サバイヴ・アワー・ブラッド第1部第1章第3節
エマ / 2019-06-08 20:08:00 No.2432
 中南米のあるジャングル地域一帯……そこは今、人の姿をした人ならざる者たちの戦争の場であった。その乱戦の状況に今、天使という第三勢力が介入しようとしている。

ビー!ビー!

 地表が近づくにつれて、急減速を始めた降下カプセル内に警報音が鳴り響きはじめ、アズマは離脱体制に入った。
 次の瞬間、カプセルのハッチが破裂音とともに弾け飛び、アズマは即座に空中に放り出される。
訓練通りに体勢をひねり、迫り来る地表到達点めがけ真っ逆さまに自由落下する。

着地まで5……4……3……2………

両脚が地表に付く寸前に、アズマは全エネルギーを逆展開して地表にぶつけた。

着地点一体に轟音が轟き、アズマの着地点付近があまりの衝撃で崩れ、半径2メートルほどの大穴が生じた。耳が自動で防護されるので音は聞こえないが、周りに敵がいたとするなら衝撃で消し飛んでいたはずだ。
 空中に放り出されてから、パラシュートを一切使わずに、自分の脚力と魔力エネルギーを地表にぶつけるエネルギー相殺だけで着地する。アズマだからこそできる芸当だった。

着地し、しゃがんだ体勢のまま、アズマは全身のセンサーを探索。周りに敵がいるなら、流石にこの轟音に気づいたはずだ。アズマの最初の任務は、潜入(気付かれないように侵入)するため、着地点付近にいる敵勢力を秒殺することだった。

「……動体検知……6体、敵勢力と認識。消去実行」

アズマに一番近い距離にいた呪詛悪魔は、突如の轟音に驚きおののいていた。肉眼でその現象を起こした人影、それがどうも女の姿をしている……それが何となくわかった瞬間に、アズマの両腕の刃で首を貫かれた。

「がっ……唖々!」

そのまま両刃を薙ぎ、アズマは呪詛悪魔の首を切断すると、次の目標へ猛烈な速度で距離を縮める。

「侵入者! 各自の判断で応戦しろ! ……バーナー! 本部へ連絡を……グッ!」

メンバーに命令を下している上官クラスを、次にアズマは真っ先に狙った。周りに4体の敵が彼を守っていることを承知で……彼女は突っ込んだ。

指揮をしていた、三十代位に見える呪詛悪魔は、敵勢力カラミティの階位ではいわば小隊長に相当する男だった。決して侮れる相手ではない。並の一級守護天使では何度挑んでも確実に捻り殺されるだろう。その相手が、初動で放った腰からのブレードの一撃を、アズマは恐るべき両腕の刃の連撃で弾き、圧倒的な手数でブレードの応戦を打ち負かしていく。

「クソ……お前ら、何をしている、撃て!」

周りの部下たちは我に返り、圧している謎の少女に4人がかりで自動小銃で銃撃するが、すべての銃撃が彼女の周りを覆う妖しい光によって阻まれてしまった。

「こいつ……!? まさか!」

周りの銃撃を物ともせず、小隊長を斬撃で攻め続けるアズマに、封冠通話でクリムが呼びかける。

『いいわよ。エクストリーム降下で生じたエネルギーがあなたの体を覆っている約15秒間、あなたはほぼ無敵よ。このまま全員押し切って確実に消去しなさい。』

教官の言葉を裏付けるかのごとく、次の瞬間にはアズマの腕についた両刃……マンティスブレードは、敵の小隊長の剣を持つ右腕を斬り落とした。驚愕に顔を歪める敵の命運はもはや尽きている。ガードを失った小隊長の体をアズマは何度も切り刻み、絶命を確信すると次の瞬間には武器をマシンピストルに持ち替え、四方を囲む敵の部下4人を、秒もかからず横撃ちして全員を撃ち殺した。

「ガッ……ば、ばけも……」

全員が地に崩れ落ちたのを確認すると、アズマは封冠通話に応答した。

「クリア。目撃された一帯の呪詛悪魔を消去しました。所要時間、6秒」

『いいわよ。これで両軍に侵入を気づかれずに済んだわね。ポイントがつくはずよ』

アズマのAR視界に、今回の評価ポイント6000Pが追加された。最近フェンリルに導入されたシステムで、評価の高い行動を行ったり成果を上げると、それに対してユグドラシルがはじき出した評価ポイントがメンバーに対して付与されるのだ。一種の『ゲーミフィケーション』であるが、実際にポイントが貯まるとそれを装備品や支援物資などにある程度反映できるので、高い評価ポイントを維持し続けることは実利的にも意味がある。

しばらくして、アズマの体を覆っていたエネルギーのオーラが色を薄め、失われていく。エクストリーム降下の副次効果である防護エネルギーが消失したのだ。先程のような無敵状態は失われ、これからが本番だ。

『さぁ、カラミティ本軍へ接近するわよ。さっきの小隊長なら通信機を持っているはず。それを拾って敵通信を傍受しなさい』

「はい」

アズマは通信機を手に取ると、上空を見上げた。第三勢力としての穴は開けた。あとは……後続として侵入する兄たちがうまく続くことを願いながら、密林の中へ歩を進めていった。

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