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Dr.イリノア診察室【アズマ編】「我知らぬ巫女」(4)
エマ
/
2014-06-02 14:53:00
その頃、天神会本部。
神官たちが協議を行う場、評議会は荒れていた。
口々に神官たちが憤りの言葉を口にする。その非難の対象は、天神会最強の守護天使、イタチのカムドに対してであった。
「殲魂の携帯許可は、やはりまかりならん!」
「そうだ。それも、あれは完全な事後承諾……勝手に禁忌を破って封印の間に侵入するとは……本来であれば完全なる謀反であるぞ!」
「しかし……アズマの命令権の半分以上をフェンリルに取られた今、こちらとしても切り札が必要なのも確かだ」
「何を言う! 今度は殲魂すらフェンリルの奴らに奪われる可能性だってあるのだぞ!」
「いや、殲魂を扱えるのは今のところカムドだけ。あれは扱いを誤れば大惨事につながる代物。しかも、その悪しき波動の位置は常に我々が捕捉しておる。いかにフェンリルといえど、それを奪ってシラを切り通すことは不可能だ」
「そういう問題ではない。あのカムドという男自体、この任務にはふさわしくないと言っているのだ!」
「あの時はあまりの緊急事態ゆえ、奴の提言を認めてしまったが……そうだ。そもそも、アズマ奪還任務には他の人物を当てようとしていた……。あの男はそれを覆すために、今回、殲魂の封印を暴くなどという暴挙を起こしたのではないか!?」
「良いのではないかぇ」
荒れている議論の場に、突如、女性の声が響き渡った。
しわがれた老女の声だが、不思議と空間中に染みわたるように、それは響き渡り、その場にいた神官全員の耳に確実に入ってきた。
全員、大きなすだれのかかった、一段高い奥の座を見上げる。すだれのせいで姿を確認することはできないが、その声は確実にそこから発せられていた。
「お、大婆様!」
「し、しかし……奴は、何をしでかすかわからぬ天神会きっての危険人物です! あのような者が殲魂を手にすれば……あの、『鮮血のカンディード』の二の舞にならぬとも!!」
「そうだ……こんどこそあやつを止められるものはいなくなるぞ!」
「かの有名な覇王武蔵殿の力を持ってしても、抑えられるかどうか……」
「いや、外部の力に頼るわけには行かぬ! 我々だけで抑えなければ」
「だから、あのような者をそもそも本殿に入れてはならなかったのだ!」
「天神武道会で優勝したからといって、奴に武人の地位を与えてしまったのが間違いだった!」
「あのまま、罪人のまま、奴隷のように何も教えぬまま傀儡のように使役していればよかったのだ」
「静まれ!」
騒ぎ立てる神官たちを、大婆と呼ばれた老女はぴしゃりと叱りつけた。
「リンよ」
大婆は、一人の巫女の名を呼んだ。それに呼応して、部屋の隅に控えていた少女が、大婆様の前に出て、頭を垂れる。
「はっ」
「命を下す。カムドとアズマを監視せよ。特に、カムドが何らかの謀反を起こす可能性を考慮し、その言動を逐次報告せよ」
「御意。心得ました」
少女は、すぐさま部屋を退出していった。
「大婆様! 監視だけではあまりに不足かと! カムドから殲魂を取り上げるべきです!」
「わらわは……カムドのいう、あの提案にかけてみたい」
「フェンリルに入隊し……内から組織を破壊するという、あれにございますか! とても無理です! あのような力だけの無能に、そのような知略ができるはずが……!」
「本当にそう思うか?」
大婆は、問いかけとともに、鋭い視線を神官たちに投げかけた。すだれに遮られて、眼光自体は見えないが、神官たちはそれに射すくめられたかのように、ただならぬ緊張感に身をこわばらせた。
その神官たちの様子に構わず、大婆は言葉を続ける。
「だとするなら、おぬしらの目は曇っていると言わざるをえんのぅ…」
「大婆様!」
「元はといえば、アズマがきゃつらに取られてしまったのも、お主ら神官どもの隠し事が原因……」
急所を突かれたかのようなショックを受け、神官たちに明らかな動揺が走った。そのうちの一人が思わず声を上げる。
「い、いくら貴女といえども……お言葉が過ぎますぞ! 私どもは天界の行く末を守るために……!」
「そうまでして暴かれたくない何か……わらわにもだいたいの見当はついておる」
そこまでの言葉を聞き、神官たちは皆黙りこんでしまった。意見を言いたいものも居るようだが、さらにやり込められはしないかと、声をあげようにも上げられずにいるらしい。
場が静まり、事は決まった。大婆は宣言する。
「カムドに任せよ。これは天命である」
「大婆……様!」
「聞こえなかったか? これは、天命である」
「は、ははぁっ!!」
頭を垂れる神官たち。たとえ天神会の組織のトップに居る神官たちでも、この大婆の命には逆らえなかった。少なくとも、今は……。
評議会を閉会し、場に一人になると、大婆はしわがれた自分の手の甲を見つめ、感触を確かめるように撫でた。かつての美貌は遠い過去へ置き去られ、今はただ老いゆくのみ。
だが、彼女の判断力と明晰さは、まだ衰える気配がない。
確信を持って、彼女はひとりつぶやいた。
「いずれ……全てが明らかになるじゃろうて……」
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神官たちが協議を行う場、評議会は荒れていた。
口々に神官たちが憤りの言葉を口にする。その非難の対象は、天神会最強の守護天使、イタチのカムドに対してであった。
「殲魂の携帯許可は、やはりまかりならん!」
「そうだ。それも、あれは完全な事後承諾……勝手に禁忌を破って封印の間に侵入するとは……本来であれば完全なる謀反であるぞ!」
「しかし……アズマの命令権の半分以上をフェンリルに取られた今、こちらとしても切り札が必要なのも確かだ」
「何を言う! 今度は殲魂すらフェンリルの奴らに奪われる可能性だってあるのだぞ!」
「いや、殲魂を扱えるのは今のところカムドだけ。あれは扱いを誤れば大惨事につながる代物。しかも、その悪しき波動の位置は常に我々が捕捉しておる。いかにフェンリルといえど、それを奪ってシラを切り通すことは不可能だ」
「そういう問題ではない。あのカムドという男自体、この任務にはふさわしくないと言っているのだ!」
「あの時はあまりの緊急事態ゆえ、奴の提言を認めてしまったが……そうだ。そもそも、アズマ奪還任務には他の人物を当てようとしていた……。あの男はそれを覆すために、今回、殲魂の封印を暴くなどという暴挙を起こしたのではないか!?」
「良いのではないかぇ」
荒れている議論の場に、突如、女性の声が響き渡った。
しわがれた老女の声だが、不思議と空間中に染みわたるように、それは響き渡り、その場にいた神官全員の耳に確実に入ってきた。
全員、大きなすだれのかかった、一段高い奥の座を見上げる。すだれのせいで姿を確認することはできないが、その声は確実にそこから発せられていた。
「お、大婆様!」
「し、しかし……奴は、何をしでかすかわからぬ天神会きっての危険人物です! あのような者が殲魂を手にすれば……あの、『鮮血のカンディード』の二の舞にならぬとも!!」
「そうだ……こんどこそあやつを止められるものはいなくなるぞ!」
「かの有名な覇王武蔵殿の力を持ってしても、抑えられるかどうか……」
「いや、外部の力に頼るわけには行かぬ! 我々だけで抑えなければ」
「だから、あのような者をそもそも本殿に入れてはならなかったのだ!」
「天神武道会で優勝したからといって、奴に武人の地位を与えてしまったのが間違いだった!」
「あのまま、罪人のまま、奴隷のように何も教えぬまま傀儡のように使役していればよかったのだ」
「静まれ!」
騒ぎ立てる神官たちを、大婆と呼ばれた老女はぴしゃりと叱りつけた。
「リンよ」
大婆は、一人の巫女の名を呼んだ。それに呼応して、部屋の隅に控えていた少女が、大婆様の前に出て、頭を垂れる。
「はっ」
「命を下す。カムドとアズマを監視せよ。特に、カムドが何らかの謀反を起こす可能性を考慮し、その言動を逐次報告せよ」
「御意。心得ました」
少女は、すぐさま部屋を退出していった。
「大婆様! 監視だけではあまりに不足かと! カムドから殲魂を取り上げるべきです!」
「わらわは……カムドのいう、あの提案にかけてみたい」
「フェンリルに入隊し……内から組織を破壊するという、あれにございますか! とても無理です! あのような力だけの無能に、そのような知略ができるはずが……!」
「本当にそう思うか?」
大婆は、問いかけとともに、鋭い視線を神官たちに投げかけた。すだれに遮られて、眼光自体は見えないが、神官たちはそれに射すくめられたかのように、ただならぬ緊張感に身をこわばらせた。
その神官たちの様子に構わず、大婆は言葉を続ける。
「だとするなら、おぬしらの目は曇っていると言わざるをえんのぅ…」
「大婆様!」
「元はといえば、アズマがきゃつらに取られてしまったのも、お主ら神官どもの隠し事が原因……」
急所を突かれたかのようなショックを受け、神官たちに明らかな動揺が走った。そのうちの一人が思わず声を上げる。
「い、いくら貴女といえども……お言葉が過ぎますぞ! 私どもは天界の行く末を守るために……!」
「そうまでして暴かれたくない何か……わらわにもだいたいの見当はついておる」
そこまでの言葉を聞き、神官たちは皆黙りこんでしまった。意見を言いたいものも居るようだが、さらにやり込められはしないかと、声をあげようにも上げられずにいるらしい。
場が静まり、事は決まった。大婆は宣言する。
「カムドに任せよ。これは天命である」
「大婆……様!」
「聞こえなかったか? これは、天命である」
「は、ははぁっ!!」
頭を垂れる神官たち。たとえ天神会の組織のトップに居る神官たちでも、この大婆の命には逆らえなかった。少なくとも、今は……。
評議会を閉会し、場に一人になると、大婆はしわがれた自分の手の甲を見つめ、感触を確かめるように撫でた。かつての美貌は遠い過去へ置き去られ、今はただ老いゆくのみ。
だが、彼女の判断力と明晰さは、まだ衰える気配がない。
確信を持って、彼女はひとりつぶやいた。
「いずれ……全てが明らかになるじゃろうて……」