「我知らぬ巫女」感想1
ライオンのみさき / 2014-08-14 01:54:00 No.2362
 こちらでは、またたいへんご無沙汰しております。みさきです。
 エマさまのこのお話、前から感想をおつけするつもりで少し書いたりもしていたのですけど、いろいろありまして、すぐにはできなくなってしまいました。そして、それからだいぶ時間も経ってしまいましたから、あらためて初めからもう一度読み直して感想を述べさせていただくことにいたします。
 4回にも渡って掲載されて、内容的にもいろいろなものがありますから、一度に全部ではなく、2回分ずつ二つに分けて、今回はその前半部分について。

 冒頭、イリノア先生の悪夢から始まるのがお話の導入部として印象的でしたが、でも、こういう悪夢を見られたのは、どうしてだったのでしょう? お寝みになる前にご覧になっていたアズマさんのカルテとカムドさんの資料がきっかけなのだとはしましても、イリノア先生にアズマさんに関してカムドさんへの何か疚しいようなお気持ちでもなければ、ああした夢にはならない気がするのですが、この後のお話を読んでもそうしたことは特には見当たりませんし……。エマさまがお話でちゃんとした形で描かれるカムドさんの正式な初登場ということで、インパクトを出されたかったのは分かりますし、それは十分達成されているとは思いますが、その理由が――強いて言うなら、後で出てくるアズマさんを“研究対象”としても見てしまうイリノア先生の意識のあり方がアズマさんに対しての漠然とした負い目に結びついたのかもしれませんが……。
 ――まあ、この時のイリノア先生にとって、カムドさんという方は何か得体の知れない恐ろしさを感じさせる存在だったということなのでしょうか。カムドさんの第一印象としては、どうもそういう感じらしいので、この時点でまだそれほどカムドさんをよくご存知なかったらしいイリノア先生にとっては、そうしたイメージが強調されてしまったのかもしれませんね。
 さて、でも、カムドさんご登場の印象(厳密には、実際のご本人のものではありませんけれど)がいかに鮮烈でありましょうとも、このお話の本題はそちらではなく、あくまでも妹のアズマさんの方にあるわけで、次のシーンではいよいよ主役(?)のアズマさんの出番となるわけですが……。
 ――ベッドで寝たままのご登場というのはアズマさんらしいと申しますか、お兄さまほどあえて凝ったというわけではなく、お話の展開上、自然にそうなったのだとは思いますけど、それでもファーストシーンでアズマさんというキャラクターを象徴するようなお姿だったという気がします。アズマさんの方もエマさまご自身がお話でちゃんと書かれるのは初めてのことになるのですし……。
 それでも、これまでにキャラクター紹介やSSなどで、アズマさんについてはかなり詳しいことが知らされていました。
 稀代の巫女と言われるほどの霊力という特別なお力は持つものの、守護天使としては例外的に体力がなく、また、ほとんどの記憶を喪い、そして何より、感情がないためお人形のように無表情、しかし、わずかにお兄さまへの思いだけは残っている、等々……。
 アズマさんという方について、こうした基本的な事柄はすでに存じておりました――いえ、そのつもりでしたが……。
 ですが、今回のお話では、今まではっきり語られなかったそれ以上の衝撃の事実が明らかになりました。まさか、自意識がない、とは……!
 自意識がないという人格がはたして成立しうるものなのか? ちょっと想像してみましてもかなり難しいような気がします。そもそも自意識がなくて、人格と呼べるものなのか、どうか――仮に何かの理由で、概念・言葉での理屈や頭の働きなどでは理解できなかったとしても、人は最低限自分というものを自分として自然に認識しているものなのではないでしょうか?
 もちろん、わたしなどにはよく分からないことではありますが……。ただ、分かることもあります。この設定がお話を書いていくうえではとても大変な難しい設定だということです
 この部分を最初に読ませていただいて、わたしが初めに思いましたことは――エマさまもまたずいぶん厄介なことに挑戦なさる、ということでした(笑)。
 いえ、笑い事ではありません。感情がないというだけでもアズマさんを描くのは、その描写でもせりふ回しでもストーリーの展開にしましても、かなり難しいと思っておりましたが、自意識までないということになると――アズマさんの内面の描写・説明ははなはだしく困難なものになるでしょう。アズマさん視点――特に、その一人称による叙述はまず不可能でしょうし、そうでなくても、断片的にでもアズマさんの立場からの周囲の描写というものもほぼ無理な気がします。……まあ、そうした描写の視点がアズマさんになければならない理由はありませんけれど。
 このお話、アズマさんがポイントで問題の中心とはなっても、そのアズマさん自身が狂言回し的な役回りを務めるわけではなく、語り部である必要もない。いえ、ひょっとしたら、一般的な意味でのお話の“主人公”でさえアズマさんはないのかもしれませんね。
 ただ、それでアズマさんのお話が成立するには、アズマさんを外から見てその姿を捉える視点が必要だと思いますし、それはこのお話ではイリノア先生がなさっていましたけど、『サバイヴ・アワー・ブラッド』本編でその役をなさるのはお立場からしてカムドさんということになるのかもしれませんが、そうしますと……カムドさんご自身がまたそのお人柄も思考方法も、そして、たぶん感覚的にも通常とはかなり異なる方のようなので、今回のイリノア先生とは違ってカムドさん視点の描写というものは読者からすると共感を呼びにくいものになってしまうのではと、余計な心配をしてしまいます。いえ、もしかすると、そういった描写はアヴァロンさんやリンさんから見てのことになるのかもしれませんが……。
 でも、自意識の問題といいますのは、考えてみますと、なかなかおもしろそうでもあります。一般的な問題としても当然そうですけど、守護天使という存在のあり方を考えてみましたときには、またとりわけ「興味深い」です。エマさまがお話の中でそれをどのように扱い、追究していかれるか、期待しております――とても苦労されるのでは、とは思うのですが。
 一方で、「自意識がない」ことの結果として、アズマさんは「自覚できない分、意図せずに、罪から逃げおおせている」、「罪の意識を感じずに……何百人の命を奪う」ということにもなるのですね。
 感情がないだけでもそういうようなことになる気もするのですが、より根本的に、ということなのかもしれませんね。
 でも、ここに、ご本人は何も感じない、自覚できないからこそのいっそうのアズマさんの悲劇があると思います。
 後半でお話の本文でも出て来ますが、初めてこの部分を読ませていただいた時点でわたしもそのことが気になりました。
 もし、この先、アズマさんが自意識や感情を取り戻すことがあったら――それ自体は望ましい、喜ばしいことであるはずなのに――その瞬間、何の意識もないまま行なっていた自らの行為に対する罪悪感がアズマさんを押し潰してしまうかもしれない……いえたぶん、今の状況で真に“心”を取り戻されたなら、そうなってしまう方が当然という気がします。たとえば、似た境遇にあっても、自分の行為をきちんと認識し、罪の意識に苛まれながらそれと戦い、意志の力で耐え続けて、精神を鍛えられてきたサキさんなどと違って、アズマさんの場合は、言わば生まれたばかりのまっさらな無垢の心が何の準備もなくいきなりそんな重圧に晒されてしまうのですから、到底耐えきれるものではないでしょう。
 そして、今回の事件を含めてこれまで何度か実戦を経験しているらしいアズマさんはもう敵の人達を何人も――いえ、何百人も殺してしまっているようで……だとすれば、アズマさんは現時点ですでに取り返しのつかない、後戻りのできないところまで来てしまっているということになります。何の意識もたいした自覚もないままに。こんな悲惨なお話があるでしょうか? 本編でアズマさんにはたして救いはあるのでしょうか……?
 アズマさんのそうした境遇に対して、イリノア先生は真摯に憤りを見せて下さいました。肝心の当のアズマさん自身はよく分からず、何も感じていないのが哀しくて、またいささかむなしくもありはしますけれど、“ヒューマニスト(人道主義者)”でいらっしゃるイリノア先生のごく真っ当な正義感によるそれは公明正大なものでありました。ですが、逆に言えば、客観的――つまり、第三者的立場によるものなのだとも言えると思います。これがカムドさんでは――先ほど申し上げたカムドさんの個性のことは抜きにしましても、ご本人の問題にもなってくるわけですから、だいぶ様子が違ってくることと思います。それが本編でのテーマの一つになるのでしょうか。
 第二回ラストで、そのカムドさん(本物(笑))もついにご登場で、新たな展開を見せる三、四回のお話後半。そちらについての感想はまた今度お届けします。

エマ / 2014-08-16 11:57:00 No.2363
感想ありがとうございます^^
な、なんと……前後編に分けて、こんなボリュームで書いていただけるとは。嬉しいことです。

イリノア先生が見た悪夢ですが、作者の都合としてはインパクトを出すため、だったんですけど、構想当初の設定でいうと、カムドには若干、相手に悪夢を見させる能力がある、という設定でした。
でも、さすがにその設定には無理があるだろう思い(イリノア先生をそう夢で威圧する必要性もあるのか疑問だったので)、今ではその設定は没になっています。
なので、今の理由としては、やはり、アズマが不当な理由で強制的にフェンリルに入隊させられた経緯があり、それに自分も間接的に協力しているという事実、そして彼女を研究対象として見てしまっている負い目、それから、カムドという男の前情報(フェンリルからの情報提供により、かなり正確なカムドの情報がイリノアさんには入っています)を知っての潜在的な恐怖感、そうしたものがないまぜになって今回の悪夢を引き起こした、というのが真相かと思います。
ちなみに、そのカムドの情報には「同胞である守護天使をも殺害しかねない超危険人物」という情報も含まれているので、イリノアさんが潜在的に恐怖心を抱いていたとしてもなんら不思議ではありません^^;

なので、「この時点でまだそれほどカムドさんをよくご存知なかったらしい」というわけではなかったのです。
情報としてはかなりすでに知っていたんですが、やはり実際に会ってみるとその威圧感に圧倒されてしまった、ということでしょうね。

で、アズマについて。
ベッドで寝たまま、というとなんか、エヴァの綾波レイを想起する人もいるかもしれません。無感情・無感動という点では通ずる部分がなくもないので、でも一緒にしてほしくはないなーというのが個人的な思いです^^; もちろん、みさきさんは混同されてはいないでしょうけど。

ベッドから手を添えられて起こされた、というシーンは、アズマの儚い感じを出すのに一役買ったかな、と考えています。
自意識がない、という部分は、アズマというキャラを作ってから、そう間をおかず追加された設定です。なので、相当前ですね。2004年位?
この自意識がないということは、かねてよりこのDr.イリノア診察室【アズマ編】でお披露目することを考えていました。なので、今の今までずっとみんなには感情がない、というレベルまでで、意図して情報を止めていました。
その効果は少しあったのではないかな、と思うとります(邪笑)

自意識がないという人格が成立しうるのか、という点については、私は多分、かろうじて成立するだろうと考えていまして、それがアズマの(感情がない、記憶喪失、自意識がない、といった奇抜な設定という意味ではない、本来の)個性を出す上でも大事な部分かなーと思っています。

たしかに、かなり厄介なことに挑戦しているんですけどね(笑) それだけの意義はあります。
たしかに、アズマ自身の視点で何かを描写したり語る、というのはかなり難しいです。だから、多くは他のキャラクターの視点で描くことになります。あるいは、神の視点で描くことになるでしょう。
ただ、アズマはカムドと並んで、主人公の一人であることには違いありません。描き方自体は間接的でも、アズマは立派な主人公なのでそこは安心してください。
アズマを描くのは、確かに難しいことです。私自身は、アズマの産みの親なので、長年アズマの思考パターンをシミュレーションして、上手く描く自信はあります。
ただ、問題になってくるのが、コラボレーションなどで、他の方が小説でアズマを描かれる場合ですね。制約が相当あるので、まじめにやろうとしたら、私が随時チェックして修正いれることになるかと思います(汗)
そこがアズマの不利な点のひとつ(笑)
まぁ、ギャグSSとかだったら多少本来の姿と離れても構いませんが。

また、アズマの「自意識がない」点と「罪」との関係ですが、まぁ仰るとおりな感じです。
すでに、後戻りできないところにまで来ています。
カムドも正直、そんなアズマの境遇を苦々しく思っているのですが、でもアズマ自身が命を落としてしまうことだけはないように、心を鬼にしてアズマに「生き延びるために」、「人を殺戮する術」を教えている状況です。

アズマが感情と自意識を取り戻したら、どうなってしまうのか……もちろん、サバイヴ・アワー・ブラッドのテーマの一つになっています。
アズマに救いがあるかどうかは……土斑猫さんからも「エマさん、信じてる」っていわれたんですが、どうでしょうね……YES!ともNO!とも言えないかな(*´σー`)エヘヘ

イリノア先生が憤りを感じた、という描写は当初からあったんですが、原稿をダイダロスさんにお見せしたところ、イリノアさんは「ヒューマニスト」という設定を初めて聞かされまして、へぇ〜〜〜と思った次第です。クールキャラという印象が個人的に強かったので。ヒューマニスト(人道主義者)である、という説明は、それを伺って後から追記したものです。
まぁ、ダイダロスさんに読んでいただいたところ、イリノアさんについては「全く違和感がなかった」とおっしゃっていただけたので、それはよかったです。

お話後半、ここからが面白くなってくるところなので、感想も楽しみにして(←なにハードル上げとるんじゃ!w)おります(笑)

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