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サバイヴ・アワー・ブラッド第1部第1章第2節
エマ
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2019-04-14 13:21:00
No.2429
招集されたアズマとアヴァロンは即時出動を命じられ、今、天界から遥か離れた中南米の成層圏にいた。
乗っているのは、フェンリルが誇る空中作戦司令航空機『フレスヴェルグ』である。
フレスヴェルグは『生体機械種』と呼ばれ、有機生命体でありながら体のあちこちに金属機械を内蔵したキメラ生物である。オーナー組織の意向によって機械として扱われることも生命として扱われることもある、非常に素性のナイーブな存在なのだが、ことフェンリルでもっぱら軍事装備として扱いが徹底されている。
フレスヴェルグは航空機として見ると大型の部類で、降下チームによるパラシュート作戦や救出作戦、貨物・人員輸送作戦、攻撃作戦はもちろんのこと、重要メンバーが作戦立案をするための、作戦会議室としても機能することができる万能性を持つ。
いわば、空を飛ぶ、フェンリルのもう一つの小支部に近い機能を備えているのだ。
アズマとアヴァロンが乗り込んだフレスヴェルグの作戦司令室には、すでにリーダーのカムドが居た。全員、耐圧ヘルメットを含めた重い装備に身を包んでいる。
「遅えぞ。ブリーフィングが始まってる。早く入れ」
作戦机上には、現在地の地上三次元地図がホログラフィ映像として浮かび上がっていた。そのうち、大きく赤と青で明滅する勢力記号が互いにぶつかり合っている。
「で、説明し直すとだな、今我々のいる中南米エリアで、2つのS級クラスの呪詛悪魔勢力、「カラミティ」と「スフォール」が武力衝突を始めた。22分ほど前の話だ」
部屋の明かりが消され、ホログラフィ映像の光のみで薄っすらと浮かぶ、ブリーフィング説明を行っている20代後半の男の顔が浮かび上がった。彼は『伝書鳩のレオン』。フェンリルの中でも精鋭といわれる二人組チーム『SILEN』の一人である。
「我々の任務は、『奪還』。以前、呪詛悪魔に奪われた天界の機密情報が収められた記憶デバイスを、所持している「カラミティ」側から取り返すことだ。」
「機密情報ってなによ」
アヴァロンが口を挟んだ。レオンは顔だけアヴァロンに向けて答える。
「いつもの如く、『君たちの知る必要はない』との上からのお達しだ。気にはなるが、そもそもデバイスに掛かっている暗号が強すぎて、今の所呪詛悪魔たちはそれを解読できていないらしい」
「なぜわかる?」
次にカムドが疑問を呈した。それは、全員が思っていたことだった。レオンは両手を横に、肩をすくめる。
「それも『知る必要はない』か。解読できていれば、おそらく奴らが真っ先にやろうとすることがまだ行われていない。そんな理由による推測か?」
「……かもな。よほどの機密なんだろうぜ。で、奪還するにあたって必要なのが敵の情報だな。これをみてくれ」
レオンがホログラフィ映像を操作する。地図上の赤いカラミティ勢力の群体の中から、映像がもう一つ拡大表示され、大柄な怪物のような生物が現れた。
「でかいな。2.5メートルくらいあるんじゃねぇの。実物大か?」
「いや、これでも1/2スケールだ。実際の身長は5メートル。体重は推定20トン。呪詛悪魔組織カラミティのアルファ個体……つまり『ボス猿』ーー『クズリのゲルテガス』だ。」
「確かに、クズリを巨大化して無理やり二足歩行にしたような図体だな。こいつは『モンスター』か」
カムドのモンスターという言葉に、皆同じ思いを持ったようだ。呪詛悪魔に大きく2種類に大別される。通常は守護天使と同じで人間の姿をしている者が多いが、中には復讐の力を増すために、姿が醜くなるなるのを覚悟で、幾多の動物霊と同化することでより強大な力を得て、まさしく怪物のようになる者がいるのだ。
「だろうな。前世のクズリの獰猛な身体特徴をそのまま生かして、プラスアルファで色々なモノを取り込んだんだろう。まさに生ける闘魂……こいつと戦って今まで生還できたやつはいないらしい。あんた以上かもしれんぞ」
レオンの軽めの挑発に、フン、とカムドは鼻で笑って応える。
「だが、もう一方の長も気になるな。カラミティとまともにやろうとする奴らだ。ただの雑兵ではあるまい」
その言葉にレオンは応じ、今度は青く表示されているカラミティの相手方、「スフォール」と呼ばれる呪詛悪魔グループのアルファ個体を拡大表示した。
「『スフォール』のリーダー。『ヴェゼル』。2メートル超の体躯の筋肉質。前世は不明。こいつの情報はゲルテガスよりも少ないが……あの『ライオンのカーリー』が一目を置いて停戦調停を行っていたともいわれる相手だ。こいつも相当の実力者であることは間違いないな。」
「ごめん。カーリーって誰? サキちゃん、知ってる?」
レオンのとなりで、ずっと黙っていたSILENのもう一人の様子が気になっていたのか、アヴァロンは強引に話題を振った。そのサキという銀短髪の華奢な女性は、アヴァロンを一瞥するとすぐに目をそらした。
そんな様子をフォローするかのように、レオンが代わりに説明する。
「かつて、フェンリルと大規模な戦闘で潰し合いをした呪詛悪魔勢力があったのさ。かろうじて我々が勝ったが……こちらも、そのカーリーと相打ちという形で、レディ・サラという天才を失った」
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エマ
/
2019-04-14 13:22:00
No.2430
やや気まずい雰囲気が流れた。すでに鬼籍だが、レディ・サラと呼ばれる女性隊員は非の打ち所のない能力を持つ天才戦闘工作員として、フェンリルでは伝説と呼ばれていた人物だった。しかも、レオンはその愛弟子と言われていたのだ。
「レオン、本題に戻って」
「ああ、わるい」
相棒に軽く謝るレオンだったが、どうも辛い記憶を吐露したはずの彼よりも、サキの方が動揺していたような、それを紛らわすために不機嫌になっているように皆には見えた。気を取り直して、レオンが説明を続ける。
「『ゲルテガス』の特徴は、鉄のような耐久性と怪力だ。まぁ、わかりやすいよな。一方の『ヴェゼル』は謎が多い。奴に近づいた者は皆、一瞬で焼かれて死ぬとか。雷に打たれて絶命するとか、妙な噂というか、都市伝説みたいな情報しかない。逆に言えば、奴に遭遇して生きて帰れた者がそれだけ少ないということだ。いずれにしろ、こいつとも直接対決は避けたほうが良い」
「そもそも、奪還任務なんだからよ。両方の勢力とまともにやり合う必要はねーんだろ?」
「そのとおり。両勢力の衝突に便乗し、早期に目標物を見つけたら奪還。速やかに脱出だ。」
「あの……」
それまで一切発言していなかった、か細い声が初めて上がった。
「なんだ? アズマ」
のんびりしたペースで、彼女は疑問を口にした。
「潜入や脱出に……この基地局からのトランスポート(時空転送)は……使えないのでしょうか?」
ブリーフィングの質問としては基礎的過ぎる質問だが、彼女らしいとも思い、レオンは丁寧に答えた。
「良い質問だな。奴らの戦闘地帯のほとんどに、時空転送を妨害する信号が張られているのさ」
「だから、こんな分厚い装備つけて高い空から飛び降りなきゃいけねぇってワケね。まぁ俺らは普通のHALO降下だからいいけどさ。アズマちゃんのエクストリーム降下ってなんなの? 危険すぎない?」
※HALO降下:高度一万メートル以上の高高度から落下し、地表300メートル程度の低空度でパラシュートを開く降下方法。通常のパラシュート降下よりも高速落下時間が長く、敵に察知されにくいとされる。
「一斉に降下なんてしたら敵に気づかれるだろうが馬鹿が。まずアズマが超高速で単独降下、着地地点をクリーンにしてそこから偵察・後続を支援するんだよ」
馬鹿、とリーダーに言われたアヴァロンが反論した。アズマの安全について兄のカムドが無頓着に見えているようだ。
「いやだから、その超高速のマッハ3で降下する仕組みがマジで安全かって聞いてんだよ! そもそも必要なのか? 最大瞬間速度つっても10秒かそこらで地表激突じゃねーか」
「どちらかの勢力に高練度の対空要員がいるそうだ。HALO降下でも気づかれる恐れがある」
「マッハ超えって……そもそも衝撃波で気づかれないのかしら?」
サキが素朴な疑問を口にした。
「フェンリルとしての実戦投入は初だが……実地試験では何度も効果が確かめられた降下システムだ。衝撃波も発生しないそうだ」
「謎技術過ぎるw」
機内放送が流れた。
「こちらフェンリル本部、機械室のセリーナよ。作戦開始まで7分。各自降下準備を…‥」
アズマは一人、皆と離れ、専用の降下装置の中に潜り込んだ。人一人がやっとはいるような、細長い、皺のない寝袋のようなフォルムで、両脇に姿勢制御のための翼がせり出していた。
手順通り、両腕を胸の前で組んで、手の位置にちょうどくる取っ手を掴む。静かに目を閉じる。外から見れば、棺桶の中で両腕を合わせ、静かに横たわる死体のような姿勢だ。
間もなく数分後に、この翼のついた棺桶のようなカプセルは、最大マッハ3近くの超音速で地上めがけて落下する。その間にも、アズマは目を開けて機体を制御しなければならない。恐怖を感じず、常人離れした反射神経を持つ彼女だからこそできる専用の降下システムだった。
「アズマ……聞こえる? 封冠通話をしているわ」
「……クリム教官」
聞き覚えのある声が聞こえた。
「全体の作戦指揮はセリーナが。あなたの戦術サポートは私が担当するわ」
「ありがとうございます」
一呼吸おいて、教官が忠告した。
「いい?これからあなたが降下する場所は地獄よ。着地後、20秒以内に速やかに周りの敵を全滅させて安全を確保しなさい」
「はい」
別の封冠通話が割り込みしてきた。指揮官のセリーナだ。
「5.4.3.2.……定刻。『ブリーシンガメン作戦』開始します」
同時に、フレスヴェルグの降下装置の弁が一気に弾け飛び、アズマの体はそれを包むカプセルごと空中に落下した。
数秒も立たぬうちに、カプセルの4つの推進弁から炎が吹き、猛烈なジェット噴射は一気に機体を超音速域にまで加速し始め……アズマは機体の制御を開始した。
轟音と激しい振動の中、カプセルにある翼を操作し、軌道を着陸地点へ正確に誘導する。
突如警報がなった。地帯を支配する人間界の国軍機に捕捉されたようだ。しかし次の瞬間には、カプセルはマッハ3で一気に国軍機の警戒レーダー網を突きってしまった。エクストリーム降下の選択は正解だったようだ。
地表に近づいたら急減速の上、カプセルすら放棄して、本当に身一つの自由落下となる。
アズマは本能で悟った。教官の言ったとおり。
これは、地獄への降下なのだ。
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エマ
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2019-04-17 21:45:00
No.2431
みなさん、こんにちは。エマです。
サバブラですが、いろいろ考えまして。じっくり構想やら文章を練ってリリースする感じだと10年以上かかりそうでそんなのやっていられないので、もう思い切って色々荒削りなのを覚悟でどんどん書いていくことにしました。
内容的に、今までよりもあらが目立つ感じが出るかも知れませんが、お許しください。
今回も、だいぶ荒がありますね汗。最初、降下についての考証をろくにやらずにいたんですが、流石にまずいだろうと思ってHALO降下とか入れてみた。キャラのセリフがだいぶ説明的になっちゃいましたね。ううむ…。
1話ですが、まだまだかかります。お楽しみに。
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乗っているのは、フェンリルが誇る空中作戦司令航空機『フレスヴェルグ』である。
フレスヴェルグは『生体機械種』と呼ばれ、有機生命体でありながら体のあちこちに金属機械を内蔵したキメラ生物である。オーナー組織の意向によって機械として扱われることも生命として扱われることもある、非常に素性のナイーブな存在なのだが、ことフェンリルでもっぱら軍事装備として扱いが徹底されている。
フレスヴェルグは航空機として見ると大型の部類で、降下チームによるパラシュート作戦や救出作戦、貨物・人員輸送作戦、攻撃作戦はもちろんのこと、重要メンバーが作戦立案をするための、作戦会議室としても機能することができる万能性を持つ。
いわば、空を飛ぶ、フェンリルのもう一つの小支部に近い機能を備えているのだ。
アズマとアヴァロンが乗り込んだフレスヴェルグの作戦司令室には、すでにリーダーのカムドが居た。全員、耐圧ヘルメットを含めた重い装備に身を包んでいる。
「遅えぞ。ブリーフィングが始まってる。早く入れ」
作戦机上には、現在地の地上三次元地図がホログラフィ映像として浮かび上がっていた。そのうち、大きく赤と青で明滅する勢力記号が互いにぶつかり合っている。
「で、説明し直すとだな、今我々のいる中南米エリアで、2つのS級クラスの呪詛悪魔勢力、「カラミティ」と「スフォール」が武力衝突を始めた。22分ほど前の話だ」
部屋の明かりが消され、ホログラフィ映像の光のみで薄っすらと浮かぶ、ブリーフィング説明を行っている20代後半の男の顔が浮かび上がった。彼は『伝書鳩のレオン』。フェンリルの中でも精鋭といわれる二人組チーム『SILEN』の一人である。
「我々の任務は、『奪還』。以前、呪詛悪魔に奪われた天界の機密情報が収められた記憶デバイスを、所持している「カラミティ」側から取り返すことだ。」
「機密情報ってなによ」
アヴァロンが口を挟んだ。レオンは顔だけアヴァロンに向けて答える。
「いつもの如く、『君たちの知る必要はない』との上からのお達しだ。気にはなるが、そもそもデバイスに掛かっている暗号が強すぎて、今の所呪詛悪魔たちはそれを解読できていないらしい」
「なぜわかる?」
次にカムドが疑問を呈した。それは、全員が思っていたことだった。レオンは両手を横に、肩をすくめる。
「それも『知る必要はない』か。解読できていれば、おそらく奴らが真っ先にやろうとすることがまだ行われていない。そんな理由による推測か?」
「……かもな。よほどの機密なんだろうぜ。で、奪還するにあたって必要なのが敵の情報だな。これをみてくれ」
レオンがホログラフィ映像を操作する。地図上の赤いカラミティ勢力の群体の中から、映像がもう一つ拡大表示され、大柄な怪物のような生物が現れた。
「でかいな。2.5メートルくらいあるんじゃねぇの。実物大か?」
「いや、これでも1/2スケールだ。実際の身長は5メートル。体重は推定20トン。呪詛悪魔組織カラミティのアルファ個体……つまり『ボス猿』ーー『クズリのゲルテガス』だ。」
「確かに、クズリを巨大化して無理やり二足歩行にしたような図体だな。こいつは『モンスター』か」
カムドのモンスターという言葉に、皆同じ思いを持ったようだ。呪詛悪魔に大きく2種類に大別される。通常は守護天使と同じで人間の姿をしている者が多いが、中には復讐の力を増すために、姿が醜くなるなるのを覚悟で、幾多の動物霊と同化することでより強大な力を得て、まさしく怪物のようになる者がいるのだ。
「だろうな。前世のクズリの獰猛な身体特徴をそのまま生かして、プラスアルファで色々なモノを取り込んだんだろう。まさに生ける闘魂……こいつと戦って今まで生還できたやつはいないらしい。あんた以上かもしれんぞ」
レオンの軽めの挑発に、フン、とカムドは鼻で笑って応える。
「だが、もう一方の長も気になるな。カラミティとまともにやろうとする奴らだ。ただの雑兵ではあるまい」
その言葉にレオンは応じ、今度は青く表示されているカラミティの相手方、「スフォール」と呼ばれる呪詛悪魔グループのアルファ個体を拡大表示した。
「『スフォール』のリーダー。『ヴェゼル』。2メートル超の体躯の筋肉質。前世は不明。こいつの情報はゲルテガスよりも少ないが……あの『ライオンのカーリー』が一目を置いて停戦調停を行っていたともいわれる相手だ。こいつも相当の実力者であることは間違いないな。」
「ごめん。カーリーって誰? サキちゃん、知ってる?」
レオンのとなりで、ずっと黙っていたSILENのもう一人の様子が気になっていたのか、アヴァロンは強引に話題を振った。そのサキという銀短髪の華奢な女性は、アヴァロンを一瞥するとすぐに目をそらした。
そんな様子をフォローするかのように、レオンが代わりに説明する。
「かつて、フェンリルと大規模な戦闘で潰し合いをした呪詛悪魔勢力があったのさ。かろうじて我々が勝ったが……こちらも、そのカーリーと相打ちという形で、レディ・サラという天才を失った」