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てんゆび2章04・1
K'SARS /
2006-06-02 05:29:00
No.901
天使とのゆびきり〜チカのいる朝と賑やかな訪問者たち〜
それは過去の記憶。
奥村浩人という個人が忘れてかけていた、夏の出来事。
「にゃー」
太陽がほぼ真上に上がった頃、まだ幼さが残る浩人の足元に、一匹のネコがやってきた。
暑くてへばったのだろうか、少しぐったりとしていた。
「まあ、この暑さだもんな」
この日の最高気温は、37℃という、真夏日。
人間たちでさえ、この暑さで外に出たくないと思っているのだ。ましてや、毛皮だらけのネコは、余計に暑いであろう。
「ふう。こういう日は出歩かない方がいいぞ、チカ」
「ふな〜」
「……思いっきり後悔しているようだな。しゃあない、瑞希さんに会いに行くついでだ。送っててやる」
「にゃあ」
チカと呼ばれたネコは、差し出された浩人の両手に素直に捕まり、抱きしめられた。
ただでさえ高い温度が余計に高くなったことに、浩人は一瞬顔を歪めるが、なるべく影を探して歩き出した。
ほどなくして目的地に着いた浩人は、そのまま庭へと入っていく。
そこには、麦藁帽子をかぶった少女がいた。
「あら? ヒロくん」
「やっほ、瑞希さん」
仲瀬瑞希。
この炎天下には似合わないぐらいに白い肌の持ち主で、ちょっとの風でも飛ばされそうな細い手足をしている。
一般的に言えば、病弱な少女。
きっかけは、近所のPTAの集会。
集会とは言っても、要は親睦会みたいな感じ。
表向きは、近隣住民との信頼を深め、防犯や避難活動を円滑に行う、というものだが、実際は、ただのどんちゃん騒ぎがしたいだけ。
しかも、費用は全て仲瀬側が負担してくれるということもあって、割と出席率はよい。
もちろん他にも理由はあるのだが、その大半は、この土地を代々守ってきた仲瀬家の好意を無下に出来ないというもの。
そんな恒例となったある日の集まりに、浩人と瑞希は来ていた。
周りは大人ばかりで、2人は自然と隅へと追いやられていた。
最初に声を掛けたのは、浩人だった。
「あのさ、何か食べたいものがあれば、取ってこようか?」
「いいの?」
「うん。俺も、結構腹空いているからさ」
「うふふ。じゃあ、お願いしようかな」
「了解」
浩人は近くにあった紙皿を取り、最初に瑞希の注文していた食べ物をとったのち、自分の分をとって、箸を添えて渡した。
「ありがとう」
「ついでだから」
「それでも、だよ」
「う、うん」
何気ないしぐさに、浩人は人生で始めて、ドキっとした。
自分でもわからない変化に最初は戸惑ったが、瑞希に知られないように必死に隠していた。
それが縁で、度々、瑞希の家に遊びに行くようになった。
その過程の中で、飼い猫のチカとも仲良くなったというわけだ。
「遊びに来てくれたの?」
「うん。なんか、瑞希さんが暇そうにしているのがわかったから」
「(ぷく〜)ひどいよ〜」
「あはは。ごめんごめん。本当は、俺が暇だったの。んで、その途中でチカに会ったから、一緒に連れてきた」
「そうだったんだ。ありがとう、ヒロくん」
泣いたり笑ったりと表情の豊かな瑞希に、浩人は安らぎを感じていた。
そんなある日の、何気ない日常だった。
「……随分と、懐かしい夢を見たものだな」
目が覚めた俺は、天井を見上げながら、夢のことを考えていた。
正確には、過去の出来事を思い出しただけだが。
自分ではもう思い出せなくなった、あの日々。
きっとチカが来たから、無意識に思い出してしまったのだろうな。
「にしても……」
頭だけを横に向けると、そこにはチカが可愛い寝顔と寝息を立てていた。
しかも、薄いシャツ越しに右腕を、太ももで右足をホールドをした状態で。
ったく、サキミもそうだったが、どうして人の布団に潜り込んで来るんだか。
今回は前回とは違い、それなりのスペースを確保していたから、それほどせまくも感じない。
ただ、流石にこの状況はあまりよろしくない。
瑞希さんもそうだったが、男の心理状態を無視している、というか、無防備な格好と現在置かれていたら、ほとんどの野郎が理性と本能が激しい取っ組み合いが始める。
そしてその半数は、本能が勝ってしまう、というか、理性が吹っ飛ぶ。
ましてや、チカのスタイルは、ゴスロリの上からではほとんどわからなかったが、まさに、脱いだら凄い、だった。
きっと瑞希さんもそうだったのだろうと考えたら、当時の俺は相当、もったいないことをしていたと思うな。
……冷静だな、俺。
というか、そんな感情を抱けなくなったんだな。
そりゃ、俺も男だから、その手の雑誌を手にするときもあるし、興味もある。
ただ、実際の女のことになると、冷めてしまうのだ。
いつからか、そうなっていた。
「……今、何時かな?」
テーブルの上にある時計を見てみると、時間は午前7時。
今日はバイトがない日だから、本当はもっと寝ていたかったのだが、この状況では安眠なんて望めない。
仕方が無いので、起きることにした。
「おい、チカ」
「はや〜」
ゆさゆさゆさ。
「はやや〜」
「こら、起きろ」
ゆさゆさゆさゆさ。
「はやや〜。はやにゃ〜」
「……ネコだけに、にゃ〜と来ますか、あなたは」
まずいな、利き手の右を封じられているから、左でやっても効果は望めないか。
すると、毛布を剥ぐしかないか。
「うりゃ」
「はにゃにゃ」
気合いを入れて毛布を剥ぐことにした俺だったが、チカは温もりを求め、さらに侵攻を開始した。
気が付けば、俺はチカにマウンドポジションを取られ、さらにデンジャーな状況へと進展してしまった。
「……お前、わざとやっていないか?」
「(びく)……」
「狸寝入りをしているの、わかっているんだぞ。ほら、早く目を覚ます」
「はや〜。残念ですわ」
満面の笑顔で、チカは顔を俺に向けた。
どうやら、寝起きはかなりいい方みたいだ。
「おはようございますわ、ご主人様」
「それ、やめろって言わなかったっけ?」
「はやや。そうでしたわね。……浩人様」
「……直に慣れるか。おはよう、チカ。とりあえず、どいてもらえると、嬉しいのだが」
「嫌ですわ〜」
チカは寝ているときよりもさらに身体を密着させてきた。
てんゆび2章04・2
K'SARS /
2006-06-02 05:30:00
No.902
さっきまでは意識して見ないようにしていた胸の谷間が、嫌でも目に入ってきた。
しかも、直肌。
漫画の純粋野郎だったら、この場で鼻血を出してもおかしくないシーン。
徐々に、思考がピンクへと変わっていく。
襲う気なんてまんざらなかったが、早く引き剥がさないとやばいな。
「ど、せい!」
「はやや〜!」
俺はチカの身体を両手で上げ、さらに片足を腹に乗せてから、そのまま反動をつけて後ろへと投げる。
俗に言う、巴投げ。
昔、体育の柔道のときにふざけてやったことが、今更ながらにして役に立つとは思わなかった。
ちなみに、投げる際にちゃんと両手を持っていたので、軽く背中から落ちただけに留まった。
「はや〜。いきなりはひどいですわ」
「やかましい。俺じゃなかったら、お前は襲われていたところだぞ」
「はやや。その心配はないですわ。私は、浩人様以外の男性とは寝ませんからですわ」
「いや、そういう意味じゃなくてな。俺だって、野郎ということを気にしてほしいのだが」
「大丈夫ですわ」
曇りの無い瞳で、チカは笑顔で答えた。
きっと、サキミもそういうんだろうな。
守護天使というのは、自分のご主人様像というものを、過大評価しすぎるものだと思う。
いわゆる、物語の王子、もしくは、王女みたいな感じで、日々思っていたのだろう。
優しくて頼もしい性格。
もちろん、全ての守護天使ではないと思うが、08小隊の連中も見ると、どうもそう思わずにいられない。
「チカ。世の中な、そんなにいいやつばかりじゃねえんだよ。たまたま、今日はチカを襲わなかっただけで、次は襲うかもしれない」
「構いませんわ。私たちの幸せは、ご主人様が幸せになることなんですわ。だから…」
「それ以上言ったら、叩くぞ!」
「はや…」
「あっ。わ、悪い」
思わず、声を荒げてしまった。
別にチカが悪いわけじゃないっていうのは、わかっているはずなのに。
「ご、ごめんなさいですわ」
「悪いのは俺の方だよ。ごめんな」
なでなで。
お詫びの気持ちも込めて、俺はチカの頭を撫でた。
う〜ん。サラサラヘア。
「ただ、わかってほしいんだ。チカが傷つくことがあれば、俺が悲しむってことを」
「浩人様…」
「俺、瑞希さんが死んだとき、すごく悲しかった。初めてだったんだ。人の死っていうのを感じたのは。だから、同じ悲しみを、味わいたくないんだよ」
「……安心してくださいですわ。私、絶対にそんなことはさせませんわ。そのために、今まで厳しい訓練を受けてきたのですから」
「あの、ストライクバルキリーってやつか?」
「はいですわ。よろしければ、説明を致しますけど?」
「いや。俺の脳がオーバーヒートしそうだからやめておく。それよりも、そろそろ着替えてくれると嬉しいんだけどな」
「はやや」
自分で近づいてしまってなんなのだが、さっきからかなり目のやり場に困っている。
特に、胸の谷間。
多分、Fぐらいはあるんだと思う。
「では、少々お待ちくださいですわ。えいっと」
ぼわ〜ん。
「……おまたせですわ」
「ある意味便利だな、それ」
チカが一瞬煙に包まれ、そのあとに、昨日着ていたゴスロリファッションになった。
サキミもやっていたが、あのときは失敗したんだったよな。
やはり、やつは生粋のドジっ娘だということか。
「にしても、どうしてゴスロリなんだ?」
「お気に入りのファッションですわ。それに、色々と入りますから」
そういう問題か? と、心中でツッこんでおく。
俺は自ら、地雷に踏み出す度胸はない。
にしても、いい具合に腹が減ってきたな。
「それよりも、チカは、ご飯は作れるのか?」
「はやや……」
いきなり、チカが縮こまってしまった。
この反応で結びつくのは、1つしかない。
「まあ、一応聞いただけだから、な」
「はやや〜。ごめんなさいですわ。私、それなりに努力はしてみたのですが、どうも、家事関係は苦手でして…」
自分で言うほど、どんどん縮こまるチカ。
こりゃ、苦手どころか、触るな危険のレベルであろうな。
下手すれば、体内で化学反応が起きて、一瞬、瑞希さんが手招きするシーンを、リアルで体験するはめになりそうだ。
「ごめんなさいですわ。お役に立てなくて」
「いいよ。そうなると……しょうがない、やつに電話するしかないな」
俺が作ってもいいのだが、なんかおいしいものが食べたくなった。
というわけで、俺は携帯に登録してある番号をプッシュした。
電子音が流れること、3回。
『なんや、ヒ』
「今すぐ、お前の彼女を連れて俺の家に来い。材料はあるから心配するな。以上」
こういうときは、相手に反論をさせてはいけない。
そのときに、一緒に電源を切るのを忘れてはいけない。
これで、やつらは俺の家に来るしかないのである。
ちなみに、来ないという選択肢はない。
「あの、誰か来るのですか?」
「ああ。おいしい飯を作ってくれる彼女がいる、悪友たちが」
「はやや。そうなのですか」
「もうすぐ来ると思うから、布団とか片付けておこう」
「はいですわ」
布団を部屋の隅へと片付け、さっと掃除をして、食事が出来る準備をする。
そして待つこと数十分。
「おい、ヒロやん!」
「ふぅ……はふぅ……疲れました〜」
「おう、来たな、亮ちんとさこちゃん」
呼び出しをかけたのは、今日が同じく非番の亮ちんとさこちゃん。
というか、必要だったのはさこちゃんだけなのだが、そうすると確実に亮ちんが拒むから、仕方なく、亮ちんも呼び出した。
「来たな、じゃなーい! なんや、あの電話は」
「そのままだよ。材料があるから、料理を作ってくれ」
「冗談やないで。なしてさこが、ヒロやんのために飯を作らなあかんねん」
「いいじゃないか。そっちの食費が浮くし、それなりにおいしいものが食べれる。どこに問題があるんだ?」
「あの、亮さん。浩人さんの言うことも、一理ありますよ。ちょうど、お家の食材が切れていたところですから、ちょうどいいですよ」
「むぅ。まあ、さこがそういうんやら、それでいいか。それより…」
どうやら、チカに食いついたようだ。
まあ、ゴスロリファッションをしていれば、いかにも、注目してくださいと言っている様なものだからな。
「ヒロやんも、変わった趣味しとるな」
「言っとくが、俺がしてくれと言ったわけじゃないからな。チカが好んでしているだけだ」
「へえ〜。随分と親しいんやな」
「まあな」
「浩人さ〜ん。本当に、ここの食材、何を使ってもいいんですか〜」
キッチンに入っていたさこちゃんは、キラキラした目をして、俺に聞いてきた。
そんなに目新しい食材が入っていたっけ?
確認のために、俺もキッチンへと入った。
「私、これだけ新鮮な食材、初めて見ましたよ〜」
「……なんで?」
冷蔵庫の中を見ると、何故か、先日買い物をした食材よりもはるかに多めに入っていた。
しかも、明らかに買っていないものまで入っていた。
一体、俺がいない間に、この冷蔵庫に何があったのだろうか。
「わくわく。何を作ろうかな〜」
「私は、かに玉がいいかな」
「かに玉ですか、いいですね〜」
「……おい」
今、確実にこの場にいないはずの声が聞こえてきた。
しかも、この声は……。
「…あれ? 今、誰が喋ったんですか?」
「私よ」
てんゆび2章04・3
K'SARS /
2006-06-02 05:31:00
No.903
玄関からキッチンへと続く間のところに突然扉が現れて、中からフィーネが出てきた。
昨晩見たような守護天使の服ではなく、紫のワンピース格好だった。
「やっほ、ヒロっち」
「お前、いきなり現れて、何爽やかに挨拶しているんだよ?」
「細かいことは気にしないの。あっ、大盛りでお願いね」
「………あっ、はい」
さこちゃん、一瞬、我を失ったか。
まあ、それが普通の反応だよな。
「せっかく手に入れた極上の本タラバだもんね。おいしくいただきたいわよ」
「お前かよ。人様の冷蔵庫に勝手に食材を入れたの。しかもよく見れば、冷蔵庫のサイズが変わっているし」
今までは1人暮らし用の小さい冷蔵庫だったが、ここにあるのは、一般家庭用のものだった。
「いいじゃないの。ヒロっちはお金が掛かっていないし、かつ、おいしい食材があるんだからさ」
「まあ、そうだが」
(ぷるぷるぷる)
あれ? なんか、さこちゃんが痙攣を起こしているような気がする。
「どうした?」
「な、なんか、フィーネさんを見たら、きょ、拒絶反応が…」
「なんや、どないした?」
心配してきてやってきた、亮ちんとチカ。
ただでさえせまいキッチンが、余計にせまくなる。
「やっほ、チカ」
「フィーネさん。どうしてここに?」
「朝ごはんを食べにきたの」
「いや、だからって、勝手に人間界に降りてきてはまずいのですわ」
「だって、めいどの世界だとおいしいものが食べられないじゃん」
「はやや。それはそうですが…」
「うむ。さすがは犬と猫の関係だ。微妙にかみ合っていない」
「………犬?」
(ぶるぶるぶるぶるぶるぶるぶるぶる)
さこちゃんの痙攣が、さらに大きくなった。
しかも、俺がチカとフィーネのことを言った後に。
そして、痙攣が始まったときをも考慮して考えると…。
「さこちゃん、もしかして、犬嫌い」
「(こくこく)」
「あらら、それは残念ね」
いつの間にかさこちゃんの後ろに回ったフィーネは、ぽんっと、右手を置いた。
次の瞬間。
「……ガク」
さこちゃんは気を失い、前のめりに倒れた。
「わっと」
亮ちんは右腕で受け止めたが、それでバランスを崩してしまい、一緒に倒れてしまった。
そして、その後ろにいたチカは、あまりにもとっさのことで反応ができずに、2人の下敷きになってしまった。
「はやや〜。何処に倒れているんですか!」
バコ!
「うげ!」
不可抗力でチカの胸に倒れてしまった亮ちんは、これまたどこから出したのか、チカの出した巨大ハリセンにより、前頭葉を強打した。
さらにチカは、亮ちんの頭を上げて横に脱出したあと、遠慮することなく離してしまったので、後頭部も打ってしまった。
一瞬の出来事だったので俺も対応ができなかったために、気が付けば、動かない人が2人出来てしまった。
「あら〜。大変ね」
「お前が言うな!」
俺は呑気に言うフィーネに対して、延髄にチョップをかました。
「(ぷるぷるぷる)」
ふっ。所詮は人型。急所をつけば、いくら強くても行動不能に出来るってものだ。
………腹減ったな。
俺はとりあえず、動かなくなった3人をリビングに放置して、結局、自分で朝飯を作ることにしたのだった。
<続>
-------------------------------------------------------------------------------
後書き♪
K'SARS「ふう、すっきり」
ミナト「あら? どうしたんですか?」
K'SARS「前回、訳のわからない文を送ってきたえう〜に、厳しいおしおきをしてやったのだ」
カナト「うわ、残酷」
ミナト「いくら出ていないからとはいえ、ヒロインにそんなことをしてもいいんですか?」
K'SARS「今のヒロインはチカだからな。まだ出番を控えてもらわないとな」
ミナト「にしても、わりと複雑な思いを抱えていますね」
カナト「というか、チカさん編に出てくる守護天使たちって、みんな、モデルの人がもういないんだよね」
K'SARS「まあな。別に深い意味はないけどな」
ミナト「そうだとは思いましたけどね」
カナト「あと、こんな風に出していいわけ?」
K'SARS「出したもの勝ちという言葉があるじゃないか」
ミ・カナト「はあ〜」
K'SARS「さてと、さっさと次の話に行くか。では、サラバ!」
Re: てんゆび2章04・1
エマ /
2006-06-17 17:00:00
No.910
てんゆび2章、いよいよチカちゃんとの共同生活ですね。
その前に過去の回想が入っていますけど、最近ウチにも猫が居ますので、親しみを感じます。
「ふな〜」という鳴き声がかわいいです。ウチのチロは暑い日だとごろんっと横にねそべってぬぼーっとしているんですけど、チカちゃんはどうなのかな。
瑞希さん、というのが思い出の女の子ですね。雰囲気からして、楚々とした感じの子のように思うのですが、これがチカちゃんでゴスロリ風になるわけですか・・・むぅw
いや、いまは寝間着姿でしょうか。なんだってこう、女の子守護天使はこうなんでしょうね(ぇ
男の子守護天使が女の子ご主人様に、同じようなことは、できんでしょー。やっぱり武器だね。女の子のww
で、あれ? 脱いだらすご・・・て、ウソダー! 病弱で細いんじゃなかったのカー!w
い、いや、いいや。すみません。
で、しかしなんですか。やっぱりチカちゃん、狙ってやっていたんですね。サキミちゃんと違って数枚上手というか、ある意味浩人さんと対等に渡り合える(?)強かさがあるような気がします。
「嫌ですわ〜」って、チカさん。強すぎるよw
しかし、守護天使がご主人様を盲目的に信頼・評価しすぎ、というのは、良いネタに使えるかもしれませんね。ご主人様も人間ですから、意外と酷い面を見てしまって、守護天使が動揺してしまう、みたいなシーンがあっても、面白いかもしれません。いや、てんゆびと関係ない話ですけど。
チカちゃんが火事ダメという、守護天使としては致命的な欠点を持っているのが面白いと思うのですけど、すると今後は浩人さんが主夫になるのかな、と思いきや・・・。うわ、亮たん&さこやんを召還するあたり・・・流石だww
てんゆび2章は、これからも亮たん&さこやんが登場してくれるのかな。ちょっと期待w
フィーネさんもきてるし、なんだかにぎやかになりそうですね。
犬と猫で会話が微妙にかみあっていないとか、さこやんがフィーネさんを怖がったりとか、そこらへんはさすがKやん。上手いですねw
最後、結局浩人さん一人で朝飯作っているし・・・。
これからの展開が全く予想がつかないのですが。08小隊がらみの戦闘がくるのか、それとも亮&さこやんとのつながりで、2カップルわやくちゃな展開になるのかw うーん。とにかく次も楽しみにしてます♪
てんゆび2章05・1
K'SARS /
2006-06-19 17:44:00
No.912
天使とのゆびきり〜めいどの世界へようこそ その壱〜
朝ごはんを作った俺は、少し大き目のテーブルを出して、4人分の茶碗と皿を出す。
振り分けとしては、俺とチカは当然として、残りの2つは、亮ちんとさこちゃんの分。
フィーネの分に関しては、雑誌でこしらえた簡易テーブルと紙皿で代用した。
「なんか、ひいきだよ」
「うるさいな。用意しただけありがたいと思え」
突然の来訪者に優しくする義理はないのだが、ここにある食材のほとんどがフィーネが調達してきたのだがら無下に出来ない。
ともいえ、さこちゃんを気絶させた罰もあるので、俺たちとは切り離したのだ。
「大丈夫か、うさこ」
「だ、大丈夫です。とはいえ、あまり長居はしたくないですが」
さこちゃんは(本当はチカと同じ守護天使で、うさこちゃんというが俺はこっちで慣れ親しんだのでこっちで呼ぶ)亮ちんにしがみ付きながら、食事をしていた。
一応、さこちゃんの視界にフィーネは入らないようにしたが、完全に意識してしまっていて効果なし。
ものすごくぎくしゃくしている空気に、チカも俺に寄り添いながら食事をしていた。
結局、ろくに味もわからないまま食事は終り、亮ちんとさこちゃんは、無言のまま帰っていった。
「ったく、朝っぱらから嵐を振りまくんじゃねえよ」
「私は無実だよ。チカぼーも、そう思うでしょう?」
「今回は間違いなく、フィーネさんが悪いですわ」
「うう、誰も味方してくれない」
フィーネは、よよよっという感じで崩れて、床に人差し指で「の」の字を書き始めた。
もちろん、わざとやっているのはわかりきっているので、放置。
「ごめんなさいですわ、浩人様」
「チカが謝ること無いって。それよりも、今日さ、どこかに出かけようか」
「ほ、本当ですか?」
先ほどまで沈んでいた顔が、ぱあっと明るくなったチカ。
こういうところは、年相応の女の子だということか。
「本当。俺今日、バイトないからさ」
「それだったら、私に付き合わない?」
「はあ? というか、復活早いな、お前」
「あのぐらいでヘコんでいたら、身が持たないわよ」
いつの間にかフィーネが復活していて、さらには、服が変わっていた。
昨日も見た、赤紫のメイド服だった。
「フィーネさん。どうして、メイド服を着ているんですか?」
「何故って、ヒロっちを私たちの世界に招待しようと思って」
「はあ?」
いきなりの展開に、俺は思いっきり間抜けな声を出してしまった。
ちょっと待てよ。
確か、サキミから聞いた限りは、チカたちがいる世界はめいどの世界という場所で、名前の通り、めいどさんたち=女性しかいない場所で、男子禁制だという。
逆にしつじの世界というところもあり、そこは女子禁制。
さらに言えば、ファンシーな世界と非日常よこんにちは的な場所。
そんなところへと、フィーネは招待しようと言ったのか……。
「ちょ、ちょっとフィーネさん!」
「大丈夫よ。許可はもらっているからさ」
「はやや。そういう問題ではなく、浩人様に限らず、人間さんが天界へと入るというのは、天界全体的な問題ではないか、と言っているんですわ」
「前例が無いわけじゃないし、これをしていれば問題ないわ」
フィーネは、ポケットからペンダントを取り出した。
特に変わったところもない、一見普通のペンダントに見える。
「それは、ブルーミストですわね」
「そうよ。これがあれば、ヒロっちから出る人間臭さは消えるわよ」
「人間臭いと、何か問題があるのか?」
「はいですわ。めいど、しつじの世界には、人間さんを嫌う方たちが少なくありません。その方たちのほとんどが、人間さんによって命を落としてしまったのです。私も、人間さんの手によって、命を落としてしまったわけですし」
チカはぎゅっと口を紡いで、俺に寄り添ってきた。
その脳裏にはきっと、死ぬ直前のことが浮かんでいるのだろう。
俺はそんなチカを、ただ撫でることしか出来なかった。
助けられなくて申し訳なかったという気持ちと、純粋に、チカという存在を慰めてあげたいって気持ちが、俺の中で交錯していた。
「だからその対処方法として、このブルーミストを使うのよ」
「そもそも、なんで招待されなきゃならんのだ?」
「うちの上司がさ、戦闘に巻き込んでしまったお詫びをしたいんだって。それに、会わせたい人もいるからって」
「天界に知り合いはサキミぐらいしかいないけどな」
「まあ、来てみればわかるよ。チカぼーも、一緒に来る?」
意地悪くフィーネが尋ねると、チカは頬を膨らませた。
瑞希さんもよくやっていたけど、こうして見ると、全然怒っているように見えないのだから不思議だ。
「もちろんですわ。ご主人様に会うために来たのに、いきなり離れ離れは嫌ですわ」
「そっか。じゃあすぐに行くけど、準備はいい?」
「ああ。いいぞ」
「私もですわ」
「それじゃ、ゲートを開くわよ。……オープン・ゲート」
何かの印を紡ぐと、目の前にドアが現れて開いた。
「はい、どうぞ」
「ああ」
「はやや。せっかくお休みを戴いたのに」
ドアを通ると、突然光が俺たちを包み込むように光った。
まぶしいぐらいの光がやむと、俺たちはどこかの一室にいた。
「って、ここは私のお部屋ですわ!」
「うん。そういう風に開いたんですもの」
「ひどいですわ、フィーネさん。はやや、浩人様、あまり見ちゃだめですわ」
チカは赤くなって俺の前を必死でふさぐが、時既に遅し。
ばっちりと、チカの部屋の全貌は見てしまった。
「はや〜、恥ずかしいですわ」
「気にすること無いと思うけどな。俺としては、この部屋の豪華さが、ものすごく気になるぞ」
チカの部屋は、今俺が住んでいる部屋よりも、4つぐらい次元が違う作りになっていた。
至るところに高級そうなものが並び、所狭しと金持ちを思わせるものが置いてあった。
「そりゃそうよ。チカぼーは、08小隊の隊長さんだよ。このぐらい当然だと思うよ。はっきり言っちゃうと、ヒロっちの住んでいる場所なんて、見習いの下級守護天使たちが住んでいる場所よりも、ひどいわよ」
「……ちなみ聞くが、その見習いの下級守護天使って、大体、どこら辺の子たちを差すんだ?」
「そうね……大体、9歳ぐらいの子たちかな」
「がーん」
お、俺の生活水準って、小学生よりも低いのか……。
なんというか人として、ものすごくダメなような気がしてきたぞ。
「はやや。浩人様。そんなに落ち込まないでくださいですわ」
「そうそう。ヒロっちは自分で暮らしているんだもの。私たちと一緒にしちゃダメだって」
「……ところで、ここはめいどの世界なのか?」
「そうね。めいどの世界にある天使寮の1つで、ロータスっていうの。ここには、比較的階級の高い、1級守護天使以上が住んでいるのよ。私は別だけどね」
「色々あるんだな」
「あとで、チカぼーに案内してもらうといいよ。あっ、そうそう。これをつけてね」
フィーネは、先ほど見せてもらったペンダント、ブルーミストと、何かのプレートを渡してくれた。
よく見ると、許可証みたいなものだった。
「それをしていると、男でもめいどの世界へ入れることになっているの。絶対に、忘れちゃダメだからね」
「ああ。気をつけるよ」
「じゃあ、チカぼー。あとはまかせるね」
「はいですわ」
軽くウインクをして、フィーネは去っていった。
なんというか、風みたいなやつだよな、あいつ。
「さてと、せっかく私のお部屋に来てくださったのですから、自慢のお茶をごちそう致しますわ」
「大丈夫か?」
「はいですわ。私、お料理は不得意なのですが、お茶を煎れるのだけは得意なんですわ」
「そっか。なら、まかせるかな」
「では、少々お待ちくださいですわ」
チカはキッチンへと入っていき、ポットを用意して湯を沸かす。
その間に、高級そうなカップとスプーンをテーブルに用意し、戸棚の中から真空パックに入っている茶葉をティーポットに入れた。
「何の葉なんだ、それ」
「ハーブですわ。人間さんたちの間で生産されているのとは、少しだけ品種が違うんですわ」
「そっか」
沸騰する音がし、チカはポットを持ってきてティーポットへとお湯を移すと、いい香りが鼻に入ってきた。
カップに注いで、角砂糖一個をつけて差し出してくれた。
「どうぞですわ」
「ああ。いただくよ」
手にとって一口飲むと、全身の余計な力が抜けるような感覚に包まれて、心地よい気分になってきた。
さすが、リラックス効果があるハーブって感じだ。
「いかがですか?」
「うんまいよ」
「良かったですわ。よろしければ、この後に、めいどの世界を案内したいのですが、いかがですか?」
「そうだな。せっかく来たんだから、回ってみるのもいいか」
「では」
ぼわ〜ん。
「……本当に便利だな、それ」
心の中で、煙がなければいいのになと思っていると、チカがゴスロリファッションから、メイド服へと変化した。
チカのメイド服は、ゴスロリと同じく、白と青を基調とした、フリル付きのものだった。
てんゆび2章05・2
K'SARS /
2006-06-19 17:45:00
No.913
「いかがですか? 私のメイド服は」
「似合っていると思う」
「はやや〜」
顔を真っ赤にして、チカはくねくねと身体を振り始めた。
女って、こういう言葉には弱いよな。
「それで、いつ行く?」
「私は、浩人様のいいときでいいですわ」
「それじゃ、少ししてから行くか」
「はいですわ」
朝から精神的に負担が掛かっていたから、少し頭をすっきりさせてから、めいどの世界を回りたいと思った。
これから先、多大な精神的に負担が掛かることになるだろうから。
「ふわ〜」
「はやや。浩人様、眠そうですわ」
「まあな」
「では、私が膝枕をして差し上げますわ」
「別にいいよ。疲れるだろう?」
「そんなことないですわ。私がネコのとき、いつも浩人様のお膝の上でお世話になっていたので、この場で、あのときのお礼がしたいのですわ」
「そういえば、そうだったな」
瑞希さんの家に遊びにいったときに、チカはいつも、瑞希さんよりも俺の膝の間に入ってきてくつろいでいたっけ。
ただ、そういうときは必ず、瑞希さんも膝枕させてくれってせがまれるんだよな。
あのときは、マジで困ったな。
「遠慮なさらずに、どうぞですわ」
「そうするか」
せっかくの厚意を無下にするのもなんなので、俺はチカの膝と膝の間に頭を置いて、休むようにした。
なんか、久しぶりに安らぐ気持ちになった。
「いかがですか?」
「心地いいよ。やっぱりさ、膝枕をするのは、男よりも女の子の方がいいな」
「はや〜」
「少し、眠ってもいいか?」
「どうぞですわ」
先ほど飲んだハーブティが効いたのか、急に眠気が襲ってきた俺は、チカの膝枕の気持ちよさとも相まって、すぐに眠りに付くことになった。
がやがやがや。
「なんというか、さらし者になった動物園の動物の感じだな」
「その表現は、なるべくしない方いいですわ。ここには、そういう守護天使もいることですし」
「ああ。気をつけるよ」
小一時間ほど眠ったあと(チカも寝ていたらしい)に、俺たちはめいどの世界を歩いていた。
当然といえば、当然なのだが、道を歩いている守護天使たちに注目されてしまう。
視線のほとんどは、困惑。
それは、時々聞こえてくる声からもわかる。
まあ、男子禁制の場所に野郎がいたら、誰でもそうなるか。
というか、そろそろ警備員役の守護天使が来てもよさそうだな。
「大丈夫ですわ。その許可証を持っている限りは、堂々としていてもいいんですわ」
「わかった。それで、どこに行くんだ?」
「デパートですわ。帰って来てから買おうと思ったものを、少し」
「そっか」
地理が全く分からないので、チカに付いていくしかない俺。
と、その途中である場所を見つけた。
「あれ、公園か?」
「はや? あっ、はいですわ。めいどの世界の憩いの場所なんですわ。行ってみます?」
「そうだな」
何かに導かれるように、公園へと足が向いた。
そこは、実家の近くにある大きな公園よりも遥かに大きく、国立公園並みの広さをほこっていた。
自然もたくさんあり、人間界ではあまり見られない光景がそこにあった。
「すごいな」
「でも、ここよりもさらに大きな場所が、隣の娯楽の世界にありますわ」
「へえ〜」
侮りがたし、天界の公園。
これだけいい環境が整っていれば、いい訓練が出来そうだな。
「座りますか?」
「ああ」
高台にあるベンチに座り、下にいる守護天使たちの様子を観察した。
友達と一緒に遊んでいる子たち。
なにやら特訓している子たち。
シートを敷いてご飯を食べる子たち。
これぞ、公園での正しい過ごし方の例となりそうな時間の過ごし方だった。
「いいな、ここ」
「気に入ってくれて嬉しいですわ」
「そうだな」
「ふぇ。お、男の方ですの」
俺たちが来たほうから、両手にたくさんのアイスと、一冊の本を持った少女が現れた。
見た限りは、チカと同じ年ぐらいに見える。
「あれ? サツキちゃんですわ」
「チカちゃんですの。確か、ご主人様のところに行ったんじゃなかったんですの?」
「知り合いか?」
にしても、このサツキと呼ばれた女の子、誰かに雰囲気、というか、存在そのものが似ているような気がする。
「紹介しますわ。浩人様、こちら、伝書鳩のサツキちゃんですわ。サツキちゃん、こちら、私のご主人様の、浩人様ですわ」
「よろしくですわ。そうですか。あなたが、浩人様だったんですのね」
「俺のことを知っているのか?」
「はいですの。よく、サキミちゃんから聞かされていましたの」
「サキミのこと、知っているのか?」
「サキミちゃんは、私の妹ですの」
「……はい?」
「えぅ〜〜。サツキお姉ちゃん、どこに行ったんですかぁ?」
「こ、この声は……」
声がした方向を見ると、そこから、息を切らした少女がやってきた。
髪型が変わっていたが、首にしているリボンは、確かに俺がサキミにあげたリボンそのものだった。
「あっ、ここですの、サキミちゃん」
「えぅ〜。………えぅ? ご、ご主人様?」
「よう。久しぶり」
「えぅ〜〜〜。ご主人様ぁ〜〜」
全身で喜びを現すがごとく、サキミは俺に向かって走ってきた。
それを見たとき瞬間、自然と体が動いてしまった。
「秘技、浩人流星拳!」
バキバコズコ!
「えぅ〜〜〜!!」
キラーン☆
「ふっ、またつまらない飛ばしてしまった」
「「…………」」
「あっ……」
や、やってしまった。
その現場を見てしまったチカとサツキは、呆然とさせてしまった。
「あはははは…」
とりあえず俺は、落ちてきたサキミを介抱しながら、2人に事情を説明するのであった。
<続>
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後書き♪
K'SARS「期待に応えて、サキミちん登場!」
サキミ「えぅ〜〜!」
ミナト「よかったね、サキミちゃん」
カナト「ですね」
K'SARS「ゲストキャラだけどな」
サキミ「え、えぅ〜」
ミナト「まあ、メインがチカちゃんだからね」
カナト「あと、サキミさんのお姉さんも登場したね」
K'SARS「いうなれば、サツキを出すついでに、サキミを出したともいえる」
サキミ「え、えぅ〜〜〜」
ミナト「あっ、逃げた」
カナト「哀れ」
K'SARS「さて、次回もめいどの世界からお届けしますよぉ」
ミナト「でははん!」
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それは過去の記憶。
奥村浩人という個人が忘れてかけていた、夏の出来事。
「にゃー」
太陽がほぼ真上に上がった頃、まだ幼さが残る浩人の足元に、一匹のネコがやってきた。
暑くてへばったのだろうか、少しぐったりとしていた。
「まあ、この暑さだもんな」
この日の最高気温は、37℃という、真夏日。
人間たちでさえ、この暑さで外に出たくないと思っているのだ。ましてや、毛皮だらけのネコは、余計に暑いであろう。
「ふう。こういう日は出歩かない方がいいぞ、チカ」
「ふな〜」
「……思いっきり後悔しているようだな。しゃあない、瑞希さんに会いに行くついでだ。送っててやる」
「にゃあ」
チカと呼ばれたネコは、差し出された浩人の両手に素直に捕まり、抱きしめられた。
ただでさえ高い温度が余計に高くなったことに、浩人は一瞬顔を歪めるが、なるべく影を探して歩き出した。
ほどなくして目的地に着いた浩人は、そのまま庭へと入っていく。
そこには、麦藁帽子をかぶった少女がいた。
「あら? ヒロくん」
「やっほ、瑞希さん」
仲瀬瑞希。
この炎天下には似合わないぐらいに白い肌の持ち主で、ちょっとの風でも飛ばされそうな細い手足をしている。
一般的に言えば、病弱な少女。
きっかけは、近所のPTAの集会。
集会とは言っても、要は親睦会みたいな感じ。
表向きは、近隣住民との信頼を深め、防犯や避難活動を円滑に行う、というものだが、実際は、ただのどんちゃん騒ぎがしたいだけ。
しかも、費用は全て仲瀬側が負担してくれるということもあって、割と出席率はよい。
もちろん他にも理由はあるのだが、その大半は、この土地を代々守ってきた仲瀬家の好意を無下に出来ないというもの。
そんな恒例となったある日の集まりに、浩人と瑞希は来ていた。
周りは大人ばかりで、2人は自然と隅へと追いやられていた。
最初に声を掛けたのは、浩人だった。
「あのさ、何か食べたいものがあれば、取ってこようか?」
「いいの?」
「うん。俺も、結構腹空いているからさ」
「うふふ。じゃあ、お願いしようかな」
「了解」
浩人は近くにあった紙皿を取り、最初に瑞希の注文していた食べ物をとったのち、自分の分をとって、箸を添えて渡した。
「ありがとう」
「ついでだから」
「それでも、だよ」
「う、うん」
何気ないしぐさに、浩人は人生で始めて、ドキっとした。
自分でもわからない変化に最初は戸惑ったが、瑞希に知られないように必死に隠していた。
それが縁で、度々、瑞希の家に遊びに行くようになった。
その過程の中で、飼い猫のチカとも仲良くなったというわけだ。
「遊びに来てくれたの?」
「うん。なんか、瑞希さんが暇そうにしているのがわかったから」
「(ぷく〜)ひどいよ〜」
「あはは。ごめんごめん。本当は、俺が暇だったの。んで、その途中でチカに会ったから、一緒に連れてきた」
「そうだったんだ。ありがとう、ヒロくん」
泣いたり笑ったりと表情の豊かな瑞希に、浩人は安らぎを感じていた。
そんなある日の、何気ない日常だった。
「……随分と、懐かしい夢を見たものだな」
目が覚めた俺は、天井を見上げながら、夢のことを考えていた。
正確には、過去の出来事を思い出しただけだが。
自分ではもう思い出せなくなった、あの日々。
きっとチカが来たから、無意識に思い出してしまったのだろうな。
「にしても……」
頭だけを横に向けると、そこにはチカが可愛い寝顔と寝息を立てていた。
しかも、薄いシャツ越しに右腕を、太ももで右足をホールドをした状態で。
ったく、サキミもそうだったが、どうして人の布団に潜り込んで来るんだか。
今回は前回とは違い、それなりのスペースを確保していたから、それほどせまくも感じない。
ただ、流石にこの状況はあまりよろしくない。
瑞希さんもそうだったが、男の心理状態を無視している、というか、無防備な格好と現在置かれていたら、ほとんどの野郎が理性と本能が激しい取っ組み合いが始める。
そしてその半数は、本能が勝ってしまう、というか、理性が吹っ飛ぶ。
ましてや、チカのスタイルは、ゴスロリの上からではほとんどわからなかったが、まさに、脱いだら凄い、だった。
きっと瑞希さんもそうだったのだろうと考えたら、当時の俺は相当、もったいないことをしていたと思うな。
……冷静だな、俺。
というか、そんな感情を抱けなくなったんだな。
そりゃ、俺も男だから、その手の雑誌を手にするときもあるし、興味もある。
ただ、実際の女のことになると、冷めてしまうのだ。
いつからか、そうなっていた。
「……今、何時かな?」
テーブルの上にある時計を見てみると、時間は午前7時。
今日はバイトがない日だから、本当はもっと寝ていたかったのだが、この状況では安眠なんて望めない。
仕方が無いので、起きることにした。
「おい、チカ」
「はや〜」
ゆさゆさゆさ。
「はやや〜」
「こら、起きろ」
ゆさゆさゆさゆさ。
「はやや〜。はやにゃ〜」
「……ネコだけに、にゃ〜と来ますか、あなたは」
まずいな、利き手の右を封じられているから、左でやっても効果は望めないか。
すると、毛布を剥ぐしかないか。
「うりゃ」
「はにゃにゃ」
気合いを入れて毛布を剥ぐことにした俺だったが、チカは温もりを求め、さらに侵攻を開始した。
気が付けば、俺はチカにマウンドポジションを取られ、さらにデンジャーな状況へと進展してしまった。
「……お前、わざとやっていないか?」
「(びく)……」
「狸寝入りをしているの、わかっているんだぞ。ほら、早く目を覚ます」
「はや〜。残念ですわ」
満面の笑顔で、チカは顔を俺に向けた。
どうやら、寝起きはかなりいい方みたいだ。
「おはようございますわ、ご主人様」
「それ、やめろって言わなかったっけ?」
「はやや。そうでしたわね。……浩人様」
「……直に慣れるか。おはよう、チカ。とりあえず、どいてもらえると、嬉しいのだが」
「嫌ですわ〜」
チカは寝ているときよりもさらに身体を密着させてきた。