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魔狼群影 1−(1)
K−クリスタル / 2006-06-25 01:28:00 No.914
  一の巻 鵠、無垢なる鼬の仔を託され、往きて蠍の助力を冀ふ


 ある日、白鳥のセリーナはフェンリル本部内の自分のとは違うオフィス内にいた。
 ソファにかけたセリーナの前に座っているこの部屋の主である人物も、セリーナとほぼ同年代の女性である。170半ばを超える長身で抜群のプロポーションの上に、燃えるような赤い色の髪と濃い青の瞳が絵に描いたようなコントラストをなすという、一言で言えば、えらく派手な美人だった。
 チーム『プアゾン』のリーダー――クリムこと蠍のクリムゾンである。
「で? 何のご用? わざわざお運びのわけは」
 コーヒーを勧めながら、用件を尋ねてきた相手にセリーナは礼を言って、答えた。
「あなたに、ちょっとお願いがあって・・・」
「お願い?」
「ええ。今、わたくしが戦闘訓練を任されている、イタチのアズマという・・・そう言えば、たしかあなたにも、一度紹介したことがあったわよね?」
「ああ・・・例の、霊能局から司令がムリヤリかっさらって連れてきたとかいう・・・」
「そうそう」
 通常ならかなり不穏当なはずのクリムの台詞にも、セリーナは軽く応じた。そういうことを気にしないですむ場所であり、そのくらいの彼女たちの間柄でもある。
「覚えてるわ。何だか、お人形みたいな子だった・・・」
 ――さすが・・・。
 その?お人形?という言葉に含まれた、?きれい?とか?かわいい?とか以外のニュアンスを感じ、セリーナは会心の思いを得た。
 クリムは非常に鋭い洞察力の持ち主だった。一度会った、あの時の印象だけで、すでにアズマという娘の本質的なものを見抜いたものだろう。
 そして、これなら頼める、との意を強くする。
「実は、その子の訓練の件であなたに協力してほしいの」
「あなたにそういうことを頼まれるのは、これで二度目ね」
 数年前、セリーナは、当時やはり教官役を務めていた白鷺のサキという少女の戦闘訓練の一環として、経験を積ませるため、クリムたち『プアゾン』に模擬戦の相手を依頼してきたことがあったのだ。
「いえ、あの時とは違って、模擬戦の相手というより・・・」
「・・・?」
 視線で説明を促すクリムに、セリーナはイタチのアズマという娘について、訓練を開始した頃からの話を始めた。
「そもそも最初は、普通の運動すらろくにしてこなかったみたいで、すこし走らせただけでも倒れるわ、筋力もぜんぜんないわで、途方に暮れたくらいだったんだけど、でも、そっちの方は地道なトレーニングをくり返すことで、どうにかまともになってきたわ。――でも、そうやって、ようやく基礎体力がついてきたところで、いよいよ戦闘訓練をはじめてみたら、これが・・・」
「どうしたの?」
「てんで、ダメなのよ。とてもとても、サキを教えていたときのようなわけにはいかないわ」
「サキと比べることじたい、間違いだとおもうけどね。彼女は、特別だし」
「それはよくわかってるわ。わたくしも、そこまで望んではいない――でも、それにしてもね・・・根本的に、戦闘のセンスというものに欠けてる気がする」
「・・・それは、要するに、戦いに向いてないってことよね」
「そう――あ、いえ、でも、覚えは悪くないし、一度覚えたことは忘れないのよ」
「? なら、センスないわけでもないんじゃ・・・?」
「いえ、でもね・・・応用がきかないの――それはもう、おどろくくらい」
「どんなふうに?」
「すでに知っている状況だったら、対応できる。その通り、正確にまちがいなく。でも、その経験を生かして、別の新しい状況に対処することはできないの。別とはいっても、普通なら、それまで身につけたものを使って、予測を立ててなんとか工夫できそうなことでも、あの子だと、まずむり」
「・・・それは何? 記憶と感情を喪ったとかいう、その子の精神的なものがやっぱり影響しているわけ?」
「そうだと思うわ。正確なところは、わたくしにはわからないけど」
「・・・」
「仕方がないから、こういうような場合には、このように対処するという、いくつものパターンに分けて、それを覚え込ませて、そのうえで個々のいろいろな状況をそのいずれかに当てはめて、それにそって行動する、という感じで教えて、今まで訓練してきたの。――でも、そのパターンと相違点があると、どうしていいか、わからなくなる。少し違っていると、もうだめ。だから、その覚えさせなければならないパターンの多いこと多いこと・・・」
「なるほどね・・・それは、たいへんそうだわ」
 クリムはコーヒーを少し口に運んでから、考えをまとめるように、
「話を聞いていると、そういう子は、やっばり戦闘には向かない・・・少なくとも、最前線で戦わせるべきではないと思うけど。味方の掩護・支援とかの役をするというなら、まだわかるわ。いえむしろ、その方がその子の力を引き出すことになるんじゃない? 適材適所ということがあるでしょう。その子には、たとえばサキのようなすぐれた戦闘勘があるわけじゃない。でも、別の分野では、また他の誰にもない力があるわけでしょう。稀代の巫女とか聞いたわよ。その霊力を有効に使うには・・・」
「・・・そうもいかないの」
 クリムの言葉をセリーナは途中で遮ったが、力のない様子だった。
「セリーナ。こんなこと、今さらあなたにいうことでもないけど・・・戦いなんて、イレギュラーの連続よ? 何が起こるかわからない。仮に、似たような状況に見えたとしても、ほんとにまったく同じなんてことはあり得ないし・・・臨機応変の対処のできないような者に、前線での戦闘は無理だわ」
「あの子を前線に出すというのは、もう決定事項なの。それが前提なのよ」
 セリーナは繰り返した。だが言外には、自分も本当には賛成ではないという意をにじませて。

魔狼群影 1−(1)
K−クリスタル / 2006-06-25 01:32:00 No.915
「そう――またぞろ、上からのお達しなわけね」
 クリムは肩をすくめた。それ以上、もう言うことはせずに、
「それで? わたしは、何をすればいいの」
「あなたの言うとおり、パターンで、すべての戦いに対応させるのはむずかしい――それでも、こちらが攻撃をしかける側で、あの子が自分のペースで攻められれば、まだ何とかなると思うの。それなら、ある程度は、状況もこちらで設定できるはずだし。あらかじめ、それぞれの場合にふさわしいやり方を叩き込んでおけば――それにわずかずつではあるけれど、少しは応用も利くようになってきたようにも見えるし・・・。でも、防御となるとね・・・一方的に攻めきってことが済めばいいけど、いったん受けに回ると、あの子はどうもだめなの。どんな反撃が来るか、すべて予想をつけることはできないというのもあるけど・・・それよりまず何より、あの子には危険に対する意識が薄い気がする。攻撃を避けよう防ごうとする必死さがもうひとつ感じられない。不真面目とかいうわけではないのよ。でも、本人にどこか現実味がないようなの」
 う〜ん・・・クリムは少し唸ってから、
「それは・・・こわいと思う気持ちもないから?」
「ええ、おそらくは・・・」
「そうなると、深刻ね。防御の重要さはいうまでもないわけだけど、通常だれに教えられるまでもなくわかっている、それを重視する大きな動機のひとつがその子にはないということだから」
 セリーナはうなずいて、
「それで、あなたにお願いしたいのは、根本的な身を守る感覚みたいなものをあの子に身につけさせる方法が何かないか、考えてほしいということなのよ。――具体的な方法でなくても、何かヒントだけでももらえれば、とても助かるの・・・一度、あの子を見てもらえないかしら? わたくしもずっと考えてきたんだけど、とくにいいアイディアもなくて、正直、ほとほと困ってるの。わたくしとしては、わたくしとはまた別の新鮮な目であの子を見てくれる人がほしいわけなの」
「わかったわ。ご期待に添えるかわからないけど、一度会ってみましょう」
「ありがとう。恩に着るわ――それで、いつ?」
「早いほうがいいわね・・・そうね、今日でもいいけど、夜にはあくんだけど、その前、夕方ぐらいに少し行かなきゃならないところがあって・・・」
「どこ?」
 クリムは、緩衝地帯の、とある建物の名を口にして、
「役所の世界の各機関の親睦を深めるためっていうパーティがそこであるんだけど・・・それに出席しないといけないのよ。――もちろん、表向きの天界裁判所の職員としてだけどね」
 ああ、そういうのにはいかにも狩り出されそうね、この人は・・・とセリーナは反射的に一瞬納得してから、すぐまた、いや、でも、天界裁判所の職員としては派手すぎるんじゃ・・・? とおもい直した。むろん、どちらも口に出したりはしない。
「でも、そうね――わたしは少し顔を出しさえすればいいから、そのあとで・・・よかったら、そこで落ちあいましょうか?」
「いえ、ごめんなさい。わたくしも、その時間には用があって・・・でも、そうか、アズマだけ行かせてみてもいいのか・・・あの子も、少しはそういう場にでてみるのも、いい社会勉強にもなるかもしれないし――あー、だけど、あの子1人だけっていうのは、やっぱり・・・」
「世間知らずといったって、子どもじゃなし、だいじょうぶでしょ? それに、すぐわたしと一緒になるはずだし、公式なパーティだから、めったなことは・・・」
「そうね。地図を持たせて、場所もよく言って聞かせれば、きっとだいじょうぶよね。――1人でも、迷子になったりは・・・」
「――いえ、そういう意味じゃ・・・え? というか、そういうことまで、心配しなきゃならない子なの?」

(ちょっと、遅れたわね)
 クリムはパーティ会場へと急いでいた。前の仕事が思ったより長引いたため、宿舎の自分の部屋には戻らず、オフィスにも置いてあるドレスに着替え、手早く身だしなみを整えると、そのまま、会場へ直行したのである。
 パーティ開始の時間は過ぎてしまったとはいえ、それほど、大幅に遅れたわけではない。本来なら、ここまであわてる必要もなかったのであるが、セリーナと交わした会話の最後のずれ具合が気にかかっていた。
 まさかとはおもうが、いかに霊能局という世間から断絶された環境で純粋培養されて浮世離れしていようが、記憶喪失とともに感情のおおかたもまた失くしていようが、仮にも18にもなる娘がよもやいくら何でも、そんなことは考えられないが・・・。
 しかし、それでも、一抹の不安が残る。
 そして、パーティ会場に到着したクリムは、入った途端、その一画に異様な空気がわだかまっているのを感じた。
 まだよく事態はわからないが、彼女の直感に訴えてくるモノがある。さらに早足で、そちらへと歩を運ぶ。 
 守護天使達の本来の正装はめいど服等の天使服ということになろうが、そういう姿での集まりはもっと儀式めいた場でのことであり、この集まりのごとき人間界の公式のパーティの形式を採った宴では、服装もそれに会わせて男は、タキシード、女はクリム自身もそうであるようにイブニングドレス姿がほとんどである。
 そうした男女がかなりの人数、何となく集まっている。ある地点を取り囲むように――しかし、やや遠巻きにして。その輪の中心に、はたして問題の少女がいた。直接顔を合わせたのは、一度しかなく、それもごく短い時間であったのだが、それでも、ひと目でそれとわかった・・・いや、まちがえようもない。
 蠍のクリムゾンは、一瞬めまいを覚えた。
(巫女装束――!)
 だが同時に、これ以上ないほど納得せざるを得ない。 
(そりゃあね・・・この子にとっては、これがいちばんちゃんとした格好なんだろうけど・・・)
 ・・・これが蠍のクリムゾンとイタチのアズマの再会であった。

新シリーズ?
K−クリスタル / 2006-06-25 16:47:00 No.916
ドモです (⌒v⌒)
チャットで、双葉さんならびにこーさかさんの「アズマvsクリム」の
すてきイラを見て、カンドーした姉さんの依頼を受け、
その絵のハナシを書いてみることにしました
あずまたんのミハッピョーせってーもエマさんから教わってね

ついでなんで、フェンリルメンバーの日常(?)を断片的に描くとゆー、
シリーズをたちあげ、その第一弾としてみたらどないだろーと・・・

タイトルが『魔狼群影』となってるのは、そーゆーこってす♪

・・・そーはいっても、第2弾があるかどーか
今んとこ、トクによてーはたってはおりませんが・・・w

まー、このハナシだけは次回で完結のよてー

――それにしても、今回いっぽうの主役のはずのアズマたんの出番、あれだけ・・・
シカモ、ひとっことのセリフもなしww
でも、エマさんからの情報はいかしてるツモリです 
つまり、アズマたんがフェンリル内でどーゆー存在であったかとかがー
ふたりのオネーサンの会話ん中にあらわれてるってワケです
それとまー、次回はナンかいーますんで <― そりゃそーだw

それでは、続きをオタノシミにー (^o°)/

Re: 魔狼群影 1−(1)
エマ / 2006-07-09 13:33:00 No.921
こんばんはー。
いやー、チャットの方で話題に出て、亮さんやら忍さんがアズマVSクリムのイラストを描いてくれたりして、みなさんのお陰でアズマが徐々に(彼女なりに)生気を帯びてきたのではないかな、と思います。
そして、前回のトーナメントに続き、またしてもアズマを題材にSSを書いてくださいました。ありがとー。うう、おいらは嬉しいよw

一の巻では、セリーナさんがアズマの訓練をクリムにお願いに行くところから始まる訳ですね。話から、セリーナさんがアズマに相当手を焼いている様子が分かるのですが、その前のクリムさんが「お人形みたい」という表現、これがあるおかげで、後のアズマの訓練の様子がなぜそんな感じ(応用の利かない感じ)になっているのか、すんなり読んだ人が納得できると思います。一応、話しかけるとそれなりに表情がかすかに変化したりするのですが、一人でぽつんと経っていると確かに人形みたいに見えるときもありますすある意味。絵師さん泣かせです(笑)

アズマの訓練を通しての性質など、セリーナさんが分かりやすく説明してくださっていますね。筋力が無い、応用が利かない、といったところ。ここらへんはできればセリフではなく、私が自分のSSで実際の訓練の様子を通じて描き出したかったのですが、まぁこれは今回スペースや時間の問題もあり、しかたのないところですね。
セリーナさんとクリムさん、会話で淡々とアズマの資質について話し合ってますが、多分……実際の訓練を見てみたら、もっと「うわ……やばいわこれ……」「どうやって鍛えろというのよ……」みたいに、もっと頭を抱えるような感じの面白いやりとりになったとも思うのですが……w

でも、危険に対する意識が薄い、という部分をしっかり入れてくださったのは、ありがたいですね。アズマの訓練はそういう、メンタルな部分、行動学、認知的な部分からやりなおす必要があるので……。
それと、サキさんとの対比で語られている部分も面白かったです。色々な意味で、サキさんとアズマ、そしてサキ&レオン、アズマ&カムドのコンビは対比すると面白い部分があると思いますので。

で、パーティー会場で……巫女装束ですか。そりゃ浮くよね(笑)
実際、霊能局の巫女もそういう催しに参加するときは少しは服装を考えるとは思いますが、でも周りの空気を読めないというアズマの感覚の一端がよく分かると思います。

うーん。これから、どうなるのやら……。本当はアズマの訓練の様子は私が自分でなんらかのSSでやる予定だったのですが、クリスさんに先攻される形になりますね。二の巻以降の展開に寄っては、こちらのSSと内容の食い違いがでるやもしれませんが、それはまぁ……みなさんに脳内補間して頂くという事でww

フェンリルメンバーの日常を断片的に描く、というのは面白いですね。オフの時のみんなのいつもと違う側面とかが見れそうで。
って、この第一弾は二の巻でもう終わりですか!? むぅ、どうなるのだろう……。楽しみにしています♪

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