田友作さんの俳句
聖木翔人 / 2022-02-20 20:48:04 No.21
     田友作さんの俳句                聖木翔人
友作さんの句で幾つか口にのぼり記憶に残る作品がある。友作さんには実はとても艶っぽい句が多いのだが、そこを削ぎとってさりげなく詠んだ句に私は共感する。多分多くの人の記憶にある句は

 川端も太宰も抱いた雪女

ではなかろうか。雪女があの「雪国」の川端も、「人間失格」の太宰も抱いたことがあるんだってよ、と諧謔味ある夢幻の世界を感じさせながら、読み手をさまざまな想像を駆使できる世界に誘う。なかなかに味わいが深い。
またこれも記憶に残っている句。

 望郷の入道雲が近すぎる

風景がおのずから浮かぶ。なんとも言えない懐かしさとちょっとした落胆の感情がよく伝わってくる。「積乱雲」ではなく「入道雲」が近すぎると言ったところに妙味がある。
最近(「2021年浜風句集」)の句で私が共感するのは、

 落椿10万年の半減期

 流刑地の地底の慟哭霜柱

 公園の手品師そっと更衣

華やかに咲き、落ちた椿の美しさ。しかし放射能汚染の半減期は10万年と言われる。落椿の瞬間的な花のいのちの一生と比べたとき「10万年」とは、さらに天文学的な、永遠と言っていいような途方もない時間になってゆく。その対比が印象的な一句だ。

流刑地はシベリア、今も数知れぬ人が地の底に眠っている。毎年毎年、厳寒が襲いかかる。霜柱はまるで人柱のように、死者の慟哭の噴出のように、毎年あたかもそこで亡くなった人々の数ほどが立ち上がる。

公園で手品師は炎暑のなか子供たちを前に、厚い衣裳をつけ、ドウランを塗り顔を飾り手品を披露する。拍手のあと木陰に素早くゆき汗をふき息をつきながら服を畳み、夏向きの軽装になる。手品が種明かしできないように、更衣もひそかに手早く「そっと」やらねばならない。なんということもない風景のなかに、どこか哀感が漂う。更衣の季語の意表をつく使い方でもある。
 いっそうの活躍を期待している。

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