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P.E.T.S.[AS] 第8話「堕ちた天使」
エマ / 2018-04-22 18:31:00
体に染み入る冷気で、彼女は目を覚ました。

ゆっくりと焦点が合う視界。目に入るものすべてが、嫌悪感をもたらす。
わずかに天窓から光が差し込み、あの悪夢のような夜は終わり、朝という日常が戻ったことを知る。

真純は、おそるおそる自身の背筋に冷たい手を伸ばし、傷跡をなぞろうとした。
しかし、毎回感じる違和感がこの日も彼女を大いに戸惑わせる。

「また、消えてる……」

昨夜、無慈悲にあれだけ背中に付けられた切り傷、刺し傷が、きれいさっぱりなくなっている。
すべては、ただ悪い夢であったかのようだ。

だが、真純は確信していた。

夢なんかじゃない。あんなに気を失うほどの激痛が、夢であるはずがない。

そう確信するも、傷がいつの間にかすべて『なかったこと』になっているこの現実を、理解することもできない。

堂々巡りの思考を放棄し、真純はベッドから起き上がって、あたりを見回した。

昨夜のままに、荒れた父親の部屋。その主は今いない。

ふと、上半身裸でいることに気づき、あわてて脇にあった下着を纏い、真純は部屋の外へ出た。

哲は、どこかへ外出しているようだった。

自分の部屋に戻り、私服に着替える。

今日一日、何をしようか。
あんな夢は、早く何かで塗りつぶしたい。できるなら、思い切り楽しいことで。

「また、あそこに行ってみようかな」

いい加減、迷惑がられるかもしれない。それでも構わなかった。
とにかく、あの父親からできるだけ遠くに……。

いつか、逃げてやろう。真純は固く自分に誓った。
逃げて逃げて、そして自分の力で、いつか本当の幸せをつかむんだ。

でも、そのためには、何が必要なんだろう……。

お金もない。頼るあてもない。
今のところ、彼女が持ち合わせているものは、ひな鳥のような芸術の覚えだけだった。
そして、そのすべてが、あの父親の作品を見て触れて体得したものだという事実が、
彼女の心をまたひどく嫌悪感で蝕むのだった。

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