「ただ、今までは、自分に起こったことにびっくりして、ぼんやりしてしまっていたけど……でも、彼女はその後、動けないわけじゃない。だから……」
「ええ――もうそろそろ、次あたりには……」

白鷺、羽ばたく  第七回
原案:K−クリスタル 文:ライオンのみさき / 2006-05-13 13:16:00 No.888
 武闘場の上では、またワイルドがサキに攻めかかっていた。左の回し蹴りを放ち、それへサキが剣を向けてカウンターぎみに迎え撃とうとすると、急遽左脚はたたんで地に着き、勢いを殺さないまま、右の後ろ回し蹴りに移った。
 サキは身体ごと首を仰け反らせて、懸命にワイルドの蹴りをよけた。すると、ワイルドは身体全体を独楽のようにもう一回転させて、サキへ接近しながら、腕を伸ばして右と左のベノムを繰り出した。二本のナイフが続けざまに弧を描いて、サキの喉と胸元に迫る。
 その光景を眼で追いながら、クリムが一人言のように言う。
「――敵の攻撃を見切って、ぎりぎりのところでよけるというのは、何も軽業的な見世物のためじゃない……」
 その時、三たびサキの動きに変化が起こった。直前の仰け反って避けた時のような必死さもなく、狙いもタイミングも異なり、しかし、相次いで襲ってくる二本のナイフの軌跡を、サキは連続した左右へのサイドステップだけですり抜けるように難なくよけていた。それは彼女の意思とは無関係に、身体が勝手に動いてよけてくれたように……。
「……よけいな動作をしないことで、むだな力を使わずにすみ、また、体勢を崩して隙を作ることもない――そして、何より……」
 そして、サキはワイルドの懐の内にいた。今初めて、彼女は二本のナイフによる鉄壁の防御をかいくぐり、剥き出しの相手を眼の前にしていた。
「いざ反撃に転じた時、より相手を攻撃しやすい位置に自分がいる……!」
 無防備の肩口から、袈裟懸けにサキは斬り下ろす。
 ワイルドは後ろへ跳び退り、すんでのところで、それをよけた。
 確かに躱した。しかし、それはわずかの差だった。そしてまた、その時のワイルドの動作はこれまでとは違い、完全に逃げるためだけのものだった。
 それも、そうできたのは、そろそろサキの反撃が来ると読んでいたからで、その心の用意がなければ、今の一撃はおそらくは当たっていたというのは、彼自身認めるところだったのだった。
「う〜ん――惜しかった……」
 残念そうな顔でノワールは言った。――もちろん、仮にもし当たっていたとしたなら、その時には、また逆方向の残念な気持ちを感じたに違いないというのは、自分でも分かっているが……。
「まだ新人とも言えない訓練生が、あのワイルドにただ逃げるしかない攻撃をかけるなんてね……」
 クリムの口ぶりも、予想していたことのため、驚きこそ含まれてはいなかったが、それでも、感に堪えないように、
「あれを可能にするには、いろいろな条件が必要だわ……。敵の動きを把握する、特に動体視力に優れた眼の良さと――それと相反するようだけど、最も自分の体に近づいてきた時には、眼で見ないでも、皮膚感覚のように、敵の体や武器の位置を感じ取ることのできる鋭敏な感覚……それから、実際によけるためのスピード・素早い身のこなし……」  
「それと、あと一つ……紙一重で、躱しきるには――」
 つけ加えるノワールの言葉に、クリムは頷く。
「そうね。そのためにはもう一つ、いちばん大切なものが……それは――相手の攻撃のぎりぎり近くに身を置き、危険をはっきり感じながら、その恐怖に耐えてその場に踏み留まれる……そして、反撃の時には、恐れに身を強張らせることもなく、必要な動作を確実に行う――真の意味での、強い心……」
「あの子は、もともとそういうものはみんな持っていたわ……」
 しばらく黙っていたセリーナが口を開いた。
「いい眼と、勘の良さと、素早さ……そして――勇気」 
 感慨深い声はクリムとノワールを自然に惹きつけた。
「ただ……これまでは、そのそれぞれがみんなばらばらだったのが、今、一つにかみ合った。――そして……」
 深いが、静かと言っていいくらいだった声がこの時、別のもっと強い熱い感情に彩られた。
「よくやったわ、サキ。よく……。――とうとう……ここまで、来たのね……」
 呟きを洩らすセリーナの薄青の瞳が潤んでさえいることに気づき、クリムは驚いた。いくら愛弟子の成長がうれしいとしても、いささか彼女らしくないと思ったのだった。けれども、すぐに何か別のことがあるのを直感した。さすがの彼女にも、その内容まで窺い知ることはできなかったが……。
(もう、だいじょうぶ。――いえ、もちろんまだ、完全ではないわ。でも、少なくとも、一つ乗り越えた……)
 心の中でかみしめるように、セリーナは思っていた。
 白鷺のサキには、顕著な自罰的傾向があった。それも無理からぬことであったかもしれない。彼女は大きな罪を犯していた。かつて人間から受けた恩義を返さんと、愛をもってその人物を主人として転生してきた守護天使にあって、それは最も恐ろしく重い罪。そして、最もおぞましく、悲惨な救いがたい罪――主殺し。
 オラクルという呪詛悪魔の罠に嵌り、精神を乗っ取られたサキはいったん堕天し――人間や仲間の守護天使たちへ仇なす存在、デッドエンジェルへと変貌を遂げ――その錯乱していた間に、何よりも愛する主人をそれとは知らず自らの手にかけたのだった。生来の強靱な精神力で、独力で復天、また自分を取り戻したサキだったが、彼女にとってそれは、むしろ死よりもつらい地獄の業火に身を灼かれることとなった。天界裁判所はじめ他者からの糾弾を受けるまでもなく、それ以来サキは、自分自身を責め続けてきている。
 彼女が現在頭につけている“封冠”――彼女のために特別に造られた――にはそうした彼女の精神を安定させる機能があり、その働きで、どうにかこれまで自責の念に押しつぶされることを免れてはいたものの、それは彼女の意志の力ではなく、またその中ですら、自殺を図ったことさえあった。
 だが、そうした封冠の力を借りながらも、サキの中に、彼女自身の生きる力もまたいつか甦っていたことをセリーナは今知った。
 ノワールの言った、“戦う意志”。それは何も、敵と、眼の前の相手とばかりではない。それは、自分自身と――また、過酷な運命と……。
 今のサキは、ほんの3か月ほど前、何度もあったようには、それらに負けて、やすやすと死の誘惑に駆られたりはしない。
 セリーナはそれを信じることがができた。
 さっきから眼の前で見せたように、危険の間近にあえて自ら身を置き、その上でぎりぎりそこで踏み留まれているからには……。
 今までのサキでは、たとえ実戦をこなせるだけの戦う力を身につけたとしても、実際に闘いの場に出すには、一つの大きな不安材料がつきまとっていた。それは、死の危険に晒された時、その恐怖と圧力に耐えきれず、もうどうなってもいいと、自らその中へ飛び込んでいってしまうのではないかということだった。――しかし、あそこで戦っている彼女は、もはやそんな所にはいない。
 もちろん、サキ自身自覚してはいないだろう。だが、無意識の行動だからこそ、かえって確信が持てる。今のサキの生きようとする意志は、本物なのだと。
(サキ……)
 セリーナの視界の中で、白鷺のサキという少女はかつてないほど生命の活力に充ちて見えた。

白鷺、羽ばたく  第七回
原案:K−クリスタル 文:ライオンのみさき / 2006-05-13 13:17:00 No.889
 ほどなく終わりを迎えるかに見えた模擬戦の行方は、また分からなくなっていた。
 左右の長ナイフを自在に操り、同時に変幻の蹴り技を併せてワイルドが攻めかかるが、サキはそれをどうにか受け、それでも最後追いつめられそうになると、瞬間的に加速したような動きで見事に躱しきり、そのまま反撃に出る。その際には攻守が逆転し、ワイルドが防御に回るものの、また、機会を掴まえて攻撃に転じる……。
 そうしたことが繰り返されている。
 そしてたった今、突き上げられたワイルドのベノムがその一瞬前後退したサキの顔のすぐ前をかすめて飛び去ったと見えると、その後の空中に何かがきらきら輝いた。
 遠距離狙撃を得意とし、1キロ先の標的をも射抜くレオンの眼はその照明の光を反射しているものの正体を捉えた。数本の細い銀の糸が宙に舞っている……。
 刃のないナイフだというのに、その凄まじい速さと鋭さにサキの髪が一房切られていたのだった。
(危ねえ……!)
 反射的にひやっとした。が、すぐそれが間違いだと思い当たる。
「すごい……!」
 武闘場の反対側ではノワールが感嘆の声を上げ、クリムも賛同の意を示した。
「ええ――彼女、見切りの精度がまた一段上がったわ。2、3センチでよけられれば、もう一流……でも、今のあの子はミリ単位で見切る!」
 危うく当たりかけたのではない、サキは髪だけがワイルドのナイフに触れるぐらい、ぎりぎりの距離でよけてのけてみせたのだった。
 そして、もう次の瞬間には サキの剣は横薙ぎにワイルドに向かっていた。
「うん!」
 ノワールがひとつ大きく頷いた。
(反撃が早い……今までのような、近づくための余計な動作がいらない分。それで、テンポが上がって、攻撃のリズムもよくなった……)
 満足げな表情になる。
(あの見切りを体得してきたことで、さっきまでの距離の問題は――自分の本来の間合いに比べて剣が短いことの不利は、前ほどはなくなったわ。それだけ、前より自由に彼女は動ける……)
 その通り、ノワールが見たように、サキの動作はどこかのびのびとした解放感を感じさせるものになっていた。
 ――今、サキは、ある種不思議な感覚の中にいる。身体が軽くなり、また、自分の手脚がずっと長く伸びたかのような……。
 速く、しかも安定して動け、前には届かなかった反撃が届く……。
 まさに、水を得た魚のように、白鷺のサキは、その持って生まれた戦いの才能を開花させつつあった――。
 そのさまをレオンは息を詰めて、眼で追う。
(すごい……こうして見ているうちにも、サキがどんどん強くなっていくのがはっきり分かる……)
 間断なく響く金属音と共に、サキとワイルドの戦いは続いた。お互いに攻め合い、守り合う、そこのところだけを見れば、つい先ほどと変わっていないように思える。だが、その実態はまるで違った。
 ワイルドは手のベノムだけでなく、多彩な蹴り技も織り交ぜた四肢のすべてを使っていたし、その攻撃も先刻のようなサキの防御を見るためのものでは、すでにない。
 確かに倒すつもりで、かかっている。それで、まだ倒せていない。さすがにサキの方がずっと主導権を奪うところまではいかず、そのためにいっときは押されるが、それでも最後には必ず危地を脱し、決定打を食らいはしないし、その後には必ず反撃できてもいる。
(ワイルドから、さっきまでの余裕は、完全に消えた……。サキは、今ではワイルドと本当に互角に――いや、少なくとも、同じ舞台に上がって戦っている……)
 見つめるレオンの表情には、いつしか複雑なものが浮かんでいた。視界の中の闘う少女の姿が、不意にひどく遠くへ行ってしまったかのように感じられたのだった。
(――これからは、もう……俺じゃ、サキの訓練相手もろくに務まるまいな。ワイルドのああした高度な攻撃さえ、みんなよけてみせたんだ。それも、初めて見たはずの技まで……俺のテクニックぐらいでは、今のサキにはとても通用しないだろう)
 それは、いつかこうなるだろうとは、あの少女と出会った最初から分かっていたことでもあった。だが、サキの格段の進歩――いや、ほとんど爆発的とも言うべき急激な成長をこうして目の当たりにすると、嬉しさを感じると共に、一種の寂しさも覚えざるを得ない。
 しかし、それはサキが一人前の戦士にいよいよ近づいたという証しでもあり、また同時に、彼とサキの関係が新しい段階に進むということでもあった。だから……。
(そうだ――だから、これからもサキのために、俺にできることが……いや、これから先にこそ、俺にしかできないことがあるはずだな……)
 鳩のレオンはその瞳に新たな決意を宿して、改めて見直した。ごく近い将来、戦いの中で自分がパートナーを務めるべき、その少女を……。

やっと、ここまで――
原案:K−クリスタル 文:ライオンのみさき / 2006-05-13 13:23:00 No.890
 こんにちは。
 ようやくのことで、『白鷺、羽ばたく』の第7回をお届けいたします。本当にお久しぶりです。
 ……と申しますより、こちらの掲示板への書き込み自体もすっかりご無沙汰しておりました、ライオンのみさきでございます。

 ――このお話の投稿は、何と、9ヶ月ぶりです……連載のはずなのに、もはや、何をか言わんや ・ ・ ・ ・ (汗)。

 それも本当は、今回のこの第7回で、完結の予定だったのですけど、書いている内に内容がどんどん増えていって、ずい分長くなってしまいましたので、二回に分けて、お送りすることにしました。
 それで、次回の第8回で、完結ということになります。

 あ、いえ――そちらももうほとんどできておりますので、今までのように間があくことはありません。もともと今度の一つの回でお届けする予定だったものですし……ですので、どうかどうか、お見捨てなきよう……

 何かご意見、お気づきの点等おありでしたら、ご感想ともども、どうかよろしくお願い申し上げます。

Re: 白鷺、羽ばたく  第七回
ダイダロス / 2006-05-19 23:45:00 No.894
ども。
「白鷺、羽ばたく」の続編、お待ちしておりました。
でもその分、素晴らしいクオリティに仕上がっていると思いますので、待っていた甲斐がありました。

毎度の事ですが、サキ・レオン・セリーナを、ここまで魅力的に描いて下さって、本当に感謝感激ですね。
無論、プアゾンの三人も同様に魅力的ですが。


さて、冒頭のピンチをあのような形で切り抜けるとは驚きました。
でも考えてみれば、これは唐突なようでいて、全く無理の無い展開だと感じましたね。何故なら、サキの特殊能力は「時空」なので。
つまり、彼女が得た「時空」の能力が、無意識の内にテレポートの発動させたという事なのではと思いますね。無論、こんな無茶がまかり通るのは、サキが「時空」の能力を持つが故、なのですが。

それにしても、セリーナがあのような形での感情の発露がされるとは、意外でしたね。あ、悪い意味ではないですよ。僕としても、全く違和感ありませんでしたから。
当人もレオンも言っていた通り「鬼教官なんて柄じゃない」セリーナが、あそこまで辛さを堪えて「鬼教官」に徹したのも、その責任感の強さが成せる業なので。
ですので、来る物あったのではないでしょうか。

それにしても、後半は、ワイルドさんに対して完全に優位に立っていますが、サキの爆発的な成長振りには目を見張る物がありますね。
ここまでサキに有利になってしまっては、ワイルドさんが勝つは困難なのではないでしょうか? まあ、この時点のサキには実戦経験が無いので、そこを突かれて逆転を許してしまうかもしれませんが。

ともあれ、ようやく(と言って良いのか)ここまでの高みに辿り着いた事に対して、「死の先」作者として感慨深い物がありますね。


乱文気味ですが、これにて。
最終話も楽しみにしています。
では〜〜

白詐欺と 真っ赤な嘘で 紅白饅頭w
仮面ライダーG5‐R / 2006-05-21 23:05:00 No.896
えー、タイトルに深い意味も浅い意味もありませぬw

それはさておき、チャットでも話したとおり、相変わらず描写が深いなーと感じますた。でも起きてる事は短い間の事なんだよね。
その中でサッキーのレベルアップが無理なく組み込まれているのは流石というべきでR。

>これまでは、そのそれぞれがみんなばらばらだったのが、今、一つにかみ合った

これが全てを物語っているように思えるのであります。

これでワイルドも本気モードに突入して次がいよいよ最終局面というわけでつね。さてさてどうなることやら。
っつことで次回も検討を祈る。(=゚ω゚)ノ でわ!

Re: 白鷺、羽ばたく  第七回
エマ / 2006-05-24 12:46:00 No.897
お待たせいたしました。感想です。
「白鷺、羽ばたく」もいよいよラストに差し掛かってきましたね。

模擬戦にも関わらず、冒頭から死の匂いがしますね。むろん本当に死ぬわけではない、が、勝負という点でサキさんはすでに死の寸前に追い込まれている訳で、始めに精神的な苦痛や恐怖心の方が前面に出されているのは印象的ですね。元凶はワイルドさんの「死角が無く、万能で、読み辛い」、あの澱みの無い変幻自在な戦闘術です。恐らく、今まで多くの敵が彼の死角の無い技に攻めあぐね、追い込まれて悔しい敗北を喫してきたんでしょう。例えかろうじて生き残ったとしても、余程の才能がなければ彼から技術や経験を得るなんて機会は、(戦いに余裕がなさ過ぎて)貰えないかもしれない。

それを、サキさんはあっとう間に吸収して、一気に追いついてきていますね。まるでスポンジです。いや、別の見方もできるかな。追い込まれる事で、彼女に眠る(デッドエンジェル化の時に得た)潜在的力がどんどん弾き出されているのでは、とすら思います。むしろ、そうでなければ説明がつかない気もします。
サキさん自身、自覚できていないようですし……。
紙一重で躱しているのが闘争心の現れ、という指摘はもっともですね。危ない気もするのだけど、そうした事が何故出来るのか、精神論、とは少し違いますが、サキさんのメンタルな部分での成長と重ねて、セリーナさんたちの思いとともに説明されているのはやはりみさきさんらしい、上手いやり方だなと思いました。特に、死に逃げる事への誘惑に打ち勝った、という点。こういう所を描こうとはなかなか気づかないものですが、この時期のサキさんには確かに、ありましたからね。極限状態の中で、生きる事への無意識の渇望を得る。理屈だけの言葉でなく、実地訓練の中でサキに自ら体得させようという、セリーナさんの目論みは正解でしたね。

あ、よけいな話ですが、レオンさんの「一キロ先の標的を射抜く」というのはよほど条件と運の良い場合だと思います。それも、多分単独では無理で、他に位置補正をサポートする観測手が必要です(少なくとも現実世界ではそう)。たぶん、それは同じく狙撃もこなしてしまうワイルドさんにも言える事かな。

終盤の構図は、追い込まれたサキさんが例の瞬発的な反撃を無意識に行い、だがまだ完全に物になっていないので反撃しきる前に経験の差で再びワイルドさんに互角に持ち込まれてしまうといった所だと思いますが、この分だと最終回ではどうなってしまうんでしょう。ワイルドさん、負けちゃう?(笑)

最後、レオンさんとの新しい関係と関連づけられてますね。これが7話目の終わりにきてしまうということは、8話目の終わりは何でシメになるんだろうと、細かい所が気になったりしつつ……。とりあえず全体の感想は終わりです。

気になった所と言えば……。戦闘の描写が、ちょっと形容詞や比喩、説明が多めなのかな、もちろんある程度必要なんですけど、一文一文が長くて、スピード感が出ていない気がします。もう少し、一文一文を短く切った方が良いかもしれないと思いました。もちろん、これは個性の面もあるんですけど。
それより気になったのは、サキさんの成長がいくらなんでも速すぎる、という事。この模擬戦、一度も休憩がない事を考えると、長く見積もってもせいぜい1、2時間でしょう。
最初遊ばれてるだけだったサキさんが、たったの、いち、に、じかん・・・で、当時フェンリル内で最強の数人に数えられたワイルドさんと互角に? どんな才能の固まりでもありえないと思います。例えばこのペースで3日間24時間休みなしで訓練を続けたらどうなるでしょう。一週間もあればワイルドさんどころかあのレディ・サラさえ軽く超えてしまうような勢いに感じます。まぁそれはともかく、ようするに……たった1、2時間の出来事でワイルドさんと一気に互角までにしてしまうのは、なんだか勿体無いような気がするんですよ。もう少し長い期間をかけて、の事にした方が、その間にもっと色々な事が描けたのに……と思うのです。
私だったら、数日間〜数週間の訓練生活の中での出来事、ということにするか、あるいは、一日で書かなければ成らないとしたら、途中で「休憩時間」を入れます。重要なシーン以外はすっ飛ばせば、そう分量は多くならないと思いますし。
訓練からあがった後、あるいは休憩中、改めて作戦を練り直したり、戦いを回想する中で、描ける描写もあるかもしれません(レオンさんと会話もできたかもしれないし)。今回は宝くじにでも当たったかようなスピードでテンポよく成長して行きましたが、本来はもっと、なかなか思うように先輩の技が掴めず、自分もなかなか思うようには成長できず、うんうんと悩む期間があってよいものではないでしょうか。
このお話は多分、戦いを通してのサキ・ワイルド間、そしてその他のメンバーの間での心理描写・キャラクターの背景が明らかになっていく事、などが話の展開の軸になっていると思うのですが、一方で話の展開にかかる時間の管理や訓練場の周りの風景やキャラ間の位置関係がどうなっているか、といった事については殆どなおざりになってしまっていると いう印象も受けました。
もちろんこれは原案のクリスさんとの擦り合わせとか、色々な要素が絡んでいるとは思いますし、あえてそうした所は読者の想像に任せて、キャラ同士の相関の描写のみにフォーカスを当てるというやり方も確かにありとは思うのですが……。

色々と言いましたが、批判というよりも、私個人が思った事なので、そういう物として何かの参考にして頂ければ幸いです。

次はいよいよ最終回ですね。戦いの行方はどうやることやら……。そして、戦いが終わった時、何が待っているのか、それも気になりますすね。楽しみにしています♪

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