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桃ラナSP誕生SS その壱
K'SARS / 2006-09-03 00:26:00 No.967

  私と彼女の激変化の一日〜前編〜


 地球が自転を迎える限り。
 世界が大災害や巨大隕石やらの厄災に見舞われない限り。
 人が生きている限り。
 お天道様が登り、新しい一日が始まり、人々が活動する時間が始まる。
 そんな変わらない日常を、今日も過ごす少女がいた。
「う〜んと、もう少しかな…」
 味噌汁の味を見ながら、他のおかずの様子も見る。
 平野桃華。
 それが少女の名前である。
 親から初めて離れて暮らすようになり、大好きな料理が毎日できる喜びと、早起きしなければいけない母親の大変さをまとめて知りつつ、まだ寝ぼけ眼の状態で朝食を作っていた。
 ぶっちゃけ、ふらふらして危ないのである。
 それでも、包丁で野菜とかを切る動作はそこら辺の素人よりは遥かに早い速度で切ったりするのだから、すごいものである。
「はふぅん……。えっと、そろそろラナを起こさないとね……」
 壁掛け時計を見てコンロの火を弱くしてから、自室に戻る。
 布団には、小学生中学年ぐらいの女の子が寝ていた。
「はう〜」
 豪快に布団をぶっとばし、気持ちいいぐらいの寝相の悪さをほこっていた。
 桃華と一緒に寝るときはまともなのだが、単独で寝るとこうなる。
「もう、仕方ないわね」
 桃華は起こさないようにラナに近づいて、そっと髪を撫でる。
 昨日使ったシャンプーの影響か、微妙に触り心地が違っていたが、気持ちいいことには変わりなかった。
「ラナ。起きて。朝だよ」
「……はう〜」
 ぎゅ。
 大好きな匂いを感じたのか、ラナは桃華にしがみついた。
「うう、ダメよ。ラナを起こさないといけないのに……でも、ちょっとだけ」
 むぎゅ。
 桃華はラナの顔を胸元に導いて、軽く抱きしめる。
 一緒に寝る時はいつもこうなのである。
 本人曰く、「ラナは極上の抱き心地なのよね」だそうで、ラナ自身は、大好きなご主人様の匂いに包まれて眠れるわけだから、抱き枕にされることは嫌ではなく、逆に大歓迎。
 ただ、これをすると桃華の全身は快楽に溺れるために、そう簡単に現実には戻ってこれないという難点もある。
 それを証明するように、ちょっとだけのつもりが、軽く五分はそのままだった。
 気づいたのは、キッチンから焦げて匂いが漂ってきてから。
「うわ〜〜!」
 ラナを抱えながら慌ててキッチンへと戻った桃華は、火を止めて中を確認した。
 作っていたのは煮魚で、醤油が焦げて鍋にこびりついていたが、幸いにも、魚本体の味は良く出来ていた。
「はふぅん。危ない危ない。ラナの好きな鮭を失敗すると、ラナが落ち込むばかりか、私の精神衛生上よろしくないからね。よっと」
 まだ寝ているラナを近くの椅子に座らせて、さっさと皿を用意して、盛り付ける。
 内容は、鮭の煮物と漬物など、昔なつかしの和食のラインナップ。
 飲み物に牛乳と麦茶を用意して、準備完了。
「さて、ラナを起こす最終手段をするとしましょうか」
「はう〜」
「ラナ。ほら、ご飯だよ」
 桃華は鮭の切り身をラナの口元にやると、ラナの鼻がひくひくと反応し、目と口が同時に開く。
 それはまるで、親鳥が雛にご飯を上げるような、微笑ましい光景だった。
「うふふ。おはよう、ラナ」
「はう〜。おはようございます、ご主人様」
 ラナに「ご主人様」と呼ばれた瞬間、笑顔だった桃華の顔が引きつった。
「違うでしょう? ご主人様じゃなくて、名前で呼・ん・で♪」
「は、はう〜!」
 笑顔の向こう側から来る膨大な殺気に、ラナは身体の底から震えた。
 普段は優しいご主人様の印象が強い桃華だが、相手に与えるプレッシャーだけは異常に強い。
「えっと、ももちゃん」
「欲を言えば、友達と話す感覚でいいんだろうけど、今は、それでいいよ」
「はう」
「さあ、ご飯にしましょうか」
「わ〜い、朝ご飯だぁ」
 食べることが大好きなラナは、ころっと雰囲気を変えて、目の前に並べられた朝食をすごい勢いで食べ始めた。
 同い年の女の子と比べたら、3倍以上の速さを要する。
 おまけに幸せそうな顔で食べるものだから、桃華の顔は緩みっぱなし。
「おかわりあ…」
「おかわり!」
 桃華が言い切る前に、ラナは茶碗を差し出した。
「あはは。はいはい。時間はまだ大丈夫だから、ゆっくり食べてなさい」
「だって、おいしいんですもん」
「それは嬉しいんだけどね」
 苦笑しながら、桃華も自分の茶碗に手を伸ばして食べ始める。
 母親から直々に教えてもらった数々の技術は、桃華の努力と初恋の人に食べてもらいたいという想い、さらにはラナというよく食べる同居人を経て、そんじょそこらの店よりは遥かにおいしいものへと変化していた。
 また、飽くなき追求心や冒険心を持つことにより、毎回違う味を楽しめる(外れはごく稀で、その場合は絶対に食卓には上げない)ことで、ストレスと舌を肥えさせる推進剤になっている。
「ごちそうさま」
「はい、お粗末さま。ラナは学校へと行く準備をしないとね」
「はーい」
 ラナは食べ終わった食器をシンクへと沈めてから、自分の部屋へと戻った。
 桃華もさっさと自分の分の食事を終えてから、洗面所で洗顔と歯磨きをして、自分の部屋に戻って着替え、鏡の前に座って化粧を始める。
 学校側の方針と近所のPTAなどの決定で、登校時には保護者が同伴ということになっていた。
 かという桃華も学生なので、ラナに頼んで他の子たちよりも少し早く出て、その後で学校へと行くことにしていた。
「ももちゃーん。準備、出来ましたー」
「はいな。私もすぐ行くから、待ってなさい」
「はーい」
 最後に口紅をしてから、引き出しから一枚のプリクラを取り出した。
 そこには、まだ小さいときの桃華と、年の離れた男が写っていた。
 桃華の顔はにこやかで、頬は軽く朱色に火照っていた。
「行ってきます、浩兄ぃ」
 一緒に写っている想い人の名前を呟いて、桃華はラナと一緒に家を出て、手を繋いで学校へと向かう。
 小中高大まで一緒というすごく珍しい場所で、通学路には色とりどりの学生たちがわんさかいて、所々に腕章をつけた大人たちが立っていた。
「そういえばね、ラナ。今日私、帰りが少し遅くなるんだ」
「はう。そうなんですか」
「でもね、おやつは用意してあるから、冷蔵庫の中から出して食べてね」
「はーい」
 桃華が帰れないと聞いたときのラナはがっくりと肩を落としたが、おやつのことが出たら目を輝かせていた。
 実に、素直な女の子である。
「ちゃんとお留守番をしているのよ」
「大丈夫です」
「うんうん。元気でいいね。あっ、ラナの友達じゃない?」
「あっ、本当だ。おーい」
「ラナちゃん!」
 前を歩いていた友達を見たラナは、桃華の手を離して、すごい勢いで駆け寄っていった。
 鉄砲玉みたいである。
「おはよう」
「お、おはようございます」
「ラナのこと、よろしくね」
「は、はい!」
「じゃあ、2人とも。今日もがんばってね」
「「はーい」」
 桃華は友達と一緒に連れ添っていた女子高生風の女の子に託して、その場を離れて、一歩入った路地へと行く。
 すると、さっきまでとはうって変わって、肩を落とし、明らかに眠そうな女に変身した。
「ふわー。う〜ん。大学が午後のときに早起きすると、なんか、損した気分だよね……でもまあ、ラナの為だもんね。うう、眠いよー。ちょっくら、たまてばこに行って、みさきに眠気覚ましのコーヒーを煎れて貰おうと」
 ふらふらとした足取りで、桃華は顔なじみの店へと向かったのだった。
 今日という一日が、変わらない日であることを望みながら。
 しかし、変わらない一日はない。
 というか、この作者が許さない。
 強制的に、変化のある日であることを、桃華はこのときは思いも寄らなかった。


<続くのかな?>

Re: 桃ラナSP誕生SS その壱
エマ / 2006-10-03 23:44:00 No.987
こんばんはー。遅れてごめんなさい。

二人のモモシリーズはたくさんのバリエーションがあって、これはそのうちのどれでどの時間軸に相当するのかとか、いろいろと疑問点はあるのですが、まぁそういう事は気にしちゃいけないシリーズなんでしょうw
見たところ、とても平和な時期みたいですね。桃華ちゃんはなんだろ…両足はしっかりある……のかな? 料理をしていて、世話好きだったり、一時期の不良時代から一転して、とても家庭的ですね。本来はこういう性格だったのかも……とても幸せそうでいいですね。

ラナちゃん、サキミちゃんほどではないですが、「はう〜」とかいって、まだまだ子供で、かわいいですね。今更ですが、桃華ちゃんとは主従関係よりも姉妹みたいな感覚が近いのかもしれません。一緒に布団の中に入るとなんか別の色がはいりそうですがw
でも、小中学生というとそれでももうだいぶ体は大きいのか……140〜150位はありますよね。布団をぶっ飛ばして、景気のよい寝相なのが……(笑)

「ご主人様じゃなくて、名前で呼・ん・で♪」っていうのはなんか、桃華ちゃんが嫁さんでラナちゃんが責められているダンナみたいな構図に思えてならないですが、そこまでこだわるというのは、桃華ちゃんの方に何か理由でもありましたっけ。久しぶりなのでエマさんっ管理人のくせに結構忘れていますよ(笑)
なんか今は大学生みたいだし、あれ、以前は高校生じゃなかったっけ。ええっと……ええぅ……復習してきますw

浩人さんのプリクラなんて大事に持ってたりして、まだ再開前みたいですね。たまてばこにはもう入り浸っているみたいですが。
この先どういう展開になるのか、楽しみにしていますよー。

さて、私もそろそろ例のSSを発動したいものですが……(にやりんこw

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