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Dr.イリノア診察室【アズマ編】「我知らぬ巫女」(3)
エマ
/
2014-05-24 19:46:00
No.2344
「カムド……!」
「……何をそんなにビビっている? 俺が何かするとでも思ったか?」
「い、いや……その……い、いつからそこに?」
「ちょうど、『いいかい。君は、利用されているんだ!』のあたりからだ」
イリノアは、思わずため息を付いた。
「人が悪いな。許可もとらずに入ってくるなんて」
「妹がどこぞのよく知らん医者に調べられると聞いたからな。無視するわけにはいかん」
カムドが、ふいに近づいてきた。
おもわず、後ずさりする。
「どうした。俺が恐いか?」
「あ、い、いや……」
ちらりと、カムドの腰に目をやる。悪夢で自分の命を絶った殲魂は、無かった。
「心配するな。武器は置いてきた。少なくとも天界で荒事をするつもりはない」
「そ、そうか……」
「もっとも、俺を裏切る人間がいれば、話は別だがな」
さらに、カムドが距離を詰めてくる。
あとずさるが、背中が壁に阻まれて、すぐに押し寄られてしまった。悪夢と同じ構図で、嫌な気分だ。
「一つ質問だが。お前はフェンリルの顧問精神科医だそうだが、お前に独立性は……場合によっては、フェンリルの要求をはねのける権限はあるんだろうな?」
「ああ、もちろんだ。たしかに私は、フェンリルから仕事を請け負っているが。無茶だと思った仕事は拒否できる権利がある。ロイ司令とは、そういう契約をしたからね。」
「お前の作る封冠だが、天神会やフェンリルの要請で、妙なまがい物の機能を仕込むことはないだろうな?」
「そんなことはしない! それは……私の精神科医・封冠技師としてプライドにかけて誓う」
「そうか……」
「信じてくれるのかい?」
「俺の目は節穴じゃない。お前が嘘を付いているかどうかは、まず目を見れば分かる」
そういいつつ、カムドが、懐に手を入れるので、イリノアは背筋が寒くなった。が、取り出したのは武器ではなく、小さなメモリーチップだった。
「このデータをあんたに預けたい」
「これは……何かな?」
「俺と天神会が調べた、アズマの全データだ」
「それを……どうして僕に……」
「天神会の医者どもより、あんたの方が信用できそうだからだ」
カムドの手から、恐る恐るメモリーチップを受け取る。10円玉ほどの大きさの、小さなチップだった。無くさないよう、イリノアは手持ちの透明な袋に入れ、胸ポケットに慎重にしまいこんだ。
「アズマの精神的特徴、問題点、今までにわかっている全てを書き記している。アズマの診察に役立ててくれ」
「あ、ああ……それは、ありがたいが……」
「さて、場所を変えようか」
「場所って、ここ以外、どこに?」
「どこでもいい。役所の世界から離れた場所だ」
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エマ
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2014-05-24 19:47:00
No.2345
ここは緩衝地帯。めいどの世界、しつじの世界、役所の世界、娯楽の世界のいずれにも属さない場所。
自然が一番多く残っており、ある意味、娯楽の世界以上に、リラックスするには最適な場所だった。
緩衝地帯の中心部。大きな巨木の下に、イリノアとカムドは移動する。
先程から、妙な匂いがしていた。ふと、カムドの懐を見ると、なにやら細長い筒のようなものから、わずかに鼻を突く臭いがする。
常人には感知できない、極僅かな……だが、感覚の鋭敏な夢魔であり、また医師であるイリノアだからこそ、知覚できた臭い。
イリノアには、その成分に覚えがあった。まさか……こんなものを持っているということは、この男……。
その成分……間違いない。『ヘルアンドヘル』だ。
人間界で、欧州を中心に流通しているという、超がつくほどの高級合成麻薬で、『ヘブンオアヘル』というドラッグがある。文字通り、天国に昇るかのような快楽を得られる代わりに、体への負担があまりにも強く、下手な摂取の仕方をすると簡単に死に至ると言われている。それだけ危険なシロモノなのに高い値がつくのは、その得られる快楽が、並みのドラッグとは比較にならないほど強いからだという。しかしその代償として依存性もことのほか強く、その危険性はラグリアという国で作られた『魔薬』と呼ばれるドラッグに匹敵すると言われている。
その危険な代物『ヘブンオアヘル』だが、その生成の過程で、ある余剰物が生まれるという。まるで、重油からガソリンを精製した後で残るゴミのようなもの……。それが、『ヘルアンドヘル』だ。
これは、その名から想像がつくように、正確にはもはやドラッグですらない。青酸カリの数百倍の毒性を持つという、超がつくほどの毒物だ。しかし、色や香りが似ていることから、「ヘブンオアヘル」と偽って販売され、購入して使用した人間が即死するケースが後を絶たない。
こんなものを一体、なぜこの男は持っているのだろう。イリノアはふと思った。話に聞いた限りだが、相当激しい戦いの世界に身をおいているというこの男。もしかしたら、窮地に陥った際の、自決用の毒として使うつもりなのかもしれない。戦士として、それだけの覚悟を持っているということか。
しかし、その推測はすぐさま打ち破られる。
カムドの手が、そのヘルアンドヘルの詰まった小さな筒に伸び、それを指でつまむと、この男はこともあろうに口にくわえたのだ。
「なっ!」
次に、ポケットの中から、何やら粉のようなものをつまみ上げ、親指と人差し指で瞬時にこすると、その指の間からメラメラと炎が燃え上がった。その炎はヘルアンドヘルの筒に燃え移る。
疑いようがない。この男は、ヘルアンドヘルを吸引したのだ。まるでタバコのように。
「や、やめなさい! 死ぬ気か!」
カムドは、何事もないように、片腕を上げ、イリノアを制止した。
「おいおい、気をつけろ。これ以上近づくと煙を吸ってお前が死ぬぞ? たとえ夢魔でもな」
「あ……」
すぅ〜〜〜〜っとヘルアンドヘルの煙を吸い込み、一呼吸おいて、ぷはぁ〜〜〜っと、カムドは、イリノアにそれがかからぬよう、脇を向いて煙を吐き出した。
平気なのか? この男は……青酸カリの数百倍の毒だぞ?
いや、なにより、この吐き出された煙でここら一体の大気が汚染され……いや、まて。距離の3乗で薄まるから、たとえヘルアンドヘルの毒性でも、一応は大丈夫か。ここらへんには、私とこの男の二人しかいないし。
そんな思考がめまぐるしく頭を駆け巡り、イリノアは混乱しながらも呼吸を静かに整えた。
「だ、大丈夫なのか? そんなものを吸って……」
「ああ、これは常人には毒だがな。わけあって、俺の場合は滋養のために吸ってるんだ」
滋養? 一体、何を言っているんだこいつは!?
イリノアはわけが分からなかった。あの悪夢といい、ヘルアンドヘルといい、この男メチャクチャだ。
混乱する頭をぶんぶん振って、なんとか気持ちを落ち着かせる。
この男の不可解さはさておき、話さなければならない本題が残っている。
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エマ
/
2014-05-24 19:50:00
No.2346
「で、聞いていいかな。君の狙いは何なんだ?」
「アズマに、感情と自意識を取り戻させてやりたい」
「この2つがなきゃあ、確かに心は無いも同然だ。そして、これらが取り戻せたら……あいつを天神会のコントロールから解放できるきっかけになるかもしれん」
気になることを、この男は言った。天神会のコントロール。噂には聞いていたが、やはり彼女はフェンリルだけでなく、本来の所属組織である天神会の中でも自由に動けない存在なのか……。
「どうだ? できそうか?」
「調べてみないことにはね。まだなんとも言えない。だが……私が見たところ」
一呼吸おいて、イリノアは続けた。
「感情もない、自意識もない、しかし……好奇心はあるようだった」
「ああ、それに、あいつは興奮することもある」
「興奮?」
「クリムという女に、訓練の一環で傷めつけられたときのことだ。一度、興奮状態になったらしい」
イリノアは驚いた。常に無感動・無反応というイメージを持っていたが、これは意外なだけでなく、彼女の秘密を解く上で非常に重大な情報だ。
「本当かい!? それはきっと、怒りとはまた違うのだろうね。おそらく、動物的な……生理的な興奮状態か……なら、感情の種のようなものは完全には奪われていないと思う。おそらく……」
カムドは、そんな様子を見てふっと笑った。
「どうだ? 俺の妹は、お前から見てもまたとない研究対象だろう?」
見透かされてしまった。
「あ、い、いや……私はけっして……!」
「別に構わん。いずれにしても、アズマの心の謎を解明してくれれば、それでいい」
カムドは、ヘルアンドヘルという『死のタバコ』をまた深く吸い込むと、プハァ〜っと真横へ煙を吐き出し、話題を次に進める。
「ああそうだ。お前、アズマの天神会の封冠をベースに、あれを改造するんだろう? 天神会の封冠のデータを、俺に提供することはできるか?」
「守秘義務があって、それはできないね」
「そうか……」
「力づくで要求されても困るから、これだけは言っておくよ。天神会の封冠の機能は完全にブラックボックスになっていた。そこに私が機能を付け加えることはできるが、中身を確認することはできない。どんな機能が入っているかは知らないが、まったく、私から見ても、よく出来た代物だよ。」
「どんな機能か? 話は簡単だ。アズマを『支配』する機能が入っているんだ」
「なんだって?」
「我々天神会には、『天命』という概念がある。『天から与えられた命』、それを受けたものは、万難を排してでもそれを達成する絶対の義務が生ずる」
「天命……」
初めて聞いた概念だった。守護天使の本分は主人に尽くすことだが、フェンリルや天神会に所属する守護天使は、何らかの事情により、主人との共同生活が叶わなくなった者たちだ。だが、本来の役目を失ったからといって、代わりに与えられるものが、そんな絶対的な忠誠とは……。
「だが、それを受けるのはもちろん、人の心を持った守護天使。自ずと、その遂行能力には限界がある。そこで、天神会が開発したのが、封冠による『天命』の絶対遂行機能だ。早い話が、自分の意志では天命に絶対に逆らえなくなる」
「そんなものが……。アズマの封冠にも?」
「ああ、そうだ。一度『天命』が働いたら、俺でも止めることはできん。俺の命令すら拒絶される始末でな」
死のタバコが短くなると、カムドは先端の火をつまんで消し、その場に捨てるのではなく、懐からシガレットケースを取り出し、その中にしまいこんだ。意外とマナー意識があるのか……いや、単にヘルアンドヘルという危険物を他人に拾われないようにするためかもしれない。
一服を終え、カムドは首を斜めに曲げてゴキゴキ鳴らすと、リラックスした様子で大きく息を吐き、話を続けた。
「おそらく、フェンリルがお前にやらせようとしていることは、その『天命遂行』機能にアクセスすることだ」
「まさか……」
「そうだ。フェンリルから来た要件定義書をよく読んでみろ。おそらく、フェンリルからの命令を天神会製のブラックボックスに入力して、『天命』として変換させるモンじゃないか? つまり、フェンリルからの命令も、アズマにとっての『天命』の扱いにさせるつもりだ」
イリノアは、この男の洞察力に驚くのと同時に、一番詳しい情報を手に入れておきながら、ロイの意図に気づくのがこの男より遅れたことを内心で恥じた。要件定義書のボリュームは確かに膨大だったが、その隠れた奥の意図にもっと早く気づくべきだった。他の仕事に忙殺され、資料の全てに目を通せなかったこともあるが、今やそれは言い訳にはならない。
「で、俺はそれを止めに来た、というわけだ」
「そうか……そうだったのか……」
「お前、自分のことをプロといったな」
「ああ」
「どうする? イリノア先生」
カムドの鋭い眼光が、イリノアを睨む。明らかなテストだった。返答次第でどうなるかわかったものではないが、しかし答えは自ずと決まっている。
「断るよ。そんな残酷なもの……私は作る気はない。別に、君のことを恐れて、とかじゃない。あの子にはあまりに酷すぎる運命だ」
「その決断については、礼を言おう。だが、お前がやらなくても、いずれ誰かがやるだろうな。天神会にも封冠技師は居る」
「いや、だが……天神会はフェンリルと敵対しているのだろう?」
「天神会は、フェンリルに何らかの弱みを握られている。はっきり言って、今は人質を取られて言いなり状態だ」
「そうなのか……」
「まぁ、封冠が改造され、フェンリルの命令が『天命』扱いになったとしても、まだ望みはある」
シガレットケースを懐にしまい込み、カムドは言葉を続ける。
「天神会が開発した部分、『天命遂行』の機能を解析すればいいんだ。そして、その機能を、アズマの精神に悪影響が出ないように、安全に解除する方法を見つけ出す」
「そうか……そうだな。確かに、それしか方法はないだろう」
「どうだ。できそうか?」
しばらく、思案するイリノア。難易度は高い。これがロイに知れたら……という懸念もある。だが、思案しながらも結論はすでに収束に向かっていた。
「あのブラックボックス……機能の隠蔽の技術はかなり手の込んだものだが……私の力で、やってできなくはないと思う。少し時間をくれないか」
その言葉を聞いたカムドの口元が、わずかに緩んだように見えた。彼は静かに大きくうなずくと、組んだ腕を解いて礼を述べた。
「いいとも。協力感謝する」
「はは……」
「何がおかしい?」
「いや……なんでもないよ」
まさか、夢のなかで自分を殺した人間に、感謝されるとは思わなかった。
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エマ
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2014-05-24 19:51:00
No.2347
「ふう……」
カムドと別れ、診察室に戻ったイリノアは、大きくため息をついてイスに身を沈め、背もたれに体を預けて、天井を見上げた。
窓を見ると、いつの間にか、日が沈みかけていた。イリノアはリモコンで部屋の電気をつけ、一旦部屋を明るくしたが、思い直して、今度は全ての照明をオフにした。
いろんなことがあった一日だった。正直、疲れた……。
あの少女の事を思う。
あの子は、自分がやっていることを理解していない。ほんとうの意味で。
そしてそれを、フェンリル……イグアナのロイは利用している。イタチのアズマの『無知』を、白鷺のサキの場合は『贖罪』を。そして、彼はやや以前に封冠を作るために診察した、ロイの側近のことも思い起こした。
梟のメティファ。彼女の場合は、おそらく、報われることのない恭順の精神。メティファは、ロイに利用されることを自ら進んで受け入れていたという点で、他の二人とは違う。しかし、少なくともロイは、それに対して感謝の意を抱くような男ではないのだ。
いずれにしろ、そうした彼女たちの事情・特性をロイは余すところ無く、骨の髄まで利用している。この3人だけじゃない。全てとは言わないが、他の隊員にもそうしたものがいるのだろう。
ロイの、このような人材の運用のやり方では、いずれ体制の不安定化をもたらすのではないだろうか? 少なくとも、そう長続きするやり方ではないような気がするのだ。彼・彼女たちの心の限界が……何か地下にたぎるマグマのようなものとなって、いずれ地表に吹き出してくるような気がしてならない。
ロイは怜悧な男だ。彼自身、それをわかっているはず。それでも続ける、彼の本当の狙いはなんなんだ……? 天界を、呪詛悪魔やデッドエンジェルの脅威から守る……本当にそれだけか?
イリノアは、封冠と精神医療のプロである。この仕事にはいつだって、誇りをもって取り組んできた。
しかし、ロイと業務契約して、はや数年……。
彼女たちのような、悲しい宿命を背負った人たちを診察するのも、正直辛くなり始めてきた自分がいる。
患者の境遇に感情移入し過ぎるのは、様々な面でプロとしてご法度だ。それはわかっているが、次々と駒として使い潰されていく彼らを見ていると、自分のやっている封冠の開発・提供は本当の意味で、彼らを助けているのだろうか? そんな疑問が頭から離れない。
彼らの精神を安定させる機能……戦闘を手助けする機能……どんなものだって、彼らの生存率を上げるために開発してきた。しかしそれは、結局、長い目で見れば、彼らをさらに戦いに駆り立てつづけるものでしかない。
疑問の堂々巡りに嫌気が差し、イリノアはふと、デスクの上にあるカルテを見た。
少女の写真が目に飛び込む。
『アズマに、感情と自意識を取り戻させてやりたい』
悪夢の中で自分を殺そうとした男の口から出た、意外な言葉の暖かさ。この言葉が脳裏を反芻する。
その気持ちは、自分とて同じだった。なんとかしてやりたい。自分の力では、戦いを強いられる、彼女の運命自体を変えてやることはできない。
でも、せめて、自分のことだけでも想えるようにしてやりたい。
しかし、もし自意識と感情を取り戻したら、今度は彼女は罪にさいなまれることになる。
兄のカムドは、それを理解しているのだろうか? いや、彼はわかっているはずだ。そうだとしても、『人として』生きていって欲しい。そう願うのは、きっと間違いではないのだろう。
そして、あの男の次の言葉がまた浮かぶ。
『お前にとっては、またとない研究対象だろう?』
完全に、見透かされていた。
そうだ。彼女を助けてやりたいと個人的に思う一方で、このアズマという特殊な少女は、精神科医としてはまたとない、とてつもなく貴重で興味深い患者……研究サンプルとなりえることも事実だった。
彼女が抱える問題を解析していくことよって、人がどうして自意識を持つようになるのか、感情を持つようになるのかがわかるかもしれない。
封冠の開発にも応用が効く可能性がある。そんな、研究心がふつふつと湧いてくる。彼女への同情心と同時にこうした思惑が浮かんできた、そのような自分に嫌気がさす。
「くそ……」
温厚な彼にしては、珍しい悪態の言葉が口をついた。
カムドとの約束が、思い起こされる。
『天命遂行』の解除……。ブラックボックスの解析か……。技術的難度はかなり高いが、やってみるしかない。
あの子を、私は助けるべきだ。
覚悟はできている。しかし、もう一つの悩みはまだ解決されていない。
ロイと……フェンリルと、これからも付き合うべきだろうか?
この協業が、研究開発に大いにプラスになっていることは事実だ。
しかし、私の開発したものが、彼らを救うようでいて、実は苦しみを長引かせていることにも最近気づいてきた。
悩む。おそらく、今晩は死ぬほど自分を追い詰めるのだろう。
そもそも、私はなぜ精神科医になった?
私は……。
目を閉じ……しばらくすると、懐かしい一人の女性の姿が脳裏に浮かぶ。だが、それはすぐに何かの力によって、掻き消されてしまった。
――守れなかった……私は……彼女を。
――予兆にすら、気づけなかった……。
気がついた時には、全てが終わっていて……。彼女の死亡報告を受けた時の、茫然自失とした自分を未だに覚えている。
繰り返したくない。私は……人を救う医者だ。なら、どうすればいい? 考えろ、イリノア……。
しかし、考えれば考えるほど、答えが遠のいていく。
激しい思考による疲れか、意識がぼんやりとしてきた。
よろめく体を引きずり、仮眠ベッドへと倒れこむ。
仰向けになり目を閉じると、先ほどの想い人の代わりに、今日の儚い陽炎のような少女の表情が脳裏に浮かんでくる。
うわ言のように、彼はつぶやいた。
「なぁ……私はどうすればいいと思う?」
「教えてくれ……サラ……」
彼は、ベッドに身を横たえたまま、そのまま泥のように眠りに落ちていった。
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エマ
/
2014-05-24 19:54:00
No.2348
3発目投下完了〜。
結構ボリューム多いな……。イリノアさん主体のシーンはこれで終了です。
次回以降はザッピングで、色々なシーンが出てきます。
サバイヴ・アワー・ブラッドの雰囲気の一端でも感じていただければ幸いです。
ではではー^^/
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G5‐G
/
2014-05-25 16:40:00
No.2350
(=゚ω゚)ノ うぃ〜っす。ここんとこずっといろいろサボり気味な折れ惨状だぜよ。
とりあえず、アズマっちはほぼロボトミー状態って事でいいのかな。これまで常々言及されてきた通りだな。
しかし特筆すべきは何と言ってもカムドの怖さだろうwww
身長2メートルにしたんだっけ。まあそのぐらいはなきゃ怖さを演出するのは難しいわな。なんか違和感あるけどw
ヘブンオアヘルの事は知らなかったが、それの更にやべーバージョンが「ヘルアンドヘル」ってのは実にナイスなネーミングだwww
もっとも、カムドがそんなものを吸っている間に、ゼクシアは世界中の軍事施設を襲って地球上の放射能・核兵器を喰らいつくしていたがなwwwww
そんな奴と対峙するイリノアとしては気が気じゃなかったのでわないかと。何しろ、夢の中で殺されてるからねえwww
まあアズマっちを救うという共通の目的がある以上心配はなさそうだが。
ちなみに、カムドと天神会が調べたアズマっちの全データには、ラグルによる追加・改竄が多分に含まれているとかいないとかw
データを開くと真っ先に「ヽ(゚∀゚ )ノ アズマっち:俺の嫁 by ラグル」と出てくるらしいwww
しかし最大の謎は、なぜメティファさんがロイなんぞにつき従っているのかという事だ。これに関してはチームQuelの総意が納得していないので(特にラグルとブウロ)、この先ロイの司令官生命は極めて短いものとなるであろう。
うむ、乾燥になっとらん。
まいっか\(^o^)/
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エマ
/
2014-05-31 23:59:00
No.2352
感想ありがとうです^^
ロボトミーって言葉、知らなかったんですけども。ググってみたら……なんとまぁ、恐い手術があったんですね。
でも確かに、ある意味似たようなものかもしんない……。
カムドの怖さ、うまく表現できたようで何よりですw
はい、身長は2メートルにしたんですが、実はまだ物足りなくて、2メートル70センチくらいにしたいくらいなんですよねww
でも、さすがにそこまで大きくしたら日常生活に支障が出るだろうと思って、2メートルにおさえてあります。
当初、177センチという設定にしていたのは、それが私の身長と同じだからwww あと、当時23歳という設定だったんですが、それも当時私が23歳だったからwww
まぁ、ある意味自分がこれくらい強くなれたらいいな的なキャラだったのでw
あ、そうだ!
通常時は2メートルで、戦闘時は体が膨張して3メートルになるというのはどうだろ!www
我ながら素晴らしいアイデ……うわみんななにをするやめr(ry
>ヘルアンドヘル
当初はですねー。カムドはヘルアンドヘルでなくて、アヘンを吸っているという設定でした(もちろん、快楽のためでなく、『滋養』のため)。しかし、いかにダークヒーローといえども、主人公が麻薬ジャンキーというのもヤバかろうと思いww そうだ! じゃあ毒物なら吸っても法に問われないよね!(←ホントか?)
ということで、麻薬でなく毒物を吸うという設定にしました。
で、どんな毒物にしようかと、最初はシアン化なんか何とかトリチルなんとか化合物的な、実在する危険かつカッコ良い名前の化学物質を探していたんですが、なかなかそういうのが見つからなくてですね。
悩みに悩んだあげく、苦し紛れに思いついたのが「ヘブンオアヘル」と「ヘルアンドヘル」です。
苦し紛れに思いついたわりには、意外と良い設定になったので、個人的にも良かったなーと思うとります。
もちろん、ヘルアンドヘルは滋養としてでなく、ワイルドさんよろしく「カムド版デスブロウ」として、攻撃手段にすることも可能ですw
というわけで、カムドは実はチームプアゾン並に、毒が効かないのであった!!ww
>夢で殺される
今回のDr.イリノア診察室【アズマ編】を書く上で最初に思い浮かんだのがこのシーンでした(爆) もうこのシーンありきで始めました。イリノアさんごめんなさい(;´Д`)
いやー、カムドの描く場合、インパクト重要なんでww
>カムドと天神会が調べたアズマっちの全データには、ラグルによる追加・改竄が多分に含まれているとかいないとかw
イリノア「さて、預かったデータを見て……ん、やけに容量が軽いな」
ヽ(゚∀゚ )ノ アズマっち:俺の嫁 by ラグル
イリノア「こ、これは……(;´Д`)」
>なぜメティファさんがロイなんぞにつき従っているのかという事だ。
すべてはみさきさんが知っている……はず。
まさか、そこまで設定されてないなんてことは……ないですよね? よね? みさきさーん!(笑)
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カムドが、ふいに近づいてきた。
おもわず、後ずさりする。
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「あ、い、いや……」
ちらりと、カムドの腰に目をやる。悪夢で自分の命を絶った殲魂は、無かった。
「心配するな。武器は置いてきた。少なくとも天界で荒事をするつもりはない」
「そ、そうか……」
「もっとも、俺を裏切る人間がいれば、話は別だがな」
さらに、カムドが距離を詰めてくる。
あとずさるが、背中が壁に阻まれて、すぐに押し寄られてしまった。悪夢と同じ構図で、嫌な気分だ。
「一つ質問だが。お前はフェンリルの顧問精神科医だそうだが、お前に独立性は……場合によっては、フェンリルの要求をはねのける権限はあるんだろうな?」
「ああ、もちろんだ。たしかに私は、フェンリルから仕事を請け負っているが。無茶だと思った仕事は拒否できる権利がある。ロイ司令とは、そういう契約をしたからね。」
「お前の作る封冠だが、天神会やフェンリルの要請で、妙なまがい物の機能を仕込むことはないだろうな?」
「そんなことはしない! それは……私の精神科医・封冠技師としてプライドにかけて誓う」
「そうか……」
「信じてくれるのかい?」
「俺の目は節穴じゃない。お前が嘘を付いているかどうかは、まず目を見れば分かる」
そういいつつ、カムドが、懐に手を入れるので、イリノアは背筋が寒くなった。が、取り出したのは武器ではなく、小さなメモリーチップだった。
「このデータをあんたに預けたい」
「これは……何かな?」
「俺と天神会が調べた、アズマの全データだ」
「それを……どうして僕に……」
「天神会の医者どもより、あんたの方が信用できそうだからだ」
カムドの手から、恐る恐るメモリーチップを受け取る。10円玉ほどの大きさの、小さなチップだった。無くさないよう、イリノアは手持ちの透明な袋に入れ、胸ポケットに慎重にしまいこんだ。
「アズマの精神的特徴、問題点、今までにわかっている全てを書き記している。アズマの診察に役立ててくれ」
「あ、ああ……それは、ありがたいが……」
「さて、場所を変えようか」
「場所って、ここ以外、どこに?」
「どこでもいい。役所の世界から離れた場所だ」