Parade
時計屋 / 2012-07-22 03:31:00 No.2119
 ニホンオオカミのミカド、年端も行かぬ幼子ながら一線級の戦闘力を持ったその守護天使の出生は、とても祝福された存在とは言い難かった。
 そもそも彼女の種は絶滅されたとされ、日本では1910年頃の報告以後生存が確認されていないのだがその血統は微かに継がれ続けたらしく、紀伊山地、秩父山系、祖母山系には未だに目撃発言も有るそうだ。
報告には人と共生していたとされるが、彼女はアルビノであり尚の事希少価値であった為猟銃に倒れたのだろう。
尤も、彼女のそれには秘匿された事実が有るのだが余人の知る所ではない。
 彼女はそうした中で何の奇跡か、性根真っ直ぐに育った。希少故の気難しさや、死因からの人嫌いはなかった。
 不安要素が有ろうとも目下奉仕のいろはを学ぶ彼女には暖かい視線を送るべきである。
――と、報告書上でしか知らなかった存在が今、私の眼前に居る。



「おねぇちゃん、どうしたの?」
水晶を思わせる声音が疑問を奏でた、投げ掛けた主には一切の疑心も見えずに向日葵の様な明るい笑みを見せていた。
「ふぇっ! ……あ、あぁ、少し考えごとをしてた。ココ、座ってもいいかな」
「んー……7じまでならいーよ、おねぇちゃん」
ありがとうと言って丸テーブルの反対側に取り敢えず腰掛けた、が、しかし。
 先の声音といいこんな所を職場の連中に見られたら間違いなく覚えられるなぁ、と詮のない心配をしている自分に嫌気が差し掛けて止めた。
 とはいえ、彼女がここに居る理由には合点がいった。
「昇級試験はどうだった? 難しかった?」
 話しながらもうそんな季節か、と驚いた。階級云々の話からは離れて久しいし、上司同僚に幾ら不敬と言われようとも私のこの想いだけは、消したくない。
「あのねあのね、バッチリだった! めがみさまもね、『これからもしっかりしましょうね』って言ってたよっ」
 嬉しそうにそう言ってはにかむ彼女は情報で送られた印象と余りにも乖離していた。
「良かったね、それは」
 私はこの子の様に微笑めているだろうか、と答えながら自問し多分出来ないだろう、と溜息を一つ空に吐いた。
「おねぇちゃんは?」
 そうしていたところに尋ねられた、確かに彼女にしてみれば疑問なのだろう。
「私はこれから休暇でね、ご主人様のところへ戻る心算」
「わ、じゃあいっしょ?」
 ……まったく、なんでこの子はこんな宝石みたいな眼をしてるんだろうか。と思ってしまったのは映った自分の姿が浮かなかったからだろうか。
「いや、私は」
違う、と言いかけて止めた。その方が楽しそうだ、なんてこの子を見て思ってしまった。悪癖だ、とは思うけれど止められない癖なのだ。
「……そうだね、もうこんな時間だし一緒に行こうか」
私はわざとらしく手首を返して時計を一瞥した後、席を立った彼女の手を牽いて会計を済ませ、現世への門へと歩き出した。
「おねぇちゃんって前世はなんなの?」
 不意に投げられた疑問、しかし、特段珍しいことでもなかった。我々には付いて回る問題だし、彼女の経歴を知っている身としては微々とはいえ不公平感が有った訳だし。
「ヤマカガシ、蛇の一種で一応毒蛇よ」
「わたしはね、にほんおおかみ」
 がるるるるっ、と唸るような仕種はしかし鈴が鳴るような澄んだ音が喉から紡がれるばかりで大層可愛らしかった。
「そう。珍しい種だったのね」
 その言葉で嫌そうな表情に一瞬で様変わりした。しまった、と思ったときにはもう遅かった。が、彼女の反応は私の予想と違っていた。
「んとね、わたしのうまれこきょーはめずらしいどうぶつがいーっぱいいたの、……どうしたの?」
 ドサリ、とボストンを落としたのと少女の疑問が投げ掛けられたのはほぼ同時、彼女は私の表情を見て言ったのだから、よっぽど私は面食らっていたのだろう。
「……ん、気にしなくていい」
「ホントに?」
 首を傾げこちらを見つめた瞳はそれ以外の意思を感じさせない純粋さで。
「ホント。それよりそのお話、もう少し聞かせてくれる?」
 ぽふっ、と彼女の額に手を置いてその疑問に答えた。成程、メガミの言う通り彼女はこのままが一番良さそうだ。
「いいよ! えーっとね? まずごしゅじんさまなんだけどね……」
 環境に怯むことなく彼女の性根がここまで真っ直ぐであったことに感謝しつつ、ご主人様との思い出に浸る彼女の無邪気な笑顔を肴に話を聞いた。それは道程の長さを忘れる程に煌めいていて、私の奥底を暖めるには十分だった。



「ただいま」
 玄関をガチャリと開けると奥から近付いてきた声。
「おかえり、シェイド。いつもご苦労様だね」
 Shade、影の名をこの人から貰えたことに感謝しようと思えたのは来る途中の会話の為だろう。門を潜った直後に別れた彼女に感謝しつつ、労いの言葉の主に抱き着いた。
「わ、ちょ、シェイド!?」「やだ、ぜーったいにはなさない」
 顔を頬擦りし身体を密着させて張り付いた、ふふ、顔がまっか。
「玄関先だし、は、放してくれない……?」
「それはきけないよ、わたしへびだもん。つかれたんだからあっくんのにおいをからだじゅうにしみこませなきゃ」
 靴を脱いでないとかそういうのは気にしない、ワガママもメガミじゃない私には知ったことじゃない。今はただ、こうして一緒にまたいられることを甘受したいだけ。
「シェイド、そんなに疲れたなら」
 スッと半身を起こす、釣られて私も上半身が起き上がりそうになったがフワッと浮遊感。
「――――――ッ!!?◎□×▲※……」
 足をそのまま抱えられ俗に言うお姫様抱っこの体制にさせられてしまった。
「ほら、これで歩かなくていい」
 などとのほほんと仄めかすご主人様――、ああ、もうっ!
「あっくん」「ん?」
 こちらに目線を落とした彼の耳元に顔を寄せ火照る顔を自覚しながら囁いた、私の今も叶い続ける1つの願い。
「……もう、ぜったい離れたりしないから」

 ――夜の帳はまだ落ちそうにない。

エマ / 2012-08-02 10:14:00 No.2122
ミカドちゃん、前世はニホンオオカミ……。子供の頃、ニホンオオカミが絶滅したというニュースを聞いた記憶がポヤヤンとあります。
そういう希少性もミカドちゃんの魅力の一つかもしれませんね。
猟銃で撃たれて死んだ、とありますが、よくぞ人間を恨まず、まっすぐに育ってくれたものですね。人間に殺された過去を持つ守護天使って、ウチのサイトでも結構いますね。自分がどうして死んだか理解できないで死んだ動物は、呪詛悪魔にならないのかもしれません。
と、ちょっと話それましたが。

シェイドさんとミカドちゃんの会話、二人の性格がよく表れた会話だなーと思います。ミカドちゃんの屈託のなさ、シェイドさんの冷静さ。性格はかなり違いますが、よいお友達になれるのかもしれないなーとも思います。
しかし、どういうきっかけで知り合ったのでしょう。このお二人……。

で、ここからが本題ですよ。
ご主人様と一緒に居る時のシェイドさん。え? なにこれ別人?ww
すごいデレデレじゃないですか。こんなシェイドさん、ウチにもほしー!(ぉ
ご主人様を「あっくん」とか、においをしみこませなきゃとか、お姫様だっことか、どんだけラブ2なんだw
殆ど恋人同士みたいな感じですね。そういうところは亮たんとうさこちゃんの関係にも似てるかも。
夜はどうなるのかなーw 気になるなーw

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