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Dr.イリノア診察室【アズマ編】「我知らぬ巫女」
エマ
/
2014-05-04 01:01:00
サバイヴ・アワー・ブラッド ― 断章
Dr.イリノア診察室「我知らぬ巫女」
気がつくと、夢魔イリノアは、暗闇の中にいた。
零下かと思うほどの激しい寒さ、肌の痛覚が悲鳴を上げている。
「はぁ……はぁ……」
イリノアの呼吸は激しく乱れていた。息が続かない。
何かに驚愕し、何かに恐れおののいて、彼はずっと逃げてきたのだ。
走って走って、急にそれ以上走れなくなる。何かにぶつかって、行く手を阻まれる。
暗闇に溶け込んだ岩肌が、目の前を遮っていた。
ざくっざくっ、と足音がして、恐怖の対象がついに彼の元へやってくる。
「諦めろ。夢魔」
急に伸びてきた大きな手に首根っこを捕まれ、背後の岩肌にたたきつけられる。
「くっ……ああっ!」
あまりの衝撃に、肺から思わず息が漏れる。
首を絞められた状態で、なんとかイリノアは、自分を追い詰めている『魔物』の姿をとらえた。
2メートルはゆうに超えている、熊のような巨大な体躯。
鍛えぬかれた筋肉の塊の上に、金属製の鎧をかぶっている。頭部をほぼ覆っている鉄兜から、唯一くり抜かれた目の部分から、赤い眼光が漏れる。
とても一言では形容しがたい、武闘の権化のような男が、まるで油圧機械のような怪力で自分を押さえつけていた。
兜の隙間から、ゆっくりと口を開く。
「逃げおおせるとでも思ったか」
「ま、まってくれ……なぜ私が……」
必死の問いかけは、すぐに打ち破られる。
「理由は自分がよくわかっているはずだ」
目の前の大男が、すっと腰に手を伸ばす。そして何かを抜いた。
「これがわかるな?」
彼が手にしたもの……。普通の剣士が持つには長大すぎる、その剣……。戦闘などの血なまぐさい事情からはやや遠い立場にいるイリノアも、噂だけには聞いたことがあった。
「聞くところによると、夢魔という生き物はどんなに体を傷めつけられても死なないそうだな」
ありとあらゆる生命体を、一撃の名のもとに討ち滅ぼすという、強力無比の一撃必殺の邪剣、『殲魂』。呪詛悪魔はおろか、全知全能の神仏さえも殺すと言われている、別名『神殺しの剣』だ。
「だが、この剣で斬られれば……いや、この剣の邪気に触れただけでもどうなるか……わかるな?」
「待ってくれ……!」
イリノアは、閉められた首からなんとか声をひねり出し、弁解した。
「誓ってもいい。私は君の妹さんを売ったりなど……!」
男は、イリノアの弁解を無視した。大きく振り上げられる邪剣。
「や、やめ……!」
死にたくない。彼は死そのものを恐れているわけではなかった。死ぬことで、未だ叶えられていない彼の願いを絶たれるのが、恐いのだ。
まだ、自分は約束を……彼女との約束を果たしていない。
自分が勝手に、想い人に向けて誓った、一方的な約束……。彼女に頼まれたわけでもない。果たしたところで、感謝されるかすらわからない。それでも……それでも、果たすことで少しでも彼女に近づけるなら……。
それを今、絶たれるわけには……!
世界最悪の邪剣が、その望みを絶とうとする。
その『鬼』は、無慈悲に死の宣告を放った。
「死ね」
イリノアは、絶叫した。
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Dr.イリノア診察室「我知らぬ巫女」
気がつくと、夢魔イリノアは、暗闇の中にいた。
零下かと思うほどの激しい寒さ、肌の痛覚が悲鳴を上げている。
「はぁ……はぁ……」
イリノアの呼吸は激しく乱れていた。息が続かない。
何かに驚愕し、何かに恐れおののいて、彼はずっと逃げてきたのだ。
走って走って、急にそれ以上走れなくなる。何かにぶつかって、行く手を阻まれる。
暗闇に溶け込んだ岩肌が、目の前を遮っていた。
ざくっざくっ、と足音がして、恐怖の対象がついに彼の元へやってくる。
「諦めろ。夢魔」
急に伸びてきた大きな手に首根っこを捕まれ、背後の岩肌にたたきつけられる。
「くっ……ああっ!」
あまりの衝撃に、肺から思わず息が漏れる。
首を絞められた状態で、なんとかイリノアは、自分を追い詰めている『魔物』の姿をとらえた。
2メートルはゆうに超えている、熊のような巨大な体躯。
鍛えぬかれた筋肉の塊の上に、金属製の鎧をかぶっている。頭部をほぼ覆っている鉄兜から、唯一くり抜かれた目の部分から、赤い眼光が漏れる。
とても一言では形容しがたい、武闘の権化のような男が、まるで油圧機械のような怪力で自分を押さえつけていた。
兜の隙間から、ゆっくりと口を開く。
「逃げおおせるとでも思ったか」
「ま、まってくれ……なぜ私が……」
必死の問いかけは、すぐに打ち破られる。
「理由は自分がよくわかっているはずだ」
目の前の大男が、すっと腰に手を伸ばす。そして何かを抜いた。
「これがわかるな?」
彼が手にしたもの……。普通の剣士が持つには長大すぎる、その剣……。戦闘などの血なまぐさい事情からはやや遠い立場にいるイリノアも、噂だけには聞いたことがあった。
「聞くところによると、夢魔という生き物はどんなに体を傷めつけられても死なないそうだな」
ありとあらゆる生命体を、一撃の名のもとに討ち滅ぼすという、強力無比の一撃必殺の邪剣、『殲魂』。呪詛悪魔はおろか、全知全能の神仏さえも殺すと言われている、別名『神殺しの剣』だ。
「だが、この剣で斬られれば……いや、この剣の邪気に触れただけでもどうなるか……わかるな?」
「待ってくれ……!」
イリノアは、閉められた首からなんとか声をひねり出し、弁解した。
「誓ってもいい。私は君の妹さんを売ったりなど……!」
男は、イリノアの弁解を無視した。大きく振り上げられる邪剣。
「や、やめ……!」
死にたくない。彼は死そのものを恐れているわけではなかった。死ぬことで、未だ叶えられていない彼の願いを絶たれるのが、恐いのだ。
まだ、自分は約束を……彼女との約束を果たしていない。
自分が勝手に、想い人に向けて誓った、一方的な約束……。彼女に頼まれたわけでもない。果たしたところで、感謝されるかすらわからない。それでも……それでも、果たすことで少しでも彼女に近づけるなら……。
それを今、絶たれるわけには……!
世界最悪の邪剣が、その望みを絶とうとする。
その『鬼』は、無慈悲に死の宣告を放った。
「死ね」
イリノアは、絶叫した。