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メガミ様がみてる
ダイダロス / 2006-06-10 00:16:00 No.905
「ごきげんよう」
「ごきげんよう」
 さわやかな朝の挨拶が、澄み切った青空にこだまする。
 メガミ様のお庭に集う乙女たちが、今日も天使のような無垢な笑顔で、背の高い門をくぐり抜けていく。
 汚れを知らない心身を包むのは、深い色の制服。
 スカートのプリーツは乱さないように、白いセーラーカラーは翻らせないように、ゆっくりと歩くのがここでのたしなみ。もちろん、遅刻ギリギリで走り去るなどといった、はしたない生徒など存在していようはずも「うわ〜〜ん!! 遅刻しちゃうよ〜〜〜!」

………………

えっと……こほん、気を取り直して、と……

 私立リリアン女学園。
 明治三十四年創立のこの学園は、もとは華族の令嬢のためにつくられたという、伝統あるカトリック系お嬢さま学校である。
 東京都下。武蔵野の面影を未だに残している緑の多いこの地区で、神に見守られ、幼稚舎から大学までの一貫教育が受けられる乙女の園。
 時代は移り変わり、元号が明治から三回も改まり、多数の外国人留学生を受け入れるようになった今日でさえ、十八年間通い続ければ温室育ちの純粋培養お嬢さまが箱入りで出荷される、という仕組みが未だ残っている貴重な学園である。





「お待ちなさい」
 先程、遅刻しそうになって必至に走っていた少女、なたねが息を整えている所で、凛とした声に呼び止められた。実際、なたねは、目の前にある、メガミ様の像に呼び止められたのかと思った程だ。それ程、よく通る声だった。
 こうして呼び止められた場合、まず「はい」と返事をしてから、体全体で振り返る。顔だけ振り向くなどという行為は、淑女としては失格。そして、振り返って相手の顔を真っ直ぐとらえたら、まずは笑顔で「ごきげんよう」
 しかし残念ながら、なたねの口から「ごきげんよう」の言葉が発せられる事は無かった。
 その声の主を確認した途端、驚愕の余りに固まってしまったから。
「あの……ボ、じゃなかった、私にご用でしょうか」
 どうにか自力で半生解凍し、なたねは半信半疑で尋ねてみた。
「呼び止めたのは私で、その相手はあなた。間違いなくてよ」
 問題ないと言われても、声をかけられる理由に心当たりが無い以上、頭の中はパニック寸前だった。そんな事など知る由も無いその人は、うっすらと微笑を浮かべ、なたねに近づいてきた。
「持って」
 彼女は、手にしていた鞄をなたねに差し出す。訳も分からずに受け取ると、開いた両手をなたねの首の後ろに回した。
 何が起こったのか一瞬分からず、なたねは目を閉じて固く首をすくめる。
「タイが曲がっていてよ」
「え?」
目を開けると、そこには依然として美しいお顔があった。何と彼女は、先程走っていた時に乱れたであろう、なたねのタイを直していたのだ。
「身だしなみは、いつもきちんとね。メガミ様が見ていらっしゃるわよ」
 そう言って、その人はなたねから鞄を取り戻すと、「ごきげんよう」を残して先に後者に向かって歩いていった。
 後に残されたなたねは、状況を理解するに従い、次第に頭に血が上っていった。
(間違いない……)
 二年松組、『鷺宮サキ(さぎのみや さき)』さま。通称、『紅薔薇のつぼみ(ロサ・キネンシス・アン・ブゥトン)』。
(そんな……)
恥ずかしさに、沸騰寸前である。
(こんなのって、ないよ……)
あこがれの方と初めて言葉をかわしたというのに。こんな恥ずかしいエピソードなんて、ひどすぎる。
メガミ様の意地悪。
半ば八つ当たり気味に見上げたメガミ様の像は、いつもと変わらず清らかな微笑を浮かべて、小さな緑のお庭の中にひっそりと立っていらっしゃるのであった。



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「なーんだ、そんな事」
 目の前のマコさんは、話を聞くなり、そう言って笑い出した。
ちなみに、リリアンではニックネームという物は、ほとんど存在しない。同級生同士では名前に「さん」をつけて呼び合うのが慣例となっている。上級生を呼ぶ時は、名前に「さま」だ。
 だから、なたねと他愛の無い世間話をする『マコさん』の本名は『千里眼(ちさと まこ)』という。
「でも、ま、声をかけられて萎縮しちゃうのは、仕方ないわよ。『山百合会』幹部に声をかけられて平気な一年生なんて、うちのクラスじゃ彼女くらいなものだもの」
 そう言って、マコさんはチラリと視線を後方に向けた。なたねがその先を追うと、ちょうど『獅堂みさき(しどう みさき)』さんが教室に入ってきた所だった。
「ごきげんよう、マコさん。ごきげんよう、なたねさん」
 みさきさんは、優雅に自分の席に進んでいく。
「ご、ごきげんよう」
 なたねとマコさんは、「何を照れているのよ」と、お互いに顔を見合わせた。

「聞いた?」
 マコさんがささやいてきたので、なたねも声をひそめた。
「みさきさんが、『白薔薇のつぼみ(ロサ・ギガンティア・アン・ブゥトン)』なった話でしょう? 二年生を通り越して」
「そうじゃなくて」
「そうじゃなくて?」
「みさきさん、白薔薇さま(ロサ・ギガンティア)だけじゃなくて、サキさまからも申し込まれていたんですって」
「えー!!」
「なたねさん、声が大きい」

 そもそも、リリアンの高等部に存在する姉妹(スール)というシステムは、生徒の自主性を尊重する学園側の姿勢によって生まれたといえる。義務教育中は、教師とシスターの管理下におかれていた学園生活が、生徒自らの手に委ねられ、自分達の力で秩序ある生活を送らなければならなくなった時、姉が妹を導くごとく先輩が後輩を指導するという方法が採用された。
 以降、それを徹底する事により、特別厳しい校則がなくても、リリアンの清く正しい学園生活は代々受け継がれてきたのだ。
 「スール」は、フランス語で「姉妹」の事。多分、シスターでは混乱する為、英語を避けたものと思われる。最初は広い意味で先輩後輩を「スール」と呼んでいたが、いつの頃からか個人的に強く結び付いた二人を指すようになっていった。ロザリオの授受を行い、姉妹となる事を約束する儀式がいつの頃から始められたかは定かではない。

「聞くところによるとね、サキさまがの方が先だったのに、後からきた白薔薇さまの差し出された手を取ったらしいわ」
「うーん」
 もったいない事をするもんだ、となたねは思った。
「うーんじゃないわよ。ひどいと思わないの?」
「早い者勝ちじゃないでしょう」
「どっちにしても、サキさまに申し込まれて即お受けしなかった事実に変わりはないわよ」
 そう言いながら、マコさんは時計を見た。
 朝拝の鐘が鳴る。
 続いて校内放送で賛美歌が流れる。週一度のお御堂朝拝以外は、教室で朝のお祈りをする。まず聖歌を歌い、学園長の話を聞き、心を静めて神に祈りを捧げるのだ。
 今日一日、正しく暮せますように。
 けれど、手を合わせながらもいつもの平穏な生活から外れていくような予感をどこかに感じていた。

取りあえず、中書き
ダイダロス / 2006-06-10 00:19:00 No.906
ども、ダイダロスです。
我ながら何を血迷ったのか、こんな事を始めてしまいました。

まあ、今更説明は不要かとは思いますが、これは「マリア様がみてる(著:今野緒雪 集英社コバルト文庫)」とのクロスオーバーです。
チャットで小ネタとして披露してきましたが、ノエルさんが、この「メガミ様がみてる」を題材にした素晴らしいイラストを描いて下さった事、更に下でも「SSを書きたい」と言って下さったのとで、「言いだしっぺが何もしないのは拙いだろう」という事で、大急ぎででっち上げたのが、この物語です。詰まる所、「改変コピペ」とも言いますが。(汗)


キャラクターについてです。

なたねさん本来の一人称は「ボク」ですが、リリアンでそれは拙いだろうという独断と偏見から「私」に変更させてもらいました。実際、リリアン初等部・中等部は、厳しい管理教育なので、「ボク」という一人称は許されないと思うのですよね。
プライベートで使う分には構わないと思うのですが。

千里さんは築山三奈子さまか武島蔦子さんか迷ったのですが、やっぱりカメラマンという事で、蔦子さんポジションに決定しました。同時に桂さんポジションも兼任という事で。

みさきさんへ
志摩子さんポジションの「獅堂みさき」としてご登場願いました。事後承諾になってしましたが、いかがでしょうか?
拙かったら変更、又は抹消しますので、言って下さいませ。



※主要登場人物

紅薔薇さま(ロサ・キネンシス)
・セリーナ・ウィンザー
 外国人留学生初の薔薇さま。

紅薔薇のつぼみ(ロサ・キネンシス・アン・ブゥトン)
・鷺宮サキ(さぎのみや さき)
 大財閥「鷺宮コンツェルン」の社長令嬢。

白薔薇さま(ロサ・ギガンティア)
・無二
≪なたでさん、無二さまが人間界で名乗っているフルネーム(姓と名)教えて下さい≫

白薔薇のつぼみ(ロサ・ギガンティア・アン・ブゥトン)
・獅堂みさき(しどう みさき)
 白薔薇さまが今まで妹を作らなかった事から、一年生ながらも白薔薇のつぼみとなった。
 
写真部のエース
・千里眼(ちさと まこ)


その他

・黄薔薇ファミリー、新聞部姉妹、共に未決定です。相応しいキャラがいたら、教えて下さい。
・次世代キャラ(チェリブロ以降)
 乃梨子ポジション:未決定です。相応しいキャラがいたら、教えて下さい。
 瞳子:ツンデレといえば、「秋川美鈴」しかいないでしょう。髪がドリルでないのが玉に瑕ですが(笑)
 可南子:以前にも触れた通り「テントウムシのはやか」さんで決定(笑)

メガミ様がみてる 〜夏休みの出来事〜
ノエルザブレイヴ / 2006-06-10 21:43:00 No.907
これは思った以上に面白い世界観ですね!

というわけで早速私の作った絵物語をアップします。ちょっとした海水浴ネタです。
http://page.freett.com/noelthebrave/i...
サキ嬢が肌の露出を決してしたがらないことは分かっていますが学園物パラレルストーリーということで文中では「サキ嬢は極端な恥ずかしがり」程度の表現にしています。ご了承ください。

後、黄薔薇ファミリーなのですが、3年があいこで2年がつぐみというのはいかがでしょう?あいこは穏やかなのですがつぐみはあいこに対して頭が上がらないのです。しかもつぐみは支倉令嬢ポジションとしてはうってつけと思われます。

以上取り急ぎ。

6月11日、多少の修正とイラスト1枚追加を行いました。

6月17日、表紙を追加。あと提案なのですが、先代白薔薇さま、つまり無二さんの姉にあたる人をまゆりにするというのはいかがでしょうか。

6月19日、提案に関しては無かったことにして下さい。また色々と考えていければいいなと思います。

Re: メガミ様がみてる
エマ / 2006-06-27 21:26:00 No.917
こんばんはー。

ああ……ついにエマステにまで「ごきげんよう」の風が吹いてきましたね。
最近でこそハルヒに注目が奪われていますが……。
私はこういうお嬢様系の空気って馴染みがないのですが、「メガミ様のお庭に集う」という表現でもう、空気が違いますね(笑)

でも、学園名はリリアンそのまんまなんですね。もう少しエマステ風にしても良さそうな来はしますけど……。
なたねちゃんが、一応の主人公? になるのでしょうか。結構良いとこの家なんでしょうね。
最初のシーン、というかほぼ全部、本物そのままですけど。キャラクターがエマステキャラに入れ替わって進んでいるというのが、もうそれだけで面白いですね。といっても、サキさん、あまりに凛とし過ぎてしまっているような気もしますけど(笑)

マコさん、ええーっと、元の人、なんて言いましたっけ。でも、ぴったりハマってますね。違和感が無い感じです。もっとも、千里眼ちゃんは本来もっと……ですから、リリアン生徒の今は、まぁ多少はおしとやかになっているんでしょうか。
そして、ええっと、獅堂みさきさんなるキャラが出てきましたが(笑) でも似合っていると思います。イメージ的にも、少し落ち着き過ぎた感じになるんだろうな、とは思いますが、違和感はないですね。こちらでも引き手多数のようですし(笑)

よし、私が予想するに……この分だとサキさまの許嫁のあの人は……クリスさんというオチだな(ぇ

冗談はともかく、なんというかなんですか。これってやはり続くんでしょうか。私は小説一巻しか持っていないので、途中で元ネタが分からなくなりそうではありますが……。
基本的に、エマステ女性キャラ中心のシリーズになるわけで、これはこれで面白そうですね。
誰か、続きましょう。私は元ネタに疎いので参加は難しそうですが……。楽しそうなので期待しちゃいます♪

>ノエルさん
イラストも一緒に展開するとは……一種のメディアミックス戦略ですね(笑)大公国物語に続く、人気シリーズになるでしょうか……。
背中を合わせて手を取り合うなたねさんとサキさまが素敵ですね。あと、タオルを取られて恥ずかしがっているサキさま。うーん(笑)

最後の、3人でバレーしているイラスト、みんな白目でなのがシュールで可愛いですね。
いいなぁ……平和だ……。眺めているとこちらも気分が落ち着いてきます。

最近、私は2Dのイラストを描いていないなぁ……。

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