取り戻した約束
えび(KSARS) / 2012-10-14 02:16:00 No.2142
 日常ではありえない再会から数十分後。
 俺と桃子は、目を真っ赤にした美夏と向き合っていた。
「はや〜。久しぶりにたくさん泣きましたの」
「俺もだ」
「私なんて、今日2回目だよ」
 声を出して泣いたのは、美夏と秋子の葬式以来。
 それ以外だと、いつになるか思い出せない。
「それで美夏お姉ちゃん……でいいんだよね?」
「はいですの。私、ももちゃんのお姉ちゃんですの」
「でも、死んだよね?」
「はいですの。私、一度死んじゃいましたの。でも、こうして守護天使として転生しましたの」
 と、能天気に美夏は語る。
 雰囲気は美夏のままなのに、口調のせいか別人に思える。
「その辺り、詳しく説明してほしいな」
「そうだな。俺も知っておきたい」
「分かりましたの。と、その前に」
 美夏は軽く目を閉じると、一瞬にしてパジャマ姿からサキミと同じデザインの青のメイド服に変わり、背中に純白の羽が現れた。
 変わっているとしたら、両腕に赤いリボンを巻いているぐらい。
「これでよし、ですの」
「ほえ〜。すごい」
「守護天使はみんなそんなことが出来るのか?」
「はや? ひろくん、守護天使のこと知ってますの?」
「ああ。少し前まで、ハトのサキミっていう守護天使がいたけど、今はめいどの世界に戻っているんだよ」
「はや〜。サキミちゃんが、ひろくんの守護天使だったんですの?」
「サキミのこと、知ってるのか?」
「はいですの。私、サキミちゃんのルームメイトだったんですの。でも、サキミちゃん、ご主人様のところに行ってしまったので、部屋に1人で寂しかったんですの。あ、これ写真ですの」
 どこから取り出したのか、美夏は俺たちに一枚の写真を差し出した。
 そこには確かに、美夏とサキミが一緒に写っていた。
「可愛い娘。お兄ちゃん、この娘と居たの?」
「ああ。ほんの数日だったけど」
「……ふーん」
 ジト目で桃子が俺を見る。
 私のことは放って置いた癖に。
 そんな感情が突き刺さる。
「ごほん。それよりも、どういうことか説明してくれないか?」
「はいですの。よいっしょっと」
 美夏はポケットからキューブ状の物体を取り出して、それを慣れた手つきでいじる。
 すると、キューブは徐々に形状変化して、ホワイトボードへとなった。
「す、すごい…」
「ですの。これはエンジェルツールと言いまして、持ち主の思いのまま形状を変えることが出来て、おまけに収納出来てしまうという、めっちゃ便利な道具ですの」
「なんだよ、そのご都合主義的な道具は」
「細かいことは気にしてはダメですの。えっと、こうしてっと」
 美夏はどこからか取り出したマーカーで、ホワイトボードにせっせと書いていく。
 生前と変わらない、綺麗な字だった。
「まず、私は人間の生を終えましたの。それから、私の魂は天へと昇りましたの。そこで、守護天使となっていたチカちゃんに会いましたの。そのときに、私の魂はチカちゃんと同化しましたの。なう、ですの」
「てい!」
「あいた、ですの」
 あまりにも大雑把な説明に、俺は思わず美夏の脳天にチョップをかました。
「うう、痛いですの」
「真面目に説明しろ。端折り過ぎ」
「はや〜。実のところ、私にもよくわかってないですの。チカちゃんと同化する以前の記憶があやふやになっていて、あとで女神様に説明されたのがこの構図なんですの」
「はい、お姉ちゃん。質問」
「はや? なんですの、ももちゃん」
「さっきから会話の中に、チカちゃんって出てくるけど、誰なの?」
「ももちゃん、覚えてませんの? 昔、家でペルシャネコ飼っていたこと」
「それは覚えているけど、それがどうして繋がるの?」
「うーん、まずはそこから説明致しますの」
 美夏はももに守護天使はどういう風に誕生するのかを説明する。
 守護天使は、かつて飼い主から受けた愛情を返すべく、魂の受け皿である、対象と関係の深い女性(チカの場合、ご主人様が俺、魂の受け皿が美夏)の肉体を借りて転生する。
 それからめいどの世界(男ならしつじの世界)へと行き、厳しい修行をするらしい。
「チカちゃんは、ひろくんへ恩を返すためにがんばってましたの。でも、私が人間の生を終えたとメガミ様から告げられたら、すぐに私のところに来てくれましたの。そして、『私の体を使ってくださいですの、美夏様』って、言ってくれましたの」
「そうか、その口調はチカのを受け継いだのか」
「はいですの」
「うーん、イマイチよく分からないけど、つまりは、天使になったチカちゃんと魂の同化をして、お姉ちゃんがまた現世にやってこれたってこと?」
「そういうことですの」
 さすがもも。美夏の言葉を解釈するのはお手の物だな。
 他の人が聞いたら、まず解釈出来ない。その辺りは姉妹の意思疎通の賜物なんだろう。

えび(KSARS) / 2012-10-14 02:17:00 No.2143
「あー、そうですの。私、ももちゃんに説教しなければならないんですの!」
 いきなり、生前のときでも珍しいぐらいに大声を出す美夏。
「えっ? 何かな?」
「ももちゃん。いくら寂しいからって、自分の命を粗末にしてはいけませんの! お姉ちゃん、生きた心地がしませんでしたの」
「なんで、お姉ちゃんがそれを……。あ、まさか、あのとき救急車を呼んだの、お姉ちゃんだったの?」
「はいですの。本来なら地上に行くまでは干渉はしてならなかったんですけど、大切な妹のピンチに居ても経っても居られませんでしたの」
「そう、だったんだ……。ありがとう、お姉ちゃん」
 ももは自分の右手首を触って、美夏に目を潤ませながら礼を言った。
 本来であれば、俺も美夏に礼を言うべき何だろうけど、その場に居合わせるどころか、ももとの接触すら絶っていた俺には言えなかった。
 だから、せめて心の中で思う。
 ありがとう、美夏。俺の変わりにももを助けてくれて。
「ひろくんにも、たくさんたくさん、言いたいことがありますの」
「俺のことも見ていてくれたのか?」
「当然ですの。だってひろくんは、私の旦那様、なんですの」
「美夏……」
「私のダーリンでもあるけどね」
「もも……」
 それはかつて、日向3姉妹と交わした約束。
 俺達はずっと4人で1つだった。それは俺と美夏が恋人になっても変わらずに、桃子と秋子は変わらずに懐いでくれた。
 その時間は、美夏だけでなく、桃子と秋子までも家族以上の存在にするのには十分であり、気が付けば桃子と秋子にも恋をしていた。
 世間的には許されないことだと分かっていても、その気持ちはどうしようもなかった。
 そんなときに、美夏は俺の手に自分の手を重ねて言ってくれた。
「ひろくん。私は、ひろくんが大好きだよ。でもね、ももちゃんもあきちゃんも、同じぐらい大好きなの。世間なんて関係ないよ。だって、私達の世界は、誰にも邪魔することが出来ないんだから」
 未来の妻に背中を押された俺は、2人が中学3年生に進学した日に秘めた想いを打ち明けた。
「俺、2人が好きだ。身勝手なお願いかもしれないけど、俺は3人をお嫁さんにしたい」
「お兄ちゃん……。うん。私を、ううん、私達を、お嫁さんにしてください」
「(みんな一緒で、お兄ちゃまのお嫁さん。みんな幸せ)」
「えへへ。3人で、ひろくんの赤ちゃん産もうね」
 人生の中で、一番幸せな瞬間だった。
 この日を境に、より3人との距離が縮まって、家の中では本当に夫婦のように過ごし、あの日が来るまでは幸せな日々を送っていた。
「でも、あとにしますの。今は、こうしていたいんですの」
 美夏は俺の左横に移動して、そのまま俺が膝枕するような形で横になった。
 生前、美夏がいつもしていたことだった。
「お前、変わらないな」
「はいですの。私、またひろくんに膝枕してほしいと、ずっと思って頑張ってきましたの。私にとって、この時間はとても大切な、心が安らぐ一時ですの」
「じゃあ、私もしてもらおうかな」
 ももは俺の右横に移動して、美夏と同じように横になった。
「えへへ。お兄ちゃんのお膝、久しぶり」
「そう言ってもらえて嬉しいよ」
 ももと美夏の頭を撫でながら、過ぎ去った過去を思い出す。
 何かにつけて「ひろくんエネルギー補給〜」と言って甘える美夏。そんな美夏を見て「もうお姉ちゃんったら」と苦笑しながら、控えめに甘えてくるもも。そして、マイペースに甘えてくるあき。
 あの娘はよく背中に抱きついて、子犬のようにすりすりしてくるのが好きだった。
 喋れない分、体全体を使って「お兄ちゃま大好き〜」を表現してきた。
 そのことを思い出したら、妙に背中が寂しく感じた。
「……やっぱ、3人居ないと寂しいな」
「そうだね…。ねえ、お姉ちゃん。あきちゃんは…」
「残念ですけど、いませんでしたの。そもそも、あきちゃんはあまり動物が好きではなったんですの。守護天使となる前提として、動物のときに受けた強い恩を返したいという強い想いが必要なんですの」
「そうだよな。それに、そんな動物が居たら俺達が知らないはずがないもんな」
 日向家、奥村家で飼ったペットといえば、チカ以外居なかった。
 飼わなかった理由は特になく、単純にペットが居なくても生活が充実していたからだと思う。
 それに、美夏も言っていたように、あきはあまり動物が好きではなかった。比較的大人しい犬がちょっと吠えたぐらいで、俺の後ろに隠れてしまうぐらいだったから。
 だから、守護天使になるぐらい世話をした動物は居ないのだ。
 そもそも、美夏があまりにも特殊な例なんだろうけど。
「ひろくん。私達があきちゃんの分までひろくんを支えますの。でも、想いは変わりませんの」
「私達日向姉妹は、お兄ちゃんのお嫁さんだよ。居なくなってもずっと、お嫁さんだから」
「……ありがとう」
 俺は2人の言葉に感動して、感謝の気持ちを込めて頭を撫でた。
 一時期は、全てを失ったと勘違いして、恨みを募らせて復讐し、残っていた大切な存在から逃げていた。
 あれから数年。サキミに連れて来られて戻ってきたこの場所で、俺は取り戻した。
 日向美夏。
 日向桃子。
 日向秋子はもう居ないけど、俺の中で想い出として生き続け、存在する。
「美夏。もも。こんな情けない俺だけど、また一緒に暮らしてくれるか?」
「はいですの」
「もう離さないんだから。どこまでも、私はお兄ちゃんに、ううん、ひろさんについていくから」
「ありがとうな」
「そうだ、ゆびきりしますの」
「あはは。お姉ちゃん、ゆびきり大好きだもんね」
「はいですの。約束するときにはぴったりですの。そう、ひろくんから教わりましたの」
「じゃあするか」
 右の小指を美夏と、左の小指を桃子と、そして美夏と桃子の小指が繋がる。
「俺達は、もう離れない。いつか離れるときが来るだろうけど、想いはいつも一緒にいよう」
「はいですの」
「うん。じゃあ、せーの」
「「「ゆーびきりげんまん。嘘吐いたら針千本のーます。ゆびきった」」」
 俺達は一斉に小指を離して、変わりに俺が二人を抱き締めた。
 それから、2人にキスをした。
「えへへ」
「久しぶりのひろさんとのキス。やっぱり、何度してもいいな」
「こんなんでよければ、いつでもしてあげる」
「じゃあ、もう一回してほしいですの」
「ああ」
 美夏にせがまれてキスをしよう、そう行動しようとしたとき。
 ぴんぽーん。
 いきなり、日向家に来客を知らせるチャイムが鳴った。
「うう、空気読めないチャイムですの」
「仕方ないだろう。それより、誰か確かめないと」
「うん。待ってて」
 ももは立ち上がって備え付けのドアホンを押すと、外にいる来客が映し出された。
「あれ? みなみちゃん?」
「なっ…」
「はやや。みなみちゃんですの?」
『あっ、桃子。ただいまー』
 そこに映っていたのは、俺にとって、もう1人の大切な家族、奥寺みなみこと、奥村みなみという妹だった。
 
<続く>

エマ / 2012-10-15 21:44:00 No.2144
天使とのゆびきり、チカ編 第4話に相当するお話がついに来ましたね。待ってました!

いきなり二人の前に現れた女の子、現れ方からして守護天使のチカちゃん? でも美夏って自分で名乗ってるしな・・・いったいどっちなの!?

と思っていたんですが、なんと、答えは両方でしたか。

体は美夏ちゃん。でもチカちゃんと魂が合体して、守護天使としての力も手に入れて、ついでに口調もチカちゃんのを継承して(笑) なんともいえない感じw
でも、基本的には意識的には正真正銘の美夏さんなんですね。
いやー、浩人さんも桃子ちゃんも、それはそれは嬉しかった事でありましょう。

しかし、サキミちゃんと天界ではルームメイトだったとは……なんという偶然でしょうね。サキミちゃんと再び会える日がくるのか・・・それもちょっと楽しみですが。

「ふ〜ん」とジト目で浩人さんを見る桃子ちゃんがカワイイw

エンジェルツールという道具が出てきましたね。なんか、四次元ポケットからでかいアイテムを取り出すドラえもんのような・・・w チカえもん?ww

チカちゃん、家で買っていたペルシャ猫だったんですねー。ペルシャ猫ってなんかすごいオシャレな感じがしますが。買うと高そうですね。買ったのか拾ったのか不明ですが。守護天使になるくらいだから、よほど大事にされたのでしょうねー。

で、自殺を図ろうとした桃子ちゃんを、救急車を呼んで助けたのは、美夏さんでしたか。さすがお姉ちゃん。というか、ハラハラしっぱなしだったでしょうね。

で・・・だ。

「俺は3人をお嫁さんにしたい」だと?

「えへへ。3人で、ひろくんの赤ちゃん産もうね」だと?

浩人さん、爆発しろ(>o<)

お嫁さん3人なんて、羨ましすぎるぞ浩人さんw そりゃまー、ノエルラントでのノエル公には及ばんとしても、あっちはファンタジーの世界だからな。現代のお話で、それも一夫多妻制でもない日本において、なんという暴挙。
ひとりくらいおれにくr……うわなにをするやめ(ry

なんか、ぼかてんの展開を彷彿とさせる気もするがw

膝枕か−、子供みたいに甘えちゃって、二人とも……。しかし、あきちゃんだけ、いないんですね。美夏ちゃんもよみがえったし、あきちゃんがよみがえるシナリオがあってもいい気がしますが。どうなるんでしょうなー。

3人で、ゆびきりですか。なるほど、タイトルからして「天使とのゆびきり」ですものね。「ゆびきり」はこの作品で、特別な意味を持つんでしょうな−。

て、おいこら、キスとかまた見せつけおってw
これからのラブラブ展開が思いやられますなw

で、チャイムを鳴らした客人ですが……。

また妹か!!

浩人さんのハーレムぶりはいったいどこまでいくのか……次回も楽しみにしていますw

爆発しろ−!w

エマ / 2012-10-18 23:20:00 No.2145
しかし、チカちゃんは美夏さんと同化してしまって、ある意味ではいなくなってしまったんですよね。
純粋なチカちゃんの活躍も見たかったエマさんとしては、そこが残念です^^;

そういえば、以前掲示板に投稿してくれたSSで、チカちゃんが活躍してたSSがありましたね。

近いうちに、サルベージしたいと思いますw

最大1000文字まで(残り1000文字)。省略不可。日本語必須。HTMLタグ不可。誹謗中傷や個人情報、宣伝URLは即削除されます。
最大10文字まで。省略可能。
半角英数字(8文字まで)を入れることで、書き込みの削除ができるほか、名前の後ろに任意のコードが付きなりすましを防止できます。省略可能。