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Dr.イリノア診察室【アズマ編】「我知らぬ巫女」(4)
エマ
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2014-06-02 14:53:00
No.2354
その頃、天神会本部。
神官たちが協議を行う場、評議会は荒れていた。
口々に神官たちが憤りの言葉を口にする。その非難の対象は、天神会最強の守護天使、イタチのカムドに対してであった。
「殲魂の携帯許可は、やはりまかりならん!」
「そうだ。それも、あれは完全な事後承諾……勝手に禁忌を破って封印の間に侵入するとは……本来であれば完全なる謀反であるぞ!」
「しかし……アズマの命令権の半分以上をフェンリルに取られた今、こちらとしても切り札が必要なのも確かだ」
「何を言う! 今度は殲魂すらフェンリルの奴らに奪われる可能性だってあるのだぞ!」
「いや、殲魂を扱えるのは今のところカムドだけ。あれは扱いを誤れば大惨事につながる代物。しかも、その悪しき波動の位置は常に我々が捕捉しておる。いかにフェンリルといえど、それを奪ってシラを切り通すことは不可能だ」
「そういう問題ではない。あのカムドという男自体、この任務にはふさわしくないと言っているのだ!」
「あの時はあまりの緊急事態ゆえ、奴の提言を認めてしまったが……そうだ。そもそも、アズマ奪還任務には他の人物を当てようとしていた……。あの男はそれを覆すために、今回、殲魂の封印を暴くなどという暴挙を起こしたのではないか!?」
「良いのではないかぇ」
荒れている議論の場に、突如、女性の声が響き渡った。
しわがれた老女の声だが、不思議と空間中に染みわたるように、それは響き渡り、その場にいた神官全員の耳に確実に入ってきた。
全員、大きなすだれのかかった、一段高い奥の座を見上げる。すだれのせいで姿を確認することはできないが、その声は確実にそこから発せられていた。
「お、大婆様!」
「し、しかし……奴は、何をしでかすかわからぬ天神会きっての危険人物です! あのような者が殲魂を手にすれば……あの、『鮮血のカンディード』の二の舞にならぬとも!!」
「そうだ……こんどこそあやつを止められるものはいなくなるぞ!」
「かの有名な覇王武蔵殿の力を持ってしても、抑えられるかどうか……」
「いや、外部の力に頼るわけには行かぬ! 我々だけで抑えなければ」
「だから、あのような者をそもそも本殿に入れてはならなかったのだ!」
「天神武道会で優勝したからといって、奴に武人の地位を与えてしまったのが間違いだった!」
「あのまま、罪人のまま、奴隷のように何も教えぬまま傀儡のように使役していればよかったのだ」
「静まれ!」
騒ぎ立てる神官たちを、大婆と呼ばれた老女はぴしゃりと叱りつけた。
「リンよ」
大婆は、一人の巫女の名を呼んだ。それに呼応して、部屋の隅に控えていた少女が、大婆様の前に出て、頭を垂れる。
「はっ」
「命を下す。カムドとアズマを監視せよ。特に、カムドが何らかの謀反を起こす可能性を考慮し、その言動を逐次報告せよ」
「御意。心得ました」
少女は、すぐさま部屋を退出していった。
「大婆様! 監視だけではあまりに不足かと! カムドから殲魂を取り上げるべきです!」
「わらわは……カムドのいう、あの提案にかけてみたい」
「フェンリルに入隊し……内から組織を破壊するという、あれにございますか! とても無理です! あのような力だけの無能に、そのような知略ができるはずが……!」
「本当にそう思うか?」
大婆は、問いかけとともに、鋭い視線を神官たちに投げかけた。すだれに遮られて、眼光自体は見えないが、神官たちはそれに射すくめられたかのように、ただならぬ緊張感に身をこわばらせた。
その神官たちの様子に構わず、大婆は言葉を続ける。
「だとするなら、おぬしらの目は曇っていると言わざるをえんのぅ…」
「大婆様!」
「元はといえば、アズマがきゃつらに取られてしまったのも、お主ら神官どもの隠し事が原因……」
急所を突かれたかのようなショックを受け、神官たちに明らかな動揺が走った。そのうちの一人が思わず声を上げる。
「い、いくら貴女といえども……お言葉が過ぎますぞ! 私どもは天界の行く末を守るために……!」
「そうまでして暴かれたくない何か……わらわにもだいたいの見当はついておる」
そこまでの言葉を聞き、神官たちは皆黙りこんでしまった。意見を言いたいものも居るようだが、さらにやり込められはしないかと、声をあげようにも上げられずにいるらしい。
場が静まり、事は決まった。大婆は宣言する。
「カムドに任せよ。これは天命である」
「大婆……様!」
「聞こえなかったか? これは、天命である」
「は、ははぁっ!!」
頭を垂れる神官たち。たとえ天神会の組織のトップに居る神官たちでも、この大婆の命には逆らえなかった。少なくとも、今は……。
評議会を閉会し、場に一人になると、大婆はしわがれた自分の手の甲を見つめ、感触を確かめるように撫でた。かつての美貌は遠い過去へ置き去られ、今はただ老いゆくのみ。
だが、彼女の判断力と明晰さは、まだ衰える気配がない。
確信を持って、彼女はひとりつぶやいた。
「いずれ……全てが明らかになるじゃろうて……」
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エマ
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2014-06-02 14:54:00
No.2354
「報告は以上です」
「そうか……」
机の上で手を組み、何かを思案している男……。特務機関フェンリルの司令ロイ。暗い照明のためか、その鼻筋から上の顔の部分は完全な陰になり、表情の色はうかがえない。
しかし、何かを訝しんでいることは、彼が信頼をおいている優秀な秘書には十分感じ取ることができた。
「ゾルゲのことでしょうか?」
「ああ……。メティファ君。君はどう思うかね? 彼の戦死の理由……。あの男……イタチのカムドによるものだと思うかね?」
メティファと呼ばれた、落ち着いた雰囲気のスーツに身を包み、その美貌を眼鏡で抑えた感のある女性秘書官は、ロイの問いかけに静かに答えた。
「現場に残された遺留品だけでは、判断できるだけのデータが足りません。ですから、これはあくまで私見となるのですが、その可能性はほぼ、5分と5分。確率としては、ご満足いただける意見ではありませんが……」
「ほう、君らしくない……曖昧な答えだ。その理由は?」
「現場に残された彼の遺留品ですが、調べたところ、指紋など、カムドの痕跡は一切付着していませんでした。ですが、奇妙な点が」
「奇妙?」
「遺留品の配置です。誰かから銃撃を受けたのが彼の直接の死因ですが、遺留品の一部ならまだしも、全てが彼の衣服のポケットなどから外れ、床に、散らばるのではなく、『配置』されていました」
「どのような配置かね?」
「フェンリル……伝説の魔狼を模した絵です。ゾルゲが持っていた小型の遺留品と、銃弾によってその形に並べられていました」
しばらくの沈黙がおきた。
「呪詛悪魔どもは、我々の組織の由来を知らんだろう。するとそれは、フェンリルの隊員の誰かがやったことになる。奴の可能性は高いと推測するのが通常の推測だが……」
「はい。ですが、彼がやったとして、なぜわざわざ自分に疑いが向くようなサインを残すのかが疑問です」
「奴は銃のような飛び道具の使用を、天神会製の封冠の機能によって禁じられていると聞く。しかし、ソルゲは銃弾によって倒れている」
「はい、ですから。彼以外の誰かによるフェイクという可能性も完全には否定できません」
「……君は、ゾルゲがあの男に殺されたと仮定して……いや、そうでなかったとしても、その混乱に乗じて、ゾルゲが持つ情報をあの男に盗まれた可能性はあると思うかね?」
「ゾルゲが持っていた封冠、及びPDAのデータには、384ビット長のFES暗号化が施されています。認証もゾルゲ自身の脳波パターンで照合しなければパスしません」
FES(Fenrir Encryption Standard)暗号とは、フェンリルが独自に開発した暗号のアルゴリズムである。米国が開発したAES共通鍵暗号以上の強度を持つ、人間界の技術と比べても優位性のある暗号方式だ。米国(というかNSAやCIA)は数十年前から、他国の情報を盗むために、米国が普及させようとする暗号化方式に技術的なバックドア(簡単に解読できる裏口)を仕掛けていたことで知られている。米国の暗号技術を採用した国々から、情報を盗聴するためだ。
そこで、フェンリルは安全を重視して、人間界の暗号方式を採用せずに、独自に暗号技術を開発したのだ。この技術は封冠の暗号通信などにも使われている。
「暗号鍵を使わないコンピューター解析によるデータ復元には、フェンリルのスーパーコンピューター『ユグドラシル』を用いても約200兆年かかります。カムドがゾルゲの端末からデジタル情報を抜き取ることは絶対に不可能です」
「デジタル情報は……な」
ロイが目を細める。
「だが、当時の前後の状況と死ぬ前のゾルゲの振る舞いから、アナログな情報を感知することはできる。仮説を立て、それに照らしあわせて消去法で、雑多な他の可能性を潰していき、答えを絞っていけばいい」
「カムドは一度、彼の遺留品の封冠・PDAに、痕跡が残らない何らかの方法でアクセスを試みて失敗し、その事実を紛らわせるために、あのような遺留品の『配置』を行った可能性も考えられます」
「……ゾルゲは優秀な男だったが、その優秀さ故に我々の計画の一端も任せていた。彼から情報があの男にその一部でも漏れたとすれば、当然天神会にもそれが伝わることになる」
通常、ある人物に特定の任務を任せるには、その特定の任務以外のことは一切知らせない・教えないのが理想だ。その任務で失敗し、拷問を受けるなどして、他の機密情報を漏らされたら組織にとって大きな痛手だからだ。
しかし、カムドとアズマという『異物』を隊員として受け入れるからには、相応の監視役も必要だった。少数精鋭主義のフェンリルでは、それだけの専門の人員を確保することは困難だった。そこで、カムド・アズマとともに戦えるだけの戦闘力を持ち、監視・諜報の高い技術の双方を持ち合わせていた、腹心のゾルゲに任せたのだ。それが、今となって仇となった可能性が出てきた。
まさか、いくら天神会の問題児といえども、同じ守護天使を殺害するとは、ロイもメティファもまさか思いもしない。いや、まだそうと断定できたわけではないのだが……。
「ゾルゲの遺体を調べたところ、直接の死因以外に、特に拷問などを受けた形跡は見られません」
「天神会の反応を見るしかないな。奴らへの情報入手経路の模索は引き続き続けてくれたまえ」
「はい」
「さしあたっての問題は、あのカムドの処分だな……」
「それについては、実際にゾルゲを殺したかどうかの事実に関係なく、彼の恣意的な意図があるように感じます。司令もお気づきとは思いますが……」
「うむ」
この優秀な秘書は、再び自らの推測を述べた。そして、彼女の言葉通り、それは司令ロイも薄々察しがついていたことだったが、改めて確認するために、メティファに先を促す。わかっていることでも、口に出すことで新たなヒントが見つかることもある。それに、自分とメティファの認識が完璧に同じとも限らない。
「仮に下手人が彼でなかったとしても、チームのリーダーとして疑いが自分に向くことは確実ですし、その対策としての工作を行った可能性は高いかと」
ロイも、呼応するように自身の推測を口にする。
「事を焦って、奴を処分すれば、それは例の情報の存在を暗に認めたことになる。そして、全くの不問に付せば、それも奴の増長を許すことにつながり、さらにはゾルゲの情報もある程度調べられてしまうだろう。どちらにしても、奴に情報を与えてしまう結果だ」
「訓戒、短期間の職務停止といった、半端な処分もまた、彼の思う壺だと推察いたします。そのような中庸な判断は、『どちらの情報』も我々が彼に渡したくない、『真実の情報』であるという情報を、また彼に与えてしまうことにほかなりません」
「謀殺の疑いをある程度残し、しかしその証拠は決して残さない……。我々すら、その嫌疑に確証が持てないほどにな。そうすることが、あの男にとっておそらく一番有利なやり方というわけだ」
「はい。おそらく、我々が彼の監視を始めて、初めてのことになるかと思います」
「我々ではなく、今度は奴が我々を試している……か」
イグアナのロイは、大きく息を吐いた。メティファとロイの推測は一致していた。そして、それぞれ別の意味で怜悧な二人の推測が一致しているということは、それは限りなく事実に近いものだということも、今までの経験上、わかっていたことだった。
「あの男……我々はやや過小評価していたようだな。メティファ君」
「申し訳ございません。できる限りのデータを集めましたが、事前の身辺捜査、素行調査では、彼のここまでのことは予期できませんでした」
「いや、君の落ち度ではない。そもそもそのようなデータだけで分かることは限られているものだ。むしろ、私の中に、あの男の『前評判』を聞いての侮りの心があった。たかが、あの天神会……その中の爪弾き者、戦闘力だけが突出した荒くれ者の問題児に何ができる、とな。あの『殲魂』という邪剣による破壊力が手に入るのなら、たかがその程度の男は獅子身中の虫にすらならぬと高をくくっていた。それが……」
「はい。まさか、あのような老獪な男だったとは」
イタチのカムド。メティファが調べた情報によれば、この十年ほど天界の表舞台には姿を表しておらず、ずっと地下で呪詛悪魔たちとの戦いに明け暮れていたという。天神会は、死んだ動物たちの魂を集め、守護天使に転生させるための『輪廻転生システム』の運用を司っている。この『輪廻転生システム』はいわば、守護天使達の発生源であり、呪詛悪魔たちにとっては是が非でも破壊したい対象である。大昔から、この輪廻転生システムを狙って呪詛悪魔たちが常に侵攻を繰り返してきており、武人と呼ばれる天神会の守護天使たちが迎撃にあたってきた。
カムドは、その最前線でずっと戦っていたらしい。逆に言えば、直接的な戦闘経験しか積んでおらず、今回のような知略をめぐらせるような資質を養う土壌などないはずであった。メティファの情報は間違いだったのだろうか? いや、あるいは、別の何らかの要因が……。
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エマ
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2014-06-02 14:55:00
No.2354
「メティファ君」
「はい」
「あの男は、本件については不問に付すことにする」
「よろしいのですか?」
「ああ……。この決定で向こうに知れる情報は、君も知っての通り、我々の持つ中でも比較的プライオリティの低い物だ。おそらく、この情報が『損切り』である(他の情報ほど重要な価値は持たない)という情報自体も奴に知れ、それ以外の我々の機密に関する危険性が増すことになろうが、我々の『計画』に関する機密を今知られるよりは、まだずっとましというものだ」
「わかりました。そのように通告いたします」
「実に面白くない……」
イグアナのロイは、憮然とした表情で、彼としては非常に珍しい苛立ちの言葉を口にした。
ふと、机に積まれた書類に目をやる。一番上にある報告書には、今回、カムドたちのチームが担当した作戦名が書かれている。
「ところで、例の検証結果は出たのかね? もちろん、戦闘の結果自体はだいたい報告を受けたが……」
「はい。今回の作戦で、敵呪詛悪魔組織は完全に壊滅。全ての構成員を殺害しました。その内訳ですが、カムドによる消去は11名。ゾルゲによる消去は3名。アズマによる消去は……」
一呼吸おいて、メティファは言葉を続けた。
「211名です。ほぼ、敵のアジトの中で、カムドたちを待ち構えていた構成員たちです」
ロイは、それまで不機嫌そうだった顔を、不意にゆるめた。
「『霊爆』か……彼女に目をつけたきっかけも、それだったな。雀のチープサイドがもたらした情報。あの時は瑣末な出来事だと思っていたが……」
『霊爆』とは、イタチのアズマが持つ最強の攻撃魔法である。自身が秘める膨大な霊力を対象に一気に炸裂させ、大爆発を引き起こす。その爆発力は半端なものではなく、人間はおろか、建造物すら破壊可能と言われる。イグアナのロイが策を弄して、アズマを強制的にフェンリルに入隊させたのも、その『霊爆』の圧倒的な破壊力に目をつけたからだった。
「はい。白鳥のセリーナ、蠍のクリムゾンらによる特訓の成果でしょうが、私のシミュレーションでもこれほどのパフォーマンスを出すとは想定外でした。」
「『パフォーマンス』という言葉すら生ぬるい。我々があれだけ手こずった、あの呪詛悪魔グループの本拠地が、たった十数分の作戦で、一気にまるごと消し飛んだのだぞ。中の呪詛悪魔どもごと、文字通りにな」
「はい。セリーナによれば、あの『霊爆』には威力によって名前が付けられているようで、今回の規模は「ブロックバスター」と呼ぶそうです」
「ふむ……たしかに、的を得た表現だ」
ブロックバスター。第2次世界大戦中、イギリス空軍が使用した4000〜12000ポンド級の大型爆弾の異名がその原語である。一発で、街の一ブロック分が消し飛ぶことから、その名がついた。
「『ユグドラシル』の計算結果は?」
「はい。あれをもってしても、かなりの計算量で、3日ほどシミュレーションに時間を要しましたが、結果はすでに出ております。こちらにまとめておりますので、ご確認を」
「うむ……」
書類を読み込んでいくうちに、次第に司令の肩が小刻みに震えだしたことに、メティファは気がついた。それが何を意味しているか、おそらく推測はついたが、あえてそれについて考えることはしなかった。
「メティファ君。すまないが、しばらく外していてくれたまえ」
「かしこまりました。司令、1つだけよろしいでしょうか?」
「なんだね?」
「『後任』は、彼でよろしいのでしょうか?」
「ふむ。適任だと思うが……不満かね?」
「いえ。では、そのようにいたします」
メティファが去った後、ロイは震わせていた肩をようやく落ち着かせると、こんどは陰惨な笑みを浮かべ始めた。メティファが去るまで、抑え込んでいたのだろう。いずれにしろ、ここまで彼が表情を変えることは滅多にあることではない。
彼は、歓喜していた。
スーパーコンピューターが弾き出した、このおそるべき結果に。
この極秘分析資料には、こうあった。
『イタチのアズマの体内に内在する全霊力のエネルギー換算値は、概算で約105兆4000億ジュール。ヒロシマ型原爆の約1.92倍に相当。戦術核弾頭級の破壊力を有することが判明』
資料はこう続く。
『S級指定呪詛悪魔組織『クエイク』の本拠地。シミュレーションの結果、完全壊滅。『ハスタール』、『グレンデル』及び『テオデトール』の呪詛悪魔グループ3連合の共同大本拠地。完全壊滅。本拠地から約8キロ離れた各分拠点も、爆風により85%以上が全壊。残り15%が半壊。実質的に、全てのS級指定呪詛悪魔組織のケースで、一回の霊爆で彼らの活動を完全に壊滅させることが可能』
ロイの文字を追う速度が速まっていく。
『世界各地で発火させた場合の損害シミュレーション。東京:全23区の90%が壊滅。首都機能は完全麻痺。推定死者数800万人。ニューヨーク……』
そして、最後の一枚の紙にかかれていた場所は……。
「ク、クク……」
陰惨な笑い。ロイは、その最後の紙を一枚づつちぎり、机にその切れ端を並べ始めた。
「白鷺のサキ、蠍のクリムゾン、燕のマーク……」
フェンリルが誇る、組織を代表する有能なメンバーたち……。
「ヘビのガスト、闇のロード、ライオンのカイル……」
幹部クラスに、突出した力を持つ外部戦力……。
「だいぶ苦労して集めた、有力な駒だと思っていたが……」
机の上に並べた、切れ端の数々……。それを、上から冷たく見下ろすように、ロイは俯瞰した。
「もはや、こいつらには一片の価値すら感じない私がいる」
彼らに見立てた、紙の切れ端を、1つずつ掴み上げると、指先から黒い炎がメラメラと燃え上がり、対象を無慈悲に焼いていく。
「いらん。こいつもいらん……」
次々に焼かれ、消えていく『駒』たち。ロイの持つ特別な『黒い炎』の力によるものか、灰すら残さずに、紙切れが完全消滅していく。
「私は今、またとない『兵器』を手にした。メティファですら予測できなかったとんだ計算違いだが、そのような間違いなら喜んで許そう」
最後の、白鷺のサキに見立てた紙切れが、炎にまみれて消えていく。
「あの小娘の力……天神会が持て余すのもうなづける」
ふと、ちぎり残った紙の下の方に、まだ読んでいない文章が残っていた。術者のアズマに関する留意事項だった。
『この全霊力を一気に放出した場合、術者であるイタチのアズマの肉体が耐えきれる可能性は低い』
「そのようなこと、それこそ瑣末なことだ」
その留意事項が書かれた紙も、黒き炎にくるまれ、焼かれて消えていく。
「この私が、役立たずの天神会に代わって、その稀代の巫女とやらを大いに活用してやろうと言っているのだよ」
ロイの口元が、不気味に歪む。
「我が宿望を果たす……鍵としてな」
彼の口から漏れる、陰惨な笑いは、しばらく止むことがなく、一人だけの司令室にこだまし続けた。
「……ククク……ククククク……」
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エマ
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2014-06-02 14:55:00
No.2354
特務機関フェンリルの本部『天界裁判所第二調査部』が存在する役所の世界。その建物から一人の男が現れた。
イタチのカムドである。彼は長い取り調べからようやく開放され、帰宅の路につこうとしていた。
その途中で封冠に連絡が入り、彼は役所の世界にあるイリノアの病院へと戻る。
アズマが無事、退院となったのだ。
ここまで、すべてカムドの想定通りだった。彼は自身の直感と計算の精度に、今回も確信を深めていたが、
先の戦闘任務の事件で離れ離れとなってから、数日ぶりの再会にもかかわらず、妹の表情がほとんど変化を見せなかったことも予想通りだったことについては、いささか複雑な心境だったようだ。
「兄さま……どうかなさいましたか?」
「なんでもない。それより、アズマ」
「はい」
「死んだゾルゲに変わって、新しい三人目のメンバーが加わるそうだ」
「……今度は、どのような方でしょうか?」
「まだ会っていないのでなんともいえんが、『アヴァロン』という名前の男らしい」
「アヴァロン……さま」
「ご大層な名前だ。あの低能のゾルゲより、もうちっと使えるやつならいいんだが……」
念の為に言えば、前述のとおり、ゾルゲはフェンリルの中でもロイの腹心、諜報部員としてかなり熟練したエキスパート中のエキスパートであった。他のフェンリル隊員が聞いたら、それを低能呼ばわりするカムドの基準というか神経に仰天したであろう。
「そう、あとひとつ。俺たちのチームの正式名称が決まったぞ。大婆様の提案だ。たまには奴もマシな事を言う」
「まぁ……なんでしょうか? 兄さま」
「よく覚えておけ、アズマ。この名が意味することを。俺とお前で、それを体現するのだ。俺達の正式チーム名、それは……」
息を溜め、力を込めて、カムドはその名を口にした。
「『神風』だ」
運命の風が、二人の居る場を駆け抜けていく。
それは天まで昇り、乱気流となって天界全土に広がっていった。
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エマ
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2014-06-02 15:05:00
No.2354
いやー、ついに投稿完了しました。
いかがでしたでしょうか。アズマがいろいろな意味で、物語そしてフェンリル・ロイの野望のキーとなる存在であることがお分かりになったかと思います。
あくまでこれ、私の作品サバイヴ・アワー・ブラッドの中での話です。
ダイダロスさんの死の先本編とは一切関係ありません。
ダイダロスさんの死の先本編でも、ロイが良からぬ企みをしているようですが……。私のサバイヴ・アワー・ブラッドは、「そのロイの企みがもし×××な方向に進んだら?」という、一種のパラレルワールド的な位置づけになります。
サバイヴ・アワー・ブラッド本編は、今年中に第一話リリース予定です(←はいそこ、信じてないね?w)
今後ともウチのカムド、アズマ、アヴァロンとリンをよろしくお願いします♪
さてさて、ここから、今回のお話出てきた設定の詳細情報になります。
気になる方は、ご参照あれ。
■アズマの魔法『霊爆』について
・霊爆レベル1(通称:グレネード)
軍用グレネード弾の炸裂と同程度の爆発を生じさせる。
5秒に1回程度の頻度で連発が可能だが、あまり続けると体の負担が大きくなる。
・霊爆レベル2(通称:ビルディングデストロイア)
建造物(欧米の一般的な一戸建て住宅など)を木っ端微塵に破壊する規模の爆発を生じさせる。
基礎部分を狙うことで、小規模のビルも破壊・倒壊させることが可能。
使用すると、アズマは数秒間虚脱状態になる。連発は体への負担が大きいため、30分程度の休憩が必要。
・霊爆レベル3(通称:ブロックバスター)
街の一ブロック(日本ではなく、アメリカでの一般的な1ブロック)分の地域を壊滅させるほどの大爆発を生じさせる。
大抵の呪詛悪魔のアジトであれば、この一撃だけで文字通りに壊滅させることが可能。
しかし、あまりに体への負担が大きいため、通常、作戦で使えるのは一度きり。使用後は意識が朦朧とし、気を失うことも多い。
・霊爆レベル4(通称:ニュークリア)
小規模の都市なら全体を壊滅。大規模な都市でも中心部を破壊・周辺部の都市機能を完全に麻痺させるほどの、核爆発級の超爆発を生じさせる。
まぎれもなく、一人の守護天使が使える技としては天界最大・最強の技である。しかし、アズマの体はおそらく耐え切れずに、死に至ると推測されるため、実際に作戦中で使われることはない。
■大婆様
天神会で神官達以上の権限を持つ唯一の女性。その正体は、数万年前、天界の創設に関わった初代メガミ達の最後の生き残りである。
数万年の年月を生きており、その経験と知恵は今でも天界のメガミ様、メシア様たちの精神的な拠り所となっている。
容姿は数万年を生きただけあり、今は年老いた老婆の姿であるが、天界創設時の若りし頃は相当の美人だったとの噂。
天神会では大きな権限を持つが、神官達は意見の相違からこの大婆様をあまり良く思っていないらしい。
昔から巫女たちの権利を守ろうと尽力してきたため、巫女達から絶大な信頼を寄せられている。
近年、そろそろ寿命が近いと噂されている。
■スーパーコンピューター『ユグドラシル』
フェンリル本部の地下に設置されている、天界でも有数の処理能力を誇るスーパーコンピューター。
戦略立案とその結果シミュレーション、訓練場「アビス」での隊員の訓練データーの解析、暗号解読など、あらゆるタスクをこなす。
また、メティファと並んで、フェンリルにおける大量の機密データを保持している存在でもあり、そのセキュリティには常に万全の体制が敷かれている。
ユグドラシルを直接利用できるのは、司令のロイとメティファの2名だけに限られており、大隊長または参謀クラス(例えば白鳥のセリーナ)以上の隊員は、メティファの許可を通してのみ、利用することができる(利用中は常に監視されている)。それ未満のクラスの隊員は利用どころかデータの閲覧すら許されていない。
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Dr.イリノア診察室【アズマ編】「我知らぬ巫女」(3)
エマ
/
2014-05-24 19:46:00
No.2344
「カムド……!」
「……何をそんなにビビっている? 俺が何かするとでも思ったか?」
「い、いや……その……い、いつからそこに?」
「ちょうど、『いいかい。君は、利用されているんだ!』のあたりからだ」
イリノアは、思わずため息を付いた。
「人が悪いな。許可もとらずに入ってくるなんて」
「妹がどこぞのよく知らん医者に調べられると聞いたからな。無視するわけにはいかん」
カムドが、ふいに近づいてきた。
おもわず、後ずさりする。
「どうした。俺が恐いか?」
「あ、い、いや……」
ちらりと、カムドの腰に目をやる。悪夢で自分の命を絶った殲魂は、無かった。
「心配するな。武器は置いてきた。少なくとも天界で荒事をするつもりはない」
「そ、そうか……」
「もっとも、俺を裏切る人間がいれば、話は別だがな」
さらに、カムドが距離を詰めてくる。
あとずさるが、背中が壁に阻まれて、すぐに押し寄られてしまった。悪夢と同じ構図で、嫌な気分だ。
「一つ質問だが。お前はフェンリルの顧問精神科医だそうだが、お前に独立性は……場合によっては、フェンリルの要求をはねのける権限はあるんだろうな?」
「ああ、もちろんだ。たしかに私は、フェンリルから仕事を請け負っているが。無茶だと思った仕事は拒否できる権利がある。ロイ司令とは、そういう契約をしたからね。」
「お前の作る封冠だが、天神会やフェンリルの要請で、妙なまがい物の機能を仕込むことはないだろうな?」
「そんなことはしない! それは……私の精神科医・封冠技師としてプライドにかけて誓う」
「そうか……」
「信じてくれるのかい?」
「俺の目は節穴じゃない。お前が嘘を付いているかどうかは、まず目を見れば分かる」
そういいつつ、カムドが、懐に手を入れるので、イリノアは背筋が寒くなった。が、取り出したのは武器ではなく、小さなメモリーチップだった。
「このデータをあんたに預けたい」
「これは……何かな?」
「俺と天神会が調べた、アズマの全データだ」
「それを……どうして僕に……」
「天神会の医者どもより、あんたの方が信用できそうだからだ」
カムドの手から、恐る恐るメモリーチップを受け取る。10円玉ほどの大きさの、小さなチップだった。無くさないよう、イリノアは手持ちの透明な袋に入れ、胸ポケットに慎重にしまいこんだ。
「アズマの精神的特徴、問題点、今までにわかっている全てを書き記している。アズマの診察に役立ててくれ」
「あ、ああ……それは、ありがたいが……」
「さて、場所を変えようか」
「場所って、ここ以外、どこに?」
「どこでもいい。役所の世界から離れた場所だ」
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エマ
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2014-05-24 19:47:00
No.2344
ここは緩衝地帯。めいどの世界、しつじの世界、役所の世界、娯楽の世界のいずれにも属さない場所。
自然が一番多く残っており、ある意味、娯楽の世界以上に、リラックスするには最適な場所だった。
緩衝地帯の中心部。大きな巨木の下に、イリノアとカムドは移動する。
先程から、妙な匂いがしていた。ふと、カムドの懐を見ると、なにやら細長い筒のようなものから、わずかに鼻を突く臭いがする。
常人には感知できない、極僅かな……だが、感覚の鋭敏な夢魔であり、また医師であるイリノアだからこそ、知覚できた臭い。
イリノアには、その成分に覚えがあった。まさか……こんなものを持っているということは、この男……。
その成分……間違いない。『ヘルアンドヘル』だ。
人間界で、欧州を中心に流通しているという、超がつくほどの高級合成麻薬で、『ヘブンオアヘル』というドラッグがある。文字通り、天国に昇るかのような快楽を得られる代わりに、体への負担があまりにも強く、下手な摂取の仕方をすると簡単に死に至ると言われている。それだけ危険なシロモノなのに高い値がつくのは、その得られる快楽が、並みのドラッグとは比較にならないほど強いからだという。しかしその代償として依存性もことのほか強く、その危険性はラグリアという国で作られた『魔薬』と呼ばれるドラッグに匹敵すると言われている。
その危険な代物『ヘブンオアヘル』だが、その生成の過程で、ある余剰物が生まれるという。まるで、重油からガソリンを精製した後で残るゴミのようなもの……。それが、『ヘルアンドヘル』だ。
これは、その名から想像がつくように、正確にはもはやドラッグですらない。青酸カリの数百倍の毒性を持つという、超がつくほどの毒物だ。しかし、色や香りが似ていることから、「ヘブンオアヘル」と偽って販売され、購入して使用した人間が即死するケースが後を絶たない。
こんなものを一体、なぜこの男は持っているのだろう。イリノアはふと思った。話に聞いた限りだが、相当激しい戦いの世界に身をおいているというこの男。もしかしたら、窮地に陥った際の、自決用の毒として使うつもりなのかもしれない。戦士として、それだけの覚悟を持っているということか。
しかし、その推測はすぐさま打ち破られる。
カムドの手が、そのヘルアンドヘルの詰まった小さな筒に伸び、それを指でつまむと、この男はこともあろうに口にくわえたのだ。
「なっ!」
次に、ポケットの中から、何やら粉のようなものをつまみ上げ、親指と人差し指で瞬時にこすると、その指の間からメラメラと炎が燃え上がった。その炎はヘルアンドヘルの筒に燃え移る。
疑いようがない。この男は、ヘルアンドヘルを吸引したのだ。まるでタバコのように。
「や、やめなさい! 死ぬ気か!」
カムドは、何事もないように、片腕を上げ、イリノアを制止した。
「おいおい、気をつけろ。これ以上近づくと煙を吸ってお前が死ぬぞ? たとえ夢魔でもな」
「あ……」
すぅ〜〜〜〜っとヘルアンドヘルの煙を吸い込み、一呼吸おいて、ぷはぁ〜〜〜っと、カムドは、イリノアにそれがかからぬよう、脇を向いて煙を吐き出した。
平気なのか? この男は……青酸カリの数百倍の毒だぞ?
いや、なにより、この吐き出された煙でここら一体の大気が汚染され……いや、まて。距離の3乗で薄まるから、たとえヘルアンドヘルの毒性でも、一応は大丈夫か。ここらへんには、私とこの男の二人しかいないし。
そんな思考がめまぐるしく頭を駆け巡り、イリノアは混乱しながらも呼吸を静かに整えた。
「だ、大丈夫なのか? そんなものを吸って……」
「ああ、これは常人には毒だがな。わけあって、俺の場合は滋養のために吸ってるんだ」
滋養? 一体、何を言っているんだこいつは!?
イリノアはわけが分からなかった。あの悪夢といい、ヘルアンドヘルといい、この男メチャクチャだ。
混乱する頭をぶんぶん振って、なんとか気持ちを落ち着かせる。
この男の不可解さはさておき、話さなければならない本題が残っている。
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エマ
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2014-05-24 19:50:00
No.2344
「で、聞いていいかな。君の狙いは何なんだ?」
「アズマに、感情と自意識を取り戻させてやりたい」
「この2つがなきゃあ、確かに心は無いも同然だ。そして、これらが取り戻せたら……あいつを天神会のコントロールから解放できるきっかけになるかもしれん」
気になることを、この男は言った。天神会のコントロール。噂には聞いていたが、やはり彼女はフェンリルだけでなく、本来の所属組織である天神会の中でも自由に動けない存在なのか……。
「どうだ? できそうか?」
「調べてみないことにはね。まだなんとも言えない。だが……私が見たところ」
一呼吸おいて、イリノアは続けた。
「感情もない、自意識もない、しかし……好奇心はあるようだった」
「ああ、それに、あいつは興奮することもある」
「興奮?」
「クリムという女に、訓練の一環で傷めつけられたときのことだ。一度、興奮状態になったらしい」
イリノアは驚いた。常に無感動・無反応というイメージを持っていたが、これは意外なだけでなく、彼女の秘密を解く上で非常に重大な情報だ。
「本当かい!? それはきっと、怒りとはまた違うのだろうね。おそらく、動物的な……生理的な興奮状態か……なら、感情の種のようなものは完全には奪われていないと思う。おそらく……」
カムドは、そんな様子を見てふっと笑った。
「どうだ? 俺の妹は、お前から見てもまたとない研究対象だろう?」
見透かされてしまった。
「あ、い、いや……私はけっして……!」
「別に構わん。いずれにしても、アズマの心の謎を解明してくれれば、それでいい」
カムドは、ヘルアンドヘルという『死のタバコ』をまた深く吸い込むと、プハァ〜っと真横へ煙を吐き出し、話題を次に進める。
「ああそうだ。お前、アズマの天神会の封冠をベースに、あれを改造するんだろう? 天神会の封冠のデータを、俺に提供することはできるか?」
「守秘義務があって、それはできないね」
「そうか……」
「力づくで要求されても困るから、これだけは言っておくよ。天神会の封冠の機能は完全にブラックボックスになっていた。そこに私が機能を付け加えることはできるが、中身を確認することはできない。どんな機能が入っているかは知らないが、まったく、私から見ても、よく出来た代物だよ。」
「どんな機能か? 話は簡単だ。アズマを『支配』する機能が入っているんだ」
「なんだって?」
「我々天神会には、『天命』という概念がある。『天から与えられた命』、それを受けたものは、万難を排してでもそれを達成する絶対の義務が生ずる」
「天命……」
初めて聞いた概念だった。守護天使の本分は主人に尽くすことだが、フェンリルや天神会に所属する守護天使は、何らかの事情により、主人との共同生活が叶わなくなった者たちだ。だが、本来の役目を失ったからといって、代わりに与えられるものが、そんな絶対的な忠誠とは……。
「だが、それを受けるのはもちろん、人の心を持った守護天使。自ずと、その遂行能力には限界がある。そこで、天神会が開発したのが、封冠による『天命』の絶対遂行機能だ。早い話が、自分の意志では天命に絶対に逆らえなくなる」
「そんなものが……。アズマの封冠にも?」
「ああ、そうだ。一度『天命』が働いたら、俺でも止めることはできん。俺の命令すら拒絶される始末でな」
死のタバコが短くなると、カムドは先端の火をつまんで消し、その場に捨てるのではなく、懐からシガレットケースを取り出し、その中にしまいこんだ。意外とマナー意識があるのか……いや、単にヘルアンドヘルという危険物を他人に拾われないようにするためかもしれない。
一服を終え、カムドは首を斜めに曲げてゴキゴキ鳴らすと、リラックスした様子で大きく息を吐き、話を続けた。
「おそらく、フェンリルがお前にやらせようとしていることは、その『天命遂行』機能にアクセスすることだ」
「まさか……」
「そうだ。フェンリルから来た要件定義書をよく読んでみろ。おそらく、フェンリルからの命令を天神会製のブラックボックスに入力して、『天命』として変換させるモンじゃないか? つまり、フェンリルからの命令も、アズマにとっての『天命』の扱いにさせるつもりだ」
イリノアは、この男の洞察力に驚くのと同時に、一番詳しい情報を手に入れておきながら、ロイの意図に気づくのがこの男より遅れたことを内心で恥じた。要件定義書のボリュームは確かに膨大だったが、その隠れた奥の意図にもっと早く気づくべきだった。他の仕事に忙殺され、資料の全てに目を通せなかったこともあるが、今やそれは言い訳にはならない。
「で、俺はそれを止めに来た、というわけだ」
「そうか……そうだったのか……」
「お前、自分のことをプロといったな」
「ああ」
「どうする? イリノア先生」
カムドの鋭い眼光が、イリノアを睨む。明らかなテストだった。返答次第でどうなるかわかったものではないが、しかし答えは自ずと決まっている。
「断るよ。そんな残酷なもの……私は作る気はない。別に、君のことを恐れて、とかじゃない。あの子にはあまりに酷すぎる運命だ」
「その決断については、礼を言おう。だが、お前がやらなくても、いずれ誰かがやるだろうな。天神会にも封冠技師は居る」
「いや、だが……天神会はフェンリルと敵対しているのだろう?」
「天神会は、フェンリルに何らかの弱みを握られている。はっきり言って、今は人質を取られて言いなり状態だ」
「そうなのか……」
「まぁ、封冠が改造され、フェンリルの命令が『天命』扱いになったとしても、まだ望みはある」
シガレットケースを懐にしまい込み、カムドは言葉を続ける。
「天神会が開発した部分、『天命遂行』の機能を解析すればいいんだ。そして、その機能を、アズマの精神に悪影響が出ないように、安全に解除する方法を見つけ出す」
「そうか……そうだな。確かに、それしか方法はないだろう」
「どうだ。できそうか?」
しばらく、思案するイリノア。難易度は高い。これがロイに知れたら……という懸念もある。だが、思案しながらも結論はすでに収束に向かっていた。
「あのブラックボックス……機能の隠蔽の技術はかなり手の込んだものだが……私の力で、やってできなくはないと思う。少し時間をくれないか」
その言葉を聞いたカムドの口元が、わずかに緩んだように見えた。彼は静かに大きくうなずくと、組んだ腕を解いて礼を述べた。
「いいとも。協力感謝する」
「はは……」
「何がおかしい?」
「いや……なんでもないよ」
まさか、夢のなかで自分を殺した人間に、感謝されるとは思わなかった。
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エマ
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2014-05-24 19:51:00
No.2344
「ふう……」
カムドと別れ、診察室に戻ったイリノアは、大きくため息をついてイスに身を沈め、背もたれに体を預けて、天井を見上げた。
窓を見ると、いつの間にか、日が沈みかけていた。イリノアはリモコンで部屋の電気をつけ、一旦部屋を明るくしたが、思い直して、今度は全ての照明をオフにした。
いろんなことがあった一日だった。正直、疲れた……。
あの少女の事を思う。
あの子は、自分がやっていることを理解していない。ほんとうの意味で。
そしてそれを、フェンリル……イグアナのロイは利用している。イタチのアズマの『無知』を、白鷺のサキの場合は『贖罪』を。そして、彼はやや以前に封冠を作るために診察した、ロイの側近のことも思い起こした。
梟のメティファ。彼女の場合は、おそらく、報われることのない恭順の精神。メティファは、ロイに利用されることを自ら進んで受け入れていたという点で、他の二人とは違う。しかし、少なくともロイは、それに対して感謝の意を抱くような男ではないのだ。
いずれにしろ、そうした彼女たちの事情・特性をロイは余すところ無く、骨の髄まで利用している。この3人だけじゃない。全てとは言わないが、他の隊員にもそうしたものがいるのだろう。
ロイの、このような人材の運用のやり方では、いずれ体制の不安定化をもたらすのではないだろうか? 少なくとも、そう長続きするやり方ではないような気がするのだ。彼・彼女たちの心の限界が……何か地下にたぎるマグマのようなものとなって、いずれ地表に吹き出してくるような気がしてならない。
ロイは怜悧な男だ。彼自身、それをわかっているはず。それでも続ける、彼の本当の狙いはなんなんだ……? 天界を、呪詛悪魔やデッドエンジェルの脅威から守る……本当にそれだけか?
イリノアは、封冠と精神医療のプロである。この仕事にはいつだって、誇りをもって取り組んできた。
しかし、ロイと業務契約して、はや数年……。
彼女たちのような、悲しい宿命を背負った人たちを診察するのも、正直辛くなり始めてきた自分がいる。
患者の境遇に感情移入し過ぎるのは、様々な面でプロとしてご法度だ。それはわかっているが、次々と駒として使い潰されていく彼らを見ていると、自分のやっている封冠の開発・提供は本当の意味で、彼らを助けているのだろうか? そんな疑問が頭から離れない。
彼らの精神を安定させる機能……戦闘を手助けする機能……どんなものだって、彼らの生存率を上げるために開発してきた。しかしそれは、結局、長い目で見れば、彼らをさらに戦いに駆り立てつづけるものでしかない。
疑問の堂々巡りに嫌気が差し、イリノアはふと、デスクの上にあるカルテを見た。
少女の写真が目に飛び込む。
『アズマに、感情と自意識を取り戻させてやりたい』
悪夢の中で自分を殺そうとした男の口から出た、意外な言葉の暖かさ。この言葉が脳裏を反芻する。
その気持ちは、自分とて同じだった。なんとかしてやりたい。自分の力では、戦いを強いられる、彼女の運命自体を変えてやることはできない。
でも、せめて、自分のことだけでも想えるようにしてやりたい。
しかし、もし自意識と感情を取り戻したら、今度は彼女は罪にさいなまれることになる。
兄のカムドは、それを理解しているのだろうか? いや、彼はわかっているはずだ。そうだとしても、『人として』生きていって欲しい。そう願うのは、きっと間違いではないのだろう。
そして、あの男の次の言葉がまた浮かぶ。
『お前にとっては、またとない研究対象だろう?』
完全に、見透かされていた。
そうだ。彼女を助けてやりたいと個人的に思う一方で、このアズマという特殊な少女は、精神科医としてはまたとない、とてつもなく貴重で興味深い患者……研究サンプルとなりえることも事実だった。
彼女が抱える問題を解析していくことよって、人がどうして自意識を持つようになるのか、感情を持つようになるのかがわかるかもしれない。
封冠の開発にも応用が効く可能性がある。そんな、研究心がふつふつと湧いてくる。彼女への同情心と同時にこうした思惑が浮かんできた、そのような自分に嫌気がさす。
「くそ……」
温厚な彼にしては、珍しい悪態の言葉が口をついた。
カムドとの約束が、思い起こされる。
『天命遂行』の解除……。ブラックボックスの解析か……。技術的難度はかなり高いが、やってみるしかない。
あの子を、私は助けるべきだ。
覚悟はできている。しかし、もう一つの悩みはまだ解決されていない。
ロイと……フェンリルと、これからも付き合うべきだろうか?
この協業が、研究開発に大いにプラスになっていることは事実だ。
しかし、私の開発したものが、彼らを救うようでいて、実は苦しみを長引かせていることにも最近気づいてきた。
悩む。おそらく、今晩は死ぬほど自分を追い詰めるのだろう。
そもそも、私はなぜ精神科医になった?
私は……。
目を閉じ……しばらくすると、懐かしい一人の女性の姿が脳裏に浮かぶ。だが、それはすぐに何かの力によって、掻き消されてしまった。
――守れなかった……私は……彼女を。
――予兆にすら、気づけなかった……。
気がついた時には、全てが終わっていて……。彼女の死亡報告を受けた時の、茫然自失とした自分を未だに覚えている。
繰り返したくない。私は……人を救う医者だ。なら、どうすればいい? 考えろ、イリノア……。
しかし、考えれば考えるほど、答えが遠のいていく。
激しい思考による疲れか、意識がぼんやりとしてきた。
よろめく体を引きずり、仮眠ベッドへと倒れこむ。
仰向けになり目を閉じると、先ほどの想い人の代わりに、今日の儚い陽炎のような少女の表情が脳裏に浮かんでくる。
うわ言のように、彼はつぶやいた。
「なぁ……私はどうすればいいと思う?」
「教えてくれ……サラ……」
彼は、ベッドに身を横たえたまま、そのまま泥のように眠りに落ちていった。
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エマ
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2014-05-24 19:54:00
No.2344
3発目投下完了〜。
結構ボリューム多いな……。イリノアさん主体のシーンはこれで終了です。
次回以降はザッピングで、色々なシーンが出てきます。
サバイヴ・アワー・ブラッドの雰囲気の一端でも感じていただければ幸いです。
ではではー^^/
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G5‐G
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2014-05-25 16:40:00
No.2344
(=゚ω゚)ノ うぃ〜っす。ここんとこずっといろいろサボり気味な折れ惨状だぜよ。
とりあえず、アズマっちはほぼロボトミー状態って事でいいのかな。これまで常々言及されてきた通りだな。
しかし特筆すべきは何と言ってもカムドの怖さだろうwww
身長2メートルにしたんだっけ。まあそのぐらいはなきゃ怖さを演出するのは難しいわな。なんか違和感あるけどw
ヘブンオアヘルの事は知らなかったが、それの更にやべーバージョンが「ヘルアンドヘル」ってのは実にナイスなネーミングだwww
もっとも、カムドがそんなものを吸っている間に、ゼクシアは世界中の軍事施設を襲って地球上の放射能・核兵器を喰らいつくしていたがなwwwww
そんな奴と対峙するイリノアとしては気が気じゃなかったのでわないかと。何しろ、夢の中で殺されてるからねえwww
まあアズマっちを救うという共通の目的がある以上心配はなさそうだが。
ちなみに、カムドと天神会が調べたアズマっちの全データには、ラグルによる追加・改竄が多分に含まれているとかいないとかw
データを開くと真っ先に「ヽ(゚∀゚ )ノ アズマっち:俺の嫁 by ラグル」と出てくるらしいwww
しかし最大の謎は、なぜメティファさんがロイなんぞにつき従っているのかという事だ。これに関してはチームQuelの総意が納得していないので(特にラグルとブウロ)、この先ロイの司令官生命は極めて短いものとなるであろう。
うむ、乾燥になっとらん。
まいっか\(^o^)/
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エマ
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2014-05-31 23:59:00
No.2344
感想ありがとうです^^
ロボトミーって言葉、知らなかったんですけども。ググってみたら……なんとまぁ、恐い手術があったんですね。
でも確かに、ある意味似たようなものかもしんない……。
カムドの怖さ、うまく表現できたようで何よりですw
はい、身長は2メートルにしたんですが、実はまだ物足りなくて、2メートル70センチくらいにしたいくらいなんですよねww
でも、さすがにそこまで大きくしたら日常生活に支障が出るだろうと思って、2メートルにおさえてあります。
当初、177センチという設定にしていたのは、それが私の身長と同じだからwww あと、当時23歳という設定だったんですが、それも当時私が23歳だったからwww
まぁ、ある意味自分がこれくらい強くなれたらいいな的なキャラだったのでw
あ、そうだ!
通常時は2メートルで、戦闘時は体が膨張して3メートルになるというのはどうだろ!www
我ながら素晴らしいアイデ……うわみんななにをするやめr(ry
>ヘルアンドヘル
当初はですねー。カムドはヘルアンドヘルでなくて、アヘンを吸っているという設定でした(もちろん、快楽のためでなく、『滋養』のため)。しかし、いかにダークヒーローといえども、主人公が麻薬ジャンキーというのもヤバかろうと思いww そうだ! じゃあ毒物なら吸っても法に問われないよね!(←ホントか?)
ということで、麻薬でなく毒物を吸うという設定にしました。
で、どんな毒物にしようかと、最初はシアン化なんか何とかトリチルなんとか化合物的な、実在する危険かつカッコ良い名前の化学物質を探していたんですが、なかなかそういうのが見つからなくてですね。
悩みに悩んだあげく、苦し紛れに思いついたのが「ヘブンオアヘル」と「ヘルアンドヘル」です。
苦し紛れに思いついたわりには、意外と良い設定になったので、個人的にも良かったなーと思うとります。
もちろん、ヘルアンドヘルは滋養としてでなく、ワイルドさんよろしく「カムド版デスブロウ」として、攻撃手段にすることも可能ですw
というわけで、カムドは実はチームプアゾン並に、毒が効かないのであった!!ww
>夢で殺される
今回のDr.イリノア診察室【アズマ編】を書く上で最初に思い浮かんだのがこのシーンでした(爆) もうこのシーンありきで始めました。イリノアさんごめんなさい(;´Д`)
いやー、カムドの描く場合、インパクト重要なんでww
>カムドと天神会が調べたアズマっちの全データには、ラグルによる追加・改竄が多分に含まれているとかいないとかw
イリノア「さて、預かったデータを見て……ん、やけに容量が軽いな」
ヽ(゚∀゚ )ノ アズマっち:俺の嫁 by ラグル
イリノア「こ、これは……(;´Д`)」
>なぜメティファさんがロイなんぞにつき従っているのかという事だ。
すべてはみさきさんが知っている……はず。
まさか、そこまで設定されてないなんてことは……ないですよね? よね? みさきさーん!(笑)
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たいへん久しぶりの「まともな夢カル」
ノエルザブレイヴ
/
2014-05-17 23:50:00
No.2343
夢追い虫カルテットシリーズ特別篇「この娘は女王蜂」
5月第2週の日曜日。「めいどの世界」の寮では守護天使・スズメバチのつぐみが自室でのんびりしていた。とそこに…
「つぐみちゃん♪」
つぐみとよく似た髪の色や顔立ちを持つ若い女性が現れた。
「じょ、女王様?何でここに…?」
つぐみと同じく転生した女王蜂・いおである。よく見るといおはスーパーのビニール袋を持っている。
「何持っているんですか女王様?」
「えへへ…。」
笑いながらいおがつぐみに見せた袋の中身はひき肉・タマネギといった食材であった。
「つぐみちゃん知ってる?今日は人間の世界ではお母さんに感謝する日なんだって。であたしは女王様で、つぐみちゃんにとってはお母さんだよね。」
「何が言いたいんですか?」
「お母さんであるあたしにハンバーグを作りなさい!」
唐突な振りをするいおにさすがにつぐみは戸惑いを隠せない。
「な、何でオレが…。」
戸惑うつぐみにいおは甘えたような視線を向ける。
「つぐみちゃんが作ってくれたミツバチの肉団子…おいしかったなあ…。」
「わ、分かりましたよ女王様!」
結局つぐみは押し切られ、いおにハンバーグを作ることとなったのであった。
「あ、つなぎは使わないでね。あとチーズも乗せて!」
「分かってますよ女王様!」
注文の多いいおに声を荒らげるつぐみではあったが、それでも問題なくハンバーグは完成。
「はい出来ましたよ!」
「いただきまーす!」
いおは瞬く間につぐみのハンバーグを完食した。
「あー、おいしかった!」
「…満足でしたか?」
満足げな様子のいおと対照的に休みをつぶされて不機嫌なつぐみであったが…
「さすがつぐみちゃん!あたし自慢の娘!」(なでなで)
「ん…。」
満面の笑みのいおに頭をなでられると何となく怒りを忘れてしまうのであった。
おわり
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ライオンのみさき
/
2014-05-25 02:09:00
No.2343
久しぶりの夢カル新作ですね。ファンとして、うれしい限りです。
第一印象は、何と申しましても――いおさまの傍若無人なまでの天真爛漫なお姿。これに尽きます(笑)。
つぐみさんにとって、お母さまで、何より女王さまでもあらせられる、というのに……。転生して、同じ年頃になったということもあるのかもしれませんけれど、でも、ゆきこ女王さまは、あの方もそういうところは同じ感じで、いろいろかわいらしいところもおありではあっても、でも、一方ではちゃんと威厳もお持ちでしたから。
それに比べますと、いお女王さまのこうしたお人柄は元々のご性格のように思えます。
まあ、“わがままな女王さま”というだけでしたら、考えてみましたら、よくいらっしゃるような気がいたしますけれど、加えて“甘えん坊のお母さま”というのは、新機軸と申しますか……いえ、新しければよいというわけではなくて、母の日にご自分から娘にサービスを強要するお母さまというのも、実際にいらしたら、考えものだとは思います。
でも、そんなお母さまに不機嫌になりながらも、結局要求に応えて、いろいろサービスしてしまうしまうつぐみさんが健気でかわいくて、でも、お気の毒でした。つぐみさんは、よくこういう貧乏くじと申しますか、ちょっと損な役回りになってしまうような感じがありますよね。外見とは裏腹に、お人がよろしいからだと思うのですが。
でも、最後にいおさまに頭をなででもらって、今回はまだ報われたのではないでしょうか? 何と言っても、母の日だったわけですし、普段、一緒にいられない分の母娘としてのコミュニケーションも充分取れたのではないかと思います。
とても楽しく読ませていただきました。ありがとうございました
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G5‐G
/
2014-05-25 16:42:00
No.2343
ラグル「ヽ(゚∀゚ )ノ なんだ女王さま、俺ならハンバーグだろうがステーキだろうが怪人の丸焼きだろうが何でも作ってやれたのに。その代わり親子丼をいただくがなwwwww」
ここで一句
いおつぐみ 俺がまとめて 親子丼
by ラグル
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エマ
/
2014-06-02 10:59:00
No.2343
つぐみちゃん、カワエエ……。
がさつっぽいイメージがありますが、料理はちゃんとできたり、意外ときちんとしてもいそうですよね。
あと、みさきさんの言うとおり、基本的に人がいいんでしょうね。面倒見がよいというか。損な役回りが多いですねー。
まぁ、周りにいおさんとかゆうきちゃんとかクリス公太子とかがいるからでしょうが(笑)
しかし、こんなお母さんがいたら、楽しいだろうなぁ……。
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Dr.イリノア診察室【アズマ編】「我知らぬ巫女」(2)
エマ
/
2014-05-14 02:21:00
No.2340
自意識。
ときどき、人は「物心がついた頃には」と昔を懐かしむことがある。
ある意味、「自分」そのものとでもいうべきその「現象」は、人間が生まれて、自分の足でようやくたどたどしく立てるようになる3,4歳ころに発露すると言われている。
友達にからかわれて、顔を赤らめる。自分の鏡を見て、それが自分だと認識する。これはすべて、「自意識」によって起こるものだ。
その自意識は、脊椎動物の中でも存在が珍しく、人間やチンパンジーといった、ごく一部の霊長類にしかないとも言われている。
守護天使たちの前世。その多くは動物の頃、脳の大きさ・キャパシティの問題なのか、または神がそれを許さなかったのか、分からないが、自意識を持つチャンスは生涯にわたって存在しなかった。
彼らは、一度死に、守護天使となって人間の姿を獲得した瞬間、人間と同等の知性を与えられ、急激に意識が拡張し……。つまり、守護天使となったときに、初めて自意識を獲得するのだ。
その、人間と同じ、守護天使なら当然の権利として持っているはずのものを、この眼の前にいる少女は持ち合わせていない。
「アズマ……君は……」
「自分のことが、本当に何も分からないのかい? 思いを馳せたこともないのかい?」
「自分……ですか?」
自意識がないということは、感情がないということ以上に致命的だ。理由は言うまでもない。自分自身を認識したり、自分自身についてなにか思いを巡らすという、どんなに知能に乏しい人間でも持っている、自分を守り、育むための、あって当たり前のものがないということだ。
いわば、『人として成り立っていない』ということなのだ。
「う……うううう……」
アズマの瞳孔が大きく開き、彼女は静かにうなり声を上げはじめた。そのまま、頭を抱えたまま動かない。それはちょうど、パーソナルコンピューターが、不具合によってユーザーの操作に反応しなくなる、「フリーズ」という現象を連想させた。
これでは……まるで……。
イリノアは、口に出すことを思わず躊躇うような印象を、持ってしまった。
感情はおろか、自意識すら持っていないんじゃ……。
そう、『ロボット』ではないか。
あるいは、『人形』……。以前、フェンリル隊員である、蠍のクリムゾンが言っていた『まるでお人形さんみたいな子』という表現……それは、めったに表情を動かさないという、外見的な特徴以上に、的を得た表現だったのだ。彼女が、そこまで見通していたかは分からないが……。
おそらく、先の鏡のテストで、鏡に写った自分の姿を自分だと答えたのは、本当にそう理解したのではなく、天神会で機械的にそう訓練されたからだろう。生来的に自意識によって認識したからではない。だから、あそこまで返事に時間がかかったのだ。
「フリーズ」状態から抜け出せないアズマの頭を少し揺すって、イリノアは声をかけた。
「ごめん。もういいよ。ちょっと話題を変えよう」
幸いというか、イリノアの内心の祈りが通じたのか、少女は唸るのをやめ、元の状態に戻ってくれた。
「……はい」
彼女の発する『私』という単語も、おそらくは形式的に『覚えろ』と、天神会によって教育された結果に違いない。いわば、彼女の『我』というのは、人工的に作られた紙風船のようなものだ。中身はなく、叩けば簡単に潰れてしまう、とても危うく、脆い。それは……とても『自我』と呼べるものではない。
イリノアは、こうした彼女の事情を踏まえた上で、ずっと確かめたかった質問をアズマに投げかけた。
「前から聞きたかったのだが、君は、自分が今、どんな任務……『仕事』をしているのか、本当に理解しているのかい?」
「敵とはいえ……罪を犯しているとはいえ……同じ、命ある者たちを……殺めているのだよ?」
「……はい」
「それも、一人二人じゃない。話に聞いたところ、今回の戦いだけで、君の攻撃で……大勢が死んだ」
「それが……与えられた……天命ですから……」
「君は、それでいいのかい?」
「……わかりません」
続けるべき問いかけの言葉が見つからない。彼、イリノアは、多くのフェンリル隊員のメンタルの状態を見てきた。特に、今まで印象的だったのは、フェンリルで最も優秀な隊員の一人と言われる、『白鷺のサキ』だ。
彼女は、その特別な事情により、多くの罪を犯し、彼女はその重荷……いや、守護天使としては決定的な、『罪の十字架』とでも形容したほうがいいほどの辛い記憶を背負って、戦っている。あまりにもその罪の意識が重すぎて、イリノアが開発した特製封冠の精神安定装置の助けがなければ、自我を保っていられないほどだ。それでも、彼女には、自分がやっている……任務における『殺戮』の意味を理解している。受け止めるだけの『心の強さ』がある。その代償で、自分の心がさらに冷たくなっていくという恐怖心とも戦っている。今にも罪で押しつぶされてしまいそうな『自意識』……。
しかし、それが、生きているということなのだ。
それが、この少女には……無い。
ある意味では、自覚できない分、意図せずに、罪から逃げおおせているという見方もできよう。そうか、それが……貴方の狙いか。イグアナの……ロイ。
「罪の意識を感じずに……何百人の命を奪う」
「……はい?」
そうだ。まともな自意識がある人間なら、とても耐えられない十字架だ。かつて、人間界に存在する、かの超大国が、自軍の兵士の精神分析を行った末に得られた貴重なデータがあるという。
人を殺めることに抵抗を感じない人間は、わずか2%。人類全体の2%ではない。『人を殺すことを強制される』兵士たちの中での2%だ。
逆に言えば、戦っている人間の98%は罪にさいなまれ、その罪の意識は除隊後も残り、その後の社会復帰を困難にさせる。PTSDと呼ばれる症候群の主要原因だ。
たった1人殺めただけで、その人の人生は狂う。それが普通だ。それがまともな人間だ。中には贖罪のために自ら死を選ぶ者さえいる。
それを、数百人の人生を自分が奪うことになってしまったら、普通の人間なら、絶対に耐えられない。耐えられるはずがない。もし平気な者がいるとしたら、それは狂人か……あるいは……。
眼の前にいるこの子……『自意識』を持たない者だ。
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エマ
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2014-05-14 02:22:00
No.2340
「それが、彼ら……フェンリルが君を利用する理由なんだ。それがわかっているかい?」
「ええと……」
思わず、イリノアはアズマの両肩を掴んでいた。
「いいかい。君は、利用されているんだ!」
「利用……ですか?」
イリノアは語気を強める。
「下手をすれば、君は戦死するまで永遠に戦いを強いられるかもしれない。大量に殺戮を繰り返しながら……」
「あの……」
目を覚ませ、と言わんばかりに、彼はアズマの肩を揺り動かす。
「今の自分に気が付かなければ……それに、『ノー』と言わなければ、もしかしたら一生このままになってしまうかもしれないよ!」
「……イリノア様……痛い……です」
アズマの華奢な肩に、力を込めすぎていることに気がついた。
「ああ、ごめん。少し、興奮してしまって……」
「いえ……」
冷静であるべきプロの自分が……イリノアは後悔の念に襲われる。だが、普段めったなことで動揺しない彼が、ここまで熱くなったのには訳がある。彼は、クールな精神科医であると同時に、ヒューマニスト(人道主義者)でもあった。このような、人を人とも思わない扱いが平然と行われることに対して、彼の心は黙っていられない。彼の強固な理性が、抑えようとしても……それと同じくらい強い気持ちが、心の底から湧いて出てしまうのであった。
この相反する2つの力の均衡を崩したのは、この少女が久しぶりだ。
深呼吸をして、彼は再び、理性の優勢を取り戻す。そして、話題はようやく、今日の本題に入った。
「そうだ。実はね、今日はあるものを、君に渡そうと思って、君を呼んだんだ」
「まぁ……なんでしょうか?」
アズマの声が、心なしか、多少弾んでいるように感じる。おそらく、感情ではなく、好奇心という欲求からくるものだろう。
「君のための、新しい封冠だ」
「あ……。すでに、天神会から封冠は頂いておりまして、それを装着しておりますが……」
「ああ、それは知っている。その天神会から許可を得ていてね。君の今の封冠をベースに、私が機能を付け足したものなんだ」
「機能……ですか?」
「ああ、君の戦いをサポートしてくれる機能だよ。ただ……」
「はい」
イリノアは、天井を見上げ……少し深呼吸をした。彼の明晰な頭脳は一瞬のうちに考えをまとめ、アズマに向き直った彼に結論を与える。
「これを渡すのは、もう少し後にしようと思う」
「……なぜでしょう?」
「今回、君のことが改めて、色々分かった。だから、そのことをこの封冠に反映させようと思うんだ」
「はぁ……」
「だから、すまない。もう少し待って欲しい。あと……」
「はい」
椅子から立ち上がり、イリノアはアズマのカルテを机の棚にしまうと、彼女に優しく声をかけた。
「何か、困ったことがあったり、教えて欲しいことがあったら、いつでも私を尋ねなさい」
「あ……よろしいのですか? ご迷惑では……」
アズマはわずかな戸惑いの表情を見せる。これも、『訓練』の影響が多少なりとも入っているのだろうか……。まぁ、どちらでもいい。
心配無用と、イリノアは穏やかな笑顔で応える。
「遠慮は無用だよ。むしろ、君の役に立てることが、私の、医者としての望みでもある」
「……ありがとうございます。それでは、今後とも、色々ご教示くださいませ」
「さぁ、今日の診察はおしまい。また部屋でゆっくり休んでおいで」
「はい。ありがとうございました」
再び車輪付きのベッドに横になり、助手の守護天使たちに運ばれて、アズマはイリノアの診察室を後にした。
.
.
.
.
.
アズマを帰すと、イリノアは椅子の背もたれにもたれかかり、ほっと息をついた。
「ふう……大変な患者を抱えてしまったな」
「そう言うな。プロならどのような要求にも応えるものだろう」
いきなり背後から声がしたので、イリノアは思わずすくみあがった。
「き、君は……!」
底冷えのするような、極太の声。2メートルを超える巨体。
忘れようはずもない。先ほど、悪夢の中で自分を殺した相手が、そこに立っていた。
「カムド……!」
(つづく)
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エマ
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2014-05-14 02:28:00
No.2340
どもー。「我知らぬ巫女」の続きです。
まず一言。
「ごく一部の霊長類を除いて、動物には自意識がない」という部分ですが、
「んなことねぇよ! アリさんにだってススメバチさんにだってGさんにだってあるよ! みんな生きているんだ友達なんd(ry」
というご意見がきっとあろうことかと思います。これは、あくまで私の考えです。もちろん、いろんな意見があって当然だと思いますので、「いや、違うよおまい間違ってる」と思う方は、この記述は華麗にスルーしてください^^;
さてさて、次回はいよいよイリノアさんとカムドの対峙ですぞ。果たして、どうなる!?
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Dr.イリノア診察室【アズマ編】「我知らぬ巫女」
エマ
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2014-05-04 01:01:00
No.2336
サバイヴ・アワー・ブラッド ― 断章
Dr.イリノア診察室「我知らぬ巫女」
気がつくと、夢魔イリノアは、暗闇の中にいた。
零下かと思うほどの激しい寒さ、肌の痛覚が悲鳴を上げている。
「はぁ……はぁ……」
イリノアの呼吸は激しく乱れていた。息が続かない。
何かに驚愕し、何かに恐れおののいて、彼はずっと逃げてきたのだ。
走って走って、急にそれ以上走れなくなる。何かにぶつかって、行く手を阻まれる。
暗闇に溶け込んだ岩肌が、目の前を遮っていた。
ざくっざくっ、と足音がして、恐怖の対象がついに彼の元へやってくる。
「諦めろ。夢魔」
急に伸びてきた大きな手に首根っこを捕まれ、背後の岩肌にたたきつけられる。
「くっ……ああっ!」
あまりの衝撃に、肺から思わず息が漏れる。
首を絞められた状態で、なんとかイリノアは、自分を追い詰めている『魔物』の姿をとらえた。
2メートルはゆうに超えている、熊のような巨大な体躯。
鍛えぬかれた筋肉の塊の上に、金属製の鎧をかぶっている。頭部をほぼ覆っている鉄兜から、唯一くり抜かれた目の部分から、赤い眼光が漏れる。
とても一言では形容しがたい、武闘の権化のような男が、まるで油圧機械のような怪力で自分を押さえつけていた。
兜の隙間から、ゆっくりと口を開く。
「逃げおおせるとでも思ったか」
「ま、まってくれ……なぜ私が……」
必死の問いかけは、すぐに打ち破られる。
「理由は自分がよくわかっているはずだ」
目の前の大男が、すっと腰に手を伸ばす。そして何かを抜いた。
「これがわかるな?」
彼が手にしたもの……。普通の剣士が持つには長大すぎる、その剣……。戦闘などの血なまぐさい事情からはやや遠い立場にいるイリノアも、噂だけには聞いたことがあった。
「聞くところによると、夢魔という生き物はどんなに体を傷めつけられても死なないそうだな」
ありとあらゆる生命体を、一撃の名のもとに討ち滅ぼすという、強力無比の一撃必殺の邪剣、『殲魂』。呪詛悪魔はおろか、全知全能の神仏さえも殺すと言われている、別名『神殺しの剣』だ。
「だが、この剣で斬られれば……いや、この剣の邪気に触れただけでもどうなるか……わかるな?」
「待ってくれ……!」
イリノアは、閉められた首からなんとか声をひねり出し、弁解した。
「誓ってもいい。私は君の妹さんを売ったりなど……!」
男は、イリノアの弁解を無視した。大きく振り上げられる邪剣。
「や、やめ……!」
死にたくない。彼は死そのものを恐れているわけではなかった。死ぬことで、未だ叶えられていない彼の願いを絶たれるのが、恐いのだ。
まだ、自分は約束を……彼女との約束を果たしていない。
自分が勝手に、想い人に向けて誓った、一方的な約束……。彼女に頼まれたわけでもない。果たしたところで、感謝されるかすらわからない。それでも……それでも、果たすことで少しでも彼女に近づけるなら……。
それを今、絶たれるわけには……!
世界最悪の邪剣が、その望みを絶とうとする。
その『鬼』は、無慈悲に死の宣告を放った。
「死ね」
イリノアは、絶叫した。
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エマ
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2014-05-04 01:02:00
No.2336
「や……めてくれー!!」
急に開けた視界、まぶたを指す蛍光灯の明かり。
イリノアは瞬時に、荒れ狂う混乱が徐々に冷めていくのを感じた。ここが、最も自分が居慣れた場所であることが視界の情報から明らかとなり、そして、それまで不思議と感じなかった重力が、自分の体に押しかかって、彼に現実の実感を与えていく。
それでも、7,8秒はかかっただろうか。自分が診察用の簡易ベッドで仮眠をとっていた数十分前のかすかな記憶が蘇ってきた。
「夢……」
そう、彼は悪夢に苛まれていたのだ。
彼は、仮眠前に格闘していたデスクの上の資料を手にとった。
「これのせいだな……」
悪夢の元凶が、そこにあった。349番と書かれたカルテの写真に映る、一人の少女。
そしてもう一方の資料にある、途方も無く大柄な男の写真……。
ブザーが鳴った。
「先生、例の患者さんが意識を取り戻しました」
「ああ、ありがとう。では、ここに運んできてくれるかな」
5分ほどすると、イリノアの助手と思われる、二人の女性守護天使が、患者を乗せた車輪付きのベッドを運んできた。
「ありがとう。これから診察に入るから、悪いが二人だけにさせてくれ」
指示に従い、静々と退出していく助手たち。再び、部屋に静寂が戻り、イリノアは立ち上がった。
その顔には、すでに先程のような恐れはなく、プロの精神科医としての精悍さがすでに戻っている。
「さて……と」
イリノアは、深呼吸をして、ベッドの上の患者……まだ二十歳にもならないであろう、少々あどけなさを残した一人の少女の顔をうかがった。
その少女は……。目はわずかに開いており、意識を確かに取り戻していることがわかる。だが、まだ十分な体力が戻っていないのか、彼女は首から下を動かせないでいた。
「私のことが、わかるかい?」
その少女は、ゆっくりと頷いた。
「念のため、確認するよ……自分の名前を、前世名と一緒に言ってみて」
「イタチの……アズマ……です」
手元のカルテを確認する。写真、印字された名前と前世……。もはや確認の必要は全くないくらい、彼女のことは検査で調べてすでに知っているのだが……手順に則って確認した。それは、イリノア自身というよりも、今思えば、このアズマという少女自身に、確認させるためでもあったかもしれない。
「体を起こせるかい?」
「あ……」
弱々しい息を漏らす。どうやら、まだ上半身に力が入らないようだ。
「手伝うよ。ほら……」
腰をかがめて、利き手を彼女の頭の後ろに回す。
その時、ふいに、この少女の瞳が目に入った。何の色も映し出さない、透き通った水晶のような目……。大きく開かれた瞳孔……まるで宝石のように綺麗な目だ。しかし、そこからは、不思議な美しさの他に、なんの情念も意思も感じ取れない……。逆に、見ている自分の意識が吸い込まれていきそうな錯覚を覚え、イリノアは思わず彼女から目をそらした。
「あの……どうか、なさいましたか?」
「い、いや……ないでもないよ」
呼吸を整え直し、イリノアはアズマの肩を支えると、彼女の上半身を起こしてあげた。
「お手数をお掛けいたしました……その……」
「うん?」
「私は……どれくらい、意識を失っていたのでしょうか?」
まだ少しぼんやりとした表情で、少女はイリノアの顔を見つめる。無理もない。任務で起きたあの『ショック』以降、意識不明の状態は相当長く続いた。一時は、このまま意識は回復しないのではないかと言われていたくらいだ。状況を全く把握できないでいるのは当然のことだろう。
イリノアは、この少女に時間感覚を取り戻させるため、単純に事実を告げた。
「ちょうど、3日と4時間といったところだね」
この少女……アズマはそれを聞くと、ようやく意識が覚醒したのか、表情に生気が戻ってきたが、同時に『きょとん』とした顔になった。3日間、という言葉に驚いたのか、実感がもてないでいるのか……。職業柄、患者の表情の変化から気持ちを読み取ることに長けているイリノアでも、その意味するところは掴めなかった。
不思議な少女だ。無表情な子、という評判は聞いていたが、正確には表情に変化が全くないわけではない。わずかだが、表情に変化はある。ただ、専門家からしても、そこから彼女の精神をうかがい知れないところが、『無表情・無感動』と彼女が評される所以なのだろう。
イリノアの手を離れ、上半身をようやく自力で起こした状態で、アズマは10秒ほど沈黙を続けた後に、再び口を開いた。
「あの……任務は……」
「ああ……」
「あの戦いは……どうなったのでしょうか?」
「戦いは、終わったよ。フェンリル側の勝利……敵の呪詛悪魔たちは全滅したそうだ」
イリノアは、結果を気にしているアズマを安心させようと、穏やかな顔でフェンリルから受けた報告をそのまま告げた。また、その報告の中で、彼が個人的に衝撃を受けた事実も付け加える。
「半分以上、君一人の功績でね」
この少女の全身を改めて視界に捉える。こんなか細い女の子が、たった一人で戦況を一変させたのだ。一体どんな力を使ったのだろうか。フェンリルからの報告には、アズマが具体的にどのような方法で戦況を変えたのかについては、書かれていなかった。一契約医師にそこまで知らせる必要は無い、ということなのだろう。想像するしかないが、それにしても、この本人は、自分が成し遂げた功績に対して、名誉や達成感はおろか、自負さえ感じていないように思える。
ボーっとしている、というわけではないが、どうも、彼女自身、その実感を覚えていないようなのだ。まだ記憶に混乱が生じているせいだろうか? それなら心配はないのだが……。
イリノアは、そんなことを考えながら、次にこの子に伝えなければならない、深刻な事実も口にする。
「ただ……」
「はい……?」
「悲しい知らせがあるんだ」
「……なんでしょうか?」
目覚めたばかりのこの子にとって、ショックにならないだろうか? イリノアは心配したが、いずれにしろ、今日中には必ず伝えなければならないことだ。彼は意を決した。
「君のチームの……お兄さんと一緒だった、3人目のメンバーがいるだろう?」
「はい」
「彼は……この戦いで亡くなったよ」
「え……?」
狐につままれたような、鈍い反応だった。今、私が言ったことが、理解できているのだろうか? イリノアは、この、先の戦いでとてつもない成果を挙げた功績に比べ、あまりにも頼りない反応をするこの少女に、意味を理解できるよう言葉を変えて、同じ意味を伝えた。
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エマ
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2014-05-04 01:03:00
No.2336
「彼は……戦死したんだ。死んだのだよ」
ようやく、その意味がわかったのか、彼女はしばらくの沈黙の末、自分でその意味を反芻するかのように、今回の殉職者の名前を口にした。
「ゾルゲ……様が?」
「うん……。残念だよ。せめてもの冥福を祈ろう」
アズマは、手を合わせて、目を閉じ……しばらく何かの文言を唱えていたようだったが、やがてそれをやめると、再びその不思議な目を見開いた。
これが、彼女の、いわゆる『祈祷』というものなのだろうか?
祈祷を終えたアズマは、すでに元の様子に戻っていた。
短い付き合いだったとはいえ、自分のチームメンバーが亡くなったというのに、その何の憂いもない表情は不思議としか言い様がない。何百人という患者の表情を見てきたイリノアですら、その乏しい表情が意味するところを掴めずにいた。
「悲しくは……ないのかい?」
「……よく……わかりません」
「そうか。悲しいという気持ちが、よくわからないのだね?」
「はい……」
このアズマという少女は、フェンリルの他に、天神会という組織に所属している、やや特殊な事情を持つ守護天使だった。天神会とは、動物が守護天使に転生する、『輪廻転生』というプロセスを、安定的に稼働させるシステムを維持管理する組織である。その組織では、機械技術だけではなく、霊力を持った守護天使たちの『祈祷』によって、システムを稼働・維持するという珍しい方法をとっていた。
その中でも、この少女はその『霊力』がずば抜けて高く、天神会の中では『稀代の巫女』とすら呼ばれているらしい。
しかし、その特殊な能力と引き換えになったのかは不明だが、彼女はその心に、大きな問題を抱えていた。
彼女の心には、『感情』という要素が欠落しているのだ。
『嬉しい』、『悲しい』、『悔しい』、『恐い』……。彼女の場合、そうした気持ちは一切、発露することがない。感じることができない。そして、それを感じる普通の人間の感覚を理解できないのである。
そんな少女に、イリノアは助け舟を出した。
「でも、死んで欲しくは、なかっただろう?」
「……はい、それは……もちろん」
アズマは小声で返事をする。
どうやら、『欲求』という心の要素はあるらしい。しかし、それもどうも、精神的な『欲求』は身体的なそれよりもだいぶ弱いようだ。実際、この返答もどことなく弱々しく、実感を伴わない感じだった。
「あの……」
このような事情を持つ彼女が、自発的に発する発言は、尊重し、注目しなければならない。
イリノアは、できるだけ自然な笑顔を作って頷いた。
「なんだい?」
「あの……ゾルゲ様がいなくなって……。私と兄は、どうなるのでしょうか?」
イリノアは、少し迷った。どこまで話せばよいのだろう。たしか、彼女の兄であるカムドには、チームの責任者として、長い事情聴取が行われると聞く。話を聞く限りでは、彼はゾルゲが死んだ責任を負わされそうなのだ。
「もしかしたら……お兄さんは、しばらく家に戻れないかもしれないね」
「え……どうしてでしょうか?」
「うーん、それはだね」
アズマを動揺させることになりそうで、言うのは一瞬ためらったが。しかし、この子はすでに18歳だ。少なくとも、もう子供ではない。それに、感情が欠落しているのなら、そう心情不安定になることもあるまいと思い直し、イリノアはその理由を答えた。
「フェンリルの上層部の人たちが、ゾルゲが死んでしまった理由……というか、責任の所在を確認したがっているのさ」
「それが、どうして……兄が帰宅できないことになるのでしょう?」
「いや、だからそれは……」
たとえ、感情がなくても、物事を考えることはできるはずだ。少なくとも、初対面の際に彼女と少し話した時に、平均的な大人の水準、とまではいかないが、歳相応に、物事を筋道立てて考える論理性は持っているはず、とイリノアは判断していた。
しかし、今のこの反応は……。
「うーん、なんと説明すればいいかな……」
「申し訳ございません。あの、そういう難しいことを、今までよく考えたことがなかったものですから」
「では……それを今、視点を変えて考えてみようか。もしアズマ、君がまず……自分の立場だったら……」
「自分……ですか?」
「うん」
『自分の立場だったら今、どうしたい? 例えば……お兄さんと話したいんじゃないかな?』
『でも、今度はフェンリルの偉い人の立場で考えてみようか、彼は大事な部下を失って、その理由を知りたがっている。では、彼は何をしたがるか……』と、そんな風に話をつなげるつもりだった。
が、その話を切り出す前に、妙な違和感に襲われて、彼は口を止めた。
「ん?」
目の前の少女が、小声で、ぼそぼそとつぶやいている。聞き取りづらかったが、次のようにつぶやいていた。
「自分、アズマ、じぶん、わたし……アズマ……じぶん……わたし……」
自分、アズマ、わたし? 一瞬、なんのことかと思った。
だが、それらが単に言葉の言い換えに過ぎないこと、そしてその堂々巡りに陥っているようなこの少女の様子を見るに連れて、
イリノアの脳裏に、ある仮説が浮かんでいく。
「あーでは、思い切って話題を変えてみよう。ちょっと待って」
イリノアは、戸棚から大きな鏡を取り出して、アズマの方を向いた。
鏡には、彼女の半身が写っている。
「鏡には、何が写っているかな?」
「……わたしが、写っていると思います……」
この答えが返ってくるまでに、ゆうに十五、六秒を要している。
ますます深まる疑惑。
「今は、君は検査着を着ているけど、ちょっと味気ないよね。もう少しおしゃれしてみようか」
イリノアが少し念じると、鏡の映像が変化し、次の瞬間には、人間界の繁華街で年頃の女の子が歩いているような、おしゃれ着を着たアズマが写っていた。これは鏡の機能で、写った人間のバーチャルな着せ替えができるものだ。
アズマは、すっかりおめかしした自分の姿を見て、狐につままれたような顔をしている。
「やぁ、すっかり可愛らしくなったね」
女性を褒めるというのには全く慣れていないイリノアだが、努力して言葉を続ける。
「君はどう思う?」
「……興味深いです」
「いや、そうじゃなくて。そうだな……この服を着て、どう思われたい? 例えば、お兄さんに。あ、好きな男の人がいれば、その人のことでもいいんだよ」
「どう思われたい、とは……どういう意味でしょうか?」
「どう思われたい」という言葉が理解できない。
なんということだろう。この子には、感情というものが存在しないとは事前情報として聞いていた。しかし、こうして問診を続けていくにつれ、恐るべき予感が、医師であるイリノアの背筋をかけ登っていき、それは冷たい汗となって、彼の額に現れていった。
遠回しな質問はやめることにした。もう直球で確かめるしか無い。
「ねぇアズマ。君は……今まで、自分について考えたことはあるかい?」
「…………」
黙りこんでしまった。その視点は虚空をぼんやりと見つめ、不安そうに揺らいでいるばかり。
「あの……天神会の教育でも、覚えろとしかいわれていなくて……」
「以前から、誰かにお聞きしたかったのです。イリノア様」
「うん……」
「『私』とか『自分』というのは……、一体、どういう意味なのでしょうか?」
間違いない。
この子は……この子には……。
自意識がない。
(つづく)
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エマ
/
2014-05-04 01:11:00
No.2336
ついに公開できました……Dr.イリノア診察室【アズマ編】。
着想したのは、なんと2004年あたり! 実に、構想10年!! 宮崎駿監督も真っ青ですぜダンナww
その割に、出来の方と言ったら……(;´Д`)
でも、まぁこれで、アズマやカムドがどんなキャラクターなのか、ようやく正式SSとして表現できたことは確かです。ようやくか……と、ほっと息をついております。
で、最初に出てきましたが……そうです。ついに決まったんです。アズマとカムドの小説シリーズのタイトルが。
それは……。
サバイヴ・アワー・ブラッド
昔は「双想絆」という仮タイトルだったんですが、なんかギャルゲっぽいな、と思ってボツに……。こっちのほうが断然カッコイイぜw
「サバイヴ・アワー・ブラッド」、その意味はですね。
「私たちの血の呪いを超えて生きていけ」
という意味です。果たして、どんな意味なんでしょう? 残念ながら、それが明らかになるのは、このSSではなく、小説本編になってしまいますが、フフフ……。本編は期待していいぞよw
とまー、とりあえず。能書きはここまでにして。
このDr.イリノア診察室【アズマ編】「我知らぬ巫女」ですが、あと2〜3回の投稿で完結します。
もうしばらくお付き合いのほどを。まったね〜〜〜♪
あ、感想よろしくwww
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お久しぶりのノエル公国
ノエルザブレイヴ
/
2014-03-16 02:08:00
No.2334
〜ノエルラントの名花たち〜 「なたねと自転車」
ノエル公国第八公女のなたねは人懐っこく元気な性格から会う人に交換を抱いてもらえることが割と多い。
そんななたね公女のファンの一人に竜人公国の竜人公がいる。竜人公国を訪問するノエル公に帯同したなたね公女と会ったことを機になたね公女を気に入った竜人公は以降なたねにたまにプレゼントをあげるようになっていった。
ある日、ノエル公がノエル城の中庭に行くと、なたね公女が自転車を磨いていた。
「あれ?この自転車は何だいなたね?」
「あ、父上。これ竜人公からもらったんです。竜人公自転車がお好きだって、で「ボクも乗りたい!」って言ったらすぐこれくれて…。」
そんな話は初耳のノエル公、さすがになたねに注意を与える。
「…人から物貰ったらすぐ親に報告するものだぞなたね。」
「…ごめんなさい。」
ノエル公に注意され、消沈するなたね。
「…まあ自転車なんてそんなに高いものじゃないし…今度からはちゃんと気を付ければいいから。」
「はい。」
「まあせっかくのいただき物だ、大事にしなさい。」
「…はい!」
そして翌日。
「父上!つぐみ姉さま!」
ノエル公とつぐみ親衛隊長が一緒に散歩をしているところに、自転車に乗ったなたねがやってきた。
「おお、なたね!」
「父上、このなたねの自転車は?」
「ああ、つぐみにはまだなたね言ってなかったんだね。これは竜人公からのいただき物なのだそうだ。」
「…プレゼント?」
つぐみの顔が心なしか青くなる。
「そう。でもなたね可愛いね。自転車でこんなに喜んで。」
あくまでのんきなノエル公だが、そんなノエル公に対しつぐみが慌てた様子で言った。
「これレーシングバイクの一番いいやつだぞ!普通の自転車の40倍以上するんだ!」
「「ええっ!」」
自転車の価値などよく分かっていなかったノエル公となたねは一斉に驚く。
「こんなものくれるなんて…竜人公よっぽどなたねを気に入ったんだな…。」
後日ノエル公が竜人公国に土産物持参でお礼に行ったことは言うまでもないだろう。
おわり
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エマ
/
2014-03-29 16:55:00
No.2334
なたねちゃん、たしかに誰からも可愛がられそうですよね。
特に竜人公か……。もので気を引いてはいかんぜよ。と思うのですがw
普通のママチャリかと思ったら、レーシングバイクの超高級品……。
きっと、ブレーキとかついていないのであろうw
竜人公、なたねちゃんのこと気に入りすぎです。
もしかして、自分の娘にしたかった、とか思っとるんちゃうかw
なたねちゃんを通して、
竜人公国とノエルラント公国の友好はますます深まるのでしょーなーw
良いお話でした。またぜひ何か書いてください^^
あ、これ。エマステの大公国コーナーに載せますねー。
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ヴェンデッダ 〜氷炎の宴〜 4
K−クリスタル
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2014-01-18 19:12:00
No.2328
「覚悟してもらおう。残りはお前ひとりだ」
アレクの宣告に男は悔しげに唇をかんだが、すぐ顔を上げた。
「確かに・・・こうなってはもう、逃げられもせんだろう」
だが、その時、少女の声が割って入った。
「待って、お兄さん。その人の相手はあたしにやらせて」
「エステル」
振り返ったアレクは一瞬考え込んだが、相手の顔を見てうなずいた。
「いいだろう。だが、しくじるなよ」
「アレク」
ファデットが驚いたように声を上げたが、アレクは落ち着いていた。
「もともと、あいつの仕事だからな。最後ぐらいやらせよう」
「さあ、じゃあ、あたしが相手よ。覚悟してよね。あなたには恨みがあるんだから」
前に進み出たエステルの言葉に、相手の男はやや表情を動かした。
(そうか、珍しくやる気だと思ったら、初めにだまされて跡をつけられたのはあの男だったのか)
納得のいったアレクの傍らにファデットが近づいてきた。
「アレク、本当に大丈夫なの? 相手の人はけがをしたとはいっても、エステルさん一人で・・・」
「ああ、心配いらない」
ファデットの心配はもっともだが、アレクもただ傍観しているわけではない。
すでにして?亡霊暴君(ファントム・タイラント)?が再び起動していた。標的の範囲が絞られた二度目には、主に相手のいる地面より上の空間の熱を集めることで、その気配も悟らせることなく、しかし、巨竜はひそかにもう存在したのだ。他の者には見えない。いや、アレク自身にも実際に目に見えるわけではないが、言わば、体感している。そのアレクの感覚によれば、目の前には体を低くねじ曲げ大口を開けて今しも敵の男に食らいつこうとする肉食竜の巨体があった・・・あくまでイメージだが、ほとんど現実の感覚と変わらない。こうした実感のようなものまで感じるようになって、アレクの扱う熱量は格段に跳ね上がったのだった。
見ていて、エステルが危ないとアレクが判断したその途端、敵の男は肉体の何割かと生命を同時に失うことになる。しかも、その際、近くにいるエステルに火傷一つ負わせることもない。せいぜいが見えない巨竜の熱い吐息を感じるくらいだ。つまり、何が起こったとしても、エステルを傷つけたり、敵を逃したりする気遣いはまずないのだ。
だが、それもすべて万一の時のことだ。アレクがファデットに大丈夫だと言った第一の根拠はそれではなかった。
エステルは左手を水平に近く前へ伸ばしている。その手からは何条かのワイヤーが下に垂れ、揺れていた。そして、胸元に引きつけて構えられた右手には細身のナイフが握られている。
対して、敵の男は残った右手一本で顔の前にサーベルを立てて構えた。治癒の力でもあったのか、左肩の傷口は完全にふさがってこそいないものの、出血はもはやほとんどない。
男は油断なくエステルへ向けた意識を切らせないながらも、ちらりとこちらを見た。
(何を考えているか、だいたい分かるな・・・)
アレクは考えをめぐらせる。
(俺からは逃げられない。もう助かるすべはないと一度は覚悟を決めたはずだが、こうなって、一縷の望みを抱いた。うまくすれば、助かるかもしれないと。そう、エステルを人質に取ることさえできれば、俺の動きも封じられる。・・・奴には?暴君(タイラント)?の状態は分からないから、そういう考えになるのはむしろ当然。だが――)
「ファデェ。あの男もだが、たぶん、君もまだよく分かってない・・・」
「え?」
「エステルってやつを」
その時、男の方から仕掛けた。地を蹴り、猛然とエステルに向かう。エステルも迎え撃つように駆け出し、間合いを詰めたところで左手を振り、走る勢いを乗せて、ワイヤーを前へと飛ばした。
男は避けることもせず、そのまま真っ向から突っ込んできた。ただ走ったまま目の前でサーベルをめまぐるしく振り回す。ワイヤーは結局一本も届かなかった。はね返されたのではない。空中でいくつにも寸断され、ばらばらと地面に落ちたのだった。
(まったくいい腕してる・・・剣同士じゃ、俺なら絶対やりたくない相手だな)
それも、たった今片腕一本喪いながら、である。仮に痛みや出血を抑えられたにせよ、体バランスは崩れて、今までと同じ身のこなしなどとてもすぐにはできないのが普通だが、見る限り、そう動きが悪くなったとも思われない。実戦の中で叩かれ、鍛え抜かれたしぶとさがあった。
(?暴君(タイラント)?の牙から即死を免れたことといい、奴らの中じゃ、総合的にはこの男がいちばん強かったのかもしれん・・・)
少なくとも、その踏んできた戦いの場数はエステルはおろか、アレクすらも凌ぐほどのものなのだろう。だが、それでも・・・。
一度も止まるどころか脚を緩めることすらなかった男はすでにエステルの間近に達していた。エステルの右手の中のものが閃く。しかし、きぃん――高い金属音を立てて、そのナイフは宙高く舞っていた。男の一振りではじき飛ばされてしまったのだ。
そのまま返す刀で斬り殺すことも可能な間合いでタイミングだった。だが、それはない。人質にするのなら、殺すわけにはいかないのだから。
そこまでも、エステルの計算通りのはずだ。相手が殺す気で攻撃できない以上、そこに隙が生じる。しかし、芝居で逃げて見せたあの男は実力を隠していて、本当ならエステルのような小娘など相手ではないと思っているのだろう。だから、そのぐらいの余裕を持てる気でいるかもしれない。が、あいにく力のすべてを見せなかったのは、エステルの方も同じなのだ。今もなすすべなく接近されてしまったように見えるが、実は、エステルの方からすれば、労せずして相手の懐の内に入り込むことができたとも言えるのだった。
男はエステルの方に向き直った。叩き伏せるか、あるいは脚でも切り裂くか、いずれにせよ、エステルの自由を奪うべく、近づこうとする。
だが、その足が思わず止まる――異様な、信じられないものを眼にして。
目の前の相手が笑っていたのだ。もはや、武器もなく、抵抗するすべを持たぬまでに追いつめた無力なはずの少女が笑っている・・・!
それもただの微笑ではない。顔立ちこそ整っているが、まだ子どもとしか思えなかったたかだか15、6歳のこの少女が今、成熟した一人前の女性にも滅多に見られないほどの、?妖艶?と呼ぶしかないような一種凄絶なまでの蠱惑の表情を浮かべていた。
ぞくりとした。不気味さへの恐れだけではない。それとは別に、男としての欲望を抗しがたく喚び興される感覚も確かにあった。それを自覚すると、また新たな恐怖を感じる。
――自分の方が誘き寄せられていた・・・。いまだ確たる理由もないまま、ほとんど確信する。
それはたとえて言えば、甘い蜜の香りに誘われて、知らず自ら食虫植物の奥深く入り込んでしまった虫にでもなったかのような感覚・・・。
そのとき、つい、と少女の方から近づいてきた。だが、とっさに何の反応もできない。
おそらくは百戦錬磨と言っていいであろうこの男が戦いでこうまで気を呑まれ、我を失うなどということがあるとしたら、まず、先ほどのアレクのような敵の圧倒的な力を見せつけられたときぐらいしかなかっただろう。だが、それとはまったく次元の異なる衝撃が今この男を縛っていた。経験豊富な戦士であるからこそ、目の当たりにしているものの、戦いの場でおよそ予想だにしない異様さはより対応不能であったのだ。
そんな動けず目も離せないでいる男に、少女――エステルがあることをした。それは、その凄艶な表情にはまったく違和感はないが、戦場という場にあっては、およそこれほど不釣り合いなものははないことだった。
半身で少し肩を上げて相手に向かってしなを作り、片目をつぶって、唇に押し当てた手の指を響く音と共に離す。
見事なまでに魅惑的な投げキッス。
だが、それを受けた男の反応は悩殺どころではなかった。一瞬で開けていられなくなった目から涙を流し、激しく咳き込み、自ら喉を激しくかきむしる。投げキッスで、少女の唇から目に見えないほど細かい毒の粉が飛ばされ、それが目に入り、また吸い込んでしまったのだ。もはやなすすべもない。ついに膝をつき、その場にうずくまる。
その後ろに静かにエステルが立った。
「シャローム、ヘル」
そして、相手のむき出しの後頭部――延髄めがけて、最後まで手の中に隠し持っていた小さなナイフを女らしい優雅な手つきで狙い過たず突き立てる。男はそのまま声もなく前のめりに倒れ、動かなくなった。
「すごい・・・」
隣でファデットが息を呑むのが伝わった。
「言ったろ、心配ないって――あれがエステルだ」
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/
2014-01-18 19:14:00
No.2328
――女は、こわい。
言いながら、アレクの脳裡に以前衒志郎と交わした会話がよぎった。
「あの娘を見ていると、時にそう思う」
「ああ? ――まあ、確かにあんな感じになるから、そういうのも分からないじゃないが・・・しかし、実際に男を誘惑してはめるとか、そこまでじゃないだろ、あいつのは。しょせん、まだ子供だしな」
「いや、むしろ、だからこそ。何かのためにあえてそうしているわけでも、何かの経験を経てそうなったのでもない――ということは、もとから自然にそうなのだと、そういうことになろう?」
「ふむ・・・」
「女というものの本質を見る思いがする」
「大げさな・・・だいたい、あいつなんぞがすべての女の基準になるわけないだろうが」
「ふっ。もちろん、和主(わぬし)にとっての女の基準は別にあるのであろうがな」
「うるさい」
「おこるな。私とて、そうだ――だが、すべての女に共通するものがあるのも確かなことだ」
「どこかだ」
「女というものは新しき命を孕み生み育てるものゆえ、どこまでも“生”の側であるように思われている。だが、その一方で、実は“死”――滅びの要素を持つものでもある。特に、男にとっては」
「そんなもんかな――いや、当然お前ほど女に詳しいつもりもないが・・・」
「底無し沼で女が手招きしている。男はそれに抗えず、どうしても近寄ってしまう。滅びへの道と半ば知りながら。男をだまして自分だけは助かるというような小賢しい罠なら、切り抜けることもできよう。だが、そうではなく、女は現に沈んでいく。すると、男としてはそばに行って、その手を取らずにはいられない。自らの滅びをもって男を滅びへといざなう。しかし、捨て身などというのともまた違う。ただ、自らの滅びに頓着せぬだけだ。そして、この女と共にならと、男が滅びる覚悟を決めたときには、男の腕(かいな)からすり抜け、先に沈んでいってしまう。男を置き去りにして。まさに、La Belle Dame Sans Merci(つれなき美女)だ」
「あいつは、滅びんじゃないか」
「だから、根の話よ。理を頼む男はしょせん、ぎりぎり最後のところでは女に勝てぬ」
「――ああ、それなら、まだ分かる気もするが・・・しかしな、あいつの危なさってのは、そんなたいそうなもんの前に、もっと単純に――」
「お兄さん、お姉さん、見てた? あたし、やりましたー。偉い? ね、ね、偉い?」
はしゃぐ声がアレクの思惟を破った。エステルが振り返り、伸び上がって二人に向かって両手を振っている。それまでとはうって変わった、無邪気な子どもの表情で。
(これだ・・・どうだい、ええ? この落差――だが、ゲンの言うようなことはともかく、確かに、こういうところ全部ひっくるめてこいつの強さで、ひょっとしたら、バステラはそこを買っているのかもなしれないな)
――くぉぉおおぅぅううふぅううくぅうう・・・しぃぃるるぉぉおお・・・
その時、不意に不思議な音が聞こえてきた。かなり大きな音のようだったが、それ以上にずい分遠くから伝わってくるようで、よく聞き取れない。
危険を感じさせるものではなかったので、三人はそれ以上特に緊張はしなかったが、聞き耳を立てる。
すると、何かの音と思っていたものはどうやら人の声のようだった。大音量のスピーカーでも通して、だが、辺り数キロの範囲にわたって響かせようなどという無理なことをしてでもいるかのように、声じたいは聞こえても音が割れてよく分からなかったものが少し聞いていると、チューニングが合うかのように次第に明瞭に聞こえるようになっていった。
――こうふくしロ・・・おマエたちノ、りーだーは・・・たおレた・・・
「ガルシアだ。どうやら、敵のボスをやったようだな」
「じゃあ、戦いはもう終わりなのね」
ほっとした表情のファデットに、
「ああ。俺としては、ろくな働きもできなかったが――けりがついたんなら・・・」
「そうでもない」
答えかけたアレクは不意に耳元で囁かれたその声と、前触れもなく間近に現れた気配に、数メートルも跳び退った。
驚いてこちらを向いたファデットとエステルには、何事が起こったかも分からなかった。が、アレクは一つ舌打ちすると、何があるとも見えない方に向かって、声をかけた。
「GIA(ぎあ)。おどかすな」
アレクはすでに落ち着きを取り戻していた。だが、一瞬で冷や汗を噴き出させてもいた。動作が一拍完全に遅れたのだ。気配を感じたのと声が聞こえたのはまったくの同時。にもかかわらず、その二つの方向が全然違っていたために瞬間混乱し、反射的な反応ができなかったのだった。
「このくらいで、驚かれていては困る――どんな時でも、気は抜かないことだ。今自分がその気なら、一撃は通ったぞ」
見えない声が応答する。その位置は最初に聞こえたところとはまた違っており、そして、今はその方向にも他のところにも気配はまったく感じられない。
(さすがに、あの坊やとは年季が違うな)
「まあ認めるが・・・それだけでやられたりはしないさ。第一、あんたみたいのがそんなにいてたまるか。――で、何だって?」
声のみの、それもその位置さえ頻繁に変わる相手と交わす会話というのは、奇妙で落ち着かないものであった。だが、この相手では仕方がない。
「全体の戦いは確かに終わった。だが、まだ抵抗を続ける者が残っている。中にはかなりの強敵もいる。お前の力が必要だ」
「そうか。どこに行けばいい?」
「当初の予定通り、このまま敵陣の中心部へ。近くまで行けば分かる」
「了解だ」
「急げ。遅れれば、それだけ味方の不要な犠牲が増える」
「そうだな、分かった」
返事を返した時には、もう相手はすでにどこかへ行ってしまった後のようだった。
アレクはファデットとエステルの方へ振り返った。
「というわけだ。行ってくる。君たちは早く仲間のところへ移動してくれ。だが、途中でまた敵と出くわさないとも限らん。――エステル、ファデェのことを頼んだぞ」
「はぁ〜い。お任せ」
ふざけた動作で、敬礼してみせる。相変わらず、真剣味が足りないように見えるが、それでも、今は当てにしていいようにも思えた。
「アレク、気をつけて」
「ああ」
「忘れないでね。あなたの力はただ戦うためのものじゃないわ。誰かを、何かを守るためのもの。わたしにそうしてくれたように、どうか、他の人たちも助けてあげて」
「分かっているさ。俺は、アレグザンダー――?守る者?だ」
ファデットにうなずいてから、アレクは少し遠い目をした。
「『呪詛悪魔が何を守る』と、天使どもなんかは嗤うかもしれんな。――だが・・・」
(たとえば、あの獅子の女。そして・・・)
脳裏にいくつかの顔が思い浮かぶ。それに伴う感情はもはや単純な憎悪や敵意だけではなかった。だが、むしろそれゆえにこそ闘志はいや増すのでもあった。
「いずれ、あいつらにも教えてやろう――俺たちにも守るべきものがあることを。そして、そのために、賭ける命もあるということを」
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K−クリスタル
/
2014-01-18 19:18:00
No.2328
ちちうえおたおめー、――姉上、お誕生日おめでとうございました。――めりくり、よいおと、あけおめことよろ!!
よし、すんだ――って、ナンか、マエもやったよ、こんなの・・・
オカシーな・・・ホントに、ひと月ぐらいで載っけるハズだったのに
四ヶ月チカくかかって、もー年も明けちゃったよ
・・・ま、いっか
てなワケで、続きです
時間が空いたぶん、とーしょのヨテーにはなかったよーそがイロイロ付け加わってます
・・・カナリ、無理やりなカンジのもありますが
そいぢゃ、ごかんそーよろー☆
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エマ
/
2014-01-20 10:38:00
No.2328
おひさですー♪
こないだは久々にチャットできて、嬉しかったよ♪
エステルちゃん、活躍しましたねーw まだティーンなのに、女の子って恐ろしや……。
今ちょっと忙しいんだけど、暇見つけてちゃんと感想つけるんで、待っててねー♪
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エマ
/
2014-01-28 12:55:00
No.2328
ううっ。ごめんちゃい。まだ忙しくてレスの時間取れない・・・;;
もう少し待っててねー。
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エマ
/
2014-02-01 10:01:00
No.2328
おまたせー!! ようやく仕事が終わったよー。今から、感想つけます。
「大丈夫!エマさんの感想文だよ!」 (ファ◯通攻略本のノリ)
(「大丈夫?エマさんの感想文だよ?」とも言うwww)
残った一人の敵、観念したようですが、なんかなー。
エステルちゃんが相手となったら、
(コイツになら勝てる(゚∀゚))
とか思ったんでしょうかねw 実力者なんでしょうが、若干小物臭が漂いますw
エステルちゃん、言葉遣いがあれですね。ファデットさんほどではないですが、物腰がやわらかいというか、おてんばって感じじゃないですね。
「お兄さん」とか、敵に向かって「その人」とか「あなた」とか。
結構、育ちがいいのかなー。
アレクっち、いざというときは自分が加勢する、というのと、エステルの力も信頼している、という二重の意味で「心配いらない」と言ったわけですが、そこはなんだろー。アレクっち、十分にエステルちゃんのお兄さんになっている気がするぞ。
そう言われると、本人は心中複雑なんだろーがw
しかし、敵もさるもの、失った左腕の出血は完全にふさがって、またすぐ臨戦態勢をとれるとは……さすがは呪詛悪魔ですな。
で、エステルちゃんきたよー!
飛ばしたワイヤーがやすやすと切断されてしまうので、おいおい大丈夫なの? と少し心配になりましたが、計算のうちだったのですな。
ある種、油断がある敵に対して、懐に上手く入り込めたわけで……。
で、エステルちゃんの余裕の笑み。というか、なんだ……「妖艶」って書いてあるぞ。「凄絶なまでの蠱惑の表情」って書いてあるぞ……おい誰か、カメラカメラ!!www
うーむ。15,6歳のティーンなのに。そんな表情ができるとは……エステルちゃん、おませなのか、本能的なものなのか……。あ、そういうばエステルちゃんの前世って何?
投げキッス、何を下のこの子? と思いましたが、これはアレだ……。いわば、エステルちゃん版デスブロウwww
敵の反応を見るや、相当な毒だったんですな。一瞬で行動不能になるとは。
そして、そんな敵の後頭部に、余裕の一撃。
あっけなーw 敵なさけなーw
エステルちゃんの余裕勝ちでしたな。まぁ、一度この手を見せてしまったとしたら、次も通じるかはわかりませんが……。
ちなみにですが、残念ながらウチのカムドにはこの技は通用しないことでありましょう。その理由は……近日公開予定のDr.イリノア診断室<アズマ>編を見ればわかるのでそこんとこヨロシク!w
んで、衒志郎はんとアレクっちの会話も、深いですな。
たしかに、女性は子供を産み育てる存在でありますから、生の側面をイメージしますが……、男にとっては、ある意味破滅の元でもあるワケで……。いや、相手やつきあいかたにもよると思いますが。
で、GIAというまた謎の多い仲間のご登場。純粋な戦闘能力はわかりませんが、素早さや相手の隙を突く能力にかけては、アレクっち以上のようですな。
次は残党狩りですか。
もしかしたら……GIAの言った、「かなりの強敵」というのが、ミソかもしれませんな。アレクっちの好敵手が登場したりして。
にしても、「『呪詛悪魔が何を守る』と、天使どもなんかは嗤うかもしれんな。」という言葉は、深いですね。
呪詛悪魔=純粋な悪という構図ではないんですよね。
私も考えているんですよ。完全に人類や天界を滅ぼそうとしているグループもいれば、自分たちを虐げた特定の人間にだけ復讐するけど、他の一般の人間には危害を加えないグループもあるだろうし、単純に勢力を広げたいだけの復讐鬼っぽいグループもいるだろうし。
思想的にある程度のまとまりのある守護天使界より、呪詛悪魔側の方がむしろいろんなヒューマンドラマを描けるかもしれません。
で、「獅子の女」ってまさか……。
いいですなー。これこそがコラボですなーw
さてさて、次回も楽しみにしておりますよ。
さぁ、皆も感想を書くのじゃーw
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冬コミですぞ〜♪
エマ
/
2013-12-22 01:43:00
No.2322
さて、今年も冬コミの季節がやってまいりました。オフ会をやりたいと思います。
今年は12月29日(日)〜31日(火)の三日間です。
みなさんのご都合の良い日にちと時間帯を教えてください。
私は基本的に30日と31日参加可能です。
集合時間は、15:00〜 にしようと思いますが、この時間帯でないと参加できない。という方はおっしゃってください。
集合場所は、例によってイベントプラザです。
http://www.emastation.net/uploadspace...
さぁ、今年もみんなでおしゃべりしましょう♪
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Sei
/
2013-12-23 06:04:00
No.2322
コミケ85は3日間フル参戦です。
ペッコミ、エマステのオフ会は31日14時イベントプラザに集合がいいです。
一応、サークル参加もしてますです。
29日日曜、西2ホールうー22a Angels dewです。
神のみぞ知るセカイの杉本四葉ことよっきゅん本です。
一人サークルですので、午前中は無人で無料配布しております。
ですから、私に会いたい方は、14時〜15時くらいが確実なので、その頃訪問してくださいませ。
本は例によって、あやういです。
できるといいな…。
がんばる!
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ダイダロス
/
2013-12-23 23:36:00
No.2322
今回も残念ながら参加できそうにありません。
参加される方は楽しんできて下さいね。
というか、その三日間は一年で最も忙しい時期だったりします(汗)
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エマ
/
2013-12-27 23:57:00
No.2322
>Seiさん
31日14時、オッケーです♪
>ダイダロスさん
やっぱり、お忙しいですか^^;
残念です……。何年かぶりにお会いしたいんですが……。
やっぱり、コミケ以外にもオフ会の機会を設けたほうが良さそうですね。
来年こそは……。
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Sei
/
2013-12-30 04:06:00
No.2322
神のみよっきゅん本は、無料本ですが、50部が13時すぎに完売しました。
…再販、しようかな?
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エマ
/
2013-12-31 21:22:00
No.2322
オフ会してきました。といっても、Seiさんと二人だけでしたが。
色々話せて楽しかったですね^^
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読了!!その6
土斑猫
/
2013-10-29 21:34:00
No.2320
こんばんは。土斑猫です。
時計屋さん作の「The freezing fragment」、読了しました。
チャットでも言いましたが、かなり衝撃的な作品でした。
漂う血臭と狂気の気配。
「天使のしっぽ」という題材を基盤にして、この様な作品を作り出したという事に筆者の発想の豊かさと挑戦心に敬服するばかりです。
内容は注意書きにある通り、「死の先」以上に読者を選びそうな感じですが、個人的にはかなりストライクでした。
「天使のしっぽ」の設定を上手く踏まえながら、それとは相反する世界観をたくみに融合させていて、一種の緊張感を持たせたまま一気に読み進ませる魅力をもっていました。
独特な文体も作風により深い味を与え、昏い暗路を彷徨う様な読感を醸し出す事に成功していたと感じます。
キャラクター達は魅力的気配満載ですが、話がまだ序盤なのでそれぞれの持ち味や深みが出てくるのはこれからでしょう。
取り敢えず言える事は、ミカド可愛いよミカド。
血を見ると豹変するとか、紅く染まる目とか銀髪とか、とてもツボですw
もう一人の守護天使、ソウゲツと共にこれからの活躍が楽しみです。
もちろん、主人公・ヒロインの大地君と蒼天ちゃんにも期待。
にしても、二人共過去がdarkでheavyな事極まりないですね。
ちなみに大地君のキャラクター紹介読んでみたら、何気にとんでもない事書いてあってビビったw
ま、まさか君も仮面ラ(ry
何か他にも色々ありそうですね。
これから見えてくるであろう物語の全貌。その深層が非常に気になります。
以上、毎度の事ながら気のきいた事も言えませんが、感想でした。
とにかく、続きが楽しみな作品が増えるのは嬉しい事です。
にしても、今作品の文章の刻み方や表現の仕方には妙に惹かれるものがありました。
自分も、今後の作品の参考にしてみようかな・・・?
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エマ
/
2013-11-01 02:01:00
No.2320
「フリ☆ふら」読了、ありがとうござーい♪
私も、初めてこの作品の原稿を受け取ったときは驚きましたのよw
今まで、私が受け取った作品のなかで、衝撃的だったのは主に
・夢カル(前世的に。あすかちゃんとかあすかちゃんとかあすかちゃんとかw)
・Legend Of Quel(スケール的に)
・死の先(守護天使が人間を殺っちゃうとか、デッドエンジェルの概念とか)
の3つだったんですけど、その衝撃度をやはり遥かに超えてましたね。
その斬新さやハードさにも驚いたのですが、やはりそれを可能にする「天使のしっぽ」という世界観の汎用性の高さにも改めて気付かされたわけです。はいw
文体はたしかに独特ですね。私、最初はその独特さというか展開の唐突さとか説明の少なさから、結構状況が分かりにくくて読みづらくも感じたのですが、時計屋さんによるとそこはわざとそうしたとのこと。
土斑猫さん的には、ふり☆ふらのこの文体や展開がかなりお好みとのことで、管理人としてもあーよかったなーと感じる次第であります^^
ミカドちゃんいいですよねw
豹変したときの激しさもいいですが、普段のノーテンキさもカワイイ^^
あと、大地くんの過去はまだ私的に許容範囲だったんです。まぁこの手の主人公ってダークな過去を持っていても珍しくないので。
でも驚いたのが蒼天ちゃんの過去ですね。いや、ヒロインでこれほどの過去ってどんだけですかガクブルって感じで、ええw
>とんでもない事
え、なんか気になる事ありました?w
続き、気になりますよね。
なんかねー。エマステの作品、どれも良いキレ味を持っているんですが、残念なのが、完結してないで停滞している作品が多いってことなんですよねーw(←はいそこ。人のこと言えないw)
各作者さんのモチベーションを回復させてあげることも管理人たる私の役割なのかなーと痛感している今日この頃ですw
私がWebノベルツールの開発をしたりとか、キャラを3D化させようとしたりとか、ゲームを作ろうとしたりとかしているのは、こう……文章だけでなく、ゴージャスなメディア展開をすることによって、作者さんたちのイマジネーションをかき立ててまたモチベーションを高めてもらいたいという狙いもあるんですよね。
いや、あれもこれもやろうとしてなかなか各試みが進まないという問題はあるのですがががががw
さてさて、次はどの作品を読まれます?
もうここまできたら何から読んでもいい気はするのですがw
あ、ちなみに私のP.E.T.S.[AS]の第5話前編(だったかな?)を読む場合は、その前に、死の先の第4話を読み返しておいてくださいねー。
なぜかって? それはね。うふふふw
さてさて、ASの8話の執筆も再会せねば^^;
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読了!!その5
土斑猫
/
2013-10-21 19:00:00
No.2318
どうも〜。土斑猫です。
遅ればせながら、H.A.P読了しました。
と言う訳で、久々に感想です。
第1部は始まりと日常編ですね。
おとぎストーリーに相応しい、暖かでほのぼのした日々が綴られていたと思います。
夢カルの時も思いましたが、やっぱり天使のしっぽにはこう言う話が似合いますね〜。
いつか、私もこう言うほっこりした話を書いてみたいものだ・・・。
通常ダークな話ばっかり書いてるんで、書けるかどうか微妙ですが・・・w
で、ちょっとしたスパイスになっていたのが千里眼(初期)ちゃんですね。
最初、名前なんて読むのか分かりませんでしたがw
キャラクターに相応しい、絶妙な名前をつけたものと感心しました。
原作chuの中野加奈が元でしょうか?
最初は典型的な嫌なタイプのカメラマンでしたが、以降のデレっぷりは可愛かったですね。
出来れば彼女が真吾君に惹かれる様になった詳しい経緯が知りたかったですが・・・。
で、ガラリと作風が変わった2部ですが・・・。
読んで真っ先に頭に浮かんだ言葉は、
ス・・・スーパーおとぎ大戦OG・・・!!
うわナニコレ豪華な登場陣www
いいわー。
好きだわー。
こう言うクロスオーバー作品(スパロボ大好きな自分が通りますよっとw)
基本的にシリアスなんですが、随所に散りばめられた小ネタがいい清涼剤です。
主人公陣をカタパルトでぶっぱなしたり、E3がヒーロー戦隊張りの決めポーズしたり、それが理解されなくて凹んだりwww
ダメよ君達。それやるんだったら他人の目なぞ気にしないくらいの図太さと自己陶酔力を身につけないと。
そしてクジラとコウノトリはいいとして、パンダですかい!?
いや、ま、ね。確かに絶滅危惧種だし、人間に恨み持ってても不自然じゃないんですが・・・。
悪(?)の筆頭としては随分可愛いなヲイwww
おかげでどの場面でも、パンダがアクションしてる画像が脳内再生されて困ったw
それと同様に困ったのがサブ登場陣。
豪華過ぎて負ける気が全然しません(爆)
特にサキさんとクゥエルさんが共にいる時点でこれ何て無理ゲー(主に敵側がw)とか思いました。はい。
最終的に、上手く主人公陣をたてる形をとっていたので安心しましたが・・・。
そして一番思った事。
みんな仮面ライダー好きだなヲイwww!!!
やはり、ヒーローは男の子の憧れですよねー。
斯く言う私も、某魔砲少女作品を舞台にオリジナルライダーの話を妄想したり、ニコニコの円谷の理シリーズが大好きだったりする訳で・・・。
このくだりは燃えました!!
難を上げるとしたら材料はいいのに少し展開が急ぎすぎかなーと言う感がありました。真吾君の確執とか、七曜の勇者の設定とか、もっと掘り込んでみてもよかったんじゃないかなー・・・と。
あ、でもやりすぎると収集がつかなくなってダラダラと長くなっちゃうしなー。私んとこみたいに。
さじ加減の難しいところですね。ここは。
で、戦い終わっての第3部。
家族になったE3の豹変っぷりに笑ってしまいました。
特にセティさん。あなた変わり過ぎでしょうw
思わず「ウサギが増えたぞー」と叫びそうになりましたwww
でもこの三人、こっちの方が生き生きしてますね。
うん。仲良き事は美しきかな。
中々微妙なのが千里ちゃん(デレ期)の立ち位置ですね。
貴女、守護天使達を応援したいのか、真吾君を奪いたいのか。はっきりしなさい。
どっちに転んでも話は面白くなるんだから。
ここんところは、続きが気になる所であります。
全体的なイメージとしては、原作天使のしっぽの影響が色濃く出てるなーと言う感じです(先の頃の千里ちゃんのキャライメージとか、敵側だった頃のE3との会話とか)。
そこが良い所でもありますし、もう少しご自分のやり方で表現してもいいかなーと思う所でもありました。
とにかく、他の未完作品同様、今後の展開が楽しみな作品でした。
・・・終わってないよね?
気になるのよ。
千里ちゃんの事とか千里ちゃんの事とか、主に千里ちゃんの事とか・・・。
ああ、好きになっちゃったんだな。要するにw
という訳で、今回はここまで。
長文、乱文、失礼しました。
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エマ
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2013-10-24 22:13:00
No.2318
はいはーい。H.A.P完読ありがとうございます♪
H.A.Pはなんといいますか、ほのぼのあり、バトルあり、といろんな要素をもった作品なんですよね。
色々な味を楽しめる、いわばピザでいうハーフ&ハーフとか、お好み焼きみたいなw
あと、エマステ作品でも色々なご主人様&守護天使たちの家族がいますが、
H.A.Pの山下家は夢カルの日高家と同じくらい、家族模様が楽しい家族だと思います^^
千里眼ちゃん、イイキャラしてますよね^^
丸くなった中期以降もイイですが、初期の猪突猛進ぶりもなかなかww
あと、後期のデレっぷりも最高ですw
たしかに、真吾くんを好きになった理由は気になるところです。
第二部は……。そうなんですよ。オトギ大戦w
これゲーム化したいくらいなんですww
豪華登場陣、最高ですねw
E3もほんと、良いキャラしてます。パンダのジョニー……ビジュアルモデルは実は……ごにょごにょw
あ、チャットでお教えしますww あまりにもイケメンなんでw
仮面ライダー。いやーいいですよねー。ホント。
いやまじクゥエルOSといい、オトギ大戦といい、東映さんに目ぇつけられたらどうなるんだろうwww
展開……まぁたしかに、色々はしょられてる感はありますね。
特に七曜の勇者の設定は、たしかにけっこういきなり出てくるので。
七曜の勇者に関連する、サイドストーリーとかまた別であってもいいかもw
セティさんはねーw そうなのよー変わりすぎなのよーw
真吾くん羨ましいw
>原作天使のしっぽの影響が色濃く出てるなーと言う感じ
それがH.A.Pの特徴ですね。
E3のと戦いは対四聖獣戦のオマージュでもあるし、
千里ちゃんとかもそうですね。
ある意味、アナザー天使のしっぽという側面もあるかもしれない。
今後の展開……そうですね。YM3さんもだいぶお忙しいみたいなんですが。
どうなるんだろー。ここにお一人、また熱心なファンができたわけですし。
続き気になりますよねw YM3さーん。期待してますーww
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神官たちが協議を行う場、評議会は荒れていた。
口々に神官たちが憤りの言葉を口にする。その非難の対象は、天神会最強の守護天使、イタチのカムドに対してであった。
「殲魂の携帯許可は、やはりまかりならん!」
「そうだ。それも、あれは完全な事後承諾……勝手に禁忌を破って封印の間に侵入するとは……本来であれば完全なる謀反であるぞ!」
「しかし……アズマの命令権の半分以上をフェンリルに取られた今、こちらとしても切り札が必要なのも確かだ」
「何を言う! 今度は殲魂すらフェンリルの奴らに奪われる可能性だってあるのだぞ!」
「いや、殲魂を扱えるのは今のところカムドだけ。あれは扱いを誤れば大惨事につながる代物。しかも、その悪しき波動の位置は常に我々が捕捉しておる。いかにフェンリルといえど、それを奪ってシラを切り通すことは不可能だ」
「そういう問題ではない。あのカムドという男自体、この任務にはふさわしくないと言っているのだ!」
「あの時はあまりの緊急事態ゆえ、奴の提言を認めてしまったが……そうだ。そもそも、アズマ奪還任務には他の人物を当てようとしていた……。あの男はそれを覆すために、今回、殲魂の封印を暴くなどという暴挙を起こしたのではないか!?」
「良いのではないかぇ」
荒れている議論の場に、突如、女性の声が響き渡った。
しわがれた老女の声だが、不思議と空間中に染みわたるように、それは響き渡り、その場にいた神官全員の耳に確実に入ってきた。
全員、大きなすだれのかかった、一段高い奥の座を見上げる。すだれのせいで姿を確認することはできないが、その声は確実にそこから発せられていた。
「お、大婆様!」
「し、しかし……奴は、何をしでかすかわからぬ天神会きっての危険人物です! あのような者が殲魂を手にすれば……あの、『鮮血のカンディード』の二の舞にならぬとも!!」
「そうだ……こんどこそあやつを止められるものはいなくなるぞ!」
「かの有名な覇王武蔵殿の力を持ってしても、抑えられるかどうか……」
「いや、外部の力に頼るわけには行かぬ! 我々だけで抑えなければ」
「だから、あのような者をそもそも本殿に入れてはならなかったのだ!」
「天神武道会で優勝したからといって、奴に武人の地位を与えてしまったのが間違いだった!」
「あのまま、罪人のまま、奴隷のように何も教えぬまま傀儡のように使役していればよかったのだ」
「静まれ!」
騒ぎ立てる神官たちを、大婆と呼ばれた老女はぴしゃりと叱りつけた。
「リンよ」
大婆は、一人の巫女の名を呼んだ。それに呼応して、部屋の隅に控えていた少女が、大婆様の前に出て、頭を垂れる。
「はっ」
「命を下す。カムドとアズマを監視せよ。特に、カムドが何らかの謀反を起こす可能性を考慮し、その言動を逐次報告せよ」
「御意。心得ました」
少女は、すぐさま部屋を退出していった。
「大婆様! 監視だけではあまりに不足かと! カムドから殲魂を取り上げるべきです!」
「わらわは……カムドのいう、あの提案にかけてみたい」
「フェンリルに入隊し……内から組織を破壊するという、あれにございますか! とても無理です! あのような力だけの無能に、そのような知略ができるはずが……!」
「本当にそう思うか?」
大婆は、問いかけとともに、鋭い視線を神官たちに投げかけた。すだれに遮られて、眼光自体は見えないが、神官たちはそれに射すくめられたかのように、ただならぬ緊張感に身をこわばらせた。
その神官たちの様子に構わず、大婆は言葉を続ける。
「だとするなら、おぬしらの目は曇っていると言わざるをえんのぅ…」
「大婆様!」
「元はといえば、アズマがきゃつらに取られてしまったのも、お主ら神官どもの隠し事が原因……」
急所を突かれたかのようなショックを受け、神官たちに明らかな動揺が走った。そのうちの一人が思わず声を上げる。
「い、いくら貴女といえども……お言葉が過ぎますぞ! 私どもは天界の行く末を守るために……!」
「そうまでして暴かれたくない何か……わらわにもだいたいの見当はついておる」
そこまでの言葉を聞き、神官たちは皆黙りこんでしまった。意見を言いたいものも居るようだが、さらにやり込められはしないかと、声をあげようにも上げられずにいるらしい。
場が静まり、事は決まった。大婆は宣言する。
「カムドに任せよ。これは天命である」
「大婆……様!」
「聞こえなかったか? これは、天命である」
「は、ははぁっ!!」
頭を垂れる神官たち。たとえ天神会の組織のトップに居る神官たちでも、この大婆の命には逆らえなかった。少なくとも、今は……。
評議会を閉会し、場に一人になると、大婆はしわがれた自分の手の甲を見つめ、感触を確かめるように撫でた。かつての美貌は遠い過去へ置き去られ、今はただ老いゆくのみ。
だが、彼女の判断力と明晰さは、まだ衰える気配がない。
確信を持って、彼女はひとりつぶやいた。
「いずれ……全てが明らかになるじゃろうて……」